意味が分かったとしても意味のない話

韋虹姫 響華

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EXTRA FILM 3rd ※三章の幕間

一時休戦

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 邪神を祀っていた古代遺跡が眠る離島。
 そこへ向かう噂観測課の船を見つめる、三つの黒い影があった。漆黒のヴェールで顔を隠している令嬢が前に出て、開口一番を後ろの二人に言い放つ。

「さて、ここは一時休戦と行きませんかホウライさん?」
「そうだな。ハスターの野郎が自分らの仲間に手を出してくれただけに留まらず、あんなでっかいバケモンに成り果てても世界を滅ぼそうなんて馬鹿な真似……させるわけにはいかないからな」
「俺達だけで食い止めることは困難……か。少々不服ではあるが、スケープゴート様がそう仰るのなら噂観測課に加勢することにしましょう」

 竹槍を首にかけるホウライの目には、こうなる事が予感されているものが宿っていた。
 それを見逃すガイヤァル。前々から気になっていたと、ホウライへトンファーを向け詰め寄った。すると、パイプたばこを取り出して吸ってからサングラスをかけて口を開いた。

「ある博士の頼まれもんさ……。あの邪神の卵は、人類にとっても自分ら怪異にとっても早すぎるんだとよ。自分はもとより、あいつを倒すためにインフェクターとなってお前さんらを探していたって訳さ」
「その中に、やつを起動させる悪魔怪異を入れたのは何故だ?」
「勘違いすんなさんな。自分はあいつに恩情なんて、かけるつもりは微塵もねぇよ。その時が来たら、直ぐにでも始末出来るように餌を持っておきたかったのさ。こんなこと、アスモダイオス達には聞かれたくはないがね」

 ようやく、協力関係を持っていたホウライの腹の内が見えた。

 ガイヤァルは、そんな人間に託された願いで行動していたホウライを幻滅することはなかった。心にできた曇りが晴れたことで、心置きなく戦えると握手を求めてきた。
 度肝を抜かされたホウライは握手に応じる。その光景を見て、クスクスと笑うスケープゴート。それを視界に入れ、照れたように手を振り解いて体を斜めに背けるガイヤァル。異様な空気感になったなか、スケープゴートは口元を手で隠したまま言った。

「まぁ、ガイヤァルもこちらも♪」
「ス、スケープゴート様ッ!?…………っ」

 ホウライは笑った。
 気が楽になったからではない。友の意外な一面を見たからではない。また、打ち解け合うことが出来たからでもない。結局、ここに集ったインフェクターと呼ばれる上級怪異は、いずれもから脱していないもの達揃いであった事が、どうしようもなくおかしかった。
 人間と争って、怪異と人の均衡を保つために活動しているのだから、考えてみればそうであった。だが、今はそれを理解して浸る時ではない。

 手頃なボートを見つけると、ガイヤァルの魔術で後部座席の後ろから火が吹き出す。ジェットエンジンの代わりに拵えた魔術で、離島まで一気に移動することを提案する。
 主君であるスケープゴートに手を差し向け、段差で足元を踏み外さないようにエスコートする。ゴスロリ衣装の青年ってだけで違和感があるはずの光景にも慣れ、後ろに続くホウライ。
 そして、全員乗り込んだところでボートは走り出した。その背後には黒い巨大な影。ハスターがいよいよ、離島へ上陸してこようとしている邪悪な霧が上空に浮かび上がっている。

 離島に上陸したそれは、強大なタコのようなシルエットへと変わり咆哮を上げて木々を薙ぎ倒しながら、ゆっくりと最深部へと続く遺跡に通じている場所を目指して動き出す。
 おぞましさの狂信ぶりは、ホウライ達怪異ですら鬼気迫るものを感じざるを得なかった。

「アスモダイオス達の回収をルンペイルだけにしておいて、こりゃあ正解だったかもな」
「確かにな。噂観測課もあのディフィート紫髪の女の謀反で戦力がかなり損なわれているはずだ。あれだけの大物を相手にできるほど、余力があるとは思えない」

 直前まで、スレンダーマンの撃破を試みていたガイヤァル。こちらへ合流する前にディフィートの姿を見ており、この離島へは来ていないと読んでいる。

 仮にディフィートが居たとしても、を止めるのは至難の業ではないかとさえ思えるほどには、とてつもない力を宿していた。
 上陸後、地上での戦闘音から察するにハスターは下僕を呼び出す能力を有しているらしく、噂観測課との総力戦が開幕していた。その光景が一瞬見えなくなる。配置されている浮舟を超えた途端に、また光景が広がるのを見てホウライは噂観測課の用意の良さを感心する。
 それは同時に、ホウライ達が思っている以上に噂観測課には戦力が残っていることをチラつかせていた。ディフィートの謀反によって、甚大な被害が出ていたように見えていたにも関わらず。

「なんだ、そういうことか……」
「なるほど。あの最強の怪異使いさん、狙いは最初から♪ガイヤァル、貴方も彼女に何か聞かれなかったかしら?」
「はい、聞かれました。インフェクターの存在意義なるものを」
「かっは♪こりゃあ、最強さんには仮が出来ちまったな。スレンダーマンをわざとクトゥグアに近づけさせてまで、守る気みたいだぜ?」

 当初の予定を狂わされたホウライであったが、スレンダーマンをただ倒すのではなく邪神クトゥグアの依り代となった霧谷 来幸。彼女を取り込まれることが一番の警戒していたのだ。
 しかし、それを同じく達成させまいとしていたはずのディフィートが、復活の手助けをした理由。それは怪異とインフェクターについて、に核心を突かれたようにするために、邪神復活の事件を引き起こして撹乱することを目的としていたのだ。
 インフェクターは、あくまで怪異を作り出す存在ではない。邪神復活を阻止するために、人智の及ばない領域で人と怪異のバランスを取っている存在であるという意味のない情報フェイクストーリーを作り出すための行動であったのだ。

 そこまで人間に弄ばれたことを恩義と捉え、ホウライ達は恩返しという意味合いで一時休戦する。噂観測課と協力して、ハスターの叛乱邪神復活を阻止するべく上陸を果たした。

 やがて、上陸を察知したハスターの下僕【旧き者】が大勢押し寄せてきた。空かさず、トンファーを構えるガイヤァルが一番槍を務め強行突破に出る。
 それぞれが森の中へ姿を晦ませて、ハスターの元へと目指して進撃を開始するのであった。
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