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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜
賑やかになった食卓
しおりを挟む気持ちが落ち着く間もなく家路に着いた燈火。
いつものように、脚立を玄関ドア前に置いて二重ロック解錠のため、上部へ鍵を挿しに手を伸ばすと肩にかけていたカバンから絵馬が飛び出した。
「おいおい、どんだけチビなんだよお前。つか、なんだって上下に鍵穴ついてる家に住んでんだよ?」
「はっ。死人のおめぇには理解出来ないですよ!それに家には新しい家族だっているんですから……はい?」
絵馬が独りでに動いていたのは、内部に格納された『天邪鬼』が話しかけていたからであった。
そんな『天邪鬼』をあしらって鍵を開けていると、部屋の中から怒鳴り声がした。それ自体は旦那である家小路のもので、燈火にとっては日常茶飯事であった。
しかし、いつもと様子がおかしい。なにかを言い争っているように叫び声を上げていたのだ。
「な、なんだぁ?お前んちの中から聞こえてきたぞ?うるせぇ同居人だな……」
「家小路さん!大丈夫ですか?はいっ!?」
「うおっ?こっちもうるせぇチビだなぁ……」
ドアを力いっぱい引き、リビングへと飛び出す燈火。その目に映った光景に、目を丸くして「はぇ?」とマヌケな声を出して立ち尽くす。
そこには、家小路に胸ぐらを掴まれた男性。トレードの夫である喜久汰 憐都の姿があったと思い、唖然としてしまっていたのだ。
すると、絵馬のままリビングへとふらふら浮遊してやって来た『天邪鬼』が、絵馬から姿を現した。同時に家小路の手首を掴むと、クルッと体勢を崩して床に胸をつかせる。
何が起きたのか理解出来ていない家小路を外目に、埃を払って眠そうにしている男性に向かって『天邪鬼』は小刀を向け口を開いた。
「よぉ、パチモンのダチ公。お前があたしらのWORDのお目付け役かい?」
「…………そうだよ。そして、その男が……僕の……、文字主……だ、よ……zzZ」
「はぇ~~、鼻ちょうちん作って寝ちまってますね……はい」
近寄る燈火を見るなり、目を見開いた男性。
彼の名は『天才肌』。公園でトレードに憐都と見間違われたそっくりさんではあるが、監査役として選ばれた文字版の一体である。
任務はWORDのゲーム運営が、定刻どおり進行することを監視すること。しかし、それだけで済むのなら管理局から文字主を派遣されるはずであるため、今回のWORDには裏があるかもしれないことを『天邪鬼』に説明するのであった。
立ち話もなんだと武装を解き、テーブルに腰かけて話すことにする一同。
離れた位置にあるソファーにぐるぐる巻きに貼り付けられ、口もガムテープで塞がれている家小路が喉を鳴らして騒いでいる音を聴き流しながら、燈火が用意してくれたお茶を飲む『天邪鬼』。
「ッ!?おい、このお茶渋すぎねぇか?」
「え……っ?そんなはずは…………、むっ?確かに渋いですね……はい。───というか、おめぇ達は味覚はないんじゃなかったでしたっけ?」
「うん……、僕には分からない、な…………」
「そりゃあ、あたしは出来が違うからな!味覚があるって反転暗示をかけたから、人並みの味覚はあるぜ。ほれチビ、そこの棚にあるお高そうな珈琲豆で珈琲入れてくれよ!」
このわずかな時間で、我が家に置いてある高級豆を見抜くとはと『天邪鬼』を睨みつつ、眠そうにしている『天才肌』の眠気覚ましになるかもしれないと思い、言われたとおりに準備する燈火。
カップから漂う、豆の香り引き立つ煙を肺いっぱいに吸う『天邪鬼』。この世界の人間はこんな贅沢が出来るのかと、皮肉を零しながらグビグビと飲み始める。
対して『天才肌』は、カップを口付けながらウトウトとして締まりきらない口から、ぽたぽた零していたのを見て慌てた燈火。当然の如く、カーペットのシミにならないようにティッシュで受け止める。
「ぷはぁ♪苦いけど、最高に目に染みるぜ♪あとなんか……ヒックッ!なんだかぁ~~視界がフラフラ、してきたぁぁ」
「はい?まさか、カフェインで酔ったんですかね?クモ何ですかね……はい?」
この間に話すことを話し終えていた『天才肌』は、くかぁ~と寝息を立てて眠りに落ちていた。
頭にはいつの間にやら被されているナイトキャップ。漫画くらいでしか見たことのない綺麗な鼻ちょうちんを作って、上体を燈火に支えられながら寝ていた。仕方なしに背負って、客人用の布団を敷き寝かせることにした。
「マァァイハニィィッッ!!なぁにをやっているのだぁぁぁ!!!!この男は即刻つまみ出せぇぇぇ!!!!」
「しっ!起きちゃいますよ家小路さんっ!それにこの人……、といっていいのか分かりませんけど……。憐都さんじゃないですよ……はい」
すやすや寝ている『天才肌』が別人であり、顔に着いている《!》と《?》のペイントが取れないことを説明する燈火。
すると、家小路は何かを勝ち誇ったように子どものような高笑いをして『天才肌』を指さし、勝負に負けて罰ゲームで顔に落書きされた憐都のようだと罵った。
そして、気分が晴れたのか部屋を出て行き、寝支度を済ませて自室へ向かうのであった。燈火は昼間にトレードから入った通信の時と、同じことを言っていた家小路を見届けながら歯磨きを始めた。
コップに水を貯め、うがいをしていると鏡に映っているバスルームに灯りが点いていることに気が付く。家小路は寝ているし、最近養子として家へやって来た綻火はベビーシッターに預けているため、しばらくは家に居ないはず。
となれば、バスルームに居るのはもう限られていた。バスタオルで濡れた髪をゴシゴシ拭きながら、家主の許可なくシャワーを利用した不届き者が姿を現した。
「いやぁ~~、珈琲はあたしら文字版には酔いを誘発するたぁビックリだぜ。シャワー使わせてもらったぜ♪」
「あのですね……、水道代とかタダじゃねぇんですよ?あぁぁ!?私のシャンプーなくなってるです……」
「おっ?やけにちいせぇビンに入ってると思ったら、それチビのだったのか。なんでそんな落ち込んでんだ?」
「これ……、すんごい高級なやつなんですよ……?指先につけて頭皮に馴染ませるタイプのやつなんですよ?それをっ!掌いっぱいにつけて、お前は頭洗ったんですね?────はいぃ!!??」
涙目で怒り心頭の燈火を宥める『天邪鬼』。
勝手にシャワーを利用したうえに、私物を容量弁えずに使用したことを謝る訳ではなく絵馬を取り出して、空になったビンに記載されている商品を検索してサイトにアクセスする。
そして、一本数十万もする高級シャンプー。その個数入力を最大の『99』にプルダウンを合わせて見せた。
「これで文句なしだろ?安心しな、絵馬での決済は全部が管理局負担さ♪つまりは、買い放題♪」
「────。」
半信半疑な目を向ける燈火。とりあえず、涙を拭いて寝室へと向かう。
向かった先が、キャットハウスであることに『天邪鬼』は違和感を覚える。流石に文字版として、数々の人間と契約しその生活を見させてもらった『天邪鬼』でも、キャットハウスで眠りにつこうとするほどの小さな人間を見たことはなかった。
そもそもにして、猫が暮らす用に作られた製品で寝ようという発想自体が斬新さを帯びていた。『天邪鬼』は違和感を解消しようにも、不機嫌全開の燈火に声をかけるのが気不味くなり絵馬に籠って一夜を過ごすのであった。
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ます家庭。とはいかず、家小路の大声で目を覚ます朝。激しく揺さぶられても、眠り通している『天才肌』の耳元で近所迷惑になっていてもおかしくない轟音を発している。
防音のマンションでなければ、どれだけの苦情を受けていただろう。そう思いながら、頭をポリポリと掻き欠伸をする『天邪鬼』。程なくして、玄関から大きな声が響いた。
なんと、寝る前に『天邪鬼』が注文した高級シャンプーが届いていたのだ。力任せにダンボールの梱包を引き剥がして、中身を見た燈火は頬をスリスリさせながら、押し入れにシャンプーをしまい一つをバスルームに置いた。
一気に上機嫌になった燈火は、エプロンを着て朝食の準備を大きな鼻歌を歌いながら始める。その後ろでは、男が男の胸ぐらを掴みながら起きろと叫んでいる。
「賑やかな食卓になりそうだな……こりゃあ…………」
寝ぼけ眼からの二回目の欠伸を決めた『天邪鬼』が小さくそう言うと、一番乗りにテーブルに腰かけるのであった。
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