エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

文字の大きさ
77 / 132

35-2

しおりを挟む



「血、ですか?」
「竜の血はエリクサーの材料にもなることを知っているか? 古竜の血ともなれば死にかけの命さえ甦る。おまえの足の靴擦れや、皇太子の腕をくっつけたのを見ただろう? 心の傷は癒えずとも、目に見える傷はなくなる。飲まされたという不妊の薬も解毒される。おまえの涙が流れなくなるまで、血くらいいくらでもやろう。おまえのためなら私の血が枯れたってかまわない」

 ジゼルの目をじっと見つめる。揺れる瞳が何を思っているかわからない。

「だからもう泣かないでくれ」

 ただジゼルが拒まないから、ヴィンセントは自らの親指の先を噛み千切り、滲んだ血をジゼルの唇に塗りつけた。紅を引いたように赤く濡れたジゼルの唇に、ぺろりと小さな舌が這う。今度はその舌の上に親指を乗せれば、口の中に赤い色が広がっていった。

「ん……」

 こく、こく、とジゼルの喉が上下して、口の中に溜まった血を飲み下す。
 血が食道を通って胃に落ちると、不思議と身体の中心からぽかぽかと温かくなってくるような気がした。背中や腿に常にあった引き攣れるような感覚が、徐々になくなっていく。
 ヴィンセントの指先が背中をなぞった。凹凸にぶつかることなく、つーっと肌を伝い下りていく。

「白くて柔らかな肌だ」

 触れるのも躊躇われる。ジゼルは細くて、柔らかくて、少しでも力を入れたら潰してしまいそうだ。ヴィンセントは恐れるあまり最大限の配慮で触れていた。こんなにも尊いものに傷をつけるなどという、愚行を犯す人間の気が知れない。
 何が万能薬の材料だ。心の傷も癒やすことさえできないのに。

 身体の傷が全て消えたことを確認し、ジゼルの口の中から指を抜く。指先に残ったままの血とジゼルの唾液をヴィンセントが舐めとると、そこには既に噛み千切った傷はなかった。古竜の身は再生能力があるため、ある程度の傷ならば勝手に癒えるのだ。
 その間も、ヴィンセントの瞳はずっとジゼルから離れない。
 愛おしそうに見つめるヴィンセントの視線がくすぐったかった。

「公爵さまのほうが、ずっときれいです」
「私が?」
「とっても」
「どこがきれいか教えてくれ」
「えっ……」
「ジゼルはきれいなオスが好みか?」
「え、えっと……っ」
「ふふ、ようやく表情が緩んだな」

 ジゼルを膝に乗せたまま、ヴィンセントはベッドに後ろ手をつく。穴が開きそうなほど見つめられてばかりで、ジゼルはたまらず胸を両腕で隠し瞼を伏せた。

「だめだジゼル、私から目を離すな。今日は互いに見つめ合い、話をする日だぞ?」
「は……い」

 目線を上げ、ヴィンセントを見る。さらさらの黒髪が白い肌を際立たせていて、黙っていると本当に精巧な人形のようだった。切れ長の目を縁取る長い睫毛や、高い鼻、薄い唇。どれをとっても美しく、目線を合わせていると妙に緊張してくる。
 視線を泳がせてはチラチラと目を見つめてくるジゼルに、やがてヴィンセントは溜息をするように息を吐いた。

「あまり愛らしい顔で見るのはやめてくれ。触れたくなる」

 恥じらって頬を火照らせられると、熱を持っているだろう顔に触れたくなる。ジゼルの呼吸に合わせて上下する胸は眩しいほど白く、時折たゆんと揺れてはヴィンセントを誘っているようだった。
 身体が熱くなりそうで、ヴィンセントは一度目を伏せる。そうしたところで腿の上にジゼルを乗せているから、真横でも向かない限り視界にはジゼルの肌が否応なしに映り込んできた。普段はドレスに隠れて見えない足の、なんと魅惑的なことか。細いのに柔らかそうな太腿や、キュッと締まった足首につい見惚れる。
 ヴィンセントの視線が脚を辿っていくと、恥じらうジゼルの片手が股を隠した。

 ジゼルが怖がるだろうかと思って、ヴィンセントはズボンを穿いたままだ。しかしそうでなければ太腿にジゼルのおしりが直接触れていたかと思うと、惜しいような、ホッとしたような相反する気持ちだった。

「…………触れたい」

 ヴィンセントが無意識に掠れた声でそう呟くと、ジゼルは小さく息を詰めて身体を揺らした。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...