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しおりを挟む「アルバート!!」
ベッドに横たわる王子の側へ、王が駆け出す。
「ああ、アルバート、こんなに大きくなって……!」
王の目には、涙が滲んでいた。
一方、王子は王に視線を向けると、私と目があった時とは確実に違う反応を見せた。
あの時は無反応だったが、今は身体が強ばり、目はまるで不審者を見ているかのような警戒の色が浮かんでいた。
「こんな時に口を挟むのもなんですが、仮面、取ったらどうです?怖がってるじゃないですか」
王と初対面であった時、その仮面の異様さに恐怖した時の事を思い出した。
何度か会って話した今では、仮面=王でインプットされていて、仮面を見ても怖いとは思わなくなったが、見慣れない人にとっては目に毒である。
私の提案に王が困ったように目を彷徨わせた。
「いや……それは……。顔に大きな火傷の跡があるから、余計に怖がらせてしまうかもしれぬ……」
「ええっと、余計なことを言いました……。ごめんなさい」
「いや、かまわぬ」
素顔を隠すほどの傷跡だなんて、相当重症だったに違いない。
無神経な事を言ってしまったお詫びに、私は初対面で誤解されやすいであろう王の支援をかって出ることにした。
「こんにちは、また会いましたね。こちらのお方は王子のお父様ですごく怪しい格好をしてますが、決して王子に危害を加えることはないと断言できます。私も初めは怖かったんですが、慣れれば怖くなくなりますよ」
「そんなに、私は怖いのか……?」
王は自分の仮面をペタペタと触り、ショックを受けたかのように呟いた。
一般的に仮面をつけてる人が現れたら、誰だって怖いに決まっている。
私は王の呟きに触れることなく、王子へ手を差し出した。
「一緒にここから出ましょう!」
返事が返されることなく、ただ無機質な目が私を見つめていたが、不思議と私の心が伝わった気がした。
それから、王が王子の世話係を呼びつけ、王子を縛る重い足枷が外れた。
長年つけられた足枷によって、足にはくっきりと跡が残っていた。
王子は王に手を引かれながら、長年彼を苦しめた悪夢の檻を抜け出した。
足元が悪い林の中、フラついて、時々足を躓かせながら歩く王子を心配そうに支える王に、コーディさんが口を開く。
「よければ、僕が部屋まで背負いましょうか?」
「い、いや!私が背負おう!こういうのは親の役目であるからなっ!アルバート、さあ乗ってくれ」
王は王子の前で背を向けてしゃがみ、王子が乗ってくる事を待つが、王子は棒立ちしたまま一向に乗る気配がない。
ただ、目の前でしゃがむ王を無表情で見下ろしているだけだ。
暫く王と王子の様子を伺っていたが、両者とも動く気配がまるでない。
どことなく王の背中には哀愁が漂っていた。
「……もしかして、乗り方が分からないのでは?」
「それだ!決して父の背中が嫌だった訳ではあるまい。悪いが、私の背中にアルバートを乗せてくれるか?」
私とコーディさんは力を合わせて、王の背中に王子を乗せた。
幸い思い通りに動いてくれるとはいえ、王子の片足を持ち上げたりして結構な重労働だった。
「……あんなに小さかったのに、こんなに重くなって……。いや、すごく軽いが……、でも重い」
王は感動に目を潤ませながら、訳の分からない事を一人でぶつぶつと呟いている。
相当嬉しいのか、仮面の上からでもニヤついた顔が視界に入ってきた。
彼らを見ていると、家族っていいなとしみじみ思う。
私も、母さんに会いたい……。
しんみりしてしまった気持ちをこれ以上悪化させないように、私は親子からそっと目を逸らした。
王と王子が部屋に入るのを見届けた後、私達は食堂へ向かっていた。
その道中、口数が少なかったコーディさんが重い口を開く。
「マリーさん、明日の護衛の件なんですが、やっぱり他の方に変わってもらっても良いですか?」
「勿論です。元々、交代制でしたし、それに掃除の必要もなくなりましたから」
「掃除?」
「王子の部屋があまりにも酷かったので、明日コーディさんを付き合わせて掃除しようと、密かに画策していたんです」
「そうだったんですね」
硬い表情を綻ばせて、コーディさんが笑うが、また元の表情へと戻ってしまう。
コーディさんが何かに悩んでいることは明白だった。
「……コーディさん、何かありました?あの戦いの後からいつもと様子が違う気がして……」
「何も、何もありませんでした」
コーディさんはいつもの元気な笑顔に戻ると、話題を逸らすかのように、他の話題を振り続けた。
側から見たら、いつも通りの元気な彼に見えるだろうが、先程までの表情の落差に私の胸が騒ついた。
明るく、楽しそうに話すコーディさんに、これ以上踏み込むことは出来なかった。
それから、暫くして、私は今回の件を評価されて、正式に王から褒美を貰った。
その事に難色を示し、反発する者は少なくない。
以前よりも、すれ違い様に嫌味を言われたり、睨まれたりすることが多くなっていった。
そんな私の陰でのあだ名は、魔女らしい。
誰が広めているのか分からないが、私の噂は誇張されたものから、事実無根なものまで幅広く広まっていた。
そんな中でも、王や第四騎士団員の人達は変わらず接してくれていた。
「……チッ、穢らわしい魔女が」
テッドさんと歩いていると、すれ違い様に舌打ちされた。
「っ、お前なあ!」
「いいんです、テッドさん。……行きましょう」
知らない人に悪意をぶつけられるのは、まだ慣れそうもない。
けれど、私を信じ、私の為に怒ってくれる人がいる。
その事がとても心強かった。
それにーー。
私は王子の一件で心に決めた事があった。
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