DEEP BLUE WORLD

白丸

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潜水艇でどこまでも

黙祷海域

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 博士たちとのミーティングが終わったのは14時すぎだった。自室のテレビ電話でアランと博士に通話し食事をしながらの休憩を挟みつつ和やかに終わった。
 
 現在この潜水艇は旧ハワイ諸島、現在のパンゲアを出発し旧メキシコ湾へと向かって東へ進路をとっている。今は
旧メキシコにはいったあたりだろう。
 テレビ電話が鳴る。しかし画面にはNO IMAGEと表示され相手の顔はわからない。
「こちらブリッジ、カイ・シンドウさんですか?」
「はいそうです」
「まもなく旧メキシコ湾海域にさしかかります、ブリッジまでお越しください」
「どういうことですか?」
「…詳しいことは船長よりお聞きください、そちらの潜水服の端末にコードをインストールしたのでご確認を」
 たしかにブリッジのコードらしきSECRET CHORD (ONETHYME PASS)の文字下に非表示のナンバーがいくつか
あった。
「それではまた」
「はい…」
 ぼくは潜水服を着るとブリッジへと向かった。
「ソラいってくるよ」
「くぇ!」

 ブリッジへはいくつもの通路を通りエレベータを乗り継ぎ途中何度もセキュルティゲートがありそのたびに確認された。重要な場所なのだから当然だろう。かなり時間はかかってしまったが大丈夫だろうか?
 最後の扉を通過すると淡く青い光が暗闇を照らしていた。
 よく目をこらすと中央部に取り舵があり微妙にうごいていた。人が操舵しているわけではなさそうなのでおそらく全自動単語オートモードになっているのだろう。
 ほかには管制システムだろうか潜水艇進行方向にむかってぼくから見て左をむいて向き合っていた。意外にも人は6人ほどしかかいないようだ。
「おおきたかカイくん!」
「博士、それにアランにサヤも?」
「まあな」
「またあったね!」
「うんそうだね…」
 突如、咳払いが背後からして低く威厳のある声がした。
「ブリッジまでご足労いただき誠に恐縮です」
 後ろを振り返る、と同時にモニターに褐色でやせがたの白髭の老人が写った。アランとおなじイエローダイヤの瞳をしていた。
「出航の際お目にかかったとは思いますが改めて自己紹介をさせていただきます、私はこの潜水艇の船長をまかされましたマクス・マキアナというものです」
「マクス船長お呼びいただき感謝します」と博士。
「ありがとうございます」と一同。
「あのお呼びいただいたのはなぜですか?」
「2年前、この海域で不運な事故がありました」
「カイ覚えているか?君のお父さん、コウ・シンドウがなくなった事故のことを」
 父さんが亡くなった事故、忘れるわけがない。
「この海域に到達したとたん原因不明のエンジントラブルに見舞われたネオノーチラス号が今もなお眠っているのだよ」
 そして父さんはその船の船員だった。

 …
2年前父さんにテレビ電話での通信でソラが産まれたことを伝えた。父さんはとても喜んでくれた。
『そうか孵ったのか卵』
『うん!温度管理がんばったんだよかわいいね、赤ちゃん』
『そうだな、カイおまえが産まれたときも父さんとってもうれしかったんだぞ!』
『そっか…母さんも?』
『ああもちろんだ!』
『そっかぁ会いたかったな母さんに』
『…すまないな』
『なんで父さんが謝るの?』
『母さんの病気の治療費をだせなかったばっかりに…』
『またその話?何度も言うけど父さんは悪くないよ』
『でもなうちがもっと裕福ならカイにも勉強に専念して好きなことして過ごして欲しかったなぁ…』
『泣かないでよ!やってるよ好きなことジャンク屋でのバイト楽しいんだ学校では扱えない機械とかの修理とか改造とか楽しくて楽しくてしょうがないんだ』
『そうか、シンドウの子なんだなカイは』
『うん!だからだいじょうぶだよ』
 そのときけたたましいブザーの音が鳴り響いた。
『父さん?どうしたの』
『わからない、一旦通信を────うっ!うわ』
 急に画面が真っ暗になった。
『父さん?父さん!』
『あがががが…いか…しょくしゅ…ぐっ!』
 そこで通信は途切れた。
 …

  そうか…あれから2年か…
「みなさまはこの事故のご遺族、このブリッジにて黙祷を捧げていただきたくお呼びした次第です」
 そのとき管制官の1人が言った。
「今、17時18分──あと一分で黙祷のサイレンを鳴らします」
「うむ」
 静かに待つ。そしてサイレン。
     黙祷
 目を閉じ父さんに思いをはせる。たった1人でぼくを育てくれた。たった1人の身内
だ。サイレンが止む。
 顔を上げ目を開けるとサヤは静かに涙をこぼしアランがそれを慰めるように彼女の背中をさすっていた。
 2人にはあまり詳しいことは聞かない方がよさそうだ。
 博士は叔父で高名な海洋学者トマス・ブラウン博士を亡くしている。
「…私は、大変不謹慎とは思うが…彼らは我々の生活の犠牲となったのだ、過剰なまでのエレチウム消費の」
「どういうことですか?」
「私から説明しようカイくん」
 博士が口を開く。
「知っての通りエレチウムは今や我々の生活になくてはならないものとなった、そのため大量のエレチウム鉱石が必要になり、将来エネルギーが需要に対し供給が追いつかなくなることが懸念されているんだ」
「なんで?エレチウムは半永久的に電力を生むんでしょ?」
「そう考えられてきたがどうもそうではないらしい、エレチウムは時間の経過とともに発電量が減衰していくことが最新の研究でわかったんだ」
 アランが補足する。
「そう、それで大陸は海洋調査局を使いありとあらゆる海域を調査し始め結果このような事故が多発することとなった」
 船長は一瞬目線をはずした。
「そして私の部下たちもな」

 黙祷の沈黙を引きずるようにだれもがだまったままブリッジをあとにした。

 夕食後、ミーティングをおえくつろぎながらソラをだき抱えていると、だれかから通信がはいった。
「やあやあ、君がカイくんか!」
 モニターごしで見るとブラウンのショートヘアにタンクトップの女性だった。
「こんばんわ…」
「うおお!リリーから聞いていたが本物のペンギンをみられるとは!種類は…アデリーペンギンいやフンボルトペンギンか?」
「あの…失礼ですがどちら様ですか?」
「あ、ああ失敬、私は生物学者のアリス・カロマリスだよろしく、リリーとはながいつきあいでね、専門は海洋動物だまあ鳥類は専門外だが…興味をそそるねぇ…」
 どうやら自分の専門分野となると話が止まらない人のようだ。他人とは思えないな…
「アリスさんはなにかぼくにご用ですか?」
「ああ、君のペットそのペンギンをじっくり観察したいんだ、なあに悪いようにはしないよ、私のラボまでご足労願えないだろうか?」
 …うーん、かなりあやしげな感じだ。
「アリス、そんな言い方ではカイくんに不信感をあたえてしまうぞ」
「博士」
「すまないな、彼女は悪い人ではないんだ」
「博士がいうのなら問題ありません、いまからアリスさんのラボに向かいますね…ソラゲージに」
「くえ!」
 彼は返事をするとペタペタとゲージに入った。

 ネオ・ノーチラス号MK-2
には常設の研究フロアがありそなかに彼女のラボもあった
 常設ということは彼女はこの部屋からほとんど出ずに研究していることになるが飽きたりしないのだろうか?たぶんないような気がするな…
「ようこそ私のラボへ!」
「お招きいただきありがとうございます」
「まったくこの潜水服とやらはわずらわしいことこのうえないねぇ」
「はあ」
「カイくん、ソラくんは嫌そうじゃなかったかね?」
 博士がたずねた。
「いえ」
「ほおほお、これはこれは」
 気がつくとソラはアリスさんに抱っこされていた。
「いやね、カイくんこの子は本当にペンギンかい?」
「ど、どういうことだアリス?」
「前にも言ったと思うが私は鳥類は専門ではない、だが生物学の知識はひととおりあるつもりさ、コイツはウミガラスの仲間だろう」
「でも、獣医はペンギンといっていましたし、自分でも調べてみました」
 するとアリスさんはハァとため息をついた。
「獣医も君も悪くない、悪いのは時の流れさ、いいかい長い年月が経つうちにウミガラスのデータとペンギンのデータがごっちゃになってしまったんだ、だからウミガラスとペンギンを現代の技術で判別するのは大変難しいのだよ、2種とも絶滅してしまった種というのも要因のひとつだがね」
「へぇー」
「もし君さえよければ再度検査させてもらえないだろうか?」
「かまいませんが…そらは?」
「くえ!」
「かまわないそうです」
「よし早速検査だ」
 アリスさんは細長い綿棒のようなものをもってきた。
「ちょっと失礼するよソラくん、口をあけてもらえないかな」
「くえええ」
 ソラは大きく口を開けた。
「ふむ、その調子だ…こいつで唾液をちょちょと採ってこの機械にかけると…そらでた!…ん?むむ!」
「アリスどうした?」
「いや、驚いたこのこはウミガラスで間違いないのだが、オオガラスのDNAと基盤配列がほぼ一致した…」
「つまり、ソラはペンギンではなくオオウミガラスということですか?」
「ああ、しかもオオウミガラスの最後の記録は…1844年に標本が作られそれが最後の一羽だとされている」
「カイくんソラくんはお父さんからもらった卵から孵ったといっていたな」 
「はい」
「キミのお父さんはどうやってその卵を手に入れたのか非常に気になるな」
「うーん…そういえば聞いたことありませんでした」
「ナゾが深まるばかりだな」
 そのときものすごい衝撃が船をゆらす。警報がけたたましくなる。
『現在正体不明の物体がが船体後方部に衝突、原因究明のため本船は一時中性浮遊します』
単語ちゅうせいふゆう浮きも沈みもせず水中にとどまること本作の造語である
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