大馬鹿者が歩む道

斑鳩

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Prolog

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 雄々しく、華々しい英雄譚。
 選ばれた者のみが歩むことを許されるその道は誰もが目を細める輝きに彩られ、多くの諸人を魅了する。
 英雄と呼ばれる者たちの足跡は希望を、夢を、その芽を世界に蒔いていく。
 誰もが羨む光に彩られた英雄が歩む道。
 しかし、それは圧倒的少数であることは覆しようのない事実だ。
 英雄譚を歩むに相応しい者は選ばれた者のみ。
 世界の大半は英雄ではない、選ばれることのない人々だ。
 そんな彼らによって歴史は紡がれ、世界は回っていく。
 英雄が歩む者であるならば、その他大勢を占める諸人は語り継ぐ者なのだ。
 しかし、語り継ぐ者にも歩む道は用意されている。
 目を細めるような輝きに彩られることも、誰かを魅了することもない。
 希望を、夢を、その芽を蒔くこともない。
 世に何も残さず、誰かに語り継がれることもない只の人として歩むべき道。
 特別な何かはないが、高望みしなければ分相応な幸せをつかめるであろうその道は英雄譚に比べれば見劣りしてしまうかもしれない。
 されど価値ある道であるはずなのだ。
 否、そもそも誰かの歩んだ道に価値を求めるものでも、優劣を付けるべきでもない。
 では、もし仮に己が歩んだ道を無価値であると捨て去り、選ばれなかった身で英雄譚に割り込もうとすればどうなるか。
 言うまでもなく、碌なことになりはしない。
 そもそもの大前提として、人が歩める道とはその生において一度きりであるべきなのだ。
 やり直しが利かないからこそ歩んだ道には価値があり、そんなことが出来てしまう道に何の意味があるというのか。
 これより語られるのはそういった物語。
 選ばれることのなかった男が、一人の少女のために全てを捨て、二度目の道を歩む。
 その結果、少女が歩む英雄譚は歪められ、男が進める歩みは誰もが目を細める輝きに彩られることも、誰かを魅了することもない。
 希望を、夢を、その芽を蒔くこともない。
 只の大馬鹿者が歩む自己満足のための道だ。
 そこには何の意味があるのか──。
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