意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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メインストーリーな話

駆けつけた戦友

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 シェルターに入った怪異をリストと照合して、燈火から連絡を受けた消滅してしまったものを除いて、全員収容することに成功した辰上。そのまま、地下シェルターが列車としての機能を果たしており、この場からの脱出が可能となっていた。
 しかし、突然施設がぐらつくほどの衝撃が加わった。怪異達は怯えた動物のように縮こまっているなか、揺れは収まる気配を感じさせない。地上まで、すでにアンリードが迫っている可能性があると踏んだ辰上は、自動で発車するように操作を行う。

(それでも、10分はかかるのか?仕方ない……)

 非常階段を駆け上がり、戦力にならなくとも時間稼ぎはするしかない。そう辰上は覚悟を決めて、地上へと飛び出した。護身用として、装着していたピストルを手にシェルターの裏口を出て、周囲を警戒する。
 瞬間、渇いた呻き声が聞こえてきた。どうやら、何者かが直ぐそこで戦闘している。様子を見ようと壁伝いに歩く、そうした直後覗き込んだ反対方向。つまりは、シェルターの壁を突き破って人影が飛び出し、地面を転がった。
 体を地面に擦り付けた跡が、赤色と黒色の血を落としていた。辰上は、吹き飛んできた影の方へ向かい、正体を確認すると空かさず声をかけた。

「おい、大丈夫か?」
「プッ……、ち、近寄んなっ!怪異持たずタネナシッ!!グッ!?ゴホッ…………」

 辰上の接近を激しく拒絶する言い方。そこに倒れていたのは、傷まみれのサタナキアであった。唸り声を上げながら、辛うじて立ち上がる様子を見て、戦闘継続は困難だと心配する辰上。
 肩を貸そうとする仕草を押し返して、睨み付けるサタナキア。嫌悪感を抱いている場合ではない状況であることは、本人だって分かっていた。しかし、そのプライドの高さなどヤツには、まったくもって関係のないことであった。それは、閃光を残像として辰上の視界に入れ、サタナキアを連れ去った。

「グォ───、ボグッ……ハァ!!??」
「へー……。上級怪異を騙った、なんちゃってインフェクターにしては、頑丈な方だね。ほら、もう1発……いくよ……」
「キッ……!?ァァァ!!??ギィ────ヤァァァァアアァアァァァァッッッッ!!!!!!!」

 宙に飛翔するボニーに、身体の自由を奪われたサタナキア。背甲のアーマーを貫く、二筋の光。サタナキアの両肩を溶断して、引き抜いたと同時に回転蹴りで地面に叩き伏せる。
 バウンドしたサタナキアを足首を掴んで、もう一度地面に叩きつけ弾んでへの字に体が浮く。半壊しているアーマーの破片が飛び散るなか、急所を完全に晒している腹部にボニーがのしかかった。その衝撃で、辰上は飛ばされそうになっていた。

「ハァ…………、ハァ…………、ハァ…………、────ヴッ…………ッッ!?」
「この護る気のない格好……。あなたの趣味?怪異として人間として?ねぇ?教えて……」
「グゥ!?アァァァァァァアァァァ────────…………ヴ、ボァ!!??」

 地面に背をつけて、大の字でめり込んでいるサタナキア。
 そんな彼女の下腹部に、ボニーが装備しているブーツのアンクルが突き刺され、自己再生を阻害している。その激痛に泣き叫ぶ口に、二丁拳銃の銃口を突っ込んで、無表情で淡々と質問を投げかけた。
 なかなか答える気にならないと、ボニーは痺れを切らして銃口を引っ込めてアンクルをグリグリと押し込んでから、一気に引き抜いた。圧迫されていた下腹部から、内出血しかけていた分がすべて体外に放出され、ビチビチビチと陸地に釣り上げられた魚みたく、全身が痙攣するサタナキア。
 とっくに戦意喪失しているサタナキアを持ち上げ、白目剥いて気絶しそうになっている顔面に肘で叩いて、無理矢理にでも意識を覚醒させる。それでも、起きないサタナキア。ボニーは銃口に電撃を集めて、スタンガンとしてサタナキアの素肌が剥き出しの腹部を何度も殴りつけた。
 やがて、妖しい光を放ちながら装着していたアーマーが消え失せ、素肌も人肌の暁咲へと姿を変えていた。

「もう、いいや……」
「やめろっ!!」

 そこへ辰上が止めに入った。一瞬、身を退けたタイミングで銃を向けるが、相手がただの人間と察知して躊躇するボニー。その隙に、暁咲を抱き抱えてシェルターまで走った。

 持ち前の再生力は凄まじく、出血箇所はすべて止血が完了していた。とはいえ、受けたダメージは怪異態であるサタナキアすら、維持することが出来ないほどのものであった。

「は、なっせ!!気持ち悪いんだよ、変態ッ……」
「今はそんなこと言っている場合じゃないだろ!!」
「ええ……、その人の言うとおりよ……」

 辰上が顔を上げると、ボニーが立っていた。ボニーは辰上を掴み上げて、シェルター内のダンボール等が山積みにされた、比較的に怪我をしにくい場所へ放り投げた。そして、ブレードに武器を変形させて暁咲に突きつける。
 肩で息をしながら、ボニーを睨み付ける暁咲。ボニーは容赦なく、ブレードを振り被った。辰上は起き上がって、止めに入ろうと走り出すが到底間に合わない。暁咲も死を覚悟し、瞳をギュッと閉めて歯を食いしばった。


スパァ────ンッ...


 真空音を立たせて、シェルター内に静かに鳴った音。その後に、一秒の隙もなく外へ吹き飛んだのは、ボニーの方であった。

「ったく、探しに来てみればなんてザマだよ、お前」
「はっ────、そんな……な、なんで…………?」

 暁咲の目の前に立つ人影。目を見開いている彼女に腕捲りをして、注射器を打つ。暁咲お手製の特効回復薬だ。あっという間に、外傷と蓄積したダメージを回復した暁咲は、差し出されるまま手を取って起き上がった。

「と、刻ちゃん!?来てくれたのか?」
「んなッ!?おい、テメェ?ここは今、わっちがためにためて名前言うムードだったろう?」

 自分よりも先に、助太刀に入った救世主の名を口にした辰上を鬼の形相で睨む暁咲。そんな暁咲を静止させ、向かい合って説教を続けていた。

「家を飛び出して帰りが遅かったから。その…………、心配───したんだぞ?それにな、龍ちゃんの助けがなければお前死んでたかもしれないんだぞ?」
「むぅ~~、水砂刻みさときクンがそう言うんなら。…………まぁ、危ないところではありましたからね?イヒヒヒヒヒ♪」

 素直ではない謝罪混じりの不快笑いで、返答する暁咲。ちょうど、吹き飛ばされたボニーが戻ってきたのを確認し、構える暁咲であったが水砂刻は前に出て腕を広げた。
 すると、ボニーとは水砂刻だけで戦うと告げた。相手は自分よりも早く動くことの出来る、不死身の化け物だと言って加勢する気の暁咲。その口元に人差し指を向けて言った。

「俺に速さなんて関係ない。そのことを1番よく知っているのは、お前なんじゃないのか?」

 それを聞いて、返す言葉を失う暁咲。
 水砂刻の持つ怪異の力は、時間を操る類のもの。今ではその力の影響範囲は、対象とした相手にも及ぶ。例え相手が、神速の域に達していようとも水砂刻の前では、意味を成さないと言っても差し支えない。
 ここまで来るまでの間に、時期風を操り大方の事情を把握した水砂刻は、辰上達の目的としている怪異の安全確保に、全面的に協力することを決心していた。そのためにも、他の噂観測課メンバーがアンリードと戦っている間、怪異を護衛出来る人員がいないこととなるシェルターからの輸送。
 暁咲には、辰上と一緒にその護衛に当たるように頼んでボニーに立ち向かって行った。ボニーは、再起した暁咲を狙って超加速するが、いつの間にか目の前に割り込んだ水砂刻の槍を受けて、阻まれ標的を変えた。

「刻ちゃん、後で必ず合流しよう!」
「いいから行くぞタネナシ。あと、調子乗んなよ?今回は水砂刻クンの頼みだから、オマエなんかと組んでやるんだからな?エロい目でわっちの体ジロジロ見やがったら、ぶっ飛ばすからッ!!」

 毒舌を浴びせて、地下通路へと続く階段を降りて自動発車前に乗り込んだ、辰上と暁咲を乗せた列車が地下通路を走り抜けていった。

「さぁてと、まずはお手並み拝見だなアンリード……」
「分析……開始。エクスターミネーター、いくよ?」

 片手のブレードを逆手持ちに変えて、ボニーは再び超加速で水砂刻と激突する。対する水砂刻も、時間をスローにする時遅れの力を作動させボニーと対峙した。


 □■□■□■□■□


━ 燈火と空美 対 プロメテウス ━

 無限の人形兵。その相手を続けていた燈火達であったが、こちらにも進展があった。

「もらったっ!!」
「────ッ!?」
「何ッ!?」
「ふん。妾に頼っているようでは、底が知れるというものだぞ?音雨瑠 空美よ?」

 人形を操るプロメテウスを叩くべく、善戦する空美。しかし、決定打を人形で受け流し、カウンターの糸攻撃を【美しき愛性の女神】アプロディテの力で焼き払っての不毛な攻防が続いていた。
 そこで、油断を突いたプロメテウスの一撃を人では有り得ない挙動で、回避してみせた空美は、使役した怪異の堕天ともいえる姿。【獄炎の皇女殿下】アシュタロスに体を譲渡した形態へと変化していた。

(仕方ないし。あんなの、あーしの体の使い方じゃ避けらんないし)
「泣き言と稽古なら、後で面倒を見てやろう。それよりも、プロメテウスと言ったな?其方、妾を楽しませてくれるのであろう?」
「フッ。当然だ。まぁ、消えるのは貴様だがな!!」

 威勢よく、両者引けを取らない交戦が始まった。
 その傍らで、燈火はキャリーケースとともに人形軍団を相手していた。踊るように、人形の攻撃を避けながら脚を撃ち抜き、動けなくなった人形が修復を完了する前に、キャリーケースが追撃を加えて沈黙させる。
 しかし、その繰り返しをしても一向に数の減らない人形軍団に、徐々にバテ始めていた。リズムが狂い、転んだ人形に足を取られて転んでしまった。感情のない人形は、的確に燈火を狙って持っている武器を振り回して襲い来る。「はい、はい、はいっ!」と、声を出して地面を転がりながら紙一重で避けていく。
 転がった先に、向かっていたキャリーケースが追加武装を入れたプレートを射出し、人形を撃退した。起き上がりながら、人形に当たって砕けたプレートのなかから出てきた、狙撃銃とサブマシンガンを手に取り起き上がる。

「後輩のやつ。上手く脱出出来たですかね?ハイッ!!」

 独り言を零しつつ、向かってきた人形の太ももに足をかけてよじ登り、踏み台にして飛び上がった先で狙撃銃をスコープを覗かずに発砲。衝撃で体が回転する。それを狙っていた燈火は、サブマシンガンを地上めがけて乱射した。
 脚に数発命中した人形が、一斉に体勢を崩しキャリーケースの追撃が繰り出される。それに加わって、狙撃銃に弾を込めて片っ端から、再起前に叩いていく。間に合わないことも計算に入れて、腰に下げていた手榴弾の封を切って投げ付ける。その場で小さくなって両耳を塞ぐ。

 次第に、獄炎で糸をひたすらに焼かれてしまい、増援を出せなくなったプロメテウスは、人形の数が減ったことを見て戦いの手を止める。空美も、変身していられる限界が来たため、交代して体の主導権を取り返した。
 両者手の内は明かしきれていないため、ここから更なる激戦になるかと思われたその時だった。

「撤退だな……了解。ボニーの方は?」

 突然、誰かの命令を受け会話を始めるプロメテウス。会話を終えると、直ぐに手をかざして人形を撤収させ、引き下がった。

「クッ!?待てぇ!!燈火先輩、一応追えるだけ追ってみる。龍生先輩達が向かった場所へ合流に向かって欲しいし!!」
「は、はい。えっと……、ケツが決まってるから深追いするなですよぉぉぉ?…………はい」

 余りの潔い撤退に多少の違和感を覚えつつ、空美に言われたとおり辰上達が向かうであろう拠点を目指すことにした。車をなるだけ飛ばして、戦線を離脱した燈火は妖精の森の被害報告を簡易で済ませて、事後処理の手配をするのであった。

 やがて、合流を無事に果たした燈火。辰上とともに、水砂刻と暁咲がいたことを知り、今回のアンリードとの交戦状況や怪異の保護管理先についての話を済ませて、一同はひとときの休息に着くのであった。
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