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しおりを挟む――――いつ眠れたのかもはっきりとしないまま、朝を迎えた。
メイドが顔を洗うための水を運んできてくれて、ぬるいそれで顔をバシャバシャと洗う。いっそキンキンに冷たい水だったら、この寝不足丸出しな顔もマシになるだろうに、とジゼルは鏡を見ながら思った。
朝の支度を手伝ってくれるメイドがドレスを運び入れるのを眺めていたジゼルは、不意に顔色を変える。
「あの、すみません……」
「いかがされましたか?」
「あのドレスは、いやです……。首元の詰まったものは、苦手で、……その、すみません……」
「承知いたしました。では別のドレスをお持ちしますね」
恐縮するジゼルにメイドは嫌な顔一つせず、およそ使用人に対するものではない彼女の言葉遣いも指摘することはなかった。ジゼルが拒否したドレスを下げて別のドレスを持ってくると、黙々とジゼルを飾り立てていく。
ドレスはジゼルが見ても美しく、メイドのヘアセットは公爵家に仕えるにふさわしい見事な腕前だった。だがジゼルは自分なんかにはもったいない、と鏡を見られずにうつむいていた。
昨夜と同じようにヴァルトロとキリアンとの朝食を終えたあと、ジゼルは部屋に戻る道すがらメイドに尋ねた。
「あ、の……公爵さまはお戻りになりましたか?」
「いいえ。いつお戻りになるのか、わたくしどもにも知らされておりません」
ヴィンセントはまだティティオール大森林にいるのだろうか。
昨日ヴィンセントに言われた〝休養〟はもう十分したから、きっと次の指示があるはずだ。
ブランテ家にいた時は休む時間などほとんどなかったし、自分で何かを選択する自由もなかった。つまりジゼルは、何をしたらいいのかわからず手持無沙汰なのだ。
エスター公爵家の養女にすると言われて連れてこられたのだから、それらしい行いをすべきだろう。ただ、普通の貴族令嬢というのは日頃どう過ごしているのか、ジゼルにはそんなことさえ想像できない。
自分などを養女にしたからには何か目的があるのだろう。下働きが足りないのだろうかとも考えたが、公爵家はたくさんの使用人たちによって常にピカピカに磨き上げられており、ジゼルの手など必要としているようには思えなかった。
ならばどこかに売られるのだろうか。――エスター公爵家が金に困っているようにはとてもではないが見えない。むしろその反対で、養女でしかないジゼルに高級なドレスを何着も買う様子から、金が有り余っているとすら感じた。
何をしたらいいのだろう。どうすれば、ヴィンセントの機嫌を損ねないだろうか。
「お嬢さま。本日はお天気がいいので、庭園を散歩されるのはいかがでしょうか?」
「さん、ぽ……?」
思い悩んでいたジゼルに、メイドから思いもよらぬ提案がされた。
ジゼルはポカンと口を開ける。散歩とは、どんなものだっただろうか。目的もなく外を歩くことなんて、これまでしたことがない。理解するのに数秒を要したあと、窓の外に広がる庭を見下ろす。次にメイドを見るとニコッと微笑まれ、ジゼルはほとんど無意識に彼女の提案を受け入れていた。
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