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20-1.卒業記念パーティーの幕開け
翌日の授業後、さっそくキリアンによるダンスレッスンが始まった。
「――で、全くのど素人なわけ?」
「そうです……」
「ふーん。ダンスとなるとかなり距離近づくけど、いけんの?」
頷くジゼルを見下ろし、キリアンの表情がわずかに緩む。少し時間はかかったが、ヴィンセントやヴァルトロに対するように心を許してくれたことで、思いがけず気分がよくなった。
「それじゃ、まずはホールドの組み方から」
向かい合った姿勢で、ジゼルの右手をキリアンがすくい取る。突然手を繋がれて驚いたジゼルだが、キリアンはさらに反対の手を背中に回し、ぐっと身体を引き寄せた。
「左手は俺の右腕に置いて。そう」
「ちゃんとできてますか……?」
「まあまあ」
ホールドを組み、基本的なステップから習っていく。キリアンはぶっきらぼうな物言いだが、教え方はとても丁寧で、初心者のジゼルにもわかりやすかった。
ステップを覚えてから軽く踊ってみると、楽しくて距離の近さも気にならない。
「足元ばっか見てたらダメだろ。覚束ないステップで不安かもしれねぇけど顔は上げてろ。ちゃんと俺がリードするから」
「はいっ!」
注意されたところをすぐに直し、顔を上げる。するとキリアンと目が合って、彼のほうがそっぽを向いてしまった。その耳は少しだけ赤い。
数回ステップを繰り返すと、キリアンはホールドを解いた。
「今日はここまでにしよう。いきなり詰め込んだらこんがらがるだろ」
「ありがとうございました、キリアン様。まだ簡単なステップしか踊れませんが、ダンスってとても楽しいですね」
ジゼルはいつも、初めての経験を楽しいと言う。何を教えてもすぐに吸収して実践に移せることから、本来は好奇心旺盛な性格だったのかもしれない。
そんなふうに頬を上気させて溌剌とした表情を見せられると、もっといろいろなことを教えてあげたくなる。次はどんな表情を見せてくれるのか、知りたくなる。
「なあ、アンタって一応俺の姉だろ? だから〝キリアン〟でいいよ。あと敬語もいらねぇ」
「そんなっ、呼び捨てだなんてできません」
「俺がいいって言ってんだろ。ま、俺はアンタのことお姉様だなんて呼ばねーけど。ほら、一回試しに呼んでみ」
「…………キリアン」
ジゼルは戸惑うように目を泳がせたあと、おずおずとキリアンの名前を呼んだ。その恥じらいと困惑の混じった表情がかわいらしく見えて、キリアンの心臓は妙に騒がしく鼓動を刻みだす。
「ん。明日のレッスンまでにステップ忘れんなよ」
「うん、わかったわ。おやすみなさい、キリアン」
自分で呼び捨てを強要しておいて照れ臭くなったらしく、キリアンはそそくさと部屋を出て行った。
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