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世にも無意味な物語
節約
しおりを挟む世の中には、節約術を駆使して生活する人がおります。食費を浮かせるために、職場への弁当を自炊するもの。お酒や煙草をやめることで、出費を抑えるもの。
今宵、ここにその節約が時として、水の泡と消えてしまうことがあったりもするという、無意味な物語の世界に迷い込んでしまった人が居るようです。
□■□■□■□■□
俺の名前は水原賢。今、あるものが欲しくて節約している。今日もその俺が欲しがっているものを狙う、他の人で行列が出来ている。
「へへへっ。よく分かんねぇけど、このカードゲームのレアカードを手に入れて売れば、儲かるんだってな!購入制限の対策なら、2000人のサクラを用意しているから余裕でぇす」
白昼堂々と転売目的で並んでいることを、自撮り棒で撮影して動画を上げようとしている男。その他にも、子どもに頼まれて買うために並ぶ親御さん達。必死に公式大会に向けて、カードを集めるべく並ぶカードトレーナー。
だが、俺が見ているのはそっちの行列じゃない。その隣の列だ。人気絶頂のトレカに負けず劣らずな、長蛇の列。そう、何せそれを手に入れたものは、最新のヴァーチャル技術が施された、完全進学VRゲームが楽しめるというのだ。いつかは必ず手にれてやる。そう思って、今日も必死に節約を優先して生きている。
そしてとうとう、その時がやって来た。この時をどれほど待ち焦がれただろうか。俺は、まったくの知識ゼロでゲームの世界に飛び込みたいから、事前情報や口コミを一切見ることなく生活してきた。念願が叶って、俺はゲーム機を購入することが出来た。
家に帰り、時間も忘れてヴァーチャルの世界にのめり込んだ。こんなに楽しいゲームが、今までにあっただろうか。最先端技術を駆使しているせいもあってか、途中途中でジャギが入ったり読み込みに時間がかかっているような動作があったが、そんなことが苦にならないほど没頭した。
休暇まで貰っていた会社へ、四日ぶりに出社することになった。相変わらず、あのお店は長蛇の列が出来ている。しかも、何やら並んでいる客は苛立っている様子だ。
それもそうか。だって、こんな素晴らしいゲーム機。一家に一台はあってもいい。それなのに、未だに一台も家に置いていないなんて遅れてるよ。俺はそう思いながら、イヤホンを耳に指し、通勤電車に乗るために駅の方へと向かうことにした。
────────────────
新型のVRゲーム機を販売していた家電量販店に、押し寄せる人々。その殺到する頭上で、モニターの映像が切り替わるとアナウンスが再生された。
『こちらのゲーム機は、致命的な欠陥が見つかりました。よって、先行販売で提供いたしました、初期型のゲーム機はすべて回収対象となります。お持ちの方は優先的に、最新モデルと交換いたします。なお、こちらの対応は数量に限りがございます。なくなり次第、交換対応は有料での対応となりますので、お早めにご利用いただきますようご協力お願いいたします』
なんと、賢の購入したVRゲーム機は使用するたびに、使用者の個人情報が抜き取られてしまうという致命的なバグが発生していることが判明し、世界中がパニックになっていたのだ。
しかし、当の賢はこのことを知ることなく、職場へと向かうのであった。
「嗚呼……、節操どしたことが。最新のヴァーチャルなゲームで、あ~~んなことや、こぉぉ~~~んなことが出来ると思い、出費を抑えていたのですが…………ふぅ~ん、ソワカソワカ……」
主人に叱られた犬のように落ち込む尼僧。その後ろでは、今も交換対応に我先にと詰め寄せる人混みが広がっている。すると、落ち込んでいる尼僧の肩に骨太な腕が組まれる。
「可愛い尼さんですね♪つい、肩を組んでしまいましたよ」
「あらぁ♡まぁ……♡やはり、節約なんかよりも、大胆に欲望のままに生きる方がいいですねぇ……ソワカソワカ♡♡」
そう言って、体をクネクネさせて小太りな男性とともに、街中へと尼僧は消えていくのであった。
□■□■□■□■□
「如何でしたか?どんなに抑え込んで耐え忍んでも、いざ手に入れてしまえば盲目となり、能天気になってしまうが故に結局、損をしてしまう……。それは時に、取り返しのきかないものなのかもしれません」
サングラスをかけたスーツ姿の《トモシビ》さんによる、ストーリーテラーが終了し暗転する。
「嗚呼ッ♡このまま、御一緒にぃ♡」
「やめろです!これは、私の番組なんですよ?アブノーマルさん、ゲストで出せて貰えただけでも奇跡だと思ってください……はい」
最初の一声だけ素に戻り、その後は《トモシビ》さんの口調で話す。
演出からのOKが出て、撤収作業に移るスタッフ達。メイク室へと向かう《トモシビ》さん。
やがて、《トモシビ》さんのメイク室から出て来たのは、小さな少女だったとか───。
「お疲れさまです、はい!それでは、晩メシを作らなくてはならないので!…………はぁいっっ!!」
その一言だけを告げて、少女はいつもスタジオから帰宅して行くのであった。
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