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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜
ハートにインスピレーション
しおりを挟む文字版には、トライワイトゲージ(またの名をトライワイトゾーン)が必要不可欠のエネルギーである。
溜める方法はそれぞれ異なり、だいたいの文字版がその名に関した行動や食事のように取り込むことで、蓄えることが出来る。トライワイトゲージが尽きぬ限り、不死であり無限の再生力を持つアンデッド。
「んで?お前の場合は、マニキュア塗ったり化粧してりゃあいいのなヒステリック?」
「だからぁ、アチシは『修羅場』よ!修・羅・場ッ!!まぁそうね、女子力って言うのかしら?う~うん、乙女の嗜みね♪それがアチシのイロルギー」
「イロルギー?んー……、色んなエネルギーの略……。────へぇ……」
絵馬に搭載されている辞書《言葉ガイド》で、『修羅場』が言った言葉を検索して調べている薄紫色の長髪。
ジェネレーションギャップとはまだ縁がないと思っていた親戚のような、定まりのないリアクションを取りながら棒アイスに齧り付く。シャクシャクと咀嚼していると、化粧のノリが悪くなると巨大ハリセンで後頭部をぶっ叩く『修羅場』。
薄いリアクションで痛いと呟きながら、死んだ魚の目で顔を上げるディフィート。
「元気出しなよデフィカルト!」
「ディフィートな。もうどうでもいいよWORDとか……、辞退辞退!総司きゅん不参加なんだもん。やる気失くしたぁぁ…………」
なんと、すでにWORD参加者の文字主を探り終えていたディフィート。
まさか同じ噂観測課に参加者のほとんどが該当していて、残りの枠も知った顔が選ばれているとは思わないだろう。そもそも、どうやってディフィートが二日目のバトルタイムを迎える前に、参加者の割り出しが出来たのか。
通常、WORDでフィールドスキャニングが行なわれた際に転移される偽装された仮想空間に入ることで、アイテムを獲得するチャンスがある。ディフィートは偶然にも、初日の『絶好調』と『九頭龍』の決投が開始された時に一瞬仮想空間に入ってしまったのだ。
その時に手に入れたアイテム、《リストバンド》というヘアバンド型のアイテムをゲットして、何も警戒もせずに頭に被せてみたことでアイテムの効力が作動したのである。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━ 昨日 ━
「なんだこれ……」
「それは《リストバンド》よ。レアアイテムで速攻使用したのは見事よ♪キシシシシ……♪」
「あたしも映ってんだけど?これって、このWORDとかってゲームの参加者?」
「飲み込み早いのね♪アキャキャキャ、そうよ~♪」
「なんで総司きゅんが居ねぇんだよ!!」
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
総司が参加していないということは、WORDにおける《願い事》を賭けたデスゲーム。すなわち、勝ち残りを賭けた闘いをする必要がないことを意味している。
そのことを『修羅場』は説明するが、どんなものであろうとも。例えこのWORDが本来の生命の奪い合いをルールとしていようとも、一緒にWORDに出場出来ないならイヤだと子どものように駄々を捏ねていたのだ。
結果的に酷く落ち込み、最初の勢いは一切消え失せていた。すっかり、一番になることなんて諦めている様子だった。それを見た『修羅場』には肌で分かっていた。
(この女……、総司って子が参加してたらしてたで駄々捏ねるやつだ……。ほっんと、気難しくて扱いづらい女……)
扱いにくいから、ディフィートではなく敢えてディフィカルトと呼ぶようにしていた。
しかし、ディフィートの方ももとから勝手に独特な渾名をつけるタチである。その点でお互いに似たもの同士であったことで、絵馬が二人を結んだのかもしれない。
「って、ちょっと!?何する気よ?」
「え?死ぬ。もうこんな世界どうだっていいよ。総司きゅんと離れ離れにされてゲームに参加させられるくらいなら、この屋上から飛び降りる」
「なぁにそれ?アンタの方がよっぽどヒステリックじゃない……、ってちょぉ!!??ホントに飛び降りちゃった…………」
柵を越えて飛び降りる準備万端のディフィート。
そう、ディフィートはこのWORDを辞退する方法を絵馬で調べた結果、文字主自らが命を絶つことでしか辞退することができないと出たのだ。
元婚約者の総司とWORDに出られなかったという、一方的なショックで周りが見えなくなっているディフィートにとって、死は軽いものになっていた。
そんな不安定な情緒で身を乗り出した。一瞬そう見えた。だが、背後から気配を感じ取った『修羅場』は突風に足を取られ、空中に攫われたディフィートを見向きもせずに振り返った。
そこには、身の丈以上の大槌を軽々しく素振りしている少女。『発明家』の姿があった。
今回のWORDでは直接、文字主を殺害することは厳禁とされている。
しかし、今の行為はあくまでも直接的に狙って行なった訳ではなく、戦闘準備のストレッチで発生した衝撃に巻き込まれたのがたまたま文字主だっただけ。
つまり『発明家』は、禁止事項を破ったことにはならないのだ。そもそも『発明家』自身、今飛ばされたディフィートの方を文字版と思っていた。
そうなった要因は一つ────。
「よっし♪絵馬を持っているのはオマエ!ってことはオマエから絵馬を奪って壊せば、まず1人目の脱落者ってことだ♪」
「はぁ!?なにそれ!?てかアンタ、トライワイトで人間と文字版の区別もつけらんないの?」
絵馬を持っていたのは『修羅場』の方だった。
それゆえに絵馬を持っていない方を文字版と見て、奇襲をかける準備をしていたのだ。
まさか、気合いを入れただけで飛んでいくようなヘッポコ文字版だとは思いもせず、どのみち楽勝だと胸を張る『発明家』。
しかし、『修羅場』が言うように文字版はお互いに内包している固有のエネルギー、トライワイトを検知して人間との区別を測れるのが基本。
その機構が『発明家』には備わっていないことに、驚きのイロを隠せずにいた。空かさず、意識を現世に呼び戻すように頭を振り、ディフィートの方へ走る。
「させねぇよ!再召喚なんてする前に、そいつをいただくぜ!」
「デフィカルトッッ!!いいっ?よく聞きなさいっっ!!」
宙に舞っているのに、心ここに在らずなディフィートに向けて叫ぶ。
後頭部を押さえられ床に叩きつけられる直前、絵馬を投げながらこのWORDにおける勝者の特権である《願い事》という希望がある事を言葉にして飛ばした。
「勝てば、アナタの総司と結ばれることを望むことも出来るのよ!!だからッッ、諦めないでェェェ!!!!」
「───────ッ!?マジかッッ?」
意識が復帰するまでにそれほどの時間はいらなかった。
それと同時に『発明家』は、今叩きつけた『修羅場』が文字版であることを知り、急に顔色を変えて焦り出しそうになる。
だが、『発明家』だけに聞こえるテレパシーが「あいつなら大丈夫だよ」と告げたことで、キョトンとした目で落ちていくディフィートを見る。
標高数十メートルの高さから、重力に引かれたまま背中を下に落ちる。瞬きすら許さない刹那、すべての時が止まる。指で輪を作り、指笛を鳴らすディフィートのもとへどこからともなく、赤雷が向かってきた。
赤雷の中心にいる黒い影を掴む。目を見開いた同時にその名を叫び体勢を仰向けに変える。
「唸れ!【最後の審判・真】ッッッ!!!!」
絵馬を地面に向け決投を開始の申請を飛ばすと同時に、愛剣ドゥームズデイの剣圧だけで地面への引力を打ち消したディフィート。
その解き放たれた波動が現実世界に届くよりも先に、フィールドのスキャニングが完了する。地上に降り立ったディフィートが、『修羅場』に向けて切っ先を立てる。
「その言葉に嘘はないんだろうな?だったら、『発明家』の相手は任せたぜ!」
「キシシシ♪任された♪さぁ殺し合うわよ『発明家』ァァァ!!オラァァァ!!!!」
突然のことだ。ディフィートが絵馬を向けた途端に『修羅場』の上腕二頭筋が膨張して、『発明家』を跳ね退ける。
もとのスレンダーなラインを取り戻したその手には、自らの上半身までの長さになるハサミが握られていた。これこそが『修羅場』の基本戦闘スタイル。
対して、何故自分の真名まで把握されているのか状況が飲み込めていない『発明家』は、遅れて大槌を構えるが頬に蹴りが入って吹き飛んだ。コンクリートの壁を平気で貫通して、屋内の太い柱に磔状態になって落下する。
呼吸整う前に『修羅場』の追撃が襲う。目を見開いて、紙一重で避け大槌を盾代わりに距離を取る。埃を立たせて踏み止まるなか、文字主であるトレードにテレパシーを飛ばして指示を聞こうとする。
『悪ぃけどこっちも絶賛戦闘中だ。まぁ、身内同士の殴り合いみてぇなもんだから、適当なタイミングであたいがそっちに合流するよ』
「そりゃあないぜ文字版!おっと!?」
「オリャアァ!よそ見してる暇があんのかよ!あぁん?」
「こ、こいつ……豹変ぶりが半端ないぜ……」
ギリギリの防戦でいる『発明家』の前には、攻勢を緩めないさっきまでの乙女らしさは一切持ち合わせない『修羅場』が襲いかかる。
鬼神の如き進撃は、まさに修羅。痴情の縺れに立たされた修羅場中のカップルが見ても、女は怒らせると恐ろしいというものを体現した変貌ぶりである。
「テメェみてぇなザコ、顔をギッタンギッタンにして二度と表に出れねぇ体にしてやんよ!アァァ!?」
「そんな細っこい腕のどこにそんな、こんな力が出せるんだよ!?…………もう、怒った!アタシ秘蔵の発明品でも喰らえ!!」
取り出したランプが閃光を放つ。
太陽光を肉眼に直接当てるほどの光度で、『修羅場』の視力を奪った。両眼を押さえ、「いやぁぁん、目痛い~」と急に乙女の声に戻って悶えているところへ『発明家』の反撃が始まる。
発明品紹介も兼ねて次に取り出したのは、ボクシングで使用されるグローブだ。それもただのグローブではない。自動で向かい合っている相手の筋肉に伝達される信号をキャッチできる優れもの。
攻撃することが出来ない『修羅場』に、商品の特徴を説明しながら色んな角度から殴る『発明家』。最後には「おひとついかが?」と、押し売り文句まで残して『修羅場』の顎にスカイアッパーをキメる。
目玉をグルグルさせて、ノックアウトされる『修羅場』を前に周囲からカンカンカンとゴングが鳴り響く。これも『発明家』のグローブに搭載された機能であると、得意気な顔で語っていた。
「さて、再起される前にトドメ刺しとくか」
するとそこへ、トレードとディフィートが乱入してきた。
互角の戦闘を繰り広げていたディフィートが、倒れている『修羅場』を視界に捉える。その瞬間、トレードの太ももを階段上がりで顔面を蹴って壁際に叩きつけた。
かと思えば、隼が出す速度で『発明家』の前に急接近してトドメのパンチを受け流す。
「えぇ、ウソだろ!?」
「てめぇ……覚悟は出来てんだろうな?」
振り向きかけのディフィートの顔。
その反面の形相に怯んだ隙に剣身が向かってくる。グローブのアシスト機能で反応が間に合い、クロスカウンターをお見舞いする。
次の瞬間、吹き飛ばされたのは『発明家』の方であった。
放ったクロスカウンターは割り込んできた金属に当たり、リンボーダンスのように金属を潜ったディフィートが愛剣を逆手持ちに変えて、グローブを二つとも斬り落とした。
グローブが壊されたことを確認して、大槌を召喚する『発明家』はすかさず前を見た。そこにディフィートの姿がない。
「遅せぇんだよっっ!!」
「がはぁッッッ!!??」
竜巻に包まれたように、突風が起こったかに思えた数秒の出来事。
至るところに切り傷を負った『発明家』が、白目を剥いてその場に倒れた。少ししてから、赤雷が残像を残してディフィートが姿を現す。
文字版の再生能力は並外れている。腕が消し飛んだとしても、トライワイトゲージが備わっていれば数秒で元どおりになる。
この場合『発明家』も例外ではない。だが、『発明家』は倒れ伏したまま動けずにいた。首元に銀色に光る得物が、突き立てられていたからである。見上げてディフィートの背後にもう一本の長剣が浮遊していることを確認する。
「な、なんだよ……。この世界の人間……めちゃ、くちゃ……強いじゃんかよ」
「敗因は1つ。てめぇがあたしらを見くびっていたことさ」
情けも容赦もない。
相手は怪異と同然の人外。それどころか、アンデッドであることから簡単には消えない存在。そうともなれば、全力で戦うのがディフィートのやり方だ。
「最悪だぜ……。こんな時に……いい発明、思い……つくなんて…………」
強敵との闘いで閃いた『発明家』。これが彼女の持つ文字版スキルである。しかし、相手が悪かったと攻撃に耐えるべく、歯をくしばって縮こまる『発明家』にトレードが絵馬を翳す。
絵馬の格納さえ出来れば、再度召喚してディフィートのマウントから解放出来るためである。するとそこへ、高らかな男性の笑い声が響いた。
「ハーッハッハッハ♪2日目のバトルにして、意外な発見だな!なぁ文字主ッ!」
「おいおい。大人しく絵馬だけ破壊するって作戦だったろ!なに大声出してるんだよ」
「はっ!?しまったぁ!!??」
乱戦極まる状況を作ったのは、水砂刻とその文字版『小宇宙』であった。
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