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【強すぎる杭】
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【強すぎる杭】
奈々子が嫌われる理由は、出来がいいことだ。
出る杭は打たれる。でも、その杭は折れることもなければ、叩きのめす事すらできない。学年一位の頭脳は伊達じゃない。ただ勉強が出来るとか運動神経がいいとか絵がうまいとか、どれかが出来ればいいのに、全部飛びぬけているのが中学生という多感な年頃の人間たちには反感を持たれる。
それでも、欠点が一つ。奈々子はお洒落に疎い。眉毛はフサフサで垂れていて、頬には大量のニキビ。腕の毛や脚の毛も剃ったことがないのか生えっぱなし、髪の毛もパサパサしていてとても撫でたいなんて思わない。
余計なお世話だとは思うけど、小学生じゃないのだからもっと、女子らしく気を使った方がいいと僕が思ってしまうほど、ものぐさというか、鏡の存在を知らないのか自分自身のことが見えてない。
同じ小学校出身の女子が言っていたけど、五年生の修学旅行でアソコの毛が唯一生えていて、しかもボサボサだったと聞いた時は、僕も流石に引いた。幼馴染のそんな話、母さんからだって聞いたことがない。
忘れたいけど、一度想像してしまったら中学生の男子は暇な時は、そんなことばかり考えている。
僕は時々思う。きっと中学二年生は人生で一番忙しいと。
社会人の仕事が忙しいとか、そういうのとは多分違う。
生意気でいないと気が済まないし、そのくせ繊細で家で夜一人になると傷ついたり、大人になりたくて子供みたいなことをする年頃だ。
けど、五十嵐は違った。
真っすぐで、行動力があって、誰からの中傷も恐れず、奈々子に恋をして、実らせた。
部活が終わって、僕等二年生は野球部のベンチでたむろっていたら、部長の北村がいつもより早く「暗いし帰るぞ」と言うまで僕等はいつものように放課後を過ごした。
その中には五十嵐もいて、今日は奈々子と帰るって言っていたけど、奈々子をどこで待たせているのだろうと、日が沈んで暗いせいか少し心配になった。
この薄暗い中、女子をどこで待たせているんだろう。それとも今日は一緒に帰らなくなったんだろうか。
解散した時、五十嵐はいつも通り、僕とファーストと三人で帰ろうと、校門の方に行くと、奈々子が門の横にあるプラタナスの木に寄り掛かって、夜空を見上げていた。
僕等に気が付くと、奈々子は僕とではなく、真っすぐ五十嵐のことを見て小さく会釈をした。
「ごめん。今日からは僕、世良さんと帰るから」
そう告げ、僕とファーストの二人から離れ、奈々子の方に小走りで駆け出して行った。
アイツ、今日からはって言ったけど、これからずっと放課後は奈々子と帰る気か?
「え、っちょ、どういうこと?なんでキモ子が五十嵐待ってんの?え、五十嵐もしかしてキモ子にこれから告白でもされるの?」
ファーストは意味が解らないというように、僕に言ってきた。僕も二人が付き合い始めたということを知らなければ同じことを思ったかもしれない。だけど、二人は、もう今日から一緒に帰る仲になった。
奈々子が五十嵐と付き合う条件が『私と付き合ってるって隠さないこと』だから、僕が広めても別にいいだろうと、勝手に判断し、ファーストに五十嵐の現状を勝手に報告した。
「あの二人、今日から付き合うんだって」
「嘘だろ?」
何故かファーストは小声で僕にそう言った。
「今朝告白したら、上手くいったって言ってた」
「え、それって、五十嵐からキモ子に告白したってこと?」
「うん」
僕は校門を出て、いつもと同じ、家路に戻り歩き出した。すると慌ててファーストがついてきた。
「五十嵐ってキモ子好きだったってこと?」
「そうらしいよ」
「小野寺は、その、五十嵐がキモ子好きだって知ってたのか?」
知ってた。知らされていた。だけど、隠していたと思われたくなくて僕は涼しい顔を作り「今日知ったよ。俺と五十嵐同じクラスだしさ。さっき一緒に帰れないとかいうから理由訊いたら、世良と付き合うことになって今日は世良と一緒に帰るって言ってきたんだよ」
ファーストは早速冷やかすように、ケラケラ笑い出した。
「五十嵐って自分も頭いいし、ピッチャーだからって、学年一位の成績と運動神経抜群の彼女が欲しかったのかな。案外世間体とか気にするタイプだったのかよ」
「どうだろ」
なんで好きになったとか詳しく訊いていないから、僕もわからないけど、そもそも奈々子のどこに惚れたんだろう。
「それにしても、ゴリラのDNAもってる女子が好きだとか、俺には無理だわ」
ファーストは、きっと今夜野球部の何人かに、ラインでこのことを広めるだろう。
明日にはもう野球部員が学年中のネタにして一気に五十嵐と奈々子の関係が広まって、恋バナに飢えている学年中がこの話でもちきりになるだろう。
奈々子は元々嫌われ者だし、なれているだろうから、そんなことじゃ心が折れたりしないだろうけど、五十嵐は耐えられるのだろうか。
五十嵐が弱音を吐くところを見たいと、僕は静かに思いながら、いつの間にか通り抜けていった秋の風に背中を冷やされていた。
奈々子が嫌われる理由は、出来がいいことだ。
出る杭は打たれる。でも、その杭は折れることもなければ、叩きのめす事すらできない。学年一位の頭脳は伊達じゃない。ただ勉強が出来るとか運動神経がいいとか絵がうまいとか、どれかが出来ればいいのに、全部飛びぬけているのが中学生という多感な年頃の人間たちには反感を持たれる。
それでも、欠点が一つ。奈々子はお洒落に疎い。眉毛はフサフサで垂れていて、頬には大量のニキビ。腕の毛や脚の毛も剃ったことがないのか生えっぱなし、髪の毛もパサパサしていてとても撫でたいなんて思わない。
余計なお世話だとは思うけど、小学生じゃないのだからもっと、女子らしく気を使った方がいいと僕が思ってしまうほど、ものぐさというか、鏡の存在を知らないのか自分自身のことが見えてない。
同じ小学校出身の女子が言っていたけど、五年生の修学旅行でアソコの毛が唯一生えていて、しかもボサボサだったと聞いた時は、僕も流石に引いた。幼馴染のそんな話、母さんからだって聞いたことがない。
忘れたいけど、一度想像してしまったら中学生の男子は暇な時は、そんなことばかり考えている。
僕は時々思う。きっと中学二年生は人生で一番忙しいと。
社会人の仕事が忙しいとか、そういうのとは多分違う。
生意気でいないと気が済まないし、そのくせ繊細で家で夜一人になると傷ついたり、大人になりたくて子供みたいなことをする年頃だ。
けど、五十嵐は違った。
真っすぐで、行動力があって、誰からの中傷も恐れず、奈々子に恋をして、実らせた。
部活が終わって、僕等二年生は野球部のベンチでたむろっていたら、部長の北村がいつもより早く「暗いし帰るぞ」と言うまで僕等はいつものように放課後を過ごした。
その中には五十嵐もいて、今日は奈々子と帰るって言っていたけど、奈々子をどこで待たせているのだろうと、日が沈んで暗いせいか少し心配になった。
この薄暗い中、女子をどこで待たせているんだろう。それとも今日は一緒に帰らなくなったんだろうか。
解散した時、五十嵐はいつも通り、僕とファーストと三人で帰ろうと、校門の方に行くと、奈々子が門の横にあるプラタナスの木に寄り掛かって、夜空を見上げていた。
僕等に気が付くと、奈々子は僕とではなく、真っすぐ五十嵐のことを見て小さく会釈をした。
「ごめん。今日からは僕、世良さんと帰るから」
そう告げ、僕とファーストの二人から離れ、奈々子の方に小走りで駆け出して行った。
アイツ、今日からはって言ったけど、これからずっと放課後は奈々子と帰る気か?
「え、っちょ、どういうこと?なんでキモ子が五十嵐待ってんの?え、五十嵐もしかしてキモ子にこれから告白でもされるの?」
ファーストは意味が解らないというように、僕に言ってきた。僕も二人が付き合い始めたということを知らなければ同じことを思ったかもしれない。だけど、二人は、もう今日から一緒に帰る仲になった。
奈々子が五十嵐と付き合う条件が『私と付き合ってるって隠さないこと』だから、僕が広めても別にいいだろうと、勝手に判断し、ファーストに五十嵐の現状を勝手に報告した。
「あの二人、今日から付き合うんだって」
「嘘だろ?」
何故かファーストは小声で僕にそう言った。
「今朝告白したら、上手くいったって言ってた」
「え、それって、五十嵐からキモ子に告白したってこと?」
「うん」
僕は校門を出て、いつもと同じ、家路に戻り歩き出した。すると慌ててファーストがついてきた。
「五十嵐ってキモ子好きだったってこと?」
「そうらしいよ」
「小野寺は、その、五十嵐がキモ子好きだって知ってたのか?」
知ってた。知らされていた。だけど、隠していたと思われたくなくて僕は涼しい顔を作り「今日知ったよ。俺と五十嵐同じクラスだしさ。さっき一緒に帰れないとかいうから理由訊いたら、世良と付き合うことになって今日は世良と一緒に帰るって言ってきたんだよ」
ファーストは早速冷やかすように、ケラケラ笑い出した。
「五十嵐って自分も頭いいし、ピッチャーだからって、学年一位の成績と運動神経抜群の彼女が欲しかったのかな。案外世間体とか気にするタイプだったのかよ」
「どうだろ」
なんで好きになったとか詳しく訊いていないから、僕もわからないけど、そもそも奈々子のどこに惚れたんだろう。
「それにしても、ゴリラのDNAもってる女子が好きだとか、俺には無理だわ」
ファーストは、きっと今夜野球部の何人かに、ラインでこのことを広めるだろう。
明日にはもう野球部員が学年中のネタにして一気に五十嵐と奈々子の関係が広まって、恋バナに飢えている学年中がこの話でもちきりになるだろう。
奈々子は元々嫌われ者だし、なれているだろうから、そんなことじゃ心が折れたりしないだろうけど、五十嵐は耐えられるのだろうか。
五十嵐が弱音を吐くところを見たいと、僕は静かに思いながら、いつの間にか通り抜けていった秋の風に背中を冷やされていた。
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