幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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13ー1.デイヴィット・シルフストンの顛末

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 ロド帝国の帝都にある貴族街。そこは決してきらびやかなだけの場所ではない。その中でも、ひときわ陰謀と欲望渦巻く一角。それはカジノであった。金と時間を持て余した者が遊興にふける場でもあり、一発逆転を狙うギャンブラーが集う場でもある。
 ――さて今度はどちらの種類の客だろうか。
 ポーカーテーブルに新たに座った男を見やったディーラーは、静かに息を呑んだ。

「ヘンリー・イングリッド公爵!」

 そう声を上げたのはディーラーではなく、同じテーブルに座っていたデイヴィッド・シルフストンであった。

「やあ。奇遇だね。せっかくだから僕と勝負をしてくれないだろうか?」

 つい先日、イングリッド公爵家の別邸であったことを恨みに思っていたデイヴィッドは、わなわなと拳を震わせてにらみつける。ニーナにされたことは許しがたく、その場をセットしたヘンリーのこともデイヴィッドの中では同罪だった。そして帰りの馬車がなくてそれはそれは大変だったのだ。大通りまでなんとか歩いていったけれど、手持ちの金がなく、流しの馬車に乗ることさえ難しかったのだ。宝石のついたカフスボタンを御者に渡すと渋々乗せてくれたけれど、そのカフスは大層お気に入りだったため、さらにヘンリーへの恨みは深くなった。

 カフスの代金を請求したいくらいだが、ここはカジノだ。そしてヘンリーはアングラな世界のことなど一切知らないといった高潔な貴族。カモにしたほうがよっぽど稼げるに違いない、とデイヴィッドは握った拳をほどいた。
 へら、と笑顔を浮かべてヘンリーに答える。

「俺はかまいませんが、イングリッド公爵はポーカーなんてやったことないでしょう?」
「そうだね。カジノに来たのも初めてだよ。ルールもよくわからないしすごく緊張しているから、サシで勝負してくれるとうれしいな」
「ハハハ、もちろんサシでいいですよ。楽しい夜にしましょう」
「お手柔らかによろしくね」


 ゲームが進むにつれ、デイヴィッドの前にはチップの山ができていた。

「君がツーペアで僕がワンペアか。また僕の負けだね」

 さらに山が積み上がり、反対にヘンリーの前にはほとんどチップが残っていない。すでに勝敗の見えた勝負だった。

「全然勝てないや」
「イングリッド公爵、まだ続けますか? 負けて悔しい気持ちはわかりますが、この辺でやめておいたほうがよろしいのでは?」
「うーん……チップは買い足してもいいの?」

 上機嫌のデイヴィッドは二つ返事で頷いた。ヘンリーがさらに賭けを続けてくれるというなら、自分のチップの山がもっと積み上がるだろう、という期待がそこには滲んでいる。表面上は穏やかな笑顔をずっと浮かべているヘンリーだが、おそらく負けっぱなしで悔しいのだ。負かせば負かすほどムキになって勝負にノってくるだろう。デイヴィッドはほくそ笑んだ。

「当カジノには、少々金利がお高めにはなりますが貸金業者もおります。いかがいたしますか?」
「小切手は使える?」
「ええ。お使いになられますよ」

 ヘンリーはディーラーに小切手を渡すと、書かれた金額分のチップをもらった。
 デイヴィッドと同じぐらいになるようチップを追加したヘンリーを見て、デイヴィッドは目を輝かせる。最初のチップもそれなりの金額だったにもかかわらず、ポンと追加してしまうのを見ると、ヘンリーの金銭感覚はかなり緩そうだ。イングリッド公爵家がこれくらいの出費でどうこうなるとは思えないため、揺すればいくらでも出てきそうだった。

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