エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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 ――――ベッドが微かに揺れている。微睡みのなかから引き上げられたジゼルは、重い瞼をゆっくり開閉して音のするほうをぼんやりと眺めた。月明りに照らされた薄暗い部屋の中で、ベッドに座っているシルエットが見える。

(お兄様……?)

 まだ眠っていなかったのかと思い声をかけようとして、ジゼルは直前で思いとどまった。

「……っ、ふ、……、ン」

 ほとんど後ろ姿しか見えないけれど、ヴァルトロの右手が忙しなく動いている。漏れる吐息や上擦った声を聞いて、ヴァルトロが何をしているのか察したジゼルは、息を潜めると慌てて目を閉じた。幸いなことに、ヴァルトロはジゼルが起きていることにまだ気づいていないようだ。

 目を閉じていると、余計に音や声が気になった。
 ヴァルトロは自慰をしている。――しゅっ、しゅっ、と擦る音が絶え間なく聞こえていた。陰茎を握って、擦り、溜まった精液を出すための行為だ。ヴァルトロにもそういった欲があることを、想像したことがなかった。ヴァルトロもまた男なのだと、ジゼルは強く意識してしまう。
 どうしてジゼルが寝ている横で、とか気になることは多々あれど、今ジゼルにできるのは寝たふりを続けることだけだった。
 ジゼルが起きていると知ったら、きっとヴァルトロは恥ずかしがるだろう。そんな気遣いの気持ちだったが、ジゼルはすぐに後悔した。

「ん……ッ、ふ、……くっ、ジゼル、ジゼル……!」

 まさか自分を欲望の糧にして自慰をしているとは思うまい。名前を呼ばれるたびに瞼がピクリと動いてしまう。いつバレるかと冷や冷やした。早く終わって、とひたすら祈る。瞼を閉じていようと、都合よく眠気は訪れてくれない。
 ヴァルトロの荒い息遣いがジゼルの気を散らす。陰茎を擦る音に、ぬち、と粘り気のある音が混じり、ヴァルトロが小さく息を詰めた。その声がやけに色っぽくて、ドキドキする。

 自分でするのは気持ちいいんだろうか、とふと考えてしまった。ヴァルトロは今どんな表情をして自慰に耽っているのか、見てみたい。いつも優しく微笑んでいる印象のヴァルトロの表情が、快感に歪むさまを。
 一度気になりだすと好奇心というものは止められなくて、ジゼルは薄目を開けてヴァルトロの背中を見つめた。残念ながら顔は見えない。相変わらず右手は陰茎を擦っていて、時折背中が丸まったり、腰がビクンと震える様子だけが見えた。

「は……ジゼル、っ」

 掠れた声で名前を呼ばれると、おなかの奥のほうが疼いた。
 ヴァルトロは頭の中でどんなふうに自分を抱いているのだろうか、と想像してしまう。するとその疼きが強くなって、腹の底がぐらぐらと煮えるように熱くなった。とろ、と脚の付け根の間からぬめったものが垂れる感触がして、ジゼルは思わず脚をすり合わせる。
 人の自慰を盗み見て興奮しているだなんて、はしたなくて恥ずかしい。ジゼルはぎゅっと目を瞑る。いっそ耳も塞いでしまいたかった。はあはあと乱れた息を吐くヴァルトロにつられるように、ジゼルの呼吸も乱れていく。

 ヴァルトロは快感を追うのに夢中になっているようだ。達しそうなのか、声は艶を帯び吐息が震えている。ヴァルトロが小さく声を漏らすたびに、指の先から痺れていき、おなかのほうまでびりびりと刺激が広がった。
 股の間が不快感を覚えるほど濡れている。ジゼルはなぜそこがそうなっているのか、うっすらと気づいていた。――これは女が欲情しているときの反応だ。自分は、ヴァルトロに抱かれたがっているのだと。

「ぁ、イく……ッ、ん、っふ」

 ベッドが少しだけ大きく弾む。今、ヴァルトロは射精したんだろう。ジゼルを頭の中で抱いて、興奮して、精を放つまで至ったのだ。ジンジンと甘く痺れる子宮は、まるでヴァルトロの子種が欲しいと叫んでいるようだった。

 ごそごそと何やら音がしたあと、ジゼルの枕元がヴァルトロの体重で沈んだ。ジゼルは息を潜めて寝たふりを続ける。まだ少しだけ乱れている吐息が髪を撫でた。

「……狸寝入りしている悪い子は、誰かな?」

 耳元で笑い混じりに囁かれ、ジゼルは息を止めた。バレている。けれどどんな顔をしたらいいかわからなくて、ジゼルは寝たふりを続行した。すると耳にちゅっとキスをされる。喉まで出かかった悲鳴を飲み込むジゼルを見て、ヴァルトロは「強情だね」と笑った。

「さっきから甘ぁい匂いがしているけれど、僕が啜ってあげなくて大丈夫?」

 そうだ、人よりも嗅覚が優れている彼らには匂いで全部筒抜けなことを忘れていた。最初から寝たふりが無意味だったことを悟り、ジゼルはもっと恥ずかしくなってしまう。結局瞼を開けられず、そうしているうちにいつの間にか眠ってしまったようで、朝になって起きたときにはジゼルはベッドの端のほうで丸くなっていた。

 ジゼルの匂いが充満している部屋ではさすがに眠れなかったらしい。ヴァルトロは夜中のうちに部屋を出て行ったようだ。顔を合わせずに済んでホッとしたような、わずかに寂しいような、複雑な気持ちだった。

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