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しおりを挟む「血、ですか?」
「竜の血はエリクサーの材料にもなることを知っているか? 古竜の血ともなれば死にかけの命さえ甦る。おまえの足の靴擦れや、皇太子の腕をくっつけたのを見ただろう? 心の傷は癒えずとも、目に見える傷はなくなる。飲まされたという不妊の薬も解毒される。おまえの涙が流れなくなるまで、血くらいいくらでもやろう。おまえのためなら私の血が枯れたってかまわない」
ジゼルの目をじっと見つめる。揺れる瞳が何を思っているかわからない。
「だからもう泣かないでくれ」
ただジゼルが拒まないから、ヴィンセントは自らの親指の先を噛み千切り、滲んだ血をジゼルの唇に塗りつけた。紅を引いたように赤く濡れたジゼルの唇に、ぺろりと小さな舌が這う。今度はその舌の上に親指を乗せれば、口の中に赤い色が広がっていった。
「ん……」
こく、こく、とジゼルの喉が上下して、口の中に溜まった血を飲み下す。
血が食道を通って胃に落ちると、不思議と身体の中心からぽかぽかと温かくなってくるような気がした。背中や腿に常にあった引き攣れるような感覚が、徐々になくなっていく。
ヴィンセントの指先が背中をなぞった。凹凸にぶつかることなく、つーっと肌を伝い下りていく。
「白くて柔らかな肌だ」
触れるのも躊躇われる。ジゼルは細くて、柔らかくて、少しでも力を入れたら潰してしまいそうだ。ヴィンセントは恐れるあまり最大限の配慮で触れていた。こんなにも尊いものに傷をつけるなどという、愚行を犯す人間の気が知れない。
何が万能薬の材料だ。心の傷も癒やすことさえできないのに。
身体の傷が全て消えたことを確認し、ジゼルの口の中から指を抜く。指先に残ったままの血とジゼルの唾液をヴィンセントが舐めとると、そこには既に噛み千切った傷はなかった。古竜の身は再生能力があるため、ある程度の傷ならば勝手に癒えるのだ。
その間も、ヴィンセントの瞳はずっとジゼルから離れない。
愛おしそうに見つめるヴィンセントの視線がくすぐったかった。
「公爵さまのほうが、ずっときれいです」
「私が?」
「とっても」
「どこがきれいか教えてくれ」
「えっ……」
「ジゼルはきれいなオスが好みか?」
「え、えっと……っ」
「ふふ、ようやく表情が緩んだな」
ジゼルを膝に乗せたまま、ヴィンセントはベッドに後ろ手をつく。穴が開きそうなほど見つめられてばかりで、ジゼルはたまらず胸を両腕で隠し瞼を伏せた。
「だめだジゼル、私から目を離すな。今日は互いに見つめ合い、話をする日だぞ?」
「は……い」
目線を上げ、ヴィンセントを見る。さらさらの黒髪が白い肌を際立たせていて、黙っていると本当に精巧な人形のようだった。切れ長の目を縁取る長い睫毛や、高い鼻、薄い唇。どれをとっても美しく、目線を合わせていると妙に緊張してくる。
視線を泳がせてはチラチラと目を見つめてくるジゼルに、やがてヴィンセントは溜息をするように息を吐いた。
「あまり愛らしい顔で見るのはやめてくれ。触れたくなる」
恥じらって頬を火照らせられると、熱を持っているだろう顔に触れたくなる。ジゼルの呼吸に合わせて上下する胸は眩しいほど白く、時折たゆんと揺れてはヴィンセントを誘っているようだった。
身体が熱くなりそうで、ヴィンセントは一度目を伏せる。そうしたところで腿の上にジゼルを乗せているから、真横でも向かない限り視界にはジゼルの肌が否応なしに映り込んできた。普段はドレスに隠れて見えない足の、なんと魅惑的なことか。細いのに柔らかそうな太腿や、キュッと締まった足首につい見惚れる。
ヴィンセントの視線が脚を辿っていくと、恥じらうジゼルの片手が股を隠した。
ジゼルが怖がるだろうかと思って、ヴィンセントはズボンを穿いたままだ。しかしそうでなければ太腿にジゼルのおしりが直接触れていたかと思うと、惜しいような、ホッとしたような相反する気持ちだった。
「…………触れたい」
ヴィンセントが無意識に掠れた声でそう呟くと、ジゼルは小さく息を詰めて身体を揺らした。
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