エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

文字の大きさ
98 / 132

46-1.初めての発情期 ※

しおりを挟む



「ツノ?」

 金色の頭の上に、黒く長いツノが二本生えていた。前に見せてもらったときよりも、随分長くなっている。てっきりヴァルトロにコツを聞いてツノを隠せるようになったと思っていたのに、急激にツノが伸びたのだろうか。
 キリアンは自分のツノをガシッと両手でつかんだ。

「えっ、なんでツノ出てんだ? ずっとしまってたのに。ていうか、なんか伸びてるような……」

 キリアンは混乱した様子だった。ツノは無自覚で出ていたらしい。ツノを隠そうとしてうんうん唸っているが、一向にツノは消えそうになかった。それどころか服を突き破り背中に羽が生え、驚いて立ち上がったキリアンの背後には尻尾も揺れている。

「なんか、ヤバイかもこれ……ッ、う、ぐ」
「キリアン……!?」

 突然胸を押さえて蹲ったキリアンのもとへ、ジゼルは慌てて駆け寄った。

「きゃっ」

 キリアンに近づいた途端、物凄い力で腕を引かれて押し倒される。
 ジゼルに馬乗りになったキリアンは、瞳孔がキュッと細まり、頬は上気していた。とてもじゃないが正気には見えない。

「き、キリアン……? どうしちゃったの?」
「ふー……っ! ふー……っ!」

 ケモノのように息を吐くキリアンは、ジゼルの言葉が耳に入っているかどうかも疑わしかった。ジゼルの両手を床に縫いとめて、胸に顔を埋めてくる。ジゼルの手首をつかむ力は非常に強く、鋭く伸びた爪の先が肌に食い込んだ。
 谷間を舐め上げ、時折強く吸いついたり甘噛みをされ、ジゼルは身を捩った。

「いや……っ、キリアン!」

 大きい声で呼ぶと、キリアンの肩がビクッと揺れる。
 キリアンはゆっくりと顔を上げ、ジゼルの手首を解放した。赤い瞳が揺れていて、キリアンは全身をぶるぶる震わせている。

「ちが、ちがう……!」

 キリアンの声は掠れていた。

「身体が変なんだ……っ、ごめん、ごめん、俺から離れてくれ……!」

 離れてくれと言うくせに、尻尾が足に絡みついてくる。キリアンに掴まれていた手首が、まだ熱い。キリアンの瞳は熱っぽく潤み、ジゼルを欲しているように見えた。そんな眼差しを、ジゼルはよく知っている。――夜、ベッドの上で、ヴィンセントがジゼルを見つめるときの熱によく似ていた。

「…………発情期?」

 以前ちらっとヴィンセントに聞いた覚えのあるそれが今の状況にしっくりきて、ジゼルは無意識に呟いていた。

「はつ、じょう、き……?」

 キリアンは顔を歪め、下唇をきつく噛む。身体の中でマグマがぐつぐつと煮えているように熱い。熱くて、熱くて、乾く。喉が渇いているんじゃない。満たされない欲望が、ひりつくような激しい渇きを訴えていた。
 目の前のメスを食らえと本能が叫んでいる。

「……ッ、はやく、逃げろよジゼル……!」
「…………」

 自制できているうちに。――なのにいつまでたっても逃げようとしないジゼルに焦れて、キリアンはいけないとわかっていてもつい怒鳴り声を上げた。そうすればジゼルが怖がって逃げるだろうと。

「なんで逃げないんだよ! 逃げろっつってんだろうが!」

 今にも理性をなくしてしまいそうだった。でも、ジゼルの前で理性をなくすわけにはいかない。どうにもならない衝動を燻ぶらせたキリアンが「クソッ」と吐き捨てると、突然ジゼルの手が頬を包み込んできた。

「キリアン」
「……なんで、逃げねぇんだよ」
「キリアンが泣きそうな顔してるから」

 イライラする。イライラしてたまらない。キリアンは忌々しげに眉を寄せた。

「俺は、おまえのこと苦しめた奴らと同じになりたくない……理性なくして無理矢理犯すようなケモノにもなりたくないんだよ……っわかってくれ」

 口では「逃げろ」「離れろ」と言うのに、キリアンは縋るようにジゼルの肩口に顔を埋めてくる。

「苦しいの?」
「……苦しい」

 先ほどからずっと、脚に硬いものが当たっている。
 普通なら、逃げるべき状況だろう。ヴィンセントのことを思うなら、キリアンを突き放すべきだ。それなのに、ジゼルはキリアンを拒絶することはできなかった。

「…………ッいやがってくれよ」

 そうじゃないと、このまま――

「キリアンは、あの人たちと同じじゃないよ。同じなんかじゃない」

 ジゼルはふと、キリアンに避けられていたときのことを思い出す。そのときに感じた寂しさがなんだったのか、今やっとはっきりした。――これは、いけない感情だ。抱くことの許されない想いだ。気づいてはいけなかったのに、気づいてしまったらもう後戻りできない。
 キリアンに避けられて悩んでいるときに、ヴィンセントが言っていた言葉が脳裏をよぎる。――「おまえが何をしようと、どんな選択をしようと、私のそばにいるのならなんだってかまわない」と。ヴィンセントはジゼル本人さえ自覚していなかった感情を、見抜いていたのだろうか。

 ジゼルはキリアンの耳元に唇を近づける。
 ふ、と吐息がかかると、キリアンはビクンと震えた。

「――――いいよ」

 弾かれたように身体を起こしたキリアンが、信じられないといった表情でジゼルを見下ろす。

「キリアンなら、いいよ」

 短い葛藤のあと、チッと舌打ちする音が聞こえた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...