エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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46-1.初めての発情期 ※




「ツノ?」

 金色の頭の上に、黒く長いツノが二本生えていた。前に見せてもらったときよりも、随分長くなっている。てっきりヴァルトロにコツを聞いてツノを隠せるようになったと思っていたのに、急激にツノが伸びたのだろうか。
 キリアンは自分のツノをガシッと両手でつかんだ。

「えっ、なんでツノ出てんだ? ずっとしまってたのに。ていうか、なんか伸びてるような……」

 キリアンは混乱した様子だった。ツノは無自覚で出ていたらしい。ツノを隠そうとしてうんうん唸っているが、一向にツノは消えそうになかった。それどころか服を突き破り背中に羽が生え、驚いて立ち上がったキリアンの背後には尻尾も揺れている。

「なんか、ヤバイかもこれ……ッ、う、ぐ」
「キリアン……!?」

 突然胸を押さえて蹲ったキリアンのもとへ、ジゼルは慌てて駆け寄った。

「きゃっ」

 キリアンに近づいた途端、物凄い力で腕を引かれて押し倒される。
 ジゼルに馬乗りになったキリアンは、瞳孔がキュッと細まり、頬は上気していた。とてもじゃないが正気には見えない。

「き、キリアン……? どうしちゃったの?」
「ふー……っ! ふー……っ!」

 ケモノのように息を吐くキリアンは、ジゼルの言葉が耳に入っているかどうかも疑わしかった。ジゼルの両手を床に縫いとめて、胸に顔を埋めてくる。ジゼルの手首をつかむ力は非常に強く、鋭く伸びた爪の先が肌に食い込んだ。
 谷間を舐め上げ、時折強く吸いついたり甘噛みをされ、ジゼルは身を捩った。

「いや……っ、キリアン!」

 大きい声で呼ぶと、キリアンの肩がビクッと揺れる。
 キリアンはゆっくりと顔を上げ、ジゼルの手首を解放した。赤い瞳が揺れていて、キリアンは全身をぶるぶる震わせている。

「ちが、ちがう……!」

 キリアンの声は掠れていた。

「身体が変なんだ……っ、ごめん、ごめん、俺から離れてくれ……!」

 離れてくれと言うくせに、尻尾が足に絡みついてくる。キリアンに掴まれていた手首が、まだ熱い。キリアンの瞳は熱っぽく潤み、ジゼルを欲しているように見えた。そんな眼差しを、ジゼルはよく知っている。――夜、ベッドの上で、ヴィンセントがジゼルを見つめるときの熱によく似ていた。

「…………発情期?」

 以前ちらっとヴィンセントに聞いた覚えのあるそれが今の状況にしっくりきて、ジゼルは無意識に呟いていた。

「はつ、じょう、き……?」

 キリアンは顔を歪め、下唇をきつく噛む。身体の中でマグマがぐつぐつと煮えているように熱い。熱くて、熱くて、乾く。喉が渇いているんじゃない。満たされない欲望が、ひりつくような激しい渇きを訴えていた。
 目の前のメスを食らえと本能が叫んでいる。

「……ッ、はやく、逃げろよジゼル……!」
「…………」

 自制できているうちに。――なのにいつまでたっても逃げようとしないジゼルに焦れて、キリアンはいけないとわかっていてもつい怒鳴り声を上げた。そうすればジゼルが怖がって逃げるだろうと。

「なんで逃げないんだよ! 逃げろっつってんだろうが!」

 今にも理性をなくしてしまいそうだった。でも、ジゼルの前で理性をなくすわけにはいかない。どうにもならない衝動を燻ぶらせたキリアンが「クソッ」と吐き捨てると、突然ジゼルの手が頬を包み込んできた。

「キリアン」
「……なんで、逃げねぇんだよ」
「キリアンが泣きそうな顔してるから」

 イライラする。イライラしてたまらない。キリアンは忌々しげに眉を寄せた。

「俺は、おまえのこと苦しめた奴らと同じになりたくない……理性なくして無理矢理犯すようなケモノにもなりたくないんだよ……っわかってくれ」

 口では「逃げろ」「離れろ」と言うのに、キリアンは縋るようにジゼルの肩口に顔を埋めてくる。

「苦しいの?」
「……苦しい」

 先ほどからずっと、脚に硬いものが当たっている。
 普通なら、逃げるべき状況だろう。ヴィンセントのことを思うなら、キリアンを突き放すべきだ。それなのに、ジゼルはキリアンを拒絶することはできなかった。

「…………ッいやがってくれよ」

 そうじゃないと、このまま――

「キリアンは、あの人たちと同じじゃないよ。同じなんかじゃない」

 ジゼルはふと、キリアンに避けられていたときのことを思い出す。そのときに感じた寂しさがなんだったのか、今やっとはっきりした。――これは、いけない感情だ。抱くことの許されない想いだ。気づいてはいけなかったのに、気づいてしまったらもう後戻りできない。
 キリアンに避けられて悩んでいるときに、ヴィンセントが言っていた言葉が脳裏をよぎる。――「おまえが何をしようと、どんな選択をしようと、私のそばにいるのならなんだってかまわない」と。ヴィンセントはジゼル本人さえ自覚していなかった感情を、見抜いていたのだろうか。

 ジゼルはキリアンの耳元に唇を近づける。
 ふ、と吐息がかかると、キリアンはビクンと震えた。

「――――いいよ」

 弾かれたように身体を起こしたキリアンが、信じられないといった表情でジゼルを見下ろす。

「キリアンなら、いいよ」

 短い葛藤のあと、チッと舌打ちする音が聞こえた。

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