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創業3日目/新人研修
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「いけません、優さん! それは寄せ箸と言って、箸のマナーで言う"嫌い箸"の中の1つに該当します。あ、寄せ箸と言うのはですね。『遠くの食器を手元に引き寄せるため、箸を使う所作』のことですよ。ちなみに、ただ見た目が悪く、行儀が良くないだけではなく。食器を傷付けてしまう可能性があるから、避けた方が良い行為なんですよね。あ、知ってましたか? あ、箸の持ち方はですね……etcetc」
「うるせえええええ!! いちいちセリフが長ぇんだよ。誰も見てないんだから別にいいだろ!」
「ですが、高校で同じことをする可能性も……」
「ない。だって行かないし」
「行ってくださいよ! と言うか、現に今やってるじゃないですか!」
「お前は人じゃない」
「パパ酷い……」
「パパ言うなぁああ!!!」
飯粒と唾を飛ばしあって、激しく下らない口論を繰り広げる。
机の上には、皿代わりに敷かれたアルミホイルと、米と一品のオカズだけ、と言ったささやかな料理が並んでいる。
もっぱらこれが、ここ最近の若宮家の日常であった。
あの日から一週間が経つわけだが。
真締は、まるで数年来の家族の如く、ウチに馴染みきっていた。
一応改めて説明しておくと、俺と向かい合っているこの男。
少し長めの黒髪に、黒縁メガネにガリ勉っポイ表情。自宅と言うにも拘らず服装は学ランだ。
そのマジメな容姿である彼こそが、俺の中のマジメの人格から生まれた『真締 眼鏡』である。
「って言うか、なんで味噌汁にゴマが入ってるんだよ。虫かと思ったわ!」
「隠し味です」
「隠れてねぇんだよ! 表面に浮いちまってるよ‼ つーか俺はゴマが嫌いなんだ」
「それは知りません。自己紹介の時に『ゴマが嫌い』とは仰られてなかったので」
「一体どこの誰が自己紹介でそんなこと言うんだよ。地球で初だろ自己紹介で『ゴマ嫌い』を強調するやつ」
料理にしろ自己紹介にしろ、真締の奴は一体どんな生活をしてきたというのだ。
バックボーンを知りたいところだが、何しろ生みの親は俺なのだ。
こう表現すると何処か気味悪さがあるが、事実奴は俺の人格の1つ。
それが擬人化した存在なのだから、表現としては間違っていないのだ。
ふと白米から視線を上げると、奴は八割ほど石炭へと化した鮭をホイルから引き剥がそうと苦闘していた。
再び視線を手元にまで降ろす。
俺の目の前にも石炭のホイル焼きがあった。
箸先を使って無理矢理引っぺがすと、ボロボロと黒い焦げが剥がれ落ちる。
どうにか食べられそうな部分を探すと、かろうじて赤い部分があった。
とは言え黒ずんではいるのだが、文句は言えずに何とか口まで運ぶ。
うん。これは焦げだ。
今は亡き母さんよ。俺は今炭を食べている。
思えば真締は自己紹介も酷かった。
『真締眼鏡と申します』
「はぁ」
これは一週間前の俺たちの会話である。
名乗られこそしたが、こちらからすれば、俺の人格の1つという事しか情報が無い。
俺はあまりに奴を知らなさ過ぎたし、不運なことに、コミュニケーション スキルも欠如していた。
つまり どうすればいいのか分からなかったのだ。
だからこそ無難に、無難な質問を投げる事で場をつなぐことにしたのだ。
え? いつまで、誰に繋ぐのかって?
そりゃ、未来の自分だよ。
「で、えー……趣味はありますか……ある? あとなんか癖とか」
ファーストクエスチョンがコレだ。
思い出すだけで苦い思いだが、文章からにじみ出るコミュ障感が胸を抉る。
ほら、途中なんか、何故か敬語になってしまっているだろ?
あと癖ってなんだよ。どんな質問だ。
そして奴も奴だった。
「趣味は読書。"癖"はないですが、虚言"癖"ならあります」
「全然マジメじゃないじゃねぇか……」
「いえ、自分で言うのもなんですが、結構マジメですよ。ほら、私ずっと敬語ですし」
「それだけで清算できたと思うなよ!?」
「でも仲間からは、『マジメ系クズ』って呼ばれてましたよ」
としょんぼり顔の真締眼鏡。
いやいや、それ揶揄されてるだけじゃねぇか。
「虚言癖なので、平気で噓は付きますが、是非よろしくお願いします」
そう言われたら、よろしくしたくねぇよ。
マジメ系クズじゃなくて、ただのクズじゃねぇか。
とは言え、今は亡き我が母が送って来た人間なのだ。
そう簡単に追い出すわけにもいかない。
ある程度は家事も手伝ってくれるので、ニートとしては助かる部分もあった。
だがしかし、あまりにも料理が酷すぎた。
記述してこなかったが、実は白米も酷い。
カチカチな部分が残ったままの白米が、お粥の様に白い水に浮いている。
「これは料理が得意な人格が必要だ……」
「ああ、それなら丁度いいのがいますよ」
「え、他にもいるのか?」
まるで八百屋か魚屋かのようなノリで、真締は人差し指を立てる。
「『穂別いちご』さんです。私はあまり話したことがありませんが、料理が上手い人格の1人です」
「へーいいじゃねぇか! もしかしてソイツも呼ぶことできたりする?」
もちろんです、と頷く真締。
「あ、ですが1つ欠点がありまして」
そこでチャイムが鳴った。
慌てて出ようと立ち上がる俺だが、真締は何故か青ざめた顔で邪魔してくる。
これもまたいつもの奇行だろう。
大した力ではないので、無理矢理振り払って、ドアノブに手を掛ける。
「あ、ちなみに穂……新人は何の人格なんだ?」
「穂別さんです。あの方の人格は……」
「『性欲』です」
へ? 料理とかじゃねぇの?
あ、穂別いちごって、『ホ別(ホテル別料金)いちご(一万五千円)』
つまり、援助交際用語じゃねぇか。
思わず放心、ドアノブから手が離れる。
見つめ合う俺と真締。
ガチャリ
背後からドアが開く音がした。
「うるせえええええ!! いちいちセリフが長ぇんだよ。誰も見てないんだから別にいいだろ!」
「ですが、高校で同じことをする可能性も……」
「ない。だって行かないし」
「行ってくださいよ! と言うか、現に今やってるじゃないですか!」
「お前は人じゃない」
「パパ酷い……」
「パパ言うなぁああ!!!」
飯粒と唾を飛ばしあって、激しく下らない口論を繰り広げる。
机の上には、皿代わりに敷かれたアルミホイルと、米と一品のオカズだけ、と言ったささやかな料理が並んでいる。
もっぱらこれが、ここ最近の若宮家の日常であった。
あの日から一週間が経つわけだが。
真締は、まるで数年来の家族の如く、ウチに馴染みきっていた。
一応改めて説明しておくと、俺と向かい合っているこの男。
少し長めの黒髪に、黒縁メガネにガリ勉っポイ表情。自宅と言うにも拘らず服装は学ランだ。
そのマジメな容姿である彼こそが、俺の中のマジメの人格から生まれた『真締 眼鏡』である。
「って言うか、なんで味噌汁にゴマが入ってるんだよ。虫かと思ったわ!」
「隠し味です」
「隠れてねぇんだよ! 表面に浮いちまってるよ‼ つーか俺はゴマが嫌いなんだ」
「それは知りません。自己紹介の時に『ゴマが嫌い』とは仰られてなかったので」
「一体どこの誰が自己紹介でそんなこと言うんだよ。地球で初だろ自己紹介で『ゴマ嫌い』を強調するやつ」
料理にしろ自己紹介にしろ、真締の奴は一体どんな生活をしてきたというのだ。
バックボーンを知りたいところだが、何しろ生みの親は俺なのだ。
こう表現すると何処か気味悪さがあるが、事実奴は俺の人格の1つ。
それが擬人化した存在なのだから、表現としては間違っていないのだ。
ふと白米から視線を上げると、奴は八割ほど石炭へと化した鮭をホイルから引き剥がそうと苦闘していた。
再び視線を手元にまで降ろす。
俺の目の前にも石炭のホイル焼きがあった。
箸先を使って無理矢理引っぺがすと、ボロボロと黒い焦げが剥がれ落ちる。
どうにか食べられそうな部分を探すと、かろうじて赤い部分があった。
とは言え黒ずんではいるのだが、文句は言えずに何とか口まで運ぶ。
うん。これは焦げだ。
今は亡き母さんよ。俺は今炭を食べている。
思えば真締は自己紹介も酷かった。
『真締眼鏡と申します』
「はぁ」
これは一週間前の俺たちの会話である。
名乗られこそしたが、こちらからすれば、俺の人格の1つという事しか情報が無い。
俺はあまりに奴を知らなさ過ぎたし、不運なことに、コミュニケーション スキルも欠如していた。
つまり どうすればいいのか分からなかったのだ。
だからこそ無難に、無難な質問を投げる事で場をつなぐことにしたのだ。
え? いつまで、誰に繋ぐのかって?
そりゃ、未来の自分だよ。
「で、えー……趣味はありますか……ある? あとなんか癖とか」
ファーストクエスチョンがコレだ。
思い出すだけで苦い思いだが、文章からにじみ出るコミュ障感が胸を抉る。
ほら、途中なんか、何故か敬語になってしまっているだろ?
あと癖ってなんだよ。どんな質問だ。
そして奴も奴だった。
「趣味は読書。"癖"はないですが、虚言"癖"ならあります」
「全然マジメじゃないじゃねぇか……」
「いえ、自分で言うのもなんですが、結構マジメですよ。ほら、私ずっと敬語ですし」
「それだけで清算できたと思うなよ!?」
「でも仲間からは、『マジメ系クズ』って呼ばれてましたよ」
としょんぼり顔の真締眼鏡。
いやいや、それ揶揄されてるだけじゃねぇか。
「虚言癖なので、平気で噓は付きますが、是非よろしくお願いします」
そう言われたら、よろしくしたくねぇよ。
マジメ系クズじゃなくて、ただのクズじゃねぇか。
とは言え、今は亡き我が母が送って来た人間なのだ。
そう簡単に追い出すわけにもいかない。
ある程度は家事も手伝ってくれるので、ニートとしては助かる部分もあった。
だがしかし、あまりにも料理が酷すぎた。
記述してこなかったが、実は白米も酷い。
カチカチな部分が残ったままの白米が、お粥の様に白い水に浮いている。
「これは料理が得意な人格が必要だ……」
「ああ、それなら丁度いいのがいますよ」
「え、他にもいるのか?」
まるで八百屋か魚屋かのようなノリで、真締は人差し指を立てる。
「『穂別いちご』さんです。私はあまり話したことがありませんが、料理が上手い人格の1人です」
「へーいいじゃねぇか! もしかしてソイツも呼ぶことできたりする?」
もちろんです、と頷く真締。
「あ、ですが1つ欠点がありまして」
そこでチャイムが鳴った。
慌てて出ようと立ち上がる俺だが、真締は何故か青ざめた顔で邪魔してくる。
これもまたいつもの奇行だろう。
大した力ではないので、無理矢理振り払って、ドアノブに手を掛ける。
「あ、ちなみに穂……新人は何の人格なんだ?」
「穂別さんです。あの方の人格は……」
「『性欲』です」
へ? 料理とかじゃねぇの?
あ、穂別いちごって、『ホ別(ホテル別料金)いちご(一万五千円)』
つまり、援助交際用語じゃねぇか。
思わず放心、ドアノブから手が離れる。
見つめ合う俺と真締。
ガチャリ
背後からドアが開く音がした。
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