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潜水艇でどこまでも
ワクワクはいくつになっても
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西暦6812年7月21日
窓から広がる青空を眺めていたら、出発の時間になってしまった。ライトグリーンの上下作業着に着替える。
それからペットの小型ペンギン ソラ(♂)に声をかける。
「ソラそろそろいくぞ」
「くぇぇ!」
元気よく返事をして自ららペタペタと歩いてゲージに入る。このペンギン教えたわけでもないのにある程度人間の言葉を理解できるお利口なペンギンなのだ。
「行ってきまーす」
誰も返事のすることのない部屋に鍵をかけた。
ぼく、カイ・シンドウは16歳で飛び級し大学院で海洋機械工学を専攻している、黒髪のさえない男だ。(自分で言ってて
悲しくなる…)ちなみに黒髪はパンゲアでは珍しいのだとか。
そんなぼくだが今回海底探査局の調査に教授の助手として乗船できることになったのだ。教授がぼくにできないかと尋ねてきたときは興奮で一日眠れなかった。最新の機器をこの目で見て場合によっては操作できる、なにより海底二万哩のような冒険ができることにワクワクが止まらなかったのだ。
なんてことを考えながらバスに乗っていたらターミナルに到着した。その白く偏光ガラスの入った空港のような施設は人工オゾン層の外にでるためのものなので本来関係者以外たちいることはできない。入館許可書のアプリを自分の端末で立ち上げコードリーダーに通す。
『カイ・シンドウ様 ペット ペンギン ソラ オス を確認しました ロックを解除します』
音声が終わると無機質な白い金属の扉が開く。
そこにはぼくと同じ作業着を着た学生や白衣を着た研究者と思われる人たちが集まって話していたり、機材の入った箱をどこかへ運んでいた。
「おお!シンドウくんこっちだ!」
「教授!」
彼女はリリー・ブラウン教授10歳のとき海洋工学の博士号を取得した天才で今は12歳だ。ウェーブがかかったブロンドの髪を赤いヘアバンドで止めていた。身長はぼくのこしぐらいで歳相応といった感じだ。
「集合時間までずいぶんあるがどうしたのかね?」
「いや、なんか潜水艦で調査って冒険みたいじゃないですかだからワクワクしてつい早めに来ちゃいました!」
教授はにっこりと笑う。
「うむ!カイくんは実に無邪気だな、子どもの私が言うのはあれだが子どものように無邪気だな、2階に展望デッキがあるから見てくるといいこれから我々が乗船する潜水艇ネオ・ノーチラス号MK-Ⅱをな」
「はい!ありがとうございます」
早速階段を上り巨大なガラス越しに100m以上の円筒形の物体が浮いているのが見えた。
「あれがネオ・ノーチラス号?小っさくない?」
声の方をみるとぼくより少し年下だろうか?赤毛にカールが着いた髪に白シャツヘソ出しデニムのショートパンツの少女が立っていた。
「あれは搭乗口だよ船体は海の中…ほら、あそこタラップが架かっているだろ?」
ぼくが指したほうには飛行機に乗るときにかかる橋のようなものが数本ターミナルと接続されていた。
「へぇー…あんた詳しいのね」
「うん、これでも大学で海洋機械工学を専攻しているから」
「やばっ!飛び級ってヤツ?」
「まあね、あっ!自己紹介まだだったねぼくはカイ、カイ・シンドウきみは?」
「サヤ、サヤ・ウィンディよ名前の通りウインディ財団の会長ブライアン・ウインディの娘」
ウインディ財団、パンゲアで最も大きな財団で主に海洋資源エネルギーで莫大な富を得ている。そして今回の調査のスポンサーでもある。
「へぇー、ってことは潜水艇が好きだったり────」
「ない」
バッサリ、言われた。
「潜水艇なんて財団からすれば金儲けの道具に過ぎないもの、それに女の子は潜水艇に興味を持たないわよ、普通はね」
「そっか…せっかくだからネオ・ノーチラス号の模型で説明しようと思ったんだけど」
「あの…模型ってさっきカバンからとりだしたそれ?」
「ん?」
見ると手には模型を持っていた。どうやら無意識にとりだしていたようだ。
「あっ…うん、これ市販のキットを改造して作ったんだ」
「げっ!めんどいことする人もいるもんね」
「あはは…よく言われる」
「ほんとめんどいんだコイツ」
後ろから気さくな声が聞こえてきたので振り返ると褐色にイエローサファイヤのような瞳、薄いブロンドを短く切った青年がいた。
「アラン兄様!来てたんだ」
アラン・ウインディ彼もぼくと同じく飛び級で大学院に入った人物で大学には主席で合格した。
「アラン、知り合い?」
「ああ妹だ」
「へぇー意外」
「そういうあんたこそアラン兄様の知り合いなの?」
「まあね」
「ああそうだカイ、りりー教授がお呼びだ準備ができたらしい」
「わかった今行くよ」
「サヤ、またあとでな」
「はい、兄様」
「またね」
「なれなれしいわね、カイ…」
「そういうヤツなんだよ」
そのあとは乗組員搭乗者全体でのミーティング、終わったらぼくらの大学チームのミーティング、搭乗手続きをすませ、技術作業デッキでの機材テスト調査の準備に追われ
与えられた自室に戻ったときには日付をまたいでいた。
「くえ!」
「ソラ…やっと終わったよ、疲れたー」
あらためて50日間過ごすであろう6畳ほどの自室を眺める。
壁際にシングルベットがひとつにその上にキャビネットがあり荷物を収納できるようになっていてベットの下には大きな引き出しがあった。
ベットと向き合う形で壁に備え付けられた机に固定式の椅子があった。丸い窓はベットと机の間にあるが外の景色ではなくモニターになっており時間によって映像が変わる仕組みになっており今は星空の映像が流れている。これは海中に長い時間滞在していても昼か夜か分かるようにするためのもので睡眠サイクルを安定させ乗組員の健康を守っている。扉のわきにはユニットバスがあった。海水を除染電解してから水を作っているのだろう。
「疲れたー、ソラ…はもう寝てるか…」
ベットでうつ伏せに眠っているソラを横目にぼくはベットに潜り込むこれから10日ほどは目的地につくまでヒマなのでしばらくこの潜水艇を探索するとしよう。
ぼくはそのまま眠ってしまったようだ。
あくびをひとつ、目を覚ます。机の時計をみると8:00と表示され部屋は明るくなっていた。7時になると明かりが自動で点灯し覚醒をうながす。
とりあえず着替えて机下のボタンを押すすると朝食のトレイがでてきた。今日のメニューはコオロギの塩ゆで、焼いたタガメだそれと何か白いスープ、ソラには生のいわしが検査済みとかかれたシールを貼った紙パックが添えられていた。朝昼晩と食事は無料で提供される。
朝食を済ませたことを見透かしたかのようにソラがおきてあくびをし足を軽くつつく。
「くぇ!」
「わかったよソラ…ほら」
パックからイワシを取り出し与えた。ごくんごくんとひとのみで魚を食べる様は見ていて本当におもしろい。
さて、つなぎのような服にフルフェイスのヘルメットをかぶりソラをゲージに入れる。
たしかペット用のプールがあるらしい。からそこへむかってみよう。ドアに手をかざす。『潜水服の着用を確認、外出を許可します』
ペット用プールにはすでに先客がいた。さっそくヘルメットのモニターで会話してみよう。
「こんには」
「ああ、こんにちは…ってもしかしてカイ?」
「うん、そうだけど…もしかしてだけどサヤ?」
「うん、そう」
サヤの顔がヘルメット内のモニターに表示される。向こうも同じだろう。面と向かって会話しているのと大差ないな。
「なんでペット用プールに?」
「アイリを遊ばせに来たのアイリおいで!」
サヤが遠くのほうへよびかけると一匹の赤茶色のダックスフントかかけてきた。
「わん!」
「よくできてるでしょう?パパの傘下の会社が作ったロボットなの」
「えっ?この子が?」
たしかに耳を澄ますとかすかに四肢を動かすためのモーター音がする。このご時世本物の生物をペットとして飼うのはお金持ちでも難しい。人間以外の生物は隕石の衝突でほぼ絶滅したのだから。
「ねぇそれはどこで手に入れたの?ペンギン型のロボットなんて珍しい」
「ソラは正真正銘本物のオスのペンギンだよ」
「ウソ!まじ?」
「うん、本当だよ父さんがぼくに卵をくれたんだそれをぼくが托卵器にいれて孵化させたんだまちがいないよ」
「そういうロボットとかじゃなく?」
「ぼくは一応海洋機械工学科だよ?自分で金属探知もしたし獣医さんにたのんでレントゲンもとって血液検査もしてもらった、で結果本物のペンギンというわけ、なんだったら診断書を君の潜水服のモニターに─────」
「わかった!わかったわよ!本物なのね」
「くぇ!」
胸を張るソラ。
「なんであんたがほこらしげなのよ…」
『サヤさん本物のペンギンに会えてよかったですね』
「そうねアイリ」
「えっ、しゃべるの?」
「うん、しゃべるわよお兄様が私を心配して会話できるようにしてくれたの」
お兄様、アランのことか。
「えっと…あなたたちさえよければ…さわってもいいかしら?ソラ?のこと」
「いいよ」
「くぇ!」
「ソラもいいって」
「ほんと!ありがとう!」
ぼくらはベンチに腰を下ろした。とたんにサヤの足下にソラがよってきた。
「くぇ!」
「抱っこして欲しいみたい」
「わかった、よいしょ…」
ソラの両脇を抱える。
「そのまま膝にのせて」
「こう、かな?」
膝に乗ったとたんソラはうつ伏せになった。
「くぇ!」
「なでてってこいつ女の子が大好きなんだ」
「くぇええ?」
「すっとぼけるなよ…」
「この子人間の言葉がわかるの?」
「ああある程度はたぶんニュアンスぐらいは理解してると思う」
「ふーん…賢いのね、意外と」
「くぇ!」
『わたしアイリからサヤさんに提案があります』
「なに?」
『わたしをカイさんがだっこしても構わないでしょうか?』
「ええ、まあいいけど」
『ありがとうございます、カイさんわたしを抱っこしてください』
「わかった」
抱きかかえてみて分かるおそろしく精巧なつくりだ。潜水服越しじゃなければ毛並みまで再現されているのかな?
「ごめん」
「えっ!なんのこと?」
「その…ソラくんのことこれって言って…」
「ああ!いいよペットと言えばロボットだし」
「くぇ!」
「ソラも気にするなってさ」
「そう…じゃあまた機会があったらソラくんに会ってもいい?」
「いいよ」
「くぇ!」
「よろしくだって」
「よろしくねソラくん」
「くぇぇ!」
『わたしにもあいにきてくださいね』
「わかった」
「それにしてもなんで潜水服を着ないと部屋の外に出られないの?めんどくさいったらありゃしない」
「それは理由があるんだ」「理由?」
「ひとつは感染症対策のためさ、潜水艇のような密閉された空間では1人感染したらあっという間に拡大してしまう恐れがある、だから人と直接会うときは潜水服を着るんだ」
「ふーん、でもそれじゃあ潜水服じゃなくてもいいんじゃない?」
「それこそが大事な理由さ!潜水艇の事故、爆縮から守るためなのさ」
「ばくしゅく?」
『爆縮についてせつめいしますか?』
「アイリおねがい」
『爆縮とは原子核が───』
「うーんぼくが言いたかったのはそれじゃないんだよな…」
『申し訳ありません』
「爆縮っていうのはわかりやすく言うと強烈な外圧──潜水艇の場合水圧がかかることによって急速に縮むことさ」
「それが潜水服とどう関係あるの」
「一瞬のうちに潜水艇はペシャンコ、乗っている人間も他の生き物もペシャンコさ」
「だから潜水服を着るのか……ん?」
「どうかした?」
「ならなんで部屋では脱いで大丈夫なの?」
「ああこの潜水艇は各室バブルブロックといって球体のなかにあるんださっきもぶ厚い扉をみたろ?規定以上の振動を感知して部屋にロックがかかるんだそれで部屋が浮上して人を海上に避難させるんだ」
まあ細かく言えば部屋のあちこちにバブルロックがあるのだが長くなるから言わないでおこう。
タイマーが耳元で鳴る。
「おっともう11時か…12時に博士たちとミーティングがあるからもどるね…ソラおいで」
「くぇ!」
「うんじゃあまた、そらくんまたね!」
「くぇ!」
『カイさんまたあいましょう』
「またねアイリ」
『はい』
ぼくはソラをゲージにいれると自室に戻った。
ちなみにソラのゲージも潜水服とおなじ働きを持つ。
窓から広がる青空を眺めていたら、出発の時間になってしまった。ライトグリーンの上下作業着に着替える。
それからペットの小型ペンギン ソラ(♂)に声をかける。
「ソラそろそろいくぞ」
「くぇぇ!」
元気よく返事をして自ららペタペタと歩いてゲージに入る。このペンギン教えたわけでもないのにある程度人間の言葉を理解できるお利口なペンギンなのだ。
「行ってきまーす」
誰も返事のすることのない部屋に鍵をかけた。
ぼく、カイ・シンドウは16歳で飛び級し大学院で海洋機械工学を専攻している、黒髪のさえない男だ。(自分で言ってて
悲しくなる…)ちなみに黒髪はパンゲアでは珍しいのだとか。
そんなぼくだが今回海底探査局の調査に教授の助手として乗船できることになったのだ。教授がぼくにできないかと尋ねてきたときは興奮で一日眠れなかった。最新の機器をこの目で見て場合によっては操作できる、なにより海底二万哩のような冒険ができることにワクワクが止まらなかったのだ。
なんてことを考えながらバスに乗っていたらターミナルに到着した。その白く偏光ガラスの入った空港のような施設は人工オゾン層の外にでるためのものなので本来関係者以外たちいることはできない。入館許可書のアプリを自分の端末で立ち上げコードリーダーに通す。
『カイ・シンドウ様 ペット ペンギン ソラ オス を確認しました ロックを解除します』
音声が終わると無機質な白い金属の扉が開く。
そこにはぼくと同じ作業着を着た学生や白衣を着た研究者と思われる人たちが集まって話していたり、機材の入った箱をどこかへ運んでいた。
「おお!シンドウくんこっちだ!」
「教授!」
彼女はリリー・ブラウン教授10歳のとき海洋工学の博士号を取得した天才で今は12歳だ。ウェーブがかかったブロンドの髪を赤いヘアバンドで止めていた。身長はぼくのこしぐらいで歳相応といった感じだ。
「集合時間までずいぶんあるがどうしたのかね?」
「いや、なんか潜水艦で調査って冒険みたいじゃないですかだからワクワクしてつい早めに来ちゃいました!」
教授はにっこりと笑う。
「うむ!カイくんは実に無邪気だな、子どもの私が言うのはあれだが子どものように無邪気だな、2階に展望デッキがあるから見てくるといいこれから我々が乗船する潜水艇ネオ・ノーチラス号MK-Ⅱをな」
「はい!ありがとうございます」
早速階段を上り巨大なガラス越しに100m以上の円筒形の物体が浮いているのが見えた。
「あれがネオ・ノーチラス号?小っさくない?」
声の方をみるとぼくより少し年下だろうか?赤毛にカールが着いた髪に白シャツヘソ出しデニムのショートパンツの少女が立っていた。
「あれは搭乗口だよ船体は海の中…ほら、あそこタラップが架かっているだろ?」
ぼくが指したほうには飛行機に乗るときにかかる橋のようなものが数本ターミナルと接続されていた。
「へぇー…あんた詳しいのね」
「うん、これでも大学で海洋機械工学を専攻しているから」
「やばっ!飛び級ってヤツ?」
「まあね、あっ!自己紹介まだだったねぼくはカイ、カイ・シンドウきみは?」
「サヤ、サヤ・ウィンディよ名前の通りウインディ財団の会長ブライアン・ウインディの娘」
ウインディ財団、パンゲアで最も大きな財団で主に海洋資源エネルギーで莫大な富を得ている。そして今回の調査のスポンサーでもある。
「へぇー、ってことは潜水艇が好きだったり────」
「ない」
バッサリ、言われた。
「潜水艇なんて財団からすれば金儲けの道具に過ぎないもの、それに女の子は潜水艇に興味を持たないわよ、普通はね」
「そっか…せっかくだからネオ・ノーチラス号の模型で説明しようと思ったんだけど」
「あの…模型ってさっきカバンからとりだしたそれ?」
「ん?」
見ると手には模型を持っていた。どうやら無意識にとりだしていたようだ。
「あっ…うん、これ市販のキットを改造して作ったんだ」
「げっ!めんどいことする人もいるもんね」
「あはは…よく言われる」
「ほんとめんどいんだコイツ」
後ろから気さくな声が聞こえてきたので振り返ると褐色にイエローサファイヤのような瞳、薄いブロンドを短く切った青年がいた。
「アラン兄様!来てたんだ」
アラン・ウインディ彼もぼくと同じく飛び級で大学院に入った人物で大学には主席で合格した。
「アラン、知り合い?」
「ああ妹だ」
「へぇー意外」
「そういうあんたこそアラン兄様の知り合いなの?」
「まあね」
「ああそうだカイ、りりー教授がお呼びだ準備ができたらしい」
「わかった今行くよ」
「サヤ、またあとでな」
「はい、兄様」
「またね」
「なれなれしいわね、カイ…」
「そういうヤツなんだよ」
そのあとは乗組員搭乗者全体でのミーティング、終わったらぼくらの大学チームのミーティング、搭乗手続きをすませ、技術作業デッキでの機材テスト調査の準備に追われ
与えられた自室に戻ったときには日付をまたいでいた。
「くえ!」
「ソラ…やっと終わったよ、疲れたー」
あらためて50日間過ごすであろう6畳ほどの自室を眺める。
壁際にシングルベットがひとつにその上にキャビネットがあり荷物を収納できるようになっていてベットの下には大きな引き出しがあった。
ベットと向き合う形で壁に備え付けられた机に固定式の椅子があった。丸い窓はベットと机の間にあるが外の景色ではなくモニターになっており時間によって映像が変わる仕組みになっており今は星空の映像が流れている。これは海中に長い時間滞在していても昼か夜か分かるようにするためのもので睡眠サイクルを安定させ乗組員の健康を守っている。扉のわきにはユニットバスがあった。海水を除染電解してから水を作っているのだろう。
「疲れたー、ソラ…はもう寝てるか…」
ベットでうつ伏せに眠っているソラを横目にぼくはベットに潜り込むこれから10日ほどは目的地につくまでヒマなのでしばらくこの潜水艇を探索するとしよう。
ぼくはそのまま眠ってしまったようだ。
あくびをひとつ、目を覚ます。机の時計をみると8:00と表示され部屋は明るくなっていた。7時になると明かりが自動で点灯し覚醒をうながす。
とりあえず着替えて机下のボタンを押すすると朝食のトレイがでてきた。今日のメニューはコオロギの塩ゆで、焼いたタガメだそれと何か白いスープ、ソラには生のいわしが検査済みとかかれたシールを貼った紙パックが添えられていた。朝昼晩と食事は無料で提供される。
朝食を済ませたことを見透かしたかのようにソラがおきてあくびをし足を軽くつつく。
「くぇ!」
「わかったよソラ…ほら」
パックからイワシを取り出し与えた。ごくんごくんとひとのみで魚を食べる様は見ていて本当におもしろい。
さて、つなぎのような服にフルフェイスのヘルメットをかぶりソラをゲージに入れる。
たしかペット用のプールがあるらしい。からそこへむかってみよう。ドアに手をかざす。『潜水服の着用を確認、外出を許可します』
ペット用プールにはすでに先客がいた。さっそくヘルメットのモニターで会話してみよう。
「こんには」
「ああ、こんにちは…ってもしかしてカイ?」
「うん、そうだけど…もしかしてだけどサヤ?」
「うん、そう」
サヤの顔がヘルメット内のモニターに表示される。向こうも同じだろう。面と向かって会話しているのと大差ないな。
「なんでペット用プールに?」
「アイリを遊ばせに来たのアイリおいで!」
サヤが遠くのほうへよびかけると一匹の赤茶色のダックスフントかかけてきた。
「わん!」
「よくできてるでしょう?パパの傘下の会社が作ったロボットなの」
「えっ?この子が?」
たしかに耳を澄ますとかすかに四肢を動かすためのモーター音がする。このご時世本物の生物をペットとして飼うのはお金持ちでも難しい。人間以外の生物は隕石の衝突でほぼ絶滅したのだから。
「ねぇそれはどこで手に入れたの?ペンギン型のロボットなんて珍しい」
「ソラは正真正銘本物のオスのペンギンだよ」
「ウソ!まじ?」
「うん、本当だよ父さんがぼくに卵をくれたんだそれをぼくが托卵器にいれて孵化させたんだまちがいないよ」
「そういうロボットとかじゃなく?」
「ぼくは一応海洋機械工学科だよ?自分で金属探知もしたし獣医さんにたのんでレントゲンもとって血液検査もしてもらった、で結果本物のペンギンというわけ、なんだったら診断書を君の潜水服のモニターに─────」
「わかった!わかったわよ!本物なのね」
「くぇ!」
胸を張るソラ。
「なんであんたがほこらしげなのよ…」
『サヤさん本物のペンギンに会えてよかったですね』
「そうねアイリ」
「えっ、しゃべるの?」
「うん、しゃべるわよお兄様が私を心配して会話できるようにしてくれたの」
お兄様、アランのことか。
「えっと…あなたたちさえよければ…さわってもいいかしら?ソラ?のこと」
「いいよ」
「くぇ!」
「ソラもいいって」
「ほんと!ありがとう!」
ぼくらはベンチに腰を下ろした。とたんにサヤの足下にソラがよってきた。
「くぇ!」
「抱っこして欲しいみたい」
「わかった、よいしょ…」
ソラの両脇を抱える。
「そのまま膝にのせて」
「こう、かな?」
膝に乗ったとたんソラはうつ伏せになった。
「くぇ!」
「なでてってこいつ女の子が大好きなんだ」
「くぇええ?」
「すっとぼけるなよ…」
「この子人間の言葉がわかるの?」
「ああある程度はたぶんニュアンスぐらいは理解してると思う」
「ふーん…賢いのね、意外と」
「くぇ!」
『わたしアイリからサヤさんに提案があります』
「なに?」
『わたしをカイさんがだっこしても構わないでしょうか?』
「ええ、まあいいけど」
『ありがとうございます、カイさんわたしを抱っこしてください』
「わかった」
抱きかかえてみて分かるおそろしく精巧なつくりだ。潜水服越しじゃなければ毛並みまで再現されているのかな?
「ごめん」
「えっ!なんのこと?」
「その…ソラくんのことこれって言って…」
「ああ!いいよペットと言えばロボットだし」
「くぇ!」
「ソラも気にするなってさ」
「そう…じゃあまた機会があったらソラくんに会ってもいい?」
「いいよ」
「くぇ!」
「よろしくだって」
「よろしくねソラくん」
「くぇぇ!」
『わたしにもあいにきてくださいね』
「わかった」
「それにしてもなんで潜水服を着ないと部屋の外に出られないの?めんどくさいったらありゃしない」
「それは理由があるんだ」「理由?」
「ひとつは感染症対策のためさ、潜水艇のような密閉された空間では1人感染したらあっという間に拡大してしまう恐れがある、だから人と直接会うときは潜水服を着るんだ」
「ふーん、でもそれじゃあ潜水服じゃなくてもいいんじゃない?」
「それこそが大事な理由さ!潜水艇の事故、爆縮から守るためなのさ」
「ばくしゅく?」
『爆縮についてせつめいしますか?』
「アイリおねがい」
『爆縮とは原子核が───』
「うーんぼくが言いたかったのはそれじゃないんだよな…」
『申し訳ありません』
「爆縮っていうのはわかりやすく言うと強烈な外圧──潜水艇の場合水圧がかかることによって急速に縮むことさ」
「それが潜水服とどう関係あるの」
「一瞬のうちに潜水艇はペシャンコ、乗っている人間も他の生き物もペシャンコさ」
「だから潜水服を着るのか……ん?」
「どうかした?」
「ならなんで部屋では脱いで大丈夫なの?」
「ああこの潜水艇は各室バブルブロックといって球体のなかにあるんださっきもぶ厚い扉をみたろ?規定以上の振動を感知して部屋にロックがかかるんだそれで部屋が浮上して人を海上に避難させるんだ」
まあ細かく言えば部屋のあちこちにバブルロックがあるのだが長くなるから言わないでおこう。
タイマーが耳元で鳴る。
「おっともう11時か…12時に博士たちとミーティングがあるからもどるね…ソラおいで」
「くぇ!」
「うんじゃあまた、そらくんまたね!」
「くぇ!」
『カイさんまたあいましょう』
「またねアイリ」
『はい』
ぼくはソラをゲージにいれると自室に戻った。
ちなみにソラのゲージも潜水服とおなじ働きを持つ。
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