意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜

お会いしたくはありませんでした

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 遊郭をテーマにした宿泊施設を工房としていた、『遠呂智』は文字主ワープロットである辰上からの咎めを受け部屋に篭っていた。
 杯に酒を盛り、一気に飲み干すと空になった杯を使い魔の鮫伊吹さめいぶきに向かって投げつけた。コツッと頭部に当たり、目をグッと閉じる。ただ、そのまま耐えるのみ。

「んぷっ……。あの文字主げぼく、妾に楯突くとはいい度胸です……。清姫ッ!!貴女も酒を注ぎなさないッッ!!」
「は、はい!かしこまりましたわ、『遠呂智』様……」

 もう三日もこのままであることに、召喚された従者である清姫ですらも恐怖していた。
 何よりも、ここまで機嫌の損ねている『遠呂智』を見たことがないからである。焼け飲みしているように見えるが、同時に胸の内に芽生えた何かを鎮めるとも取れる言動を吐いていた。

 酒瓶を割って、布団の敷かれている寝室へと向かい倒れ込むと同時に殴りつける。握り拳の甲に暖かい液体が零れ落ちる。
 人間でいう涙。されど、文字版サクリフォトは泣かない。そのはずなのに、どうにもやり場のない存在が───が、あの時に取った己の行動の愚かさを際立たせていた。

「これが……、WORDにおける文字版サクリフォト文字主ワープロットの主従関係……なのですか?母上……、妾には……この蟠りの意味が分かりませぬ…………」

 布団から起き上がり、廊下を渡って向かいにある辰上の部屋に入る。
 まだ、数日しか使われていない辰上の匂いが残っているベッドに蛇が這って潜るようにして、寝具を手繰り寄せて鼻に当てる。

 忌々しくも思っていた人間とは、想像も絶するほどに優しさを感じさせる香りをはじめて知る。こんな清らかな心を持つ者であるとも知らずに、『遠呂智』は自身の強さを教示するような闘い方で敵を圧倒していた。
 圧政を敷く王族のような振る舞いが、辰上が良しとしないことを今なら理解出来る。自らの過ちを後押しするかのように、外は大雨であることにベッドから見える窓を見て気が付いた。

 やがて、泣き止んで気持ちが少し落ち着くと『遠呂智』は、辰上が傘も持たずに外へ出て行ったことを思い出す。清姫と鮫伊吹を呼び、施設内に姿を見た場合はすぐにテレパシーで連絡を寄越すように言い渡す。
 最悪なことに、あの日以来辰上は『遠呂智』の力は借りない。WORDに賭ける《願い事》などないと言って、常備してくれなくなっていた。そのせいで、辰上の位置に絵馬がない以上、彼の現在地を知ることは出来ない。
 境内の散策は清姫達に任せて、『遠呂智』は今も外に辰上はいると判断した。人間は雨で濡れただけで風邪をひくことを知っているため、傘を持って外へ飛び出していくのであった。


 □■□■□■□■□


 自宅に戻るのは危険であると言われていたため、帰宅はせずにいた辰上。とはいえ、噂観測課としての仕事はある訳もなかった。事務所に向かう理由もない以上は、社用車くらいしか過ごせる場所はなく目的もないまま街中をウロウロしていた。

 流石に言い過ぎた気がしていた。WORDというものが、文字版サクリフォトという生命を持たぬアンデッド同士の戦いが基本のゲームでも、文字主ワープロットにだって生命の危険はついてまわる。
 今回のWORDでは、文字版サクリフォトによる殺害行為は禁じられていたことで少し安心していた。だが、『遠呂智』は殺さない程度に痛めつけて戦闘不能に追い込むまでが、勝利への道筋としていることを知り恐くなった。
 絵馬による命令や制御は、文字主ワープロット側の精神力でも多少左右する。それでも、今の自分に『遠呂智』のあれだけの暴走を制することが出来る自信が辰上にはなかった。

 怪異を身に宿すことが出来ない。WORDを抜きにしたって噂観測課の他の面子相手では、勝負すらならない。つまりは、自分はただの人間なのである。そう自覚しているからこそ、他の参加者に勝てるか不安を感じていたのだ。
 このままWORDを続けるにしても、役不足になっていることを拭いきれない辰上。『遠呂智』には、もっと相応しい文字主ワープロットが居るのではないかと、弱気になっているからこそ絵馬を持つことをやめていた。

 するとそこへ、ディフィートからの一斉送信メッセージが届く。特にやることもない辰上は、すぐに内容を開きアンリードのレッドヒールが復活したことを知る。
 WORDに参加をしていない文字版サクリフォトとともに、バトルタイムに介入してきた。目的はWORD参加者の殲滅であると告げられ、その場は逃げ果せたディフィート。
 しかし、狙われていたラウとその文字版サクリフォトの方はどうなったかは不明という、WORD参加者の一人がラウであることをバラしてしまう内容であった。これには流石に辰上も、落ち込んでいるとはいえ内心でツッコミを入れてしまっていた。

 他の噂観測課に連絡を取ってみようと、試みる辰上であったが電波障害が発生しているせいで、通信が使えなくなっていた。
 前にも似たような現象に苛まれた気がしているが、WORDに参加している間のやりとりは原則は絵馬で確認するものであるとルールには記載されているため、管理局側がこの事態を感知しているの確認も含め、絵馬を取りに行く理由が生まれた。
 その直後に土砂降りの雨が降ってきた。車の運転は視界が見えなくなるほどの洪水となり、止むを得ず近くにあった屋根付きのビル駐車場に車を停め、様子を見ることにした。

「まったく……、この辺じゃ路上駐車は出来ない。パーキングエリア代だって自払なのに、僕は何をやっているんだか……」

 思わず独り言を吐露してしまう。
 車を出て、雨の降りっぷりを見るために手すりの付いている場所まで向かう。

「雨……、もう時期に止みそうだな……」
「────?」

 立ち寄った場所の隣に、いつ間に居たのか分からないレインコートを羽織った男性に声をかけられた。
 辰上は、すぐに返答することが出来なかった。何しろ───、声が自分に似ていたからである。辛かれていたわけではないが、自問自答が幻覚となったのかと耳を疑っていた。

 すると、フードが少し辰上の方に向くと肩に手をかけレインコートを鷲掴んで、勢いよく脱ぎ捨ててその全貌を明かしながら口を開いた。

「ほぉ?本当にな……。君が辰上 龍生だね?」
「なっ!?ぼ、僕なのか!?まさか───、」
「いいえ、【ドッペルゲンガー】ではありませんよ龍生様」

 瓜二つの姿をした文字版サクリフォト、『九頭龍』とともに現れたメイド服の女性。神木原 麗由である。

 彼女は自身の文字版サクリフォトであることを紹介し、レッドヒール復活の連絡を受けたことを告げる。
 しかし、麗由は『九頭龍』と意見交換を済ませ満場一致していた。それは、レッドヒール復活の真意はさておき、他の参加者にラウが居ることを知っている一文。これはつまり、ブラフの可能性がある。

「現に、通信障害の影響は絵馬からのアクセスも出来ないほどのものだ。そのラウというものが脱落したのかの顛末も共有されない。仮に脱落したのなら、そのレッドヒールとやらの目的が進んでいることを僕達に告げてこないのは不思議ではないだろうか?」
「そうです。WORDへの参加権限を持つ者に、混乱を与えないようにそうしているのだとしても、通信手段の遮断はやり過ぎです。そして、ディフィート様がただ対戦相手を探すために餌を撒いた可能性もございます」

 麗由と『九頭龍』の言い分に、一理あると思い言い返すことが出来ない。
 二人の言うとおり、これがディフィートが対戦相手を誘き出すための罠とも考えられる。WORDを妨害する勢力に復活したレッドヒール達が居るのだとしたら、取り逃したディフィートを追うのは当然だ。
 バラされたことを知っているから、通信手段の遮断を妨害している組織が行なっているのだとしたら、手段が余りにもガサツ過ぎる。まるで、自分達を気付かせるために攻撃を仕掛けてきたとしか見えない。
 それも一番倒すのが困難とも取れる、ディフィートと戦っているところへ介入するということが、存在を知らせるための行為にしか考えられない──。辰上のなかでも仮説が立てられている。

 そんななか、どうして麗由達が目の前に現れたのかを恐る恐る問いかける。
 途端にモジモジし出す麗由。チラチラと『九頭龍』の方に目配せして、ため息をつきながら『九頭龍』が回答することにする。いきなり、辰上の喉元に槍を突きつけて───。

「悪いが絵馬を渡してもらう」
「……ッッ!!??」
「こ、これは早くWORDを終わらせるためなんです!それは……仮にディフィート様の仰っていることが本当であった時に、参加者を一定人数に減らして噂観測課のメンバーで脱落者となった方で調査に専念するのが……その…………」
「とにかく、絵馬を出してくれないか?君にはここで脱落してもらう。さもなくば───」

 大きく振りかぶり、槍を振り下ろした。
 後ろに尻もちをついて、紙一重で躱した辰上は急いで震える脚で逃げ出して車の方へ向かう。がしかし、麗由が両腕を広げて止めに回り込んできた。
 必死に目を閉ざして「龍生様ごめんなさいっ!!」と言って、立ち塞がる彼女を越えようとするが踝を蹴られて真横に倒れる。倒れた先を槍先が追う。

 捕まえることが目的で、辰上を傷付けないようにして欲しいという麗由の頼みを聞き入れ、わざと衣服を狙って槍を繰り出している『九頭龍』。
 そんなこと知るはずもない辰上は、阿鼻叫喚の状態になりながら麗由にやめさせるように懇願していた。逃げ惑う辰上の声に耳を傾けないよう、両耳を押さえてひたすら謝り続けている麗由。

 やがて、端に追いやられた辰上は二槍を携えて近づいてくる『九頭龍』に逃げ場を完全に塞がれてしまった。自分自身に追い詰められているような複雑な気持ちになりながら、声を上げて自らを鼓舞して『九頭龍』に組み付いた。
 痛みを与えないまま、捕まえるのは困難であると悟った『九頭龍』は腹部に突っ込んできた辰上を持ち上げる。そのままプロレスでいうパワーボムのように、背中を叩きつける勢いで投げた。

「かは……っ!?」
「抵抗したそっちが悪いんだ。我慢してくれ」

 一瞬息が出来なくなり、目を白黒させている辰上。
 その様子をこれはこれでありかもしれないと、顔を覆っていた指の隙間から覗き見る麗由。
 ましてや、スキャンニングフィールドでもないコンクリートに叩きつけられたのだから、常人である辰上には堪えるものがあってもおかしくはなかった。自分に投げ技をされているような光景は、これまでにない異様な空気を漂わせていた。

 遂に追い詰めたと、槍を差し向ける『九頭龍』。
 追いかけっこの終わりを告げるように、洪水の雨が綺麗に止んだ。そして、話せるようになった辰上は絵馬を持っていないことを話した。
 正直に拠点にしている場所に置き去りにしているから、このまま話は平行線で続くことになるだけであると伝える。すると、やむ得ないが人質として捕らえて絵馬を文字版サクリフォトに持ってこさせることを麗由に提案する。
 主義に反する作戦であるとはおもうがと、麗由の気持ちを汲み取り肩に手を置いた。これには麗由もキュンとなってしまう。普段の辰上からは得られない感覚が、『九頭龍』であることを示している。それでも、麗由にとってに見えてしまっていた。

「り、麗由さん……」
「決断してくれるか、麗由?」
「は、はい。龍生様……、確保です!」

 ドギマギしながら、辰上を指差して『九頭龍』に指示を出す。

 ただでさえ、劣等感を湧き起こしていた辰上にとって麗由の『九頭龍』へ向けている動揺すら、精神的追い討ちをかけてきていた。
 そして、『九頭龍』は強い。言ってしまえば、の理想形の具現化とも取れるほど、完全な立ち振る舞いにして切り返しの速さをしていた。このまま、自分と入れ替わってくれれば麗由はもっと幸せになれるのかもしれない。
 首根っこを捕まれ、『九頭龍』に連れていかれそうになったその時───、

「「───ッッ!!??」」

 ヘビ花火のように地を這って、火の粉が麗由と『九頭龍』に襲いかかった。

 火の粉は蛇の化身となって、放った主のもとへと帰ってくる。和傘を片手に着物を揺らして、影になっている入り口から姿を現す。

「お探ししていたら、雨が止んでしまいましたね文字主げぼく。それと、お会いしたくはありませんでしたよ────『九頭龍父上』……」

 長く整った長髪を挑発的に靡かせながら、蛇目で『九頭龍』睨みつける『遠呂智』。

「そういうことか。この男からは、やけに近い気配を感じていたのはお前がこの男の文字版サクリフォトだったのか───『遠呂智』」

 同じく蛇目で睨み返して答える。
 親子水入らずとは、少し縁遠い感じの再会であるように見えている辰上。空かさず布陣を展開し、転送されてきた鮫伊吹が守るように前に出てきた。守られたまま『遠呂智』の隣まで下がり、向かい合う辰上達と麗由達。
 威嚇の蛇語を発している『九頭龍』と『遠呂智』。その隣で麗由は、両頬を赤くして『遠呂智』を見つめていた。辰上と瓜二つの『九頭龍』の子───。それはもしかすると、『遠呂智』の容姿は───。

「落ち着け麗由。作戦は失敗だ、ここは一旦退けよう。相手が『遠呂智』となれば、それ相応の準備が必要だ……」
「あら?娘を相手に手心を加えないようにする覚悟のご準備ですか?いいでしょう……、それくらいの猶予は差し上げましょう。ですが、この文字主げぼくも絵馬を無条件では差し出しませんので……、そのおつもりで……」

 蛇の化身で炎を巻き起こして、その場から辰上とともに姿を消す『遠呂智』。

 やがて、妄想に浸っている麗由を仕方なく背負ってその場を立ち去ることになった『九頭龍』は───。

「あれ、彼女さん今日は寝ちゃってるのかい?あんた、本当にいい彼氏さんだねぇ」
「え?あ、あぁ…………ははは…………」
(辰上 龍生……。本当に僕とやることも一緒らしいな……)

 他人に優しいところは、『九頭龍』が持ち合わせる文字版サクリフォトとしての特徴でもある。
 それによってしばらくの間、現実世界では辰上 龍生だと思われる日々が続くのであった。
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