意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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メインストーリーな話

休息と次の手立て

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 ラウンジのロフト。天井で回転する二つのファンが、静かに駆動音を発している。妖精の森から、連れ出した怪異達を夏蝶火達、人怪調和監査局の管理のもと日本国外へ退避させることとなった。
 燈火がラウンジの中へ入り、ロフトへ通じる階段を登った。ロフトに敷かれたベッドで横になっている、暁咲の様子を見に来たのであった。あの後、辰上達の乗っていた列車。その行路に、プロメテウスが予め配置していた人形兵と戦闘になり、特効回復薬である程度回復していたとはいえ、辰上達を庇いながらの戦闘で更に傷を負っていた。
 みんなと合流して直ぐに気を失い、看病をしてからもう三日は経とうとしていた。時折、魘されていることもあり水砂刻も心配していたが、アンリードについて情報を得ることと、この後のアンリードとの戦闘に加勢することを決めて今は席を外していた。

「はっ!?み、水砂刻クンッ!!────痛ッ!!??」
「おっ、やっと起きたですね……はい。どうやら、薬では癒せないほどのダメージを受けていたみてぇですよ」

 意識を取り戻した暁咲に、飲み物を手渡す燈火。
 グビグビと一気に飲み干した暁咲は、体に巻かれた包帯を見つめていた。服はすべて脱がされた状態で、素肌に当てられている包帯。それは当然な施術であり、処置としては的確だ。
 しかし、暁咲は胸下にまでしっかりと包帯とガーゼが当て込まれていることを見て、にへらにへらと笑みを浮かべはじめた。こんなに優しく、胸を締め付け過ぎない程度に処置をしてくれたのは彼だと、妄想してヨダレまで出そうにしていた。

「あ、それはもちろん私が巻きましたよ……はい。女の辛さとか、後輩も水砂刻さんも点でダメでしたので……はい」
「はぁ~~……、まぁそうッスよね~~。水砂刻クン、わっちの服脱がすの抵抗あった感じッスかね?」
「ん?どうでしょうね?包帯の巻き方が分かんねぇって、後輩と救急箱眺めてただけなので何とも…………はい」

 胡座かいて、燈火から告げられた少し残酷な現実を受け入れる暁咲。
 そしてそのまま、物の見事に惨敗したアンリードについて、情報を貰うことにした。水砂刻が目の前に居ないからなのか、行儀も態度も悪い暁咲。

「まぁ、ざっとこんなもんですよ、私達の知り得たものは」
(まったく、とんだメスガキムーブですよ……はい。こんなやつ、噂観測課には居ねぇですからね…………はい)
「それで、水砂刻クンは協力するんすね。なら、わっちも────」
(この女……、わっちと同じ匂いがしますね、イヒヒヒヒ……。でも、貞操は意外としっかりしてそうですけど?ギャハハハハハッ♪)

 同族嫌悪と同族歓迎。
 そんな両者の情報共有は終わり、雑談タイムに突入した。その話の盛り上がりと来たら、時間を忘れて昇っていた陽が紅く大地を照らす、夕方まで続いたのであった。

「ところで、お前インフェクターじゃないんです?」
「あ~、なんか役割とかそういうのがかったるかったんで、なるの辞めましたねぇ。もう名乗る気もないですね、イヒヒヒヒ……♪」
「そうなんですね……はい。────ん?」

 暁咲と話し込んでいたところに、通信が割り込んできた。燈火と暁咲は雑談を中断し、ラウンジを後にした。

 ブリーフィングルーム。
 急いで、ここまでやって来た夏蝶火、茅野、ラットの三人はすでに席につき、辰上と水砂刻と並んで二席空きがあった。そこに、燈火と暁咲が座り情報共有とアンリードの狙いが判明したことを告げる。

「彼らの目的は、怪異の撲滅なんて小さなものではないわ」
「茅野はんの大手柄やで。連中、とんでもないことしでかすつもりやで?」

 ラットが続けた言葉を聞いて、燈火達は全員言葉を失った。
 アンリードが存在している理由こそ、怪異の撲滅である。しかし、それは過去のこと。今更、世間に溶け込んで生きている怪異まで炙り出して、撲滅に向けた行動を起こせば、アンリードの方が人類にとって驚異になり兼ねないようにみえるだろう。
 そんな予想すら、斜め上を行くアンリード達の計画。それは、今ある人類と怪異。その両方を一掃し、新たな人の歴史を創り直すこと。無謀とも言えるその計画を実現するために、探していたのは膨大なエネルギーを溜め込むことの出来る場所であった。

「核……、融合炉……?」
「キシシシシ。こりゃあまた恐ろしいのが出て来ましたねぇ♪わっちも、一度はやってみようかと思ったことですけど♪」
「────。」
「あ、いや……。水砂刻クンと一緒に居られる今が、わっちは幸せなんでやらないッスよ?エヘヘヘ……」

 いつもともに行動している相棒に睨まれ、冷や汗をかく暁咲。すると、水砂刻は暁咲に詳細を説明するよう促した。

 核エネルギーを使用するというのであれば、膨大な力を持って地球規模で衝撃を与え、死の星に変えることだってできる。単純に考えても、起動してしまえば人知の及ばない領域の惨事となることは容易に想像出来る。
 しかし、それではアンリードはどうなる。死を持たぬ存在、そうともなれば被爆の懸念もなく核によってすべてが死滅した後の世界でも、活動していける。だが、それでは一つ矛盾が生じてしまう。アンリードの精製方法に、人間の遺体を使用する理由に結びついている。
 アンリードは、人間の指示を理解し行動に移せるだけの知能を備える必要があった。最初は脳の移植だけで、これが可能になるものだと見ていた研究者都越江とこしえ 久遠くおん。彼は、アンリードの絶対的服従機能とともに、死を超越した存在と定義するべく、死の記憶を持つ人間の亡き骸を使うことを思いついた。
 加えて、人の想像力から産み落とされた怪異に体を提供することで、怪異の特性によって肉体を得た不死身の存在として、アンリードを誕生させた。ここまでが、アンリードの生い立ちと存在理由。

「であるのなら、核融合炉を一体何に使うんだな?これ?」
「変換に使う────、ってのはどうッスか?わっちなら、そうしますけどね?核動力はあくまでも、自分達がなし得たい何かをための揮発剤だとしたら?」

 考察する思考が乗ってきたのか、暁咲は悪魔のシッポを出してサタナキアの形態に変わり、出力されたモニターをエアースライドして、デジタルボードに取り替えてポインターを照射した。
 核融合炉の動力部の強度を利用し、莫大なエネルギーの波を引き起こす。それによって、地球上の人類と怪異。そのすべてを対象に発動する兵器を打ち出したい。

「つまり、アンリード達が成就させたい。いや、その久遠だかって言う三流科学者がやりたいことってのは────、知性体の歴史をリセットすることだとわっちは思いますね♪ギャハハハハハッ♪」

 不快さ全開の笑い声をあげながら、ポインターで指し示したボードに書かれた文字。《旧生態滅除新星計画》と書き記されていた。それこそが、久遠の計画の名前でブリーフィング中、茅野の話も聞かずに操っていた使い魔の魔界ハエをパソコンに忍ばせて、データと吸い出しとロック解除を行なってこじ開けたアンリードの記憶コード。
 サタナキアはリハビリにはちょうど良かったと、伸びをしてから棒付き飴の封を開けて口に含んで、自席に戻りテーブルの上に両脚を置いて手を頭の後ろに組んだ。腹部が無防備になっていたので、燈火はツンツンと人差し指で肌に触れていた。

「ちょっと、何してんスか?」
「いやぁ……、青色の肌なんて間近見たの初めてでして……はい。ナスの漬け物から出る汁みたいな色だったから触感を確かめてしまいました……。お前、結構巨乳ですよね……はい」
「なっ!?まさか、わっちの体に包帯するときも、そんな目で見てやがったのか?」

 口から話した棒付き飴をグイッと、口に押し戻した燈火は「まぁ、…………はい」と多くは語らずに、正面を向き直った。
 少し恥ずかしがりながら、水砂刻の方をチラチラと見て暁咲の姿に戻って姿勢を正した。そして、包帯で覆われていたために、いつもよりも下げていたパーカーのチャックを上げて、胸がチラつく位置まで上げていた。

(あざとく行きたいのか、清楚に行きたいのか。分からないんだなぁ……これ)

 夏蝶火も思わず、緊張が解け内心ツッコミを入れてしまった。しかし、直ぐに緊迫した空気が戻り、ラットが次にアンリードが向かうことが予想される場所のマップを展開した。
 間もなく、ここへアンリードの何体かは向かってくるだろう。それらは、次なる計画へ移すべく、噂観測課の動きを完全に防ぐことが目的と予想される。そこで、ラットと茅野。加えて辰上と水砂刻がこれを迎え討ち、敵の術中にハマったように見せる。

「そいつには、あたしも参加させてもらうぜ!」
「ディフィートはん。戻ってきはったか。せやったら、あのフロンティア言うん最強のアンリードが来ても大丈夫そうやね」

 残留するチームは、ディフィートを加えて万全な状態となった。
 燈火、夏蝶火には別の任務を渡すラット。アンリード達は、まだ使用する核融合炉を決定していない。そのため、ここへ向かってこないアンリードは、久遠達とともに行動し最終段階に必要な核融合炉施設のある場所を、拠点とするはずだ。そこで二人には、その特定と可能であれば進行の阻止してもらいたいという、無理難題を課した。
 隠密行動で、助け舟はない。流石に姉妹揃って顔を見合わせていると、一人だけ名前を呼ばれていなかった暁咲が挙手した。

「はいは~い。その作戦、わっちも出まぁ~す」
「せやけど、怪我の具合は大丈夫なんか?あんさん、酷い傷やったはずなんやろ?」

 いくら、外傷を一気に治せる特効回復薬を注入されていたとはいえ、三日間も意識を失っていた程のダメージを負っていたことに変わりはない。そう水砂刻まで、心配するが暁咲はパーカーを捲って包帯を取り、裂傷も打撲も挫傷骨折すら見当たらない体を見せつけ、ケロッとした表情で全員にウィンクした。

 こうして、暁咲も加わり燈火達は湾岸部に止まっている密輸船。その付近で、ボニーの目撃情報があったと斥候からの連絡を受け取り、向かうのであった。暁咲は後部座席に乗り上げて早々、腕枕を作って前の席に両脚を乗せて眠りに着いた。

「ったく、何で私が夏蝶火なんかと前に乗らなきゃなんねぇんです……はい?」
「そういうのは言いっこなしなんだな、これ。シートベルトしたら出発するわよ燈火ちゃん。暁咲さんものっていることだから、安全運転で行くんだなぁ……これ」

 有言実行。安全運転で、湾岸部まで向かう夏蝶火であった。
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