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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜
初陣に蛇龍と幸運!?
しおりを挟む帯電する脚撃とそれを受け止める槍撃。
激しくぶつかり合う文字版同士の戦闘に、『九頭龍』の文字主である神木原 麗由は緊張感を持って見守っていた。
同時にもどかしい気持ちで膝が震えていた。それは恐怖ではなく、ともに戦闘に参加したいという気持ち。何よりも『九頭龍』が、辰上に似ていることにソワソワしているのであった。
「貰ったァァ!!」
「ふっ、あまいな『絶好調』……」
「しま───っ!?」
槍を脚力で蹴り返して、生まれた隙を突いた膝蹴り。
その一撃を予想していた『九頭龍』は敢えて、『絶好調』との鍔迫り合いで勝ちを譲り受けた衝撃を倍にして返すが如く、フルスイングで槍の柄をみぞおちに当てて見せた。
完全に不意を突いたその一撃で、『絶好調』の身体は空高く吹き飛ばされ彼方へと消えてしまう。
あっという間の決着に麗由が『九頭龍』へ駆け寄ろうとするが、『絶好調』の文字主であるライゼンジャスティスは空を見上げたまま動かない。その手に持たれている絵馬が健在であることが、まだ決着がついていないことを意味していた。
「下がれ麗由ッ!!────来るッッ!!」
己の主を制止させ、槍を防御の姿勢に持ち替えて頭上を睨みつける。
程なくして、キラリと星の瞬きを見せたかと思えば『絶好調』が大天空から黄緑色の電脳的エフェクトを巻き起こし、踵にエネルギーを集中させたトマホークアンクを繰り出す。
狙うは眼前の敵───、そう『九頭龍』ただ一体である。ライゼンジャスティスが絵馬を翳して叫んだことで、それが『絶好調』のワードライブであることを麗由は理解した。
── ボルテージ・レックスッッ!!!! ──
衝突と同時に空間が歪む。踏ん張っている『九頭龍』の両脚から溢れた衝撃が、足場にクレーターを作るほどのぶつかり合い。
ボルテージ・レックス。文字版の持つワードライブには、そのランクに相当する性能で発揮されるものが多いが例外もある。特に『絶好調』の持つこの技には、《歩み進んだ道程が自乗効果を付与する》という効果が宿っている。
つまり、『絶好調』がこれまでその脚で渡ってきた苦難の数だけ基礎火力に上乗せされるという、とてもランクCの文字版が持つことが疑われる性能を誇っているのだ。
しかし、その一撃ですらも槍を両手持ちにして跳ね除ける『九頭龍』。彼とて、ダメージなく避けられる一撃ではないはず。
「よっと♪おっ?頭、変わったね?」
「そうさっ!《参の頭》、ここに炎参だぜ!イィィヤッハァァァァ────ッ♪♪」
相対している文字版はランクS+。限りなく人間に近い容姿あるいは、擬態を持つことを許されている上級アンデッド。
そんな『九頭龍』のスキル《九つの首持つ龍神》は、文字どおりに九つの生命を持っている。しかも、その一つ毎に人格を有しており、奇数頭は男性で偶数頭は女性に変わるという異質なスキルだ。
「炎を得意とする形態に変わった!?まさか、あの文字版……状況に応じて、武器や属性まで変わるスキル持ち?本気ズルくない!?…………アッ!?」
ライゼンジャスティスの口調がギャルのようなゆるいものになっていた。
思わず口元を押さえて、麗由の方をチラッと見るライゼンジャスティスであったが、肝心の麗由は目の前の戦闘に意識が向いていた。そもそも、ボイスチェンジャーで聞こえている声がすでに別人であるため、気付かれることを心配する必要はないのだが───。
その間も激化する二体の戦い。赤いマントに身を包み、髪色まで燃え盛る炎のように変わった『九頭龍』。その宙を舞う火の粉を避け、防戦になる『絶好調』に見えていたが、攻撃の際の僅かな隙に膝を入れ反撃も行っていた。
「やるじゃねぇか!んじゃあ、陸の姐さんに代わるぜ!」
「うっし、来い♪うちのボルテージが、最高潮ッッ♪」
「そ、そんな!?『絶好調』という文字版のランクが?」
「狼狽える必要はありぁしません。こっちにも手立てはありんす」
再び姿を変える『九頭龍』。
今度は花魁のような着物に身を包んだ、お淑やかさを感じさせる女性へと変わり武器も扇子へと変形していた。
対して、麗由も驚きを見せた『絶好調』にも変貌。というより、これは進化を果たしたというのが適当だろう。絵馬にターゲットロックしていた名前が、『最高潮』へと変更されたのだ。
これは対象の文字版が、文字進化した事を意味していた。初見の文字主には、ガイドが表示される仕様となっている絵馬から展開された内容を見る二人。
麗由はもちろんのこと、主であるライゼンジャスティスもこれは把握していない事態なのであった。進化したことでランクも上昇している。今の『最高潮』は、『絶好調』の時とは別のステータスを持っている。
────────────────
文字版:『最高潮』
ランク:S―
進化スキル:《抑えきれない運試しと戦闘本能》
ワードライブ:最高潮の想いをぶつけるだけっしょ
────────────────
進化スキルにより、戦闘本能が人間の感情と同等の利己的なものへと昇華されている。『最高潮』は『絶好調』の時の数段も戦闘中に能力を上昇させることが出来る。
進化の維持条件は、文字主との信頼。ライゼンジャスティスとの信頼は、すでにMAXを越えているらしく絵馬の輝きがそれをライゼンジャスティス自身にも、認識させようとしていた。
「テンション上げてけぇぇぇ!!『最高潮』ぉぉおっっ♪」
「もっちのろん♪さぁいくよ『九頭龍』?」
意気投合。以心伝心といっても過言ではないシンクロを見せ付ける一方で、麗由は口元を押さえたまま『九頭龍』を見てショックを受けていた。
「そ、そんな……龍生様が……女の子に?わたくし、龍生様をそのような目で見ていたのでしょうか……」
「────はぁ……。これは先が思いやられそうでありんすな……」
扇子で顔を半分隠して、主である麗由を見て吐露する《陸の頭》。
この場は一時退却が得策を考え、向かってくる『最高潮』に背を向け麗由の方を向いて口を小さく動かし、印を踏み始めた。
敵に背を向けたことに、無気になる『最高潮』は助走をつけて地面を蹴って飛び膝蹴りをお見舞いしようと向かっていった。すると、『九頭龍』に到達する目前に地面が盛り上がった。
コンクリートの壁が、ライゼンジャスティス達と麗由達に分断するようにそびえ立つ。しかし、そんなことで『最高潮』の進撃は止まらない。意図も容易く壁を貫き、右拳にオレンジ色の浮遊している武器を集中させたガントレットを形成して殴り掛かる。
「それは届かないでありんすよ。こっちには、はなっから雌雄を決する覚悟はないもんで。他の文字版に手の内明かし合うんも、興が冷めるでありんしょう?」
「そうかな?うちはあんたと決着つけれた方が嬉しいんだけど♪」
「なら、楽しみは最後までや。わちきの方の主さんは今、この有り様やさかい。万全なわちきらと戦える方が、あんたはんもよろしんではなくて?」
言葉巧みに『最高潮』を誘導する《陸の頭》。
話術に於いては、『九頭龍』の頭の中でも一、二位を競える切れ者。それに、初日のバトルタイムは時間が短い。そのため、このまま戦闘を続けても途中で終了となる可能性が高い。
加えて、相手の最大とぶつかり合いたいという『最高潮』の意思に応えてあげられない状況を見せることで、今日はこの辺で終わりにしておこうとお持ちかけたのだ。
こうなっては断らない理由がない。『絶好調』へと姿を戻した彼女は、ライゼンジャスティスのもとへ走って行った。
「うぇ!?相手の要求飲んじゃうの?」
「うん♪うちは、正々堂々全力でバトルがしたいからさ。それにトライワイトゲージが少なくなってきてお腹ペコペコだから、ゲージを溜めにいこうよ♪」
ニッコリとピースを向ける『絶好調』の全身が小さく震えていた。
実はギリギリの戦いを挑んでいたらしく、《陸の頭》が持ちかけた誘いは願ったり叶ったりだったのだ。
それを察したライゼンジャスティスは、決着はまた今度つけようとヒーローっぽい台詞を言い残して、その場をそそくさと去っていくのであった。
やがて、ホログラムフィールドが解けたことでこの日の決投は終了した。呆然と立ち尽くしていた麗由を連れ出した『九頭龍』は、麗由の自宅に移動するのであった。
「く、『九頭龍』様と……ご、ご一緒にわたくしのお部屋で?」
「いや、基本的に絵馬の中に居させてもらって構わなっ────」
「い、いえっ!それはいけませんっ!!『九頭龍』様にそんな窮屈な思いはさせませんっっ!!ですので少々、お外でお待ちください。お、お部屋を綺麗に致しますので……」
そう言って、玄関外まで『九頭龍』を追いやりドアを閉めて部屋掃除を始める麗由。
冷静さを取り戻したかと思った矢先、彼氏を家に招き入れる準備でもするかのように気合いの入っている麗由を見て、出会った最初の形態である《壱の頭》も先行き不安になっていた。
(その辰上という男……、そんなに僕に似ているのだろうか…………?)
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