【完結】斎国華譚 ~亡朝の皇女は帝都の闇に舞う~

多摩ゆら

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航悠編

29、繋がった糸

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 触れるだけの口付けをしながら、わずかな音を立てて衣が脱がされていく。
 襟元をくつろげられ、脇腹にじかに触れられると航悠はいつかの手当てのように、そっとそこを撫でさすった。

「……っ……」

 航悠の指先が触れるだけで、ピリとした緊張がその場に走る。
 今まで考えもしなかった状況にあるからだろうか。得体の知れない高揚と共に、わずかな背徳感すら感じる。

「……航悠。何か、しゃべれ……」

 せり上がる息と沈黙が気まずくて、つい声に出してしまった。
 すると航悠は雪華を覗き込み、口を開く代わりに布越しに胸のふくらみに手を置いた。

「……っ」

「この状況で、世間話でもしろって? そりゃ無理だ。ちょっと待ってろ、そんな余裕はすぐなくしてやるから」

 そう笑って、ゆっくりと胸を揉みしだく。口付けの合間に手際よく衣がくつろげられ、上着が床に落とされた。

 航悠の手に性急さはない。いつまでも深くならない口付けや、先を急がない手つきには余裕すら感じる。
 けれど雪華の方が、昂ぶった心を持てあまし――物足りなさを感じ始めていた。

「航悠……、早くしろ……っ」

 上半身を脱がされたところで、航悠の服を掴んだ。思いがけず甘ったるい声が出て、自分で驚く。
 航悠も目を丸くすると、やに下がった顔で笑った。

「分かってるって」

 航悠が、雪華の上で荒っぽく衣を脱ぎ捨てた。何度も見てきたはずの裸なのに、その体に男を意識したのは初めてかもしれない。
 ……早く触れたい。突き上げた衝動に押され、厚い胸板に手を伸ばす。

 傷がいくつも残る肌に指を這わせると、自分とは違う手触りに少し感動する。
 久しぶりに触れる男の肌は少し硬く、そして温かかった。

 上着と一緒に眼帯が取れ、無残に潰された目があらわになる。……ふさがってはいるが、痛々しい。
 まぶたを上下に貫く傷口に指を添わせると、航悠は小さく身じろいだ。

「……あ、悪い。痛かったか……?」

「いいや。もうこすっても、何も感じねぇよ」

「…………」

 少し考え、雪華はゆっくりと体を起こした。
 頬を包み、唇から頬、失われた眼球の上へと口付けを浴びせかけると、航悠が小さく笑う。

「……煽るなよ」

「煽ってなんて……そんなつもりじゃ――」

 余裕の航悠に少しだけいらついて、手を引っこめて体ごと横を向いた。
 気持ちが固まろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。そんな雪華に航悠はまた笑う。

「拗ねるなよ」

「拗ねてない」

 むっとしている顔を見られたくなくて、完全にうつ伏せになってしまう。
 背後でやれやれとばかりに溜息をつくのが聞こえた。

「俺はいいがな。……じゃ、このままで」

「……っ」

 耳元で声がしたかと思うと、髪紐が解かれ、首筋があらわにされた。耳の後ろからうなじにかけて、湿った感触と濡れた音が伝う。

「……航悠……っ」

 振り返ろうにも、背中をたくましい体に押さえ付けられて動きが封じられていた。
 その感触を熱い、と思った瞬間、全身がぞくりと震える。

「……っ、ふ……」

 舌が首筋を這うのと同時に、航悠の両手が体の下に差し込まれた。胸を押さえたサラシの掛け紐が中途半端に解かれ、乳房があらわになる。
 そのまま背がしなるほど、背後からぐっと抱きしめられた。

「わっ……」

「雪華……。お前、どうしてほしい?」

 耳に唇をつけて、吹きかけるように航悠が問うてきた。少し掠れた熱っぽい声に、思わず首をすくめる。
 耳の中を舌でかき回されると、濡れた音にぞっと鳥肌が立った。

「やめろ……、それ…っ」

「やだね。どうしてほしいか言うまで、舐め続けるぞ」

「ばっ……! ……っ……。髪……撫でてくれ……」

 唇を噛んだが、耳の中を蹂躪じゅうりんされる刺激に耐えられず雪華は絶え絶えに告げた。するとすぐに大きな手が頭に伸びてくる。

「うん? こうか? ……それから?」

「……抱きしめろ……。もっと、強く……」

「抱いてるだろ。隙間なんかないぐらい」

 航悠の胸と雪華の背が密着し、熱い体温を背中じゅうに感じる。太腿のあたりに硬い感触を捉えて、顔が熱くなるとともに雪華は妙な安堵を感じた。
 ……良かった。航悠もちゃんとその気になっている。

 体温を分け合うようにしばし重なり合い、やがて音を立てて背骨に甘く噛み付かれた。

「……っ。な、まえを……呼んでくれ……」

「…………。雪華。……雪華」

 背筋に沿って口付けられながら、温かな唇が自分の名を紡いだ。その、低く掠れた声に安らぎと甘い疼きを覚えて雪華は身をくねらせた。
 他の誰でもなく、『李雪華』の誕生からずっと隣にいた男に名を呼ばれ、欠けていた隙間が今度こそ完全に埋まっていくのを感じる。

「ん……っ。…そ…れから……づけを……」

 漏れそうな吐息をこらえ、絶え絶えに続けた。身を起こした航悠が背後から雪華を覗き込む。

「なんだよ、お前もしかしてねやでは甘える奴? 思ってたのと違うな」

「な――。誰にでも言うわけがないだろ。お前が言えって言ったから――」

「……俺が、言ったから?」

「……っ、もういい」

 恥ずかしいのをこらえて言ったのに、なんて言い草だ。
 航悠の顔を押し返そうとすると、逆にその手を取られた。顎を掴まれて、首がひねられる。

「……了解。そんぐらいの可愛いおねだり、全部叶えてやるって。まずは口付け――な」

「ん……、ん……。は――、んんっ……」


 唇をすっぽりと覆われ、熱い舌がようやく雪華の中に入ってきた。強引に口付けられたあのときと同じ熱が、あのときよりずっと優しく雪華を探る。
 待ち望んだそれに舌を絡めると、唾液を絞り取るように付け根を吸われた。膝が抜けるような、あの感覚――

「ん……。はぁ……」

 体の線をなぞるように、節張った大きな手が肌の上を撫でてゆく。触れられた部分から熱が立ち上がっていき、雪華は緩く息を乱した。

「あ……、は……」

 寝台を軋ませて、航悠が体を浮かせる。
 四つ這いになるように体を少し持ち上げられると、右手が胸を、左手が足の付け根をまさぐってきた。

 先端には触れず、胸の下、皮膚の薄いあたりを重点的に撫でられる。そして立ち上がった先端をつままれると、背筋が小さく震えた。

「ん……っ」

「……煽ったのは、お前だからな」

「は……? そんなの、知らな――、んっ……!」

 下穿き越しに秘所をなでられ、くぐもった声が漏れた。悪戯するように、航悠の指が何度もそこをなぞる。

「ちょ……、は……っ。んん……や、あっ……」

「意外に、弱いんだな……。知らなかった。……布越しでも、溢れてきてんの分かるぞ」

「!!」

 背に覆いかぶさった航悠が、少し上擦った声でつぶやいた。その言葉に自分の状態を自覚し、カッと耳が熱くなる。
 両手が腰にかかり、下穿きを音もなく引き降ろされる。外気にそこが晒されて、濡れた冷たい感覚がした。そこがどうなっているか嫌でも分かるというものだ。

 茂みをかき分けて、航悠の指が熱くなった場所に直に触れた。潤いを帯びた指が、自在に滑り始める。

「う……、ッ……」

「また、ずいぶんと――」

「……馬鹿っ、言うな……! んっ……」

 左手が亀裂をつっとなぞって、濡れた声がこぼれた。高い声が漏れぬよう口を押さえるが、せり上がる息はどうしようもない。
 背骨に沿って口付けが落とされ、むずがゆいような感覚に鳥肌が立つ。胸の頂をこすられ、とうに硬くなっていたそこは鋭敏な快感を下腹部へと伝えた。

「は……、あ……」

「へえ。胸、意外と……」

「なんだ……っ」

「……いや、何でもない。柔らかいな」

 小さいとでも言うつもりだったのか。航悠のつぶやきは、余裕のない雪華の問いかけで苦笑の元に消えてしまった。

 亀裂をなぞって濡れた中指が、体内に侵入してくる。雪華の感じる場所を探して、なめらかにうごめいた。
 その間にも残った親指が、悪戯をするように前にある芯をこする。雪華はたまらず、目の前の敷布にすがり付く。

「……っ! あ……、あっ……」

 ゆっくりと、だが明確な意図をもって抜き差しされる長い指に内腿がわななく。くちゅ、と湿った水音が幾度となく聞こえ、耳から雪華を犯していった。

 声がこらえきれない。顔を伏せた敷布からも航悠の匂いがして、頭の中が熱で浮かされたようにぼうっとする。
 首筋にかかる息が熱い。太腿にあたる布越しの熱が、硬く張りつめてきているのが分かる。

 抑えてはいるが、航悠の声音も少し余裕がない気がする。いつも余裕な男が昂ぶっていることに、不可思議な興奮が込み上げた。

(もう、挿れればいいのに――)

「……っ! あ…!? な――」

「……ここか」

 体内で指がくっと曲げられ、今までなかった新たな刺激が与えられた。
 ……前壁の、ある一点。そこをゆっくりと執拗に擦られると、腰から頭に快感が走る。

「ふ……、う…っ。ああっ……!」

 体温と息が上がっていっても航悠の指使いの速度は変わらない。
 自らの欲望ではなく、あくまでも雪華の快感を高めることに徹するその動きに、今までの男たちがいかに自分本位で性急だったかを思い知らされる。

「あ、あっ……! いや、……あ、ン――!」

「……自分から腰動かしはじめたな。……イイんだろ」

「ばっ……。う、ああ……!」

 もっと、擦ってほしい。その角度で、その律動のまま。そうすれば、すぐにきっと――

 航悠の指にその場所を擦りつけるように、気付けば自分から腰を動かしていた。体を支える膝がガクガクと震える。
 敷布を握った手を上から包み込まれると、突然腰をすくい上げられて雪華は表にひっくり返された。


「えっ……」

 貪るように追っていた快楽が突然やみ、目を見開く。
 雪華を組み敷いた航悠は真上から彼女の裸体を見下ろし、獰猛どうもうな顔で笑った。

「ふん……。いっぱしの雌の顔してら。それにしても、よくここまで育ったもんだぜ。やっぱ俺の育て方が良かったか?」

「は――。……馬鹿か、いつと比べてるんだ」

「だってこの辺、まっ平らだったしよ。下見ないと男か女かも分からなかったぜ」

「……っ」

 すり、と乳房を撫で、航悠の手が脇腹にある火傷の痕をそっとなぞった。そのまま足の間へと下りた手が、濡れそぼった秘所を撫でる。
 湿った音が耳に届き、雪華は羞恥に顔を背けた。

「……なんで声、我慢してる?」

「我慢って……。別に……」

「まだだいぶこらえてんだろ。こんだけ濡らしてんのにな。……お前、濡れやすいなー。いつもこんなか?」

「……っ、やめろ……。恥ずかしいだろ……」

 この男を受け入れたいと思うようにはなったが、すぐに羞恥が消えるわけでもない。
 なんと言っても航悠だ。こんなことになるとは、最近までまったく想像もしていなかった男で――。
 だが航悠は、雪華の羞恥など意にも介さぬようにあっさりと告げる。

「何を今さら。体を重ねんのなんて、いつだって恥ずかしいことじゃねーか」

「え……」

「一番みっともないとこ見せ合って、よがって、ドロドロになる。気を許した相手と体を繋げんのなんてそんなもんだ。そこまでさらけ出した相手が見てえんだよ。綺麗な顔しか見せねー女なんて興醒めだ」

「……そうなのか?」

「そうだよ。……つーわけで、見せろ」

「えっ。……っ!」


 膝に手をかけられ、突然大きく開かれた。灯りの下に秘所を晒されて、雪華は思わず手でそこを覆う。

「なんだよ。なんで隠すんだよ」

「ちょ……っと待て! お前、何するつもりだ」

「は? ……舐めんだよ。手、どかせ。くしてやるから」

 上目づかいに見上げながら、航悠が膝の内側に舌を這わせる。
 赤い舌と白い膝の対比に、雪華は真っ赤な顔で首を振った。その場所を押さえて、寝台の上で後ずさる。

「さ……されたことが、ない。から、いい……っ」

「は――。……マジか」

 ぽかんと目を瞬いた航悠に、全力で頷いた。航悠は少し考え込んだあと、口付けを落として雪華の顔を覗き込む。

「……イったことは?」

 いく――達することか。
 快楽は感じても、上りつめるようなことはなかった。正直に首を振ると、航悠が顔をしかめる。

「お前……男運ないなー」

「そうか? 別に普通じゃ……」

「いや、もったいねぇよ。……初体験か。まぁそれもいいだろ」

 なぜか嬉しげに笑い、航悠が雪華の手を押しのける。
 はっと気付いてももう遅く、秘められた部分が男の目に晒された。太腿を抱え上げると、内腿に舌を滑らせる。

「……っ! ちょ……本気か?」

「当たり前だろ。俺はいつでも本気だ」

「っ……」

 誰にも口付けられたことのない場所に、航悠が唇を這わせていく。雪華はじっと、その行為を見下ろしていた。足の奥をちらりと見つめ、航悠が隻眼を歪める。

(見てる……。航悠が、私のを……)

 考えるだけで頭が沸騰して、ここから逃げ出したい気持ちになる。
 だがそんなことはお構いなしに、航悠はやや強引に腿を広げるとすでに濡れきったそこに舌を這わせた。

「! ……ちょ……、ッ……! やめ……!」

 熱い舌が全体を舐め取り――腰が抜けるかと思った。
 未知の感触だ。潤んだ場所にさらに熱い粘液を塗り込められる、不快感にも似た快感。

「あっ……、あ……!」

 舌がひだをまさぐり、内部へと侵入してくる。
 男の雄のような圧迫感はない。けれどそれよりずっと巧みに蠢く、麻薬のような――

 閉じようとした足をがっちりと手で押さえられ、雪華は唯一動く首をのけ反らせた。

「は……、あっ……! 待っ――航悠……っ」

「いいな……。こんなにいい声で鳴くとはな。癖になりそうだ」

「あ…! や、あッ……! 航悠!」

「……っ。煽るな、馬鹿……」

 尖らせた舌先で、航悠が硬くなった芯をつつく。それを止めようと足の間に埋まった短髪を掴むと、戒めのように芯が強く吸われた。

「ア…!! あああっ……! ……ふ、あ――……」

 足がブルブルと突っ張り、背中が強く反りかえった。吸引は長く続き、雪華は体を固くして未踏の快楽に耐える。
 軽い浮遊感に襲われてゆっくりと脱力すると、ようやく航悠の唇が離れる。絶頂の余韻は長く続き、それが下降に転じた頃、顔を上げた航悠が濡れた口元を拭って笑った。


「……はっ……、はぁ……」

「……しょっぺ。……どうだ?」

「…………。死にそうだ……」

「は? もう? ちょっと早すぎんじゃねーの。そんなに感じやすいのかお前」

「違う! 恥ずかしくて死にそうだと言ってるんだ……!」

 前戯だけでこれだけ深く感じたのは初めてだった。しかも、なすすべもなく昇りつめて達する様を航悠にありありと見られてしまった。
 そのことに雪華が赤面すると、航悠ははっと鼻で笑う。

「こんぐらいで何言ってるんだか。……これからもっと、死にそうな目に遭わせようと思ってんのに」

「……っ」

 欲情を滲ませた隻眼が雪華を見つめる。
 ……航悠も息が荒い。噛みつくような口付けをされ、舌を絡めると先ほどよりもわずかにしょっぱい味がした。その羞恥すら、口付けに紛れてどうでも良くなってくる。

 衣擦れを立て、航悠が着ていたままの下衣を脱ぎ捨てた。濡れた先端が太腿に当たり、雪華は眉をひそめる。
 ――ようやく、繋がれる。

 だが覆いかぶさってくると思われた体は雪華から離れ、ひょいと抱き起こされると、壁にもたれた航悠と向き合う形で座らされた。
 予想外のことに、ぽかんと男の顔を見返す。

「……航悠?」

「……来いよ」

「は……?」

「愛してほしいんだろ? だったらお前から求めてみろよ」

 くいと手招きし、にっと口の端を引き上げる。男の言葉に、快楽に溶けかけていた頭がすっと醒めた。

「なっ――」

 ――つまり。
 この男は、雪華に自分から動けと言っているのだ。
 こちらの気持ちなど十分に分かっていながら、雪華が求めていくのを待っている。……笑いながら。

(こ、の……。腹が立つ……!)

 反射的にそう思ったが、そんな男だからこそ長年信頼し、共に歩き、一線を越えさらに生きていきたいと願ったのだ。
 求める心で、羞恥といくばくかの悔しさを噛み殺す。

「それとも雪華さんは上は不得意か? 全部俺が、教え直してやろうか」

「黙ってろ、馬鹿……!」

 観念して、航悠の体をまたぐように膝をついた。
 少し高い位置から男を見下ろすと、ふっと笑って腰に両手が添えられる。

 ……雄の目をしている。今までに見たことのない顔の航悠が、そこにいた。
 ならば、自分も雌の目をしているのだろうか。

 目を伏せて、猛る雄に手を添えると航悠の体が一瞬強張った。

(大きい……。裂けないだろうな……)

 ……初めて見る、航悠自身。剥けきった切っ先は使い込まれたように赤黒く、勃ち上がった欲望に求められていることを実感して体の奥がきゅっと締まる。
 それを自分の中心にあてがい――迷いを捨てて、ゆっくりと腰を落とした。


「……っ、……つ…う……」

 入り口を押し広げられる鋭い痛みと、圧迫感。そして一瞬の快楽を、眉を寄せてやり過ごした。
 すべてを飲み込むと、間近に迫った男の顔を精一杯睨み付ける。

「お前……最悪だ……っ」

「そんな顔で睨まれてもな。でも、少し興奮したろ?」

「馬鹿か……。まだ動くな、きつい……」

「了解。俺もきついんだがな。……お前の中、狭いよ」

「文句を言うなら出ていけ」

 顎を取られ、再び深く口付けられる。甘えるように舌を絡め、吸い上げるとやんわりと吸い返された。

 大きな手が後ろ頭を撫で、雪華を包み込むように航悠の手が背と腰を抱く。
 その、淫靡さと安堵が入り混じる感覚に陶然となった頃、下からゆるく突き上げられた。

「ん……、はぁ……っ」

 ゆっくりと、寝台を軋ませて航悠が動く。

 最初は、痛みが勝った。擦り上げられる感覚に合わせて腰をぎこちなく動かすと、違和感が徐々に薄れる。

「痛いか?」

「少し……。でも大丈夫だ。おい、どこ触って――。……っ、あ……」

 手を滑らせた航悠が、濡れそぼった芯を軽く擦った。鎖骨と乳首に吸いつかれ、いっぱいに満たされた下腹部から徐々に快楽が押し寄せてくる。

「ふ……ん、あっ……。あ…あっ……」

「いいぜ……。お前ん中、すげー気持ちいい。前のあたり、弱いだろ。突くと締まる……、っ」

「……黙れよ……っ。……っは、あ……」

「ははっ……もっと、ねだれよ。そしたら、欲しいだけ、くれてやるから……っ」

 息を弾ませて航悠が低くつぶやく。当然そんなことには応えられるはずもなく、雪華は顔を赤くして頭を振った。

「馬鹿……ッ、言える、わけ――」

「うちのお姫さんは恥ずかしがりだな。まあいいか、顔見りゃ何が欲しいかは分かるからな」

「ん、あ……!」

 途端に航悠の動きが激しさを増した。
 快感が、脊髄を焼く。それに振り落とされないように航悠の肩に置いていた手を背に回し、たくましい背中をかき抱いた。

(あ――。爪痕…ない……)

 忙しくてそんな暇もなかったのだろうが、他の女を抱いてきた直後でないという証明に安堵を覚える。
 だがそんな思考など押し流すように激しく突き上げられ、雪華はその背中に爪を立てた。

「あっ、あっ…!! 航悠……ッ、あ……!」

 中から押し上げられると、むずがゆいような快楽を生む一点がある。先ほど自分から貪ろうとした場所だ。そこを重点的に責められ、全身から汗が噴き出した。
 寝台がきしむ音も、粘着質な水音もいつの間にか気にならなくなっていた。もう恥ずかしいとか言ってる余裕もない。唾液まみれの嬌声が口からほとばしった。

「や、あ! あっ……! 航悠ッ! や……、っ!?」

 膝の裏に手を回した航悠が、すくい上げるように体を反転させた。なすがままに寝台へ押し倒され、大きな体に覆いかぶさられる。
 絶頂の手前でせき止められ、雪華は羞恥も忘れて両手を伸ばした。

「やめるな……!」

「やめっかよ。すげーやらしい顔。……こっちの方が、動きやすい」

「あっ……! はあっ……、ん、あっ…! 航悠っ……、航悠…!」

 雪華の片膝を折り曲げたまま、航悠が深く奥を突いてくる。
 その速度が増し、ぽたりと雪華の顔に汗が飛ぶ。見上げると――眉を寄せた、航悠の顔。

 頭がくらくらする。空気を求めて喘ぐように口を開くと、航悠が深く唇を重ねてくる。差し込まれる舌を、夢中で吸い返す。

「……っ、いけよ……!」

 視界が明滅して、体が強くしなった。ぐっと航悠が自身を押し込んだ直後――

「ん……、あ、ア―――!!」

 背筋が痺れ、快楽が頭を焼き、信じられないほど甘ったるい声を上げて雪華は達した。


 二度目の絶頂は、一度目よりさらに長く続いた。浮遊した体がどこかに落ちてしまいそうで航悠の腕を掴むと、そのままの姿勢で深く快楽に浸らせてくれる。
 強張った内腿がやがて脱力し、雪華がほっと息をつくとそれまで静止していた航悠が低くつぶやいた。

「……もう少し付き合え。……俺も、そろそろ出る」

「え……? あ…! あっ!?」

 雪華を抱え込み、航悠が再び腰を動かす。負担をかけまいとしたのか、それとも航悠自身もいい加減限界だったのか、今度の抽挿は長くは続かなかった。
 短い間隔で穿たれ、雪華は意のままに揺すぶられる。航悠の荒い吐息がやけに鮮明に聞こえた。

「……っく、は……あ……。――っ!」

「……っ! あ――……」

 やがて痛いほどに肩を掴まれ、航悠が雪華から熱を引き抜いた。濡れた呻き声を上げて大柄な体が震えると、太腿にどろりと熱い液体が降りかかった。

「はぁ……。あー、間が空きすぎてすげえ濃い……。久々だぞこんなの」

 前髪をかき上げられ、航悠の顔が近付いてくる。
 滲んだ視界の端から水滴が吸い取られ、雪華は自分が涙ぐんでいたことに初めて気付いた。

「ん……、ぁ……。……馬鹿……」

 顎と唇を掠めて、額に唇が押し当てられる。やっていた行為に反して妙に可愛らしいその行動がどこかおかしく、まだ荒い吐息に微笑が混じった。
 航悠の裸の胸が雪華のそれに重なり、二人、ぐったりと荒い息を吐き合う。



 深く満たされた、穏やかな時間。
 航悠の手が、雪華の火傷の痕をそっと撫でる。しかしそれは、長くは続かなかった。

「お前……男慣れしてないな。早過ぎ」

「な……っ! 普通言うか!? そんなこと!」

 息が整って開口一番。あまりの言われように雪華は目を剥いた。真上の男を睨み上げると、航悠は片眉を歪めて鼻で笑う。

「俺が上手いから……だけじゃないよなぁ。まあいい、いずれお前も上達する」

「知るか!」

 反射的に返してから、これでは相手の思うつぼだと我に返った。雪華は皮肉な笑みを浮かべると負けじと言い返す。

「だいたい、お前が上手いとか誰が分かるんだ。自分で思い込んでるだけじゃないのか」

「そんな風に失礼言った奴はお前だけだよ。……いてっ。おい、押すなよ。まだ息切れてるくせに」

「もう済んだだろ。放せ」

「うわー。情緒ってもんがまるでねぇな。……顔合わせんのが、そんなに恥ずかしいか?」

「……っ」

 顔を背けて突き放そうとすると、呆れた声で笑い、航悠が体を傾ける。向き合うように転がされると、触れるだけの口付けを彼は何度も降らせた。
 髪を撫でられると、疲労と安堵にまぶたが重く下がってくる。汗の引いた男の体を何とはなしに触りながら、雪華はそっと独りごちた。

「お前と、こんな風になるなんて……」

「……予想もしなかった、か?」

「そうだな……。でも、なるべくしてなったという気もする」

「こんないい男がそばにいて、その魅力に気付かないなんてお前も鈍いよなあ」

「言ってろ……。……っ、おい。やめ――、…っ」

 航悠の腕が、脇腹をくすぐるように撫でた。
 身をよじると内腿でぬるりとした感触がして、どれほど乱れさせられたかに改めて気付く。

(なんだこれ……。なんでこんな、あふれたみたいに――)

 認めるのも悔しいが、今までに経験した交わりとは何もかもが違っていた。こんな風に指先まで脱力するほど感じたこともなければ、こんなに満たされたこともなかった。
 交接ではなく、これは情交だ。体を重ねるという概念が根底からひっくり返されてしまった。

(くそ……喉が痛い。なんて声を出して――……)

 求め、求められ、愛し……愛された。心も体も航悠に包まれて、不安なことなど何一つなかった。
 だが雪華の口は、照れ隠しに可愛げのない言葉を紡ぐ。

「面倒な男に捕まった……」

「……は。なんだそれ。失礼な奴だな、お前」

「だってそうだろ……。女にだらしがなくて、しかも何もしてなくても女性たちに恨まれるんだぞ? これからが思いやられる……」

「お、嫉妬か? 可愛いとこあんじゃねぇか」

 隻眼がへらりとヤニ下がる。その目をじとりと睨み、雪華は冷静に首を振った。

「違う。せめて、変な病気だけは貰ってくるなよ」

「貰わねぇよ。……っておい。お前もしかして俺が妓楼通い、続けるって思ってんのか?」

「? そうだろう? ……大丈夫。私一人にして、なんて野暮なことは言わないよ」

「いやそこは言えよ。愛がねぇ……」

 本気でしょげているような声音に引かれ、顔を上げる。雪華は驚きと共に航悠の顔を覗き込んだ。

「お前……まさか、行かないつもりなのか?」

「そうだよ。……あー……、色々しがらみもあるからすぐには無理かもしれんが、半年後ぐらいには綺麗な体になってやるよ」

「…………」

 ……驚いた。この女好きの化身のような男が、そこまで考えているとは。そしてその理由が自分にあると思うと、妙な気持ちになる。
 ほんのりと耳が熱くなり、雪華はぼそりと呟く。

「期待せずに待ってるよ……」

「期待しとけよ。……さて、休んだな。じゃあ次いっとくか」

「え?」

 肩に手をかけた航悠が、雪華を組み敷いて内腿に手を滑らせた。そこに残る潤いを確認し、にっと良い笑みを浮かべる。

「大丈夫そうだな。……次は後ろからにでもするか? お前、背中も弱そうだしな」

「……っ」

 無理だ。……そう言おうとして、やめた。
 久々すぎる交わりに、体はこれ以上ないぐらいに疲れていたが――心はいくらでも、満たせる気がした。
 手を伸ばし、航悠の首を引き寄せる。

「……歳を考えろ、馬鹿……」


 結局その後も飽くことなく体を繋げ、二人が寝入ったのは明け方も近くなってからのことだった。


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