その悪女は神をも誑かす

柴田

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ケイリクス・ケイト・ヴェドニアが執着する理由(2) ※

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「余の子どもはいらぬと? だが余はそなたとの子が欲しい。なに、ユージーンのことは心配する必要はない。女児であれ男児であれ、そなたとの子を世継ぎにすることを誓おう」
「でも……、まだもう少しふたりきりで楽しみたいと思ってはいけませんか……?」

 しおらしく言うと、ケイリクスはいたく感動したようだった。
 ケイリクスはすぐさまベルを鳴らして侍女を呼びつける。メリーティアの要望どおり避妊薬を持ってこさせると、自分でそれを飲み干した。

「陛下が飲んでくださるのですか?」
「安全な薬ではあるが、万が一そなたの身に何かあってはいけないからな」

 ふつうの神経を持っていたなら、皇帝の身こそ尊いものだ、とメリーティアに避妊薬を飲ませただろう。けれど自分が進んで口にしたということは、ケイリクスが自身よりもメリーティアのことを大事だと考えていることの表れだった。
 彼がメリーティアの大切なものを壊すような猟奇的な一面を持っていなければ、気持ちを揺さぶられたかもしれない。けれどどれだけ今のケイリクスが献身的に尽くそうと、あの過ちはメリーティアの中から消えることも薄れることもなかった。挽回できるときは一生訪れないのだ。

「――一年だ。一年だけは我慢してやろう。それでいいかい?」
「はい。わたしの気持ちに寄り添ってくださってありがとうございます」
「そなたのおねだりにはどうにも抗えそうにない」

 ケイリクスはくすりと笑うと、メリーティアの腰を跨いだまま下衣を寛げた。すでに滾りきったそれは年齢にそぐわぬ力強さがある。彼が早漏で、一度しただけで満足するような男ならよかったが、そうではないことをメリーティアは知っていた。

 ドレスを脱がす手間も惜しみ、膝をこじ開けて足を開かされる。
 秘所に肉槍をあてがわれた瞬間、メリーティアは思わずぎゅっと目を閉じて息を止めた。

「メリーティア、怖がらないで。さあ身体から力を抜いてごらん。あぁまるで生娘のようじゃないか。ますます興奮する。……グウェンダルよりも、ネビル・ブレイドよりも、ヨハンセンよりも、余こそがそなたを満足させられることを証明しよう」

 ぐぐ、と押し入ってくる異物感に反射的に吐きそうになって、メリーティアは口元を押さえた。――覚えている。ケイリクスの熱を覚えてしまっていることが嫌で嫌でたまらない。
 不審がられないかと思ったが、彼はメリーティアが声を我慢していると勘違いしたようだった。

「……はあ、そなたの中はひどく心地がいい。想像以上だ。痛みはないか?」

 メリーティアが頷くと、ケイリクスは口元を笑みの形に緩めた。
 脚を左右に押し広げたまま、メリーティアの肢体と結合部をねっとりと眺めたあと、ゆるやかに腰を振り出す。時折息を詰めるケイリクスは、念願が叶ったことで感無量の様子だった。

 下衣を寛げただけでジャケットも着込んだままのため、涼しげな美貌が汗に濡れている。だんだんと交接が激しくなっていくと、髪を結んでいた紫色のリボンがするりとほどけた。髪が乱れても、汗をかいていても、歯を食いしばっている顔さえ色気が滲む。
 心底嫌いな人間にもかかわらず、きれいな顔だという感想が浮かんだ。

 ヴェドニア帝国の皇帝という揺るがぬ権力を持ち、流し目を送るだけでどれだけ貞淑な貴婦人であろうと頬を赤らめるような美貌だ。このような恵まれた立場にいる男が、なぜメリーティアに過度な執着を抱くのか理解ができなかった。
 彼はメリーティアをしきりに称賛するが、美しいものを見たいだけならば鏡に映った自分の顔でも見ていればいい。

 ぶるりと背中を震わせたケイリクスに抱き締められる。胎内に熱いものが広がる感覚がして、彼が達したのだと知った。
 媚薬で感度が上げられた身体はたしかに快感を得ているのに、心が冷え切っていて、行為を俯瞰で見ているような感覚だ。

「……は、はぁ、あまりに気持ちよくて、もたなかった……ふ、伽を覚えたての少年の気分だ」
「んっ、……ふ、んう」

 口づけに応えると、舌を絡めとられる。ケイリクスの長い髪がカーテンのように垂れさがって、閉じ込められている気分だった。邪魔くさい髪をさりげなく耳にかけてやる。
 重なった胸からは、激しい鼓動が伝わっていた。

「――陛下は、どうしてわたしのことをこんなにも好いてくださっているのですか」

 顔が好きだと言うなら、いっそ顔面を焼いてしまおうか。身体が好きだというなら、今とは真逆の体型になってみようか。そんなことで逃れられるなら楽だった。けれど離宮に閉じ込められて日々やつれていくメリーティアさえ愛していたケイリクスが、それだけで諦めるとは思えない。
 一体何がそんなにケイリクスを惹きつけるのだろう。

 ずっと不思議に思っていたことを尋ねてみると、彼は「うん?」と首を傾げた。

「そなたが余を誘ったんだ」
「……え?」
「デビュタントボールで、余を熱いまなざしで見つめただろう」

 この男は何を言っているんだろう。
 メリーティアはそう思った。

 ケイリクスが言うようなことをした覚えが一切ない。デビュタントまで領地にこもりきりだったメリーティアは、初めて目にする皇帝を物珍しさからちらっと見るくらいはしただろう。けれどそれだけだ。熱いまなざしを向けたつもりも誘ったつもりもない。勘違いも甚だしかった。

「その瞬間から余はそなたの虜だ。そなたが余を狂わせた」

 うっそりと微笑まれ、背筋を悪寒が走り抜ける。
 理屈や常識が通じるような相手ではないということがはっきりした。

「メリーティア、次はそなたも気持ちよくしてあげよう。身体を委ねて」

 ジャケットもシャツも脱ぎ捨てたケイリクスは、メリーティアのドレスも脱がせると再び中に押し入る。腰を反らして膣壁の上部を擦るように律動しながら、陰核を指でくりくりとこねた。そうされるとどうしようもなく気持ちよくなってしまう。我慢できずに極まると、うれしそうなケイリクスに「締まった」と実況された。

 胸も腋も舐められ、至るところに痕をつけられる。
 このあとどうせ秘所も舐め尽くして、内腿にびっしりと痕を残すつもりだ。ケイリクスの愛は変態的で、毎回メリーティアの身体のすべてを舐めないと気が済まないようだった。おしりや足先も舐めては恍惚としていたのを覚えている。経血まで啜りたいと言われた日には死ねばいいのにと思った。
 ケイリクスと交わっていると嫌な記憶ばかりがよみがえってくる。
 こんなこと、そう何度も繰り返したくなどない。

 ――早く。早く。早く。
 この悪夢のような日々を終わらせられるそのときが一日でも早くくるのを、メリーティアは希うことしかできなかった。

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