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メインストーリーな話
オケアノスより、こんにちは
しおりを挟む戦闘可能な燈火と重傷の夏蝶火の前に現れた、怪異【へカーティア・オケアニデス】。
その力は、アンリードであるボニーと母と父、その子であるメアリーを吸収し誕生したことで、インフェクターと同等のものであった。それだけの気配を纏っていることを燈火、夏蝶火の二人は肌で感じていた。
「汝ら……、旧き海に当てられた子よ。吾が、その悪しき文明を星ごと作り直そう」
「ふ、ふざけたこと言うなですっ!!ぽっと出のインフェクタークラスの怪異なんかに、そんな好き勝手させねぇですよ……はいっ!!」
燈火は言葉終わりに、銃を手に取り発砲。
しかし、銃口の中にある火薬が湿気って着火しない。【へカーティア・オケアニデス】が現界した際に、生じた海の波動で一帯は海で満たされているのと同様に湿っていたのだ。
「憐れ、無情なり。では、罰として────」
「はっ!?夏蝶火ィィ!!??」
手をかざしたと同時に、放たれた魔弾が夏蝶火のいた場所の壁を一瞬で破壊し、崩落させた。完全に瓦礫の下か、塵芥か。どちらにせよ、たった数秒もない時間で瀕死の夏蝶火にトドメを刺した。
「っと、危ない危ない♪」
「えっ?」
「水砂刻クンの頼みだから、聞いてやっただけですからねぇ?2度目はねぇぞ、ばぁ~~~かっ♡イヒヒヒヒヒッ♪」
燈火に野次を飛ばす、小悪魔。その腕には、気を失っている夏蝶火が担がれていた。
感情なく、【へカーティア・オケアニデス】の追撃が来るがサタナキアの回復した、ナキアーマー《ソニックフロート》の前では、止まって見えるも同然の攻撃を意図も容易く回避して見せた。
そして、長い舌を突き出して瞼を人差し指で降ろすサタナキア。アームのタイマーが、変身維持のリミットを告げてくるのを見て不機嫌な顔を見せる。去り際に、燈火に向かって物体を投げた。
「これ……、ガレージの時に渡したリンゴ飴じゃねぇですか……。うわっ、絶対腐ってるですぅ…………はい」
「ニシシシシ……ッ。わっちは、リンゴが大っ嫌いなんだよぉ♪それと、そん中におっぱいでっけぇ姐御さんからの授かりもん、入れてあるんで。気が向いたら封切って見てください。そんじゃあ、お姉ちゃんはいただいていくんで~~、ギャハハハハハハ────ッ……………」
まるで、真の悪役かのような台詞を残し飛び去って行ったサタナキア。
逃げていったサタナキアを追おうとする、【へカーティア・オケアニデス】は両肩に着いている女神像を翼に変異させ、羽ばたき出す。その頬に弾丸をぶち当てる燈火。
キャリーケースから取り出した、新品の銃による発砲。同時に、サタナキアへの追撃によって掻き消された海の波動。燈火は挑発するように、連射しながら横這いに走り出す。
「いいでしょう。まずは、汝を海へと還そう」
燈火の方を向き、魔弾を撃ち銃撃戦を受けて立つ。
ボニーとの戦い同様に、キャリーケースに分析を任せつつストックした武装で、応戦する燈火。サブマシンガンを両手に持ち、魔弾を相殺しながらのカウンターヒットを当てる。
それでも、遊んでいるように攻撃を避けようとも、防ごうともしないまま甘んじて受け、空いている手は攻撃を続けている。
これは、アンリードの再生力によるものではないと燈火は理解した。走り避けて、近くの壁を盾にするべく滑り込む。先に待っていたキャリーケースに、武器を交換をしつつ分析結果を見て確信する。
へカーティアは三つの体を持つ女神。その三つの体はそれぞれ、別の場所に同一存在させることも、一ヶ所に集めることも出来る。また、世界線の行き来も可能としており、例えこの世界線で誰に信仰されていなくとも、別の世界線に置いてきた体が強い信仰を受けていた場合、その信仰度合いが別の体にも影響するという仕組み。
つまりは、三つの体をほぼ同時に破壊且つそれらを上回る信仰を得た、神による攻撃でなければ倒すことが出来ないとされている。史実がどうあれ、今の燈火の攻撃が効かないのは、三つの体でダメージを分散することで怪異由来の治癒能力で、傷の修復の方が勝っているからであった。
「隠れても無駄です」
「チッ……、はいっ!!」
グローブをはめ、肉弾戦に打って出る燈火。
体躯差からしても、猫が飼い主にじゃれついているくらいにすら見えてしまう。それ程にまで差があり、攻撃を当てても傷一つ残さない【へカーティア・オケアニデス】であったが、燈火は両手を合わせた杭打ちを浴びせると、ニヤッと笑い指をすべて相手へ向ける。
開閉する音が鳴ると同時に、一斉に無数の鉛玉が叩き込まれた。十本の指から発射される、バルカン砲。これならば、ダメージの方が怪異の治癒能力を勝ることが出来る。そう思って、踏ん張りを効かせるが、雲間から伸びた腕に捕らえられてしまった。
「小賢しい。見た目と相まって、木鼠のようだぞ。そら、そこでじっとしていろ」
燈火を床に叩きつけ、魔弾を敢えて手前に直撃させ衝撃波で吹き飛ばす。
壁に叩きつけられた燈火を見ることなく、自身の胸に手を突っ込んだ。すると、中から紫色の球体が飛び出す。その一つ一つが、人の形を象っていく。
「ま、さか……ッ」
「ルーティン───、レッドヒール───、フロンティア───。そういうのですか、汝らは。我が内に秘めたる、世界改変の力の一端を持って汝らを再び昇華させよう」
弾道跡地から、地上へと向かった三つの球体。
そして、それぞれが生前の記憶に触れ敗北を受け入れて消滅したというのに、肉体だけ複製体として復活させられてしまった。【へカーティア・オケアニデス】の手駒となり、噂観測課と人怪調和監査局のメンバーを襲った。
すると、【へカーティア・オケアニデス】は弾道跡地に残された久遠の遺産。その成分をすべて胎内に取り込んでいく。ディフィートの攻撃によって、水素エネルギーの融合が行なわれる前に破壊されたことで、大爆発こそ起こさなかったが霧散しなかった旧文明を抹消するこの力は、今もこの地下最深部に残っている。
吸収を終えると、起き上がった燈火の方へ手を向け限定的な重力場を発生させ、燈火を地に伏せさせた。その負荷を一段階ずつ強め、呼吸をするのも難しくさせるなか、見下ろした体勢で口を開いた。
「都越江 久遠。彼の永久と願った野望を完遂するべく、我はこれより宙に飛び立つ。これにて、旧きもの達の《夢》は終わりを告げます」
「ふっ、ぅぅ────ぐっ……」
「祝砲です。汝は特別にその光景を上空で、見上げると良いでしょう」
重力を反転させ、燈火を空の彼方へと吹き飛ばした。
その後を追うかのように、羽根を生やして宙へと舞い上がる。
□■□■□■□■□
重力を下に感じるのに、何処までも上へ上へと昇っていく身体。
燈火は徐ろに、サタナキアに託されたリンゴ飴を取り出す。まさか、これを最後の晩餐にすることになるとは。いや、違う。リンゴ飴の封を切るために取り出したのだ。
ラベルを引き剥がして、中身を見る。ドロっと溶けだすみつ飴、腐敗臭に花をつまみながらリンゴを確認する。食べていないなどと言っていたが、齧った形跡があった。しかも、その中にSDカードのようなチップが刺さっている。
「衛生管理どうなってるですか……まったく」
嫌味を言うくらいには、体にかかった重力場は解けていた。チップを取り出した燈火は、リンゴ飴を手放した。その間もじっとチップと睨めっこしていた。
ふと、脳裏にトレードとの会話で何度も確認されたことが、過ぎり復唱するかのように鳴り響く。
『ドリームエンターの真機能。解放するってことは、おめぇのことを家小路は忘れちまうってことだぞ?』
━━━分かってるですよ...
『わりぃが、やっぱ無しだ。ドリームエンターマークIIで我慢してくれ。あたいらも居るんだ。おめぇだけが、負担背負う必要はねぇだろ』
━━━それでも...
『これからも怪異討伐し続けることになるんだ。一度きりのために使うってんなら、あたいは反対だ。例え────、どんな大事な約束があったとしてもな』
━━━今、戦えるのは私だけなんです...
トレードの言葉を振り切って、チップをキャリーケースの側面にあるダイヤルロックに挿入する。キーを認証したドリームエンターマークIIは、燈火の目の間にアルファベット表記で問う。
『『Are you ready to sacrifice ?』』
「もちのろんです……はいっ!!」
降下が始まったキャリーケースの上に立ち、片方の腕を腰に添えもう一方を前に伸ばし、掌を広げる。まるで、何かの拳法流派に伝わる秘技を打ち出すような構えで、静かに瞳を閉じる。
最愛の旦那である、家小路との思い出を走馬燈にして振り返り精神を統一させる。今この場で、あの怪異を止められるのは自分しかいないのだと鼓舞しながら声を上げた。
「名は燈火、姓は無し!!今この時を持って、夢を提供する道化は死に───、人々の夢を護る戦士は誕生する。私の《夢》を捧げ、愛するものとその生きる世界を護るために、立ち上がれッッッ!!!!はいッ!!!!」
身を宙に放り投げる燈火、その後を続くキャリーケース。
突如として、分離を始め燈火が大の字になって降下する手脚に装着されていく。内部からは、とても内蔵しきれないであろう機械がカチャカチャと音を立て、摩訶不思議変形する。
装着された手脚を自由に、伸ばし縮みさせながら後ろに向かってくる筐体とドッキングする燈火。奇跡は起こり、【夢の提供者】は【夢幻に咲く戦士】へと進化を遂げた。
「行きますよ~~、ドリィィィィィムッ、ファイッッッタァァァァァァ────────ッッッ!!!!!!オケアノスより、こんにちはァァァァァァァァァァァァァ、ですッッッ!!!!はいッッッ!!!!!!!」
宙へ向かう【へカーティア・オケアニデス】に向かって、巨大アームで殴りかかった燈火。
姿勢制御を取り戻したことを確認して、燈火はドッキングしたアームキャノンを差し向けて、決着つけようと合図を送ってバーニアを吹かして突進する。受けて立とうと、目を見開いて【へカーティア・オケアニデス】もまた羽根をはためかせて激突する。
ここに、最終決戦が始まろうとしていた───。
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