エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

文字の大きさ
49 / 132

20-3




 ヴァルトロも近づいてくると、ヴィンセントの後ろを覗き込む。

「公爵夫人も来てるんですよね?」

 卒業記念パーティーに家族で出席するとなると、当然ネイアもついてくる。いくら邪険に扱っていようと、公式的な場ではヴィンセントはネイアを妻として連れて行かなければならない。ましてや、皇族が出席するようなパーティーでは尚更だ。
 ただ、今この場にはネイアの姿は見当たらなかった。

「父上は魔法で、母さんは馬車で来たんだって。たぶんそろそろ着くはずだから、会場で合流すれば問題ないんじゃね?」

 馬車で来なければならないネイアは、随分前にエスター領を出発したことになる。とことんネイアを避けているヴィンセントに同情しているのか、ヴァルトロはにこやかに笑っているだけだった。


 4人でパーティー会場へ向かう。高位貴族ほど遅く入場するものだから、もうほとんどの生徒とその家族はそろっていることだろう。
 会場の扉の前に立つと、使用人がヴィンセントを見てギョッとした顔をする。雰囲気に圧倒されているのか、扉の取っ手を持つ使用人の手は震えていた。

「ヴィンセント・エスター公爵閣下、ヴァルトロ・エスター様、キリアン・エスター様、ジゼル・エスター様がご入場いたします!」

 名を呼ぶ声が会場に響き渡ると、その場にいる貴族たちがシンと静まり返る。明らかに全員がヴィンセントに注目していた。こういう場面を目にすると、ヴィンセントが人々に畏れられていることを実感する。
 ヴィンセントはその視線を慣れた様子で受け流していた。

 ヴァルトロのエスコートを受けながら入場したジゼルは、注目が集まる状況に緊張を募らせる。パーティーに出席するのは初めてではないとはいえ、エスターの名を背負っているとなると強張らずにはいられなかった。
 また、パーティーという場そのものに足が竦む。会場に来るまでは平気だと思っていたのに、隅に追いやっていたはずの嫌な記憶がフラッシュバックした。

「はぁ、はぁ……っ」

 ブランテ伯爵が事故死した今、もうあんな思いをすることは絶対にないのに。娼婦のように着飾らされて、貴族の怪しげなパーティーに連れ回されることなんて、もう二度とないはず――でも、もしこの中にあの頃ジゼルを凌辱した相手が混じっていたら? そう考えると怖くてたまらない。疑心暗鬼になって、全ての男性がジゼルを辱めた人物に見えてくる。
 うつむくジゼルの身体は、小刻みに震えていた。

「堂々と胸を張れ」
「…………!」

 うしろからキリアンが背中をポンと叩く。ハッとして顔を上げ、言われたとおり胸を張った。そうすると背筋も伸びて、視界が明るくなる。

 キリアンやヴァルトロから、貴族としての振る舞いを教わっていたときのことをふと思い出した。
 キリアンはいつも厳しくて、言葉もきつい。でも上手くできたときには、明るく笑って「いいじゃん」と素直に褒めてくれるのだ。褒められるとうれしくて、おかげでめげずにがんばれた。

「みんな父上しか見てないから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。何かあったら僕たちでフォローする。それに今日まで努力してきた君なら、エスターに相応しいはずだ」

 慣れない環境で必死に学んできた。マナーに教養、歩き方や微笑み方まで、ヴァルトロやキリアンに教えてもらい、もう身体に染みついている。
 ヴァルトロはいつも優しく微笑んで見守っていて、ジゼルができるようになるまで付き合ってくれた。たまに弱音を吐いてしまうことがあっても、はちみつ入りのホットミルクをいっしょに飲んで黙って聞いてくれる。ジゼルが立ち直るまで寄り添ってくれる優しさには、何度助けられたかわからない。

 完璧な公爵令嬢としての振る舞いを、この年から身につけるのは並大抵のことではなかった。時には挫折しそうになることもあったけれど、エスター公爵家に相応しい人間になりたい一心でがんばってきた日々が、今のジゼルを支えていた。

 そして目の前に立つヴィンセントの広い背中が、限りない安心感を与えてくれる。

「もう大丈夫」

 一度深呼吸をしたあと、ジゼルの身体の震えは止まった。

 会場の中央あたりまで進んだ頃、新たな入場者を知らせる声が再び響き渡る。皇家に次ぐ権力を持つエスター公爵家の次に入場するのは――当然皇家だ。

感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。 相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。 イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。 なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。 相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。 イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで…… 「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」 「……は?」 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」