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しおりを挟む「公爵、さま」
「……声に出ていたか?」
首肯すると、ヴィンセントは自嘲するように笑う。
「発情期以外に交尾したがるような動物は人間だけかと思っていたが、ジゼルを前にするとここまで自制もままならなくなるとは思いもよらなかった」
「……っ、竜には発情期があるのですか?」
「ん? ああ、人間は正確にはそういうものはないんだったか? 古竜は大体100年に一度だ」
「……公爵さまは、これまで恋人はおつくりになられなかったのですか?」
「竜は一夫一妻だ」
ヴィンセントの中からは、ネイアが妻であったことなどなかったことになっている。
「発情期になるとどうなるんですか?」
「どうとは? どこまで詳しく教えてほしいんだ?」
からかうように笑ったヴィンセントは、ジゼルの目を見つめながら唇を舐める。ヴィンセントが笑って済ませているうちに際どい問答はやめないと、そのまま取って食われてしまうような気がした。
「500年ほど眠っていたから、次はいつ発情期を迎えるか正直わからない。だがあまり発情期中の私の相手をお前にさせたくはないな」
「どうしてですか?」
「今この瞬間にも、私がどれほどの理性で自分を押さえつけていると思う?」
「…………」
「はあ……生殺しだな」
青褪めるべきときに顔を赤らめるとは、ヴィンセントの欲をわかっていない。性とはかけ離れた美しい容姿をしているから、ヴィンセントにはそんなみだりがわしい一面などないと思っているのかもしれない。
こう考えたくはないが、所詮ヴィンセントの欲望も、ほかの人間の男たちとそう変わりのないものだ。ジゼルが知ったら嫌悪するだろうか、と少し怖くなる。
「ほかに聞きたいことは?」
「わ、私の……どこが好きですか?」
「……それは明日、口づけで教えてやろう」
ヴィンセントはジゼルの頭のてっぺんから爪の先までキスをする気満々だった。心や香りにまでは口づけられないのが残念だ。
「ジゼルは私のどこに惹かれる?」
「……優しいところです」
「私が? 優しい?」
古竜をつかまえて、好きなところを聞かれたとき一番はじめにそんなふうに答えるのはジゼルだけだろう。ジゼル以外への興味の無さや、一方で残虐な面などを知っていたら、とても言えやしない。
「かわいいな、ジゼル」
――そしてかわいそうなジゼル。つがいだからと古竜に囲われて、いつの間にか逃げられないように縛りつけられて、じわじわと絡みつく執着に気づいてすらいないのだから、哀れで愛おしい。
「ずっとそばにいてくれ」
ヴィンセントがジゼルをぎゅっと抱き締めると、その身体はほんのり冷たくなっていた。
「少し冷えてしまったか?」
掛け布を手繰り寄せてジゼルを包み込む。身体の冷たいヴィンセントでは、いくら抱き締めようと彼女の熱を奪うだけだ。
抱き締めたままベッドに横になる。ヴィンセントの胸の中でじっとしていたジゼルは、しばらくすると胸板に額をすり寄せてきた。
「卒業記念パーティーもあって疲れただろう? 今日はここまでにするか」
「このまま眠るのですか?」
「眠れない?」
「いえ、すごく……安心します」
世界中のどこを探しても、古竜の腕の中より安全な場所はないだろう。それがこれまでどれだけたくさんの魔物や人間の命を屠った手だとしても、ジゼルには関係ない。
重なった肌から、ジゼルの体温がヴィンセントに移っていく。ジゼルは初めて感じた人肌の心地良さにうっとりと息を吐き、次第に微睡んでいった。
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