7 / 132
4-1.庭園での邂逅
しおりを挟む「なんだよおまえ、テーブルマナーも習ってねぇのか?」
「キリアン、ちょっと黙りなさい。緊張しちゃったんだよね、ジゼル。大丈夫だよ。僕が切ってあげるから、お皿貸して」
ナイフとフォークを置いたジゼルは、小さく縮こまってガタガタと震えていた。
ヴァルトロはキリアンをにらみつけ、ジゼルの前から皿を取り寄せると肉を一口大に切ってから返す。「ありがとうございます」と呟く声は小さくか細くて、今にも泣き出してしまいそうなジゼルを安心させるために、ヴァルトロは微笑みかけた。
「ジゼル。もし君が困っていることがあるなら、僕や父上に相談してごらん」
穏やかな声にジゼルはハッと顔を上げる。ヴァルトロの瞳は甘やかすように細められていて、そんな眼差しを向けられた経験のないジゼルは戸惑うと同時に、胸のあたりがくすぐったくなるような感覚を味わった。
「ヴァルトロお兄さま……ありがとうございます」
「いいえ。ほら、たくさん食べて。ジゼルはちょっと細すぎるから心配だよ」
骨と皮だけのような手首を見てヴァルトロは眉を顰める。
ジゼルはこくんと小さく頷いて、一口大に切り分けられた肉を頬張った。
「兄貴ィ、なんかコイツに甘くね?」
「そう? 僕はいつもみんなに優しいよ」
にこやかな笑顔を浮かべるヴァルトロに向け、キリアンは舌を出して「おえー」とおどけてみせた。
初めて口にする美味しい料理の数々にいちいち感動しているうちに、あっという間に食事の時間は過ぎていった。
メイドに案内されて部屋へ向かう。今のところひとまず、ジゼルはゲストルームを使うことになっていた。
執事によると、ヴィンセントの指示でジゼルの部屋を用意してくれているらしい。ただし急遽言いつけられたからまだ間に合っていないのだ、と執事は申し訳なさそうに語っていた。だがジゼルにとっては客室でも十分に豪華だ。
きらびやかさに圧倒されていると、メイドに声をかけられる。
「お嬢さま、沐浴の準備ができております」
「あ、はいっ、入ります」
「ではお手伝いをさせていただきますね」
そう言われた瞬間、ジゼルはぶんぶんと首を横に振り拒否を示した。
予想外の反応を受けて、メイドは目を丸くする。
「ひっ、一人で入れます。着替えも、自分でできます……!」
ジゼルは自分の身体をぎゅっと抱き締めて、震える声で言った。
ジゼルのその様子が尋常ではなく、メイドは静々と引き下がる。
一人で就寝の準備まで済ませたジゼルは、ベッドに寝転がる。天蓋つきの大きなベッドは、ジゼルが5人は寝られそうな大きさだった。ふかふかのベッドと、部屋に漂ういい香りが落ち着かない気分にさせる。
長い馬車での旅を終え、宿でもずっと気の休まらない時間を過ごしてきた。やっとプライベートな空間に来られたというのに、未だにこの状況が夢なのか現実なのかあやふやなままだ。眠るために無理矢理瞼を閉じたけれど、なかなか眠気はやってきそうにない。
230
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる