8 / 21
【第1章】魔王城脱出編
8.OL、魔族の街に行く
しおりを挟む
カタカタと私がキーボードを叩く音だけがその場に響く。
「梨ー沙さん!」
「うひゃ!?」
PCの画面に集中していた私は、突然頬に感じた冷たさに飛び跳ねる。
バッと横を見ると、いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべた後輩が、缶ジュースを手に私を覗き込むようにして立っていた。
ニヤニヤしている彼に、私は怒ったように彼の名前を呼んだ。
「ハハ、うひゃだって。」
「誰のせいよ!」
楽しそうに笑う彼とは反対に、私はムッとして頬を膨らませる。
そんな私に構わず、彼は先ほど私の頬に当てたであろう缶ジュースを差し出してきた。
私の好きなミルクティーだ。
「……ありがとう。」
もっと文句を言ってやりたかったのが本音だが、私は差し出されたミルクティーを素直に受け取ると、彼にお礼を言った。
「今日も残業ですか。お疲れ様です。」
「お互い様ね。」
時計の針は22時を差していた。
もうそんな時間か。
職場には、もう私と彼しか残っていないようだった。
私は彼にもらったミルクティーを開け、それを一口飲む。
「まだかかりそうですか?」
「う~ん、今日はもういいかな。」
そう言うと私は両手を伸ばし、大きく伸びをした。
そんな私に、彼がニヤリと笑う。
「じゃあ今日も、どうですか?」
そう言いながら、彼はジョッキを傾けるようなジェスチャーをしてみせる。
「……行きますか!」
そう言うと私は、開いていたPCをパタリと閉じた。
「よっし!」
そんな私に彼がガッツポーズをして見せた。
「毎日毎日残業に苦しめられていると言うのに・・・——くんはいつも元気だねぇ。」
おねぇさんもう疲れたよ、と私がため息をこぼす。
「はい!俺は梨沙さんと飲めるだけで元気になれます!」
「そう……それはよかった。若さだねぇ。」
嬉しそうに言う彼。
尻尾を振り回しているわんこのようだ。もちろん彼に尻尾はないのだけど。
「じゃ、行こっか。」
「はい!」
そう言って、私は彼と共に職場を後にしようとして、ふと違和感を感じた。
なぜだろう。
「—————様、」
毎日こんな日々を繰り返しているはずなのに、なぜ懐かしく感じるのだろう。
「——————ット様、」
そもそも、毎日顔を合わせているはずの、彼の名前が思い出せない。
「——————リゼット様、」
ああ、そうだ。私はもう、梨沙ではない。
「リゼット様!」
ハッとして目が覚めた。
目を開けた瞬間に、ものすごいイケメンのドアップが私の視界を占領する。
「うわぁ!?」
あまりにも整った顔が目の前にあり、思わず私は驚きの声を上げる。
そんな私の様子に、目の前に迫っていたイケメンが身を引いた。
「不躾に申し訳ございません。」
身を引いていったイケメンを目だけで追う。
綺麗なシルバーアッシュの瞳と目が合った。
「アル……。」
そこにいたのはアルベールだった。
目が覚めた瞬間に、その端正すぎる顔が目の前にあるのは心臓に悪すぎる。
今も私の心臓はばくばくと大きな音を立てて脈打っている。
「おはようございますリゼット様。いくら呼びかけても起きて来られなかったため、僭越ながら入室させていただきました。」
「そ、そう……。それはごめんなさい。」
「いえ、お疲れだったのでしょう。」
前世の記憶が戻ってから、早いもので2ヶ月が経過した。
毎日私と接しているアルベールは、私のお礼にも謝罪にも随分慣れたようで、過剰に反応を返すことはなくなった。
ヴァーノンに魔法を教わり始めた日から、ヴァーノンが時間を取れない日でもアルベールの剣術指導の合間を縫って魔法の練習も平行して行なっていた。
その甲斐もあり、私はやっとの事で各属性の最下級魔法を発動できるようになった。
闇属性以外の発動には随分苦労したため、魔法の練習を初めて1ヶ月以上かかってしまった。
それでもヴァーノンは驚異的なスピードだと褒めてくれた。
疲れ、か。
確かに私は前世を思い出してから、それまででは考えられなかったほど濃密な毎日を送っている。
それもかなり体に鞭打つような毎日だ。
もしかしたら自分で思っている以上に私は疲れているのかもしれない。
人間、休みも必要だ。
今はもう人間ではないのだけど。
そう考えた私は、横になっていた体を起こしベッドの端に座るように足を下ろした。
「よし、アル!城下町に行こう!」
魔族だって、人間と同じように日々生活している。
魔王城の城下には、魔族たちが住む街があるのだ。
今日は修行は一先ず置いて、息抜きに久しぶりに城下町に出てみよう。
「は。お供いたします。」
そうして私は、朝食を終えた後アルベールを連れて城下へ向かった。
前世の記憶が戻ってから、城下町に出るのは始めてた。
純粋にリゼットとして生きていた頃には何度か訪れたことがある。
ざわざわと城下町はそこそこの賑わいを見せている。
そんな城下を、私はキョロキョロと周囲を見回しながら歩く。
「今日はキャロラが安いよー!」
「今日取れた新鮮な魚はいかがですかー」
「パンが焼きたてだよー!」
さぁさぁどうだいどうだいと、様々なお店の元気な声が飛び交っている。
魔族は確かに血の気の多い者が多いが、このように商人として生活している者もいるし、人間と同じように家庭を持ち静かに暮らしている者もいる。
ちなみに今日の私はなるべく騒がれないように、顔がすっぽり隠れてしまうほど深いフードのついた服を着ている。
私の特性は、私がちらりと視界に入ったくらいではさほど効果を発揮することはない。
私の存在を認識することで、猛烈に作用する。
なので今の私は、下手に住民に声をかけたりしない限りは城にいる時のような騒ぎにはならない。
さぁ、思いつきで城下まで来たのはいいが、何をしようか?
「そこのお兄さんたち、飴菓子はどうだい?」
通り過ぎようとしたお店の人に声をかけられ、思わずそちらを見る。
売られているのは、果実を飴でコーティングした、前世でいうフルーツ飴だ。
宝石のようなそれに、思わず私はお店に駆け寄った。
「これください!」
私が、その一つを指差して店主に言った。
「!ま、まさかリゼット様……?」
フードで顔は見えていないはずだが、私に直接声をかけられたことで特性が発動したのだろう。
城下町で私のことを知らない魔族はいない。
私を前にした時の感覚の変化で、私と判断したのだと思われる。
「しーっ!みんなには内緒だよ。」
人差し指を口に当てながらそう言うと、店主はぶんぶんと音がなりそうなくらい首を縦に振った。
「ま、まさかリゼット様にお越しいただけるとは……!好きなだけお持ちください!もちろんお代は不要でございます!」
感極まった様子で、店主がそう告げるが、私はそれに首を横に振る。
「一つでいいの。こんなに食べられないもの。それにお代もちゃんと払うよ。」
「リゼット様からお代をいただくなど、そんな恐れ多い……」
「私が払うと言うのだからいいの!」
そう言って、私はお代を半ば強引に店主に押し付けた。
店主は震えた手でそれを受け取ると、これまた震えた手で私に飴菓子を差し出した。
「ありがと、おじさん!」
「あぁ、私はもう思い残すことはございません……!リゼット様に私の飴菓子をお買い上げいただき、その上お礼まで……!このお代は家宝にいたします!」
日本でいう所の300円程度の硬貨を家宝にするらしい。
私は苦笑しながら、感激している様子の店主にひらひらと軽く手を振って別れを告げた。
そして、先ほど受け取った飴菓子をペロリと舐める。
「ん~~美味しい!」
「!リゼット様、そのように無警戒に何でも口に入れられては困ります。」
口いっぱいに広がる幸せな甘さに水を差すようにアルベールから注意が飛んできた。
私は不満そうな顔でアルベールを見る。
「そんな拾い食いでもしてるみたいな言い方しなくてもいいじゃん。」
ぷーと頬を膨らませながら私が言う。
アルベールが何か言い返そうとした瞬間、ガシャーンと大きな音が聞こえてきた。
「舐めてんのかテメェ!」
「あぁ?俺と一戦交える気か?」
明らかにこれから喧嘩を始めようとしているかのような会話が聞こえる。
こんなところで魔族が本気で喧嘩したりなんかしたら大変だ。
野次馬が集まる一方で、女性や子供の魔族たちはその場から逃げるように離れていく。
私はため息を一つこぼす。
「アル。」
「は。」
それだけで私の意図を理解したアルベールが、目にも止まらぬ速さで騒動の真っ只中に介入する。
「ぐっ……!?」
「がはっ……?!」
それは瞬きよりも一瞬の出来事で、その場にいた誰もが今起きたことを理解できなかった。
気付いたら、今にも殴りかかろうとしていた二人のうちの一人が腹を抱えたまま蹲り、もう一人が地面に倒れている。
アルベールは一瞬のうちに、一人に鳩尾へ拳を一発、もう一人に蹴りを決めたのだ。
流石アルだ。
鍛錬を初めてたった2ヶ月の私には、彼が何をしたのか全く目で追えなかった。
剣すら抜かずに一瞬でこの場を片付けた。
私が、彼の方に駆け寄ろうとしたその時、
「わっ!?」
野次馬の一人が私の背中を押した。
おそらく、背の低い私が視界に入っていなかったのだろう。
ズサーッとその場に私が倒れ込んだ。
せっかく買った飴も、そのせいで私の手から離れ地面に転がってしまう。
「リゼット様!」
私の驚いた声を耳にしたアルベールが、慌てて倒れこんだ私の元まで飛んでくる。
アルベールが私の名前を呼んだことで、周囲が「リゼット様!?」「リゼット様だって!?」「どこだ!?」「あぁ、リゼット様だ!」と、途端に騒がしくなる。
しかし、私にそんなことを気にしている余裕はなかった。
急いで私の元まで来たアルベールがそっと私を抱き起す。
「リゼット様!ご無事ですか!?」
「い、いたぁい……」
手と膝を擦りむいた程度であったが、今の私は所詮6歳。
生理的にその目に涙が滲む。
そんな私を見つめていたアルベールの瞳が、怒りに染まる。
そのアルベールの、怒りに満ちた瞳を見た瞬間、私は数年前の出来事を思い出した。
「梨ー沙さん!」
「うひゃ!?」
PCの画面に集中していた私は、突然頬に感じた冷たさに飛び跳ねる。
バッと横を見ると、いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべた後輩が、缶ジュースを手に私を覗き込むようにして立っていた。
ニヤニヤしている彼に、私は怒ったように彼の名前を呼んだ。
「ハハ、うひゃだって。」
「誰のせいよ!」
楽しそうに笑う彼とは反対に、私はムッとして頬を膨らませる。
そんな私に構わず、彼は先ほど私の頬に当てたであろう缶ジュースを差し出してきた。
私の好きなミルクティーだ。
「……ありがとう。」
もっと文句を言ってやりたかったのが本音だが、私は差し出されたミルクティーを素直に受け取ると、彼にお礼を言った。
「今日も残業ですか。お疲れ様です。」
「お互い様ね。」
時計の針は22時を差していた。
もうそんな時間か。
職場には、もう私と彼しか残っていないようだった。
私は彼にもらったミルクティーを開け、それを一口飲む。
「まだかかりそうですか?」
「う~ん、今日はもういいかな。」
そう言うと私は両手を伸ばし、大きく伸びをした。
そんな私に、彼がニヤリと笑う。
「じゃあ今日も、どうですか?」
そう言いながら、彼はジョッキを傾けるようなジェスチャーをしてみせる。
「……行きますか!」
そう言うと私は、開いていたPCをパタリと閉じた。
「よっし!」
そんな私に彼がガッツポーズをして見せた。
「毎日毎日残業に苦しめられていると言うのに・・・——くんはいつも元気だねぇ。」
おねぇさんもう疲れたよ、と私がため息をこぼす。
「はい!俺は梨沙さんと飲めるだけで元気になれます!」
「そう……それはよかった。若さだねぇ。」
嬉しそうに言う彼。
尻尾を振り回しているわんこのようだ。もちろん彼に尻尾はないのだけど。
「じゃ、行こっか。」
「はい!」
そう言って、私は彼と共に職場を後にしようとして、ふと違和感を感じた。
なぜだろう。
「—————様、」
毎日こんな日々を繰り返しているはずなのに、なぜ懐かしく感じるのだろう。
「——————ット様、」
そもそも、毎日顔を合わせているはずの、彼の名前が思い出せない。
「——————リゼット様、」
ああ、そうだ。私はもう、梨沙ではない。
「リゼット様!」
ハッとして目が覚めた。
目を開けた瞬間に、ものすごいイケメンのドアップが私の視界を占領する。
「うわぁ!?」
あまりにも整った顔が目の前にあり、思わず私は驚きの声を上げる。
そんな私の様子に、目の前に迫っていたイケメンが身を引いた。
「不躾に申し訳ございません。」
身を引いていったイケメンを目だけで追う。
綺麗なシルバーアッシュの瞳と目が合った。
「アル……。」
そこにいたのはアルベールだった。
目が覚めた瞬間に、その端正すぎる顔が目の前にあるのは心臓に悪すぎる。
今も私の心臓はばくばくと大きな音を立てて脈打っている。
「おはようございますリゼット様。いくら呼びかけても起きて来られなかったため、僭越ながら入室させていただきました。」
「そ、そう……。それはごめんなさい。」
「いえ、お疲れだったのでしょう。」
前世の記憶が戻ってから、早いもので2ヶ月が経過した。
毎日私と接しているアルベールは、私のお礼にも謝罪にも随分慣れたようで、過剰に反応を返すことはなくなった。
ヴァーノンに魔法を教わり始めた日から、ヴァーノンが時間を取れない日でもアルベールの剣術指導の合間を縫って魔法の練習も平行して行なっていた。
その甲斐もあり、私はやっとの事で各属性の最下級魔法を発動できるようになった。
闇属性以外の発動には随分苦労したため、魔法の練習を初めて1ヶ月以上かかってしまった。
それでもヴァーノンは驚異的なスピードだと褒めてくれた。
疲れ、か。
確かに私は前世を思い出してから、それまででは考えられなかったほど濃密な毎日を送っている。
それもかなり体に鞭打つような毎日だ。
もしかしたら自分で思っている以上に私は疲れているのかもしれない。
人間、休みも必要だ。
今はもう人間ではないのだけど。
そう考えた私は、横になっていた体を起こしベッドの端に座るように足を下ろした。
「よし、アル!城下町に行こう!」
魔族だって、人間と同じように日々生活している。
魔王城の城下には、魔族たちが住む街があるのだ。
今日は修行は一先ず置いて、息抜きに久しぶりに城下町に出てみよう。
「は。お供いたします。」
そうして私は、朝食を終えた後アルベールを連れて城下へ向かった。
前世の記憶が戻ってから、城下町に出るのは始めてた。
純粋にリゼットとして生きていた頃には何度か訪れたことがある。
ざわざわと城下町はそこそこの賑わいを見せている。
そんな城下を、私はキョロキョロと周囲を見回しながら歩く。
「今日はキャロラが安いよー!」
「今日取れた新鮮な魚はいかがですかー」
「パンが焼きたてだよー!」
さぁさぁどうだいどうだいと、様々なお店の元気な声が飛び交っている。
魔族は確かに血の気の多い者が多いが、このように商人として生活している者もいるし、人間と同じように家庭を持ち静かに暮らしている者もいる。
ちなみに今日の私はなるべく騒がれないように、顔がすっぽり隠れてしまうほど深いフードのついた服を着ている。
私の特性は、私がちらりと視界に入ったくらいではさほど効果を発揮することはない。
私の存在を認識することで、猛烈に作用する。
なので今の私は、下手に住民に声をかけたりしない限りは城にいる時のような騒ぎにはならない。
さぁ、思いつきで城下まで来たのはいいが、何をしようか?
「そこのお兄さんたち、飴菓子はどうだい?」
通り過ぎようとしたお店の人に声をかけられ、思わずそちらを見る。
売られているのは、果実を飴でコーティングした、前世でいうフルーツ飴だ。
宝石のようなそれに、思わず私はお店に駆け寄った。
「これください!」
私が、その一つを指差して店主に言った。
「!ま、まさかリゼット様……?」
フードで顔は見えていないはずだが、私に直接声をかけられたことで特性が発動したのだろう。
城下町で私のことを知らない魔族はいない。
私を前にした時の感覚の変化で、私と判断したのだと思われる。
「しーっ!みんなには内緒だよ。」
人差し指を口に当てながらそう言うと、店主はぶんぶんと音がなりそうなくらい首を縦に振った。
「ま、まさかリゼット様にお越しいただけるとは……!好きなだけお持ちください!もちろんお代は不要でございます!」
感極まった様子で、店主がそう告げるが、私はそれに首を横に振る。
「一つでいいの。こんなに食べられないもの。それにお代もちゃんと払うよ。」
「リゼット様からお代をいただくなど、そんな恐れ多い……」
「私が払うと言うのだからいいの!」
そう言って、私はお代を半ば強引に店主に押し付けた。
店主は震えた手でそれを受け取ると、これまた震えた手で私に飴菓子を差し出した。
「ありがと、おじさん!」
「あぁ、私はもう思い残すことはございません……!リゼット様に私の飴菓子をお買い上げいただき、その上お礼まで……!このお代は家宝にいたします!」
日本でいう所の300円程度の硬貨を家宝にするらしい。
私は苦笑しながら、感激している様子の店主にひらひらと軽く手を振って別れを告げた。
そして、先ほど受け取った飴菓子をペロリと舐める。
「ん~~美味しい!」
「!リゼット様、そのように無警戒に何でも口に入れられては困ります。」
口いっぱいに広がる幸せな甘さに水を差すようにアルベールから注意が飛んできた。
私は不満そうな顔でアルベールを見る。
「そんな拾い食いでもしてるみたいな言い方しなくてもいいじゃん。」
ぷーと頬を膨らませながら私が言う。
アルベールが何か言い返そうとした瞬間、ガシャーンと大きな音が聞こえてきた。
「舐めてんのかテメェ!」
「あぁ?俺と一戦交える気か?」
明らかにこれから喧嘩を始めようとしているかのような会話が聞こえる。
こんなところで魔族が本気で喧嘩したりなんかしたら大変だ。
野次馬が集まる一方で、女性や子供の魔族たちはその場から逃げるように離れていく。
私はため息を一つこぼす。
「アル。」
「は。」
それだけで私の意図を理解したアルベールが、目にも止まらぬ速さで騒動の真っ只中に介入する。
「ぐっ……!?」
「がはっ……?!」
それは瞬きよりも一瞬の出来事で、その場にいた誰もが今起きたことを理解できなかった。
気付いたら、今にも殴りかかろうとしていた二人のうちの一人が腹を抱えたまま蹲り、もう一人が地面に倒れている。
アルベールは一瞬のうちに、一人に鳩尾へ拳を一発、もう一人に蹴りを決めたのだ。
流石アルだ。
鍛錬を初めてたった2ヶ月の私には、彼が何をしたのか全く目で追えなかった。
剣すら抜かずに一瞬でこの場を片付けた。
私が、彼の方に駆け寄ろうとしたその時、
「わっ!?」
野次馬の一人が私の背中を押した。
おそらく、背の低い私が視界に入っていなかったのだろう。
ズサーッとその場に私が倒れ込んだ。
せっかく買った飴も、そのせいで私の手から離れ地面に転がってしまう。
「リゼット様!」
私の驚いた声を耳にしたアルベールが、慌てて倒れこんだ私の元まで飛んでくる。
アルベールが私の名前を呼んだことで、周囲が「リゼット様!?」「リゼット様だって!?」「どこだ!?」「あぁ、リゼット様だ!」と、途端に騒がしくなる。
しかし、私にそんなことを気にしている余裕はなかった。
急いで私の元まで来たアルベールがそっと私を抱き起す。
「リゼット様!ご無事ですか!?」
「い、いたぁい……」
手と膝を擦りむいた程度であったが、今の私は所詮6歳。
生理的にその目に涙が滲む。
そんな私を見つめていたアルベールの瞳が、怒りに染まる。
そのアルベールの、怒りに満ちた瞳を見た瞬間、私は数年前の出来事を思い出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる