意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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メインストーリーな話

新たなる内海の産声

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 遡ること、数時間前。
 久遠が攫った人質の救出へと向かった麗由は、道中に待ち構えていた人形兵を薙ぎ倒して進んでいた。

(あの倉庫ですね……。夏蝶火様や虎狼様の言うことが正しければ……)

 人質は皆、無事のはず。
 集められたものたちは、いずれも怪異を心に宿すことがあっても、人の感情下に留めることが出来る人達ばかりであった。
 それは、自分達の愛娘メアリーも同じであったことが推測され、久遠達は人類全体のリセット。知性体の消去のためのプログラミングに、人質の持つ感性が不足していた。
 計画を完遂するためには、純真な人の想いも取り込まなくてはならなかった。だが、良い人よりも悪い人のサンプルを取る事の方が難しい。素直に協力しないだけでなく、騙すことへのコストもかかる。その理由から、久遠はプログラミングのサンプル採集を後回しにしていたのだ。

 そんな理由だけで、勝手に身内の知り合いや家族まで攫われたこちらの身にもなってほしいと、麗由はその華奢な腕に似つかわしくない怪力でゲートをこじ開けた。
 暗闇で怯えていると思っていた麗由の視界には、意外な光景が広がっていた。

「いいかッ!!つまりは、作品に命を吹き込むということはだなっっ!!!!!」
「あの……、家小路……様?」
「んあッ!?だぁぁれだッッ??人が今、創作活動というものについて説明しているというのに、名指しするっっ────、とはッッッ!!!???」

 燈火の旦那であり、世間では天才漫画家として有名人である家小路が、捕らえられた人質達を前に熱弁講義中であった。それを聞いていた連中は、家小路の特別トークショーをただで聴けると勘違いしているもの達で溢れかえっていた。
 その中には、トレードと憐都の娘でもある寄凪よりなの姿まであった。最初は隣で騒いでいる男の声に怯えていたが、次第にどこかで聞いたことのある喋り声だと思い、勇気を出して家小路に質問したのだ。それから、どうなったか想像にかたくないだろう。

「と、とにかく、お迎えに上がりましたので皆さん、足元には気を付けつつ船着場の方へお向かいください。道中にもしかすると……、いいえ……、ヒーローショーのアトラクションエリアが……」
「えぇ?じゃあ、アタシ達のこと目掛けて襲って来たりするの?ヤダ、面白そう♪そうですよね、家小路さん?」
「ああ、全くだッ!!!!君があの喜久汰きくた 憐都れんとの娘でなければ、もっと盛大に喜べたものをッッッ!!!!ゆぅぅぅぅ────ッ、くぞォォォォォ────────ッッッ!!!!!!」

 まるで、國をかけた合戦の大将のように声を上げ、爆走する家小路。
 その後ろを着いていく、寄凪と人質となっていた人達。麗由は、いきなり飛び出そうとしているみんなを止めに入るが、大群行列を前にクルクルと体を弾かれて目で渦巻きを作り、その場にへばってしまった。

 やがて、家小路率いるアトラクション勘違い軍団は船着場に辿り着き、船へと乗って離陸までの間を過ごし始めた。
 しかし、家小路だけは走ってきた道を振り返る。麗由が遅れて息を切らせて到着するなり、森の中へと奇声を上げて走り出す家小路。奇声ははっきりとではないが、「マイハニー」と叫んでいると聞き取った麗由は家小路が燈火のもとへと向かい出したと理解し、回復した通信を開いて地上に居る他のメンバーにそのことを知らせ、家小路の後を追うのであった。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 時同じくして、戦地となった融合路近辺。

「嘘やろ……。どう見たって、ルーティンやで?」
「奴さん、もう再生出来へんようにしたんとちゃうかったか?」

 人形兵を振り切ったラット、茅野、虎狼。
 そこに合流したトレードの四人の前に、消滅したはずのアンリードが姿を現す。そして、眼を琥珀色に輝かせて口を開いた。

『ニンゲン……、オロカ。ワレ、ナンジラヘ新世界ノウミ二導ク、モノナリ』
「操られてるって感じね?トレードさん……ッ?」
「わりぃ、こっちも取り込み中だ」

 茅野がトレードの方を向くと、すでにレッドヒールの複製体との戦闘が始まっていた。
 アンリードとしての再生力は損なわれているが、新たに現れた怪異の力によって能力を持った状態で復活させられ、噂観測課に襲いかかる。すでに疲弊しているところに、戦闘能力はそのままのアンリードを相手するのは、指南な程であった。

 絶え間なく、人形兵まで姿を現した。司令塔であるプロメテウスは、並行時間の中で今も生かされ続けていると水砂刻の通信どおり、この場に現れていないことを見るに怪異が操っているのは、あくまでも倒されたアンリードのみ。
 しかし、プロメテウスの置きみあげとも言える人形兵が厄介だ。そう思って、気を取られた一瞬でトレードはレッドヒールの攻撃を受け、鎌を手放して倒れてしまった。間髪入れずに、踵落としを繰り出そうと脚を開くレッドヒール。脳天を叩き割る鉄槌が、トレードの前で留められる。

「あぁん♡拙僧の戦線復帰のために、お相手を残してくださるなんて……♡流石、トレード様ですねぇ…………ソワカソワカッッッ♡♡」
「「アブノーマル────ッ!!??」」

 ラットとトレードは、駆け付けた援軍の名を呼ぶ。
 押さえつけている脹脛に御札を貼り、発勁を打ち込んで突き飛ばすアブノーマル。照れたような仕草で、御札を爆破させ周りにいた人形兵を吹き飛ばした。
 しかし、爆破の直前で御札を引き剥がしていたレッドヒールは、そのままアクセルターンで急接近し、アブノーマルとの激闘に発展していった。起き上がったトレードは、人形兵の一掃に専念するのであった。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 一方、辰上と水砂刻は現在進行形で、人形兵に追いかけ回されていた。

「おい、刻ちゃん。暁咲さん、本当に向かわせて大丈夫だったのかな?」
「なんだよ、信用ならないってか?」
「いやそうじゃなくて…………、僕達今───ッ、戦う術がないんだけどぉぉぉぉ!!!!!!!」

 変身能力が回復した暁咲と、別行動を取る事にした辰上達。
 しかし、水砂刻はプロメテウス戦で怪異の力を使い切っており、槍を呼び出す力も残っていないなか辰上と肩を並べて走っていた。ついに、辰上が走るペースが落ち、足を躓いて転んでしまった。気が付いて振り返るが、すでに人形兵は目と鼻の先まで来ていた。
 とても、今の水砂刻の脚では助け出すことが出来ない。それでも、旧友であり今も大親友の辰上を見捨てては置けないと、踵を返す水砂刻。すると、その横を何が音速で通過する。瞬く間に、すべての人形兵を蹴散らし辰上の周辺から、塵が風に乗って消え去る。

「ご無事ですか、龍生様ッ!!」
「はぁ……、はぁ……、ありがとう……麗由さん…………。し、死ぬかと思った…………」

 閃光の如く馳せ参じたメイド服に、神でも見たかのようにしがみつく男二人。
 これには麗由も、困惑汗を頭に浮かべざるを得なかった。今はそれどころではないと、直ぐに首を横に振り家小路が燈火の方へ向かってしまった可能性があるから、このまま追いかけることを告げ融合路の方へ向かおうとする麗由。
 しかし、目の前には倒し着られていない人形の大群が控えていた。辰上は剣幕を変える麗由の隣に立ち、経路報告と敵の動きを見て援護指令を出すと言ってネクタイを締める。

「行こう、麗由さん」
「は、はいっ!!」
(カッコいい……///)

 少し照れながらも、ハニカミ笑顔を向けつつ一人。人形兵の群れに薙刀を携えて立ち向かっていく麗由。辰上との見事な連携で、家小路の追跡に向け活路を開くのであった。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「くっ……、なんて強風だ……っ!?」

 弾道弾の破壊に成功した際の衝撃の後、発生した物凄い衝撃。
 人形兵の掃討と、夏蝶火を燈火のもとへ向かわせる殿を務めていた総司は、怪異誕生の波動。その強大なプレッシャーに、身動きが取れずにいた。壊れかけていた外壁は塗装ごと剥がれ落ち、総司を襲うも愛刀を地面に突き刺し海へと落とされるのだけは回避してみせる。
 すると、煙突部がへし折れ総司のいる方向へと飛んで来ていた。これには、流石にぶつかればひとたまりも無いことは必至であると、なんとかしてこの場から離れられないか脚を動かしてみる。
 少しでも地面から離せば、それだけでこの体勢を維持出来ないと察し踏み留まる。そして、歯を食いしばってギリギリで当たらないことを祈りながら、目を静かに閉じた。

「あたしの旦那にィィィィ────ッ、手を出すなァァァ────────ッッッ!!!!!!」

 そこへ、彗星のように忽然と飛来したディフィート。
 ラグナロッカーを最大出力で放つべく、フライト機能のある形態を解きフルブラストで煙突部の破片を焼き切っていく。総司の目の前に立ち、見事破片を破壊しきったディフィート。同時に風が止むと、総司の体を隈なく弄り始める。

「総司きゅんッ?大丈夫?何処も怪我してない?骨、逝ってたりしない?」
「お前、さり気なくどこ触ってんだッッッ!!」
「あいたッ!?────痛ゥゥゥ……ッ」

 人がせっかく心配したのにっと、頬を膨らませてコブの出来た頭部を撫でるディフィート。
 静かでクールな声で、総司が「ありがとう」と言うのを聴いて全身をゾクゾクさせて、子どもように大喜びするディフィートであったが、キッと何もない更地の方を見やった。
 煙突部を破壊した衝撃と、融合路から噴き出した怪異の小波動で巻き起こった砂煙だけが、響めくように風に煽られているだけであった。

「総司きゅん……、ドゥームズデイ、また貸しとく」
「俺は別にこの刀だけでも、戦えるが?」
「お互いに2相手するんだから、素直に二刀流にしとけよ……ばかっ」

 総司の強がりに、何故か照れるディフィート。
 そのディフィートの言葉どおり、四つの影が煙の中に浮かび上がった。全員が槍を片手或いは両手で振り回し、持ちやすいポジションにグリップを合わせて突き立てる。
 全貌が明らかになると、総司に向かって揶揄うように言った。

「再生はしないと思うけど、インフェクター相手するより骨折れる相手だぜ」
「分かった。何かあれば、お互いの背中を守り合う……だな」
「あ……、おう…………」
(総司きゅん……、あたしもうキュンキュンだよ……ッ///)

 デレっと鼻の下を伸ばす。
 そこへ、複製体フロンティアが襲いかかる。自己陶酔に浸りながらも、フロンティアの連携攻撃をいなしていくディフィート。最強の怪異使いだからこその芸当に、総司は目もくれずに自分の敵に集中する。

 こうして、最終決戦を迎えようとしている燈火の仲間達も、各々の奮戦に再び身を投じていくのであった。
 そんななか、燈火の気配が続く場所を追い求めて、ひたすら走る家小路。その頭上に光る花火のような輝き、目の当たりにした彼の足は止まった。インスピレーションの閃光に似たそれを前に、呆然と立ち尽くす。

「燈火────、さん……?」

 どこか、聞いたことのある言葉を口ずさむような家小路。
 先程までの狂乱ぶりは何処へいったのか、酷く落ち着いた様子で首に下げていたロケットに目がいく。拾い上げて、中身を覗く家小路。中には、小さな身長の女性とのツーショット写真が入っている。じっと見つめたまま、その場に硬直する家小路。

 やがて、ロケットをしまい今まで来た反対方向へと、家小路は走り出したのであった────。
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