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54-1.あざとい男 ※
支度を整えて食堂に向かうと、ヴァルトロと鉢合わせた。本来ならば自慰を見られたヴァルトロが恥ずかしがるべきなのに、気まずく思っているのはジゼルだけのようだ。朝から爽やかな笑顔で出迎えられる。
「おはよう、ジゼル」
「……おはようございます」
ジゼルばかりが意識しているようで悔しい。少しばかり寝不足なのも相俟って、ジゼルは恨めしげにヴァルトロを見つめた。
ヴァルトロは既に朝食を終え、紅茶を飲んでいるところだったようだ。その紅茶のカップももうほとんど空に近い。だというのにヴァルトロはジゼルが朝食を食べる様子をずっと眺めていて、結局食べ終わるまで居座ったのだった。
居心地が悪くてヴィンセントの姿を探したが、彼はあまり朝食の席にはこない。もともと食に興味が薄いのか、食べなくても支障がないのか、ヴィンセントが食事をしているところをそれほど見たことがなかった。魔物も食べる、と以前言っていたから食事は必要なのだと思うが、もしかしたら栄養を溜めこんでおける便利な身体なのかもしれない。
いつもより早く朝食を食べ終え席を立つと、ヴァルトロもついてきた。どうせ向かう先はいっしょだ。同じ執務室を使っているのだから。
並んで廊下を歩く。いつもは何かしら会話をしながらのことが多いが、今日はなんの話題を振ったらいいかわからず、ジゼルは無言を貫いた。
ずっとジゼルに歩調を合わせていた足音が突如やむ。
不思議に思って横を見ると、ヴァルトロの姿がない。
「…………ジゼル、もしかして僕のアピールは負担かな?」
不意に悲しげに問われ、ジゼルは足を止めて振り返った。
ヴァルトロは少し後方で立ち止まっている。うつむいていて、表情はよく見えなかった。
――いやだとか、負担とか、そういうのじゃない。ただヴァルトロの思惑どおり、ジゼルが彼を変に意識してしまっているだけだ。
意識しすぎるあまり露骨な反応をしてしまっていたことに思い至り、ジゼルは慌ててヴァルトロに駆け寄った。悲しませたいわけじゃなかったのに、気まずいからと寝たふりをして無視をしたり、恨めしげに見つめたことがヴァルトロの心を傷つけてしまったようだ。
「お兄様っ、私……!」
ヴァルトロの目の前に立った途端、両手をつかまえられる。見上げたヴァルトロの表情は悲しげでもなんでもなく、いつもどおりの穏やかな笑みが浮かんでいた。ヴァルトロの胸に押され、足がふらついて壁に背中がくっつく。そうして壁に手をついたヴァルトロに囲い込まれ、罠にはまったウサギのような気分だった。
「いやだったら突き飛ばしていいよ」
甘く目を細めたヴァルトロの顔が、ゆっくり近づいてくる。
ちゅっ、と唇を啄まれた。
「……いやじゃないんだ?」
ヴァルトロがうれしそうに笑うのを目にして、きゅんと胸が鳴った。
――一度口づけを許すと、ヴァルトロは隙あらばキスをしてくるようになってしまった。これでは心臓がもたない。日に日にエスカレートしていくキスは、今では軽く舌を絡めるまでに発展している。
ヴァルトロとのキスに、嫌悪感は一つもない。むしろ心地よくて、いつヴァルトロがキスをしかけてくるかと心待ちにしている自分もいた。ジゼルはもうわかっている。己が、ヴァルトロを男としても好きだと。最初から答えは決まっていたのだ。
ヴァルトロだってきっとジゼルの気持ちなんてお見通しなんだろう。それでもジゼルに合わせてゆっくり、気持ちを受け入れる時間を与えてくれているのだ。
それからもヴァルトロはジゼルをデートに連れ出してくれた。初めてのオペラ鑑賞に、池でのボート遊び、それからカフェ巡り。どこに行くにも楽しくて、妙にドキドキして、ずっと気持ちがふわふわ浮ついたような気分だった。
屋敷について、部屋の前で「おやすみ」と言って別れるのが寂しい。
◇◇◇
馬車の中、ヴァルトロは窓にかかったカーテンをめくって夕焼けに染まった空を眺めている。茜色が映り込んだ瞳の色に見惚れ、ジゼルは空なんて一切目に入らなかった。
「今日も楽しかったね。普段こうやって遊びに出かけることは少ないから、僕も新鮮な気分だよ。ジゼルといっしょだと見慣れた北部の景色もきれいに見えたりして、不思議だ。ジゼルさえよければ……デートじゃなくてもいいからさ、これからも遊びに行こうね。……あ、でも、結婚したらドラウス帝国にすらなかなか来られないだろうな……」
空を見上げていた瞳が、ジゼルを映す。ゆったりと微笑んだヴァルトロは両手を広げた。
「おいで」
ジゼルは揺れる馬車の中で立ち上がり、ヴァルトロの膝の上に向かい合うようにして座る。並んで立っているときは遠いヴァルトロの顔が、今は間近にあった。こんなふうにヴァルトロを見下ろしたのは初めてだ。ジゼルを見上げる瞳は蕩けていて、見つめられていると気恥ずかしくなるほど甘ったるい。
探るように唇が重なる。ジゼルが受け入れると、ヴァルトロは舌を入れてきた。最初はこれまで戯れのようにしていたのと同じで、軽く舌先が触れ合って、徐々に深まっていく。だんだんと遠慮がなくなっていき、なまめかしい音を立てて唾液も舌も絡め合わせた。
同時にヴァルトロの指先が腰や背中を愛撫する。ただ撫でられているだけなのに、いちいち身体が跳ねてしまった。
「んんっ、ぁ」
ジゼルの唾液も嚥下して、ヴァルトロは貪るように、けれどあくまでも優しくキスを続ける。
ゆっくりと口の中を這い回る舌の動きに翻弄され、ジゼルの意識は次第にとろんとふやけていった。ぐちゅぐちゅと口内をかき回されるのが気持ちいい。頭がぼんやりとするくらいジゼルも夢中になっていた。
ヴァルトロの首に両腕を回してしがみつく。そうしていないと馬車のシートに倒れてしまいそうなほど、下半身に力が入らなかった。
背中を撫でていた手に腰を抱き寄せられ、より密着する。
「……っ、ふ、あ」
硬くて熱いものが、内腿の際どいところに当たっている。ジゼルが少しおしりをずらすだけで、秘所に膨らみが触れた。既にぬかるんでいたそこはさらに蜜を溢れさせ、下着に染みていく。
馬車の揺れで膨らみが秘所に擦れるのを避けたくて、ジゼルは身体を捩って腰を浮かせようとした。
しかしヴァルトロの両手につかまって、下へ引っ張られる。そうするとぐっしょり濡れた割れ目に先端が押しつけられ、まるで性交しているときのようにぐっ、ぐっと突かれた。下着ごと食い込んだ先端が膣口を少しだけ拡げている。ヴァルトロの陰茎はすでにとても硬く滾っていて、薄い布なんて突き破ってしまいそうだった。
舌を絡める濡れた音が、挿入しているときの音のように聞こえる。背中や脇腹を撫でていく指は官能を引き出し、痺れるような快感を生むけれど、布越しの愛撫はジゼルをひどくもどかしくさせた。
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