70 / 166
航悠編
30、赤面の朝
しおりを挟む「……んん」
窓から漏れる明かりにまぶたを刺激され、雪華はぼんやりと覚醒した。
頬に何か、温かいものが触れている。心地よいぬくもりにもう一度眠りに落ちようとして、いいやそれは駄目だと理性で抗う。すると頬だけでなく全身が何かのぬくもりに触れていることに気付き、ぱちっと目を開いた。
「…!」
触れていたのは、航悠の肌。頭を胸板に預け、手と足がしがみ付くようにその体に巻き付いていた。
漏れそうになった声をこらえ、幼子のようなその姿勢のまま雪華はそっと頭上を窺う。
「…………」
気配が揺れたことにも気付かず、航悠は静かに寝息を立てていた。短い無精ひげが浮かぶその顎を間近に眺めながら、雪華は内心で深く息を吐き出す。
(深い眠り……。いま何時だ? だいぶ遅いんじゃ――)
陽の強さや表のざわめきから、少なくとも早朝ではないことが分かる。
ずいぶん長く、航悠の部屋にとどまってしまった。雪華はそろそろと手足を動かすと寝台からするりと抜け出す。
真冬だというのに全裸で寝て寒さを感じなかったのは、肩までかけられた毛布とずっと触れていた体温のためか。
ひやりとした外気に身を震わせると、床に脱ぎ散らかした衣服をもぞもぞとまとう。そして足を踏み出すと、激しい違和感に顔を歪めた。
(まだ、入ってる感じが……。そして全身だるい……)
開きっぱなしにされた内腿に力が入らず、体の中心部がじんじんといまだ火照っている気がする。
腰を中心に残る気だるさに、眠る相棒をじとりと見ると昨夜の光景が――熱が、声が、吐息と快楽がよみがえりそうになり、雪華は慌てて視線を逸らした。
「覚えてろよ……」
安らかに眠る男に小さく悪態をついてから、音を立てないよう部屋をそっと出た。
目覚めた航悠にどんな顔を向ければいいか、熱の残る頭ではまだ分からなかった。
「ふぁ、あ……」
それから雪華は自室でざっと身支度を整えてから再び部屋を出た。
久々に激しい運動をしたからか、腹が減っていた。今が何時か分からないが、とりあえず何か食べたい。そう思って一階の酒楼に降りると、そこに集っていた仲間たちが雪華の姿を見るなり動きを止めた。
「……?」
急にシンとなった室内に雪華は首を傾げた。ちょうど手前の卓にいた青竹と視線が合うと、ぱっと目を逸らされる。……うっすら顔が赤い。
そのほかの年下の部下たちも皆一様に赤い顔で顔をそむけ、松雲を含め、ある程度年齢のいった年上の仲間たちはなんとも言えない顔でやはり視線を逸らした。
「……? 松雲。なにかあった――」
「あーっ!! 姐御、起きてたんすか!」
「梅林……。おはよう。朝から任務だったか?」
松雲に問おうとすると、ちょうど扉が開いて外から帰ってきた梅林の大声にさえぎられた。梅林は扉を閉めるやいなや、涙目で雪華を指さす。
「ひでーっすよ! ひでーっすよ、姐御!!」
「は?」
「おいやめろ、梅猿」
いきなりの糾弾に雪華が目を見開くと、青竹が横から制止した。だが意にも介さないように梅林は涙声で続ける。
「うるせェ! そりゃオレだって覚悟してたっすよ? 頭が帰ってきた日に、いずれそうなるんだろうなーって。でもでも、蒼月楼でヤることないじゃないっすか!!」
「っ!?」
「姐御の声聞こえてきたらたまんなくなっちゃって、オレ妓楼行っちまいましたよ……! 今月、金欠なのに!!」
うわーん、と幻聴が聞こえてきそうな激しさで梅林が言い募るが、雪華の耳にはすでに届いていなかった。最初の台詞だけが耳に焼き付き、ばっと仲間たちを振り返る。
「……っ」
先ほどと同じように、皆から慌てて視線を逸らされた。そして年上の者どもは皆うっすらと……笑っている?
「あ――」
首から順に顔が熱くなっていく。助けを求めるように松雲に視線を向けると、心優しい旧知の男はなんとも言えぬ苦笑で静かに告げた。
「……そういうことだ。お前と航悠に当てていた任務は、今日は休みにしといたから。あー……。相手があいつじゃ難しいのは分かるが、できれば少し控えめにな。……ほら、若い奴らも多いからな」
「…!!」
身内同然の男からのありがたくない忠告に、雪華は声を詰まらせると階段を駆け上がった。
そして、いまだ安らかな眠りの中にいる相棒の部屋に飛び込むと、その枕元に鉄槌を下したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる