意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜

ゲームクラッシュ

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 キャットハウスで丸くなって寝ている少女に向けて、大きな罵声にしか聞こえてこない呼びかけがなされる。

「おぉきろっ!!マァァァイ、ハニーッッ!!朝食が出来たんだ!食べてくれっ!!」
「あん?チビ公なら、外に出ていったぞ?」
「良いからご飯を食べてくれ、マイハニーッッ!!」
「……たくっ、視覚と聴覚死んでんのかよ……オマエ……」

 自分を妻である燈火と勘違いしているのか、一方的な言い分しか返ってこない家小路に小言を零していた。彼女は燈火と契約している文字版サクリフォトの『天邪鬼』。燈火とは見た目は少々似ては居るが、服装を見れば一発で分かりそうなものだ。
 大きな欠伸をして、食卓の席につく『天邪鬼』。その真向かいには、ヨダレを垂らして口をあんぐり開けている寝坊助が座っていた。ナイトキャップは愛用のもの、絶対に外さないという意思を感じるほど深く被っているのは『天才肌』。
 家小路を文字主ワープロットとして、監督役の文字版サクリフォトである彼は、寝ることで自身のエネルギーの源であるトライワイトゾーンを蓄えている。

 そんなことは知るはずもない家小路は、「コラッ、食べんかっ!」と自分の手料理を口にダイレクトに流しこもうとしていた。
 流し目で見つつ、用意された野菜スープをチビチビ飲んでいる『天邪鬼』は、意識を別の場所へ向けている。というよりも、見ているものが今この場の風景でないというのが適当だろう。

『んで?結局手掛かりになりそうなもんは?』
『うーん、ないですね……はい。おめぇとのやり取りでしか、通信手段がないのもまずいですし、家小路さんは気が付いていないのが少々不思議なくらいなんですけど…………はい』

 凹むのも無理はないなと、甘だしで味付けされた角煮を食べる。
 すると、ピタリと動きを止める燈火。何かあったのかと、咀嚼を止める『天邪鬼』であったが、次の瞬間耳を劈く大声がのしかかる。

『お前、今……家小路さんが作った豚の角煮食べてるですか?それ、2個だけでいいので冷蔵庫に入れておいてくださいっ!!』
『ッッ!?っるせぇな、分かったよ……。てか、咀嚼音だけで分かるのかよオマエ……』

 夫婦の絆とか抜きにして、耳の良さが異常であると恐怖すら覚える。
 とはいえ、言われたとおりに角煮を小分け皿に移して燈火分は確保しておき、ご飯の続きを食べる『天邪鬼』。そこへ、家小路がずっとマイハニーと呼びながら、味の感想を聞いてくる。
 適当に相槌を打って流すと、それでも大喜びする家小路を見ていつもどんな風に会話が成立しているのか、甚だ疑問に思いながら食事を終えるのであった。

 本来、文字版サクリフォトに食事はいらない。大半が味覚を持たないから、人間と同じように味付けに凝る必要もない。『天邪鬼』は自身のスキルによって、人並みに味覚を得ているため美味しさがよく分かっている。
 そんなことはさておき、『天邪鬼』が何故契約している燈火と離れ離れで行動しているのか。先日の怪しい通知による、WORDの信憑性が変わったことで燈火は今回の件に、怪異が絡んでいると踏んでいた。
 同時に、WORDをでっち上げた存在は参加者の所在を知っている可能性が高い。要は『天邪鬼』は用心棒ということで、自宅待機を命じられたのである。

「こぉら、味わって食え!!喜久汰きくた 憐都れんとに似ている面なのが、なおいけ好かんというのにっ!」
「……そういう、君は……、僕の弟を不遜にも名乗る……『迷推理』にそっくり…………。あと、食事要らないよ……僕……」
「なんだと!?よく寝たのならよく食べるのが、健康への秘訣であろう!!っと待て貴様ッ?今なんて言った?迷推理だと!?まさか、わたしの作品を読んでいるのか!?」

 見るからに平和そのものである。
 仲良く喧嘩する男子の戯れにしか、少なくとも『天邪鬼』の目には見えない。

「────ッ!?」

 ふっと、いきなり目を見開いて立ち上がる『天才肌』。
 頬の《!》と《?》に、それぞれ人差し指を当て何かを感知した。家小路がどうしたのかと、心配になり声をかけようとしたその時、その場から電脳の光を発して姿を消した。
 突然のことに、悲鳴を上げる家小路。職業病か、いつの間に取り出したネタ帳に起きた出来事を一気に殴り書きでメモしながら、泡を吹いてその場に気絶する。

 忙しない夫婦だと起き上がらせようとした時、『天邪鬼』の身体もその場から消えてしまった。


 □■□■□■□■□


「アッハッハッハッ♪さぁ、踊りましょうよ♪皆さん♪」
「───チィ……。おい、ファイヤーボール。これで分かったろ?あたしが嘘つきじゃないってさ」
「はい……。えっと、絵馬絵馬……」

 怪異の線で調査していた燈火は、テレパシーを切った直後にディフィートに遭遇していた。

 今回のWORDには、復活したアンリードが居る。レッドヒールしか確認はされていないが、間違いなく今それを目の当たりにしている。
 柔軟な身のこなしで、『修羅場』と対峙しているレッドヒール。踊りながらの攻撃にディフィートは珍しく、苦戦を強いられていた。その理由を知っている燈火は、ことレッドヒールだけはであると認識していた。

「あがっ!?」
「何?フロンティアを相手してた時は、結構強かったようにお見受けしてたけど、もしかして音痴?」
「う、うるせぇ!このッ!踊りながら闘うんじゃねぇよテメェ!?」
「ふふっ♪こんな事だったら、ヒールが貴女のお相手をすればよかったね♪」
「おい、調子に乗んな……オラァァァ!!」

 軽快なステップで踊り音痴のディフィートを翻弄し、完全に優勢を勝ち取ったレッドヒールの背後に隠す気のない殺気が、重々しいタイヤを槌にしたハンマーを振り回していた。
 タンタンと、足踏み二回で振り返り赤黒いスカートをたくし上げて差し出した踵で、『修羅場』の力いっぱいの攻撃を難なく防いで見せる。高貴とはこういうものだと、挑発的に会釈までしてみせる余裕ぶりを前に、怒りコブを作って鬼の形相をする。

「ゴォラァァ、テメェ!!??何か、アタシのキャラ被りしてんだよ!!」
「あら?奇遇♪ヒールもさ───、下位互換の人形のクセにキャラ寄せてんじゃねぇよって思ってたとこだったわぁ!!」
「ひっ!?きゃあああぁ、アチシのネイルがぁぁ…………」

 受け止めていた踵をクルッと一回転。からの踵落としで『修羅場』からハンマーを叩き落とし、同時にネイルまで粉砕してしまう。
 ショックを受けている間も与えずに、『修羅場』は顎を蹴り飛ばされ空高く消えていき、レッドヒールは殺意に満ちた笑顔で狩りを楽しむように追いかけた。

 ディフィートも後に続こうとしたその時、前に立ち塞がる新手。咄嗟に距離を取ろうとするが間に合わず、額を鷲掴みにされる。

「なっ!?」
「ほぉ、これはいい。素晴らしい♪その記憶、我々の計画のために使わせてください」

 絶体絶命。
 レッドヒールは『修羅場』を地面に向けて、パイルドライバーで顔面を埋め込ませて戦闘不能にさせると、今度は燈火の方へ攻撃を変えていく。

 迎撃に銃を向けるが、燈火はここで違和感を感じ取る。そう、レッドヒールの俊敏な動きが、はじめて会敵した時の比ではなく素早いということ。照準を合わせている間に、みぞおちに拳が飛んできて息が出来なくなっていた。
 アンリードとして、燈火達の前に立ちはだかった時よりも強いと確信すると、ディフィートを掴んでいた敵。『召喚師』が説明をはじめる。
 このレッドヒールは、鳴堕なた 暁咲あきさの記憶流域に眠るレッドヒールの姿恐怖の象をそのまま体現させたものである。そのため、強さも恐怖でバフとしてパワーアップしている扱いとなって召喚された。アンリードとしてのレッドヒールの強さは、まったく比較のあてにはならないのだ。

「じゃ、死ねよ!噂観測課ッ!!リベンジマッチ果たさせて貰うわ!!」
「───ぐっ……」

 鉄槌よりも重い踵落としが、燈火を踏み付ける───。そのはずだったが、燈火の行動の方が早かった。それもほんの一瞬だ。

「ふぅ……。冷や冷やさせてくれんなよ、チビ。んで?ここで敵対してる奴らは知らん顔、つまりは敵ってことでいいよな?」
「な、何?また新手の文字版デク人形?いいわ、踊りましょう♪」

 踵を突き返して、双剣を構える『天邪鬼』。燈火の呼び出しに即参上したことで、燈火は無事である。
 獣のように背中を倒した前傾姿勢で、レッドヒールと睨み合う。シュンッと音を立てて消えた。それだけの高速移動、燈火は目で追うことが出来ず銃を構えながら、急所への隙をなるべく隠す。
 風が吹き抜ける事だけが、近くにいる事を知らせてくれる唯一の情報。しかも、敵は同じランク帯である『修羅場』を完封するほどの強さを誇っている。

 高速で動き回るレッドヒールを相手に、動かずにいる二人。すると、『天邪鬼』がようやく動き出す。

「へぇー、貴女やるわね?」
「そうか?ただ素早く走り回ってるだけで、攻撃は単純そうだけどな?」

 安い挑発に乗ってか、レッドヒールの連続脚技が『天邪鬼』を狙い襲いかかる。
 しかし、そのどれもが直撃を得られず手で防がれたり、避けられるばかりに終わる。だけでなく、『天邪鬼』の反撃がレッドヒールには当たっている。でもレッドヒールの攻撃は当たらない。
 眉を歪ませて、一度距離を取るレッドヒール。自分の身体の使い方に疑問を抱く。調子が出せていない感覚に、少しの焦りを覚える。

 それもそうだろう。確かに、アンリードの強靭的な再生力は文字版サクリフォトの比ではない。加えて、召喚のもとになった恐怖が生前よりも強い能力を発揮しており、あの『修羅場』とディフィートを相手にしていても、手に余裕のあるほど強くなっている。
 相手が『天邪鬼』でさえなければ、そのポテンシャルは最大限に行かせていたであろう。すでに『天邪鬼』は、することに成功していたのだ。

「な、何だかリズムが乗らないわ……」
「ほぉ~ん、そうかい。アタシは何時でも踊ってやれるのに残念だな……それは」

 これも安い挑発。乗ればまた、更なる不調を来たす恐れがある。
 レッドヒールは『天邪鬼』を相手にするのは、ディフィートが踊り音痴のせいで自分の戦術についていけないのと、同等くらいのハンデが存在していることを警戒しはじめる。

 だがそれも、あくまで時間稼ぎが目的であるこの戦いでは、意味なんてないかとスカートを摘んで挨拶する。
 そして、燈火達はレッドヒールが手を向けた方へ目をやる。ディフィートを掴んだ『召喚師』の手によって、新たな仲間が誕生したのである。ディフィートの精神力を糧にして、現れた二つの影。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……ま、まさか───っ!?」

 床を這いずっているディフィートの目の前に、立っていた二人を見て驚嘆の表情を浮かべる。

「さぁ、ここでの目的は果たしました。『異文明』も今頃、このWORDゲームをクラッシュさせたころでしょう。さらばです、最強の怪異使い……」

 召喚に使われたエネルギーがなくなったことで、立つことも出来ないディフィートの腰元に、杖の先端部についている刃を突き立てる『召喚師』。
 召喚された存在は、『召喚師』が消えるか本体が消滅しない限り消えない。つまり、召喚元となったディフィートが死のうとも、消滅はしないのである。このまま生き残られても、邪魔をされてしまう可能性がある以上、ここで消しておくのは的確な選択となる。

 燈火と『天邪鬼』が動くよりも先に、杖が突き刺されてしまった。

「な、何ぃ!?」
「ギッ……、だ、大丈夫?ディフィディフィ……」
「しゅ、『修羅場』!?お前……」

 なんと、『修羅場』がディフィートを庇い、杖に突き刺されていた。
 当たりどころが悪く、今にも消滅する致命傷である。しかし、助けに入った文字主ワープロットを救えずに終わる訳にはいかない。


 □■□■□■□■□


 残された力を振り絞って、幼気いたいけな少女は己の主を近くにいた人間に託す。力いっぱい投げ飛ばし、受け止めて貰えたことを確認して武器を構える。

「ディフィディフィッ!!ここはアチシに譲りなさいよ!!アンタの作り出した奴らは無理でも、コイツとそっちの赤い子だけは貰っていくわ!!」

 そう言って、首に下げているものを翳す。
 少女が手にしたのは、契約の証───絵馬だ。投げ飛ばした隙に、懐から奪い取った。

 主は確信した目でこちらを見る。分かっていながらも、両手に携えたハサミで敵に立ち向かっていく。消えゆく身体に鞭を打ち、その場にしゃがみこみバネをつけて高く舞い上がる。
 跳躍が頂点に達する前に、文字主ワープロットとの契約を解除する。そして、誰からも強制制御セーフティーがかけられない今この時、自身のワードライブを独断解禁する。
 この偽りの闘いで、ともに過ごして愛着を持った人間が逃げる時間を稼ぐために────。


──死に晒せ、暁の修羅劇場デスカーニバル シザースエンドッッッ!!!!


 大地に降り立つの同時に、辺り一帯を斬り刻む斬撃の嵐がレッドヒール、『召喚師』と召喚された者達を巻き込んで吹き荒れる。念押しにと、スキャニングフィールドを再展開して隔離し、三人が逃げる道を作って攻撃を続けた───。

 再展開したフィールドが焼け焦げ、辺り一面が黒焦げになっている円形の焼け跡を残して、少女は最初の脱落者となって消滅した。



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