意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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世にも無意味な物語

心霊写真……?

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「やっぱり、幽霊ですよね?これ……」
「はい。間違いなく霊が写っております」

 ついこの間、引っ越してきたマンション。引っ越し記念に友達を呼んで、パジャマパーティーなんて、年甲斐にもなくはしゃぎ過ぎなことをした。
 そんなことは置いておいて、その時に撮った記念写真。五人で揃って横に並んで撮ったんだけど、俺と当時付き合ってた彼女との間に、不自然な手が写り込んでるときた。霊能鑑定士なんて、胡散臭いと思っていたけどここで六件目になるが、今のところ全員が幽霊が写ってると言ってきた。
 どうしてそんなに、霊能鑑定をやっているのか。それは、俺が幽霊なんて信じてないからだ。そのせいなのか、彼女が俺の目の前から居なくなった。今朝も姿が見当たらなかった。
 今すぐ除霊や供養をするなら、かなりの金額がかかるとこれまた、他の店でも聞いた決まり文句が飛んできたので、適当に理由つけて断わることにした。

「おっと、悪ぃな」

 店を出てすぐ、女とぶつかった。
 結構スタイル抜群で俺の好みだったけど、人違いだったのでぶつかってしまったことを謝って、立ち去ろうとすると突然後ろから、手を掴まれた。振り返ると、ぶつかって来た女だ。

「あんた……、ここに何の用だ?あたいは、最近この辺で通り魔が出るってんで巡回してるパトロールなんだけどさ────」

 いつの間にか、そんな物騒なことになっていたのか。
 それにしても、この人。こんなデカいもんぶら下げて、婦警なんかやってんだな。肩凝りとか大変そうだけど、正直にいって俺はこれくらい、たわわの方が好きだ。しかもこの婦警さん、上着をたわわに合わせていることを抜きにしても、引き締まった体をしている。
 男顔負けなくらいには、腹筋が割れているし、二の腕だって筋骨隆々だ。それなのに、たわわは脂肪を損なわず、筋肉と同居している。俺の彼女が、こんな体していたらきっと周りのヤツに自慢するだろうな。

「あんたも気を付けろよ?通り魔は女ばかりを狙っているそうだが、いつ男に牙を剥くか分かんないからな」

 そんなわけないだろとは思うが、他人の忠告は聞くに限る。俺は、たわわな女に礼を言って、次の霊能鑑定士の場所へと向かうことにした。

 ここでも駄目だったら、今日はもう帰ろう。あまり期待はしていないが、引き戸を開けて中に入る。ちょうど、さっきたわわの女から聞いた内容がラジオから流れている。
 てか、今どき客待ちの間にラジオを聴くってこと自体、遅れているって感じがするけど。なんて思っていたら、奥から霊能者を名乗る店員が現れた。鑑定室の畳に腰かけ、間に置かれたテーブルに例の記念写真を置いた。

「随分と今日は物騒ですね。いえ、今日もと言うべきでしょうか。せっかくですし、テレビにして内容を観てみましょうか」

 そいつは都合がいい。ここを出たあと、帰り道に気を付けられるように情報は入れておきたいものだ。しかし、心霊写真かどうかの鑑定はさっさと済ませて欲しい。俺は、占い師が被りそうな真っ黒なフード。というべきかベールというほうが、正確なのかわからないもので、顔を覆っている霊能者に催促した。
 すると、霊能者は写真を手に取り居るはずもない幽霊の痕跡を辿るように、遠目で見ていそうな首の逸らし方をして、テレビと自分の間に写真を持ち上げて霊視を始めた。

「この写真。写っている方は亡くなられておりますね。5人中4人が」
「5人?あの……、この写真。他の霊能者には、霊が写り込んでいるって言われたんですけど?ほら、ここ」

 俺が指さしてはじめて、俺と彼女との間に写り込んでいる手の存在に気付く霊能者。この時点で、インチキ霊能者であることは分かる。
 それに、さっき言った写っている人間が亡くなっているってのも、当たり前だろ。だって今、報道している死亡者の顔写真が公開されていることを、俺達は確認しているんだから。

 そう、この記念写真に写っている、俺のパジャマパーティーに参加した人達は、もうこの世には居ないのだ。ただ一人を除いて────。
 だからこそ、心霊写真であってたまるものかって話なんだけど、俺は一つ自分の耳を疑った。

「5人中4人って、俺以外死んでるんですか?」
「はい。そういうことになります。いずれも、人の手によって殺害されております」

 変だな。
 報道されている三人はともかく、どうして人身での殺人になるんだろうか。それに、目撃者なんてのに、どうして全員殺害されたんだと分かるんだ。
 俺が違和感を感じているのは、報道が今されていることにある。だって────、

「この写真。実は昨日撮ったんですよ」
「そうなんですか。カメラは、時限式のものをお使いになられたのですか?」
「いや、友人に撮ってもらった」
「では、このパジャマパーティーには、6人の人が居たのですね?」

 そこまでの情報を、これまでの霊能者は知らなかった。
 ようやく見つけた。

「あんただったんだね、この手の人。目的は?ストーカー?」
「────────。」

 俺は彼女を失った。
 パジャマパーティーの記念写真を撮り終えた後、その場に居た人を全員亡きものにした。ただ一人、彼女だけを残して。その彼女も、殺された。俺は手にかけていないのに、彼女は帰らぬ人に
 では何故、この目の前にいる霊能者は、殺して間もない人間達が死んでいることを知っているのだろうか。そして、今ニュースに取り上げられたように、死体が見つかっているのか。突如、俺の前から姿を消した彼女が他殺されていることを知っているのか。

「ずっと。貴方を見ていた。コンビニで肩がぶつかった時、一目惚れしたの。でも、貴方には彼女が居た。わたしの方が先にのに、貴方は彼女を作った。それが許せなくて、引っ越してきた日からずっと、貴方の後ろに居た」
「俺がいつも座っているソファー。その背もたれの隙間に隠れていたってことか。それで、カメラが時限式だと思ったんだな。あいつ無口だから、俺もほぼ無視に近い扱いしてたから尚更、人間だと思えなかったってとこか」

 俺は、懐からナイフを取り出し、女の首元に突きつけた。
 正直感謝している。彼女とは疎遠になりつつあったから、そのうち殺そうと思っていた。その口実のために、パジャマパーティーを開いたようなものだったから。でも、この霊能者。いや、今はただのストーカーか。こいつは余計なことをしてくれた。

「まさか、人殺しだと思わなかったから、通報したのか?好きになった男でも、殺人鬼は無理だってか?」
「────。」
「喉にナイフがあるから、恐くて喋れねぇってか?ああん?」

 静かにこちらを見上げようと、首を動かしたストーカー。喉元にナイフの先端が刺さり、薄らと流血している。にも関わらず、無表情で痛みを感じていない様子で、俺に向かってゆっくりと口を開いた。

「わたしだって、邪魔されたくなかったからですよ。好きになった人へのアクション告白に────、アイキルユー心霊写真をプレゼントしてあげたいからですよ」

 どうやら、狂っていたのは、俺の方ではないらしい。
 正確には俺も、異常なレベルで狂っていた。だが、世の中にはこんな言葉があるのを、俺は最後に思い出した。上には上がいるもんだと────。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 ネット上には、沢山の心霊写真がある。そのどれもが、ホンモノって訳ではない。大半が合成によって、演出されたものばかりである。
 連続通り魔殺人事件が起こった、小さな街がニュースで報じられていた時のことだ。犯人は通り魔ではなく、当時付き合っていた女性に腹が立っていたからという理由で、パーティーに出席していた友人含め全員を殺害。その後、犯人は街中のゴミ置き場で頸動脈を切られて、失血死していたという。
 これはその時、犯人の手に握られていた一枚の写真だと言われている画像が、ネットにアップされている。五人のパーティー出席者と、パーティー主催者の犯人が写るセンター。その背後から、犯人の首に両手をかけている女性らしき手が写っていた。

 画像を見た人の反応のなかには、幽霊という人も居れば、犯人のストーカーだったと言う人もいる。そんな双璧を成す論争に、匿名で記載されている全く別の視点での意見があった。


────────────────

匿名さん
>>このストーカーは、好きになった人を殺害することで幸せを感じていた。その邪魔をされたくなくて、周りにいた人間も始末しようとしていた。

────────────────


 □■□■□■□■□


「如何でしたか?このように、真実は藪の中というものは沢山あります。時に、《真実は闇の中》という風に使われることもあるこの言葉。もとより、どちらも小説の俗語として用いられたという説もあれば、警察が草の根かき分けて探した事件が、捜査が振り出しに戻り時効となってしまったことを表現していたとも言われております…………はい」

 サングラスをクイッと上げ、ストーリーテラーの《トモシビ》さんが螺旋階段を上がっていく。そして、途中の辺りで足を止めてカメラ目線に向かって一言。

「次に意味のない世界への扉が開くのは、あなたかもしれません…………はい」


 □■□■□■□■□


「はい、カットーーッ!!」

 スタジオの照明が点き、今回の演者達がぞろぞろと集まってくる。主役の犯人役の俳優が、共演者に挨拶をして楽屋へと向かう。婦警役を務めたトレードとすれ違い寸前で、足を止めて「それ偽乳じゃないんですね」と、驚いた様子でトレードの大胸筋を褒めてスタジオから、姿を消した。
 すると、セクハラされたイライラを拳に募らせながら、《トモシビ》さんのところへ歩き拳骨を繰り出した。

「あいでっ!?な、何故に私に拳を向けるんですか?はいぃ!?」
「っるせぇ!!大体、何であたいがちょい役なんだよ?あれくらいの役なら、ディフィートや2課の奴らにやらせりゃいいだろう?」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。明日も来てくれるかな?」
「いい────わきゃねぇだろうっっ!!」

 《トモシビ》さんを鷲掴んで、壁に叩きつけるトレード。着ていた衣装が破れて、《トモシビ》さんから燈火になりながら、ズルズルと壁から床に薄い用紙のように倒れた。

「も、もう…………呼んで、やらねぇで……す────、はい…………」

 地べたに倒れ附しながら、燈火はスタジオにしばらく転がっているのであった。
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