幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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【番外編】『これ以上ないほどあなたを愛しています』 後

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 汗を流したヘンリーは、どうやら仕事に戻ったようで執務室にいるらしい。ちなみにエドワードは午後の授業の時間だ。

 執務室の扉の前に立ったダリアだが、両手が塞がっていて扉をノックできない。侍従に開けてもらう、という選択肢があったが、ヘンリーの驚く顔を間近で見たかった。

「ヘンリー! 私よ。ちょっと開けてくれるかしら?」

 呼びかけると、ガタガタッと慌ててイスから立ち上がったような物音が聞こえてくる。まるで主人の出迎えに急ぐ犬のようだと思いつつも、ダリアの顔は緩んでいた。ヘンリーは結婚から何年経っても、ダリアのことを第一優先にしてくれる。

 勢いよく開いた扉の向こうに、「まさか何かあったのか」とでも聞きたげなヘンリーが立っていた。
 顔を観察したあと、ヘンリーの視線がダリアの手元へと下がっていく。

「鉢なんて持ってどうしたの? 重いでしょ。僕が持つよ」
「ありがとう」
「ダリアが育てるの?」
「ええ。ミニ薔薇だって庭師が言っていたわ」
「薔薇……」
「あのね、私植物は育てたことがないからどうやってお世話したらいいかわからないの。だから、ヘンリーがいろいろと教えてくれるかしら? ヘンリーは薔薇を育てるの得意でしょう?」

 庭園で薔薇を育てられないなら、子どもが立ち入らないヘンリーの執務室で育てればいいとダリアは考えたのだ。庭師に言うとすぐに馴染みのフラワーショップから、室内でも育てられる品種を調達してきてくれた。

「ダリア……僕のために?」
「違うわ。私が育てたかっただけよ」

 薔薇の苗を見つめ、ヘンリーがうれしそうに目を細めていた。それを横目に盗み見るダリアも口端を緩める。他人がうれしそうだと自分もうれしい、だなんてヘンリーがいなければ知ることはなかったであろう感情だ。

「ちなみに何色の薔薇が咲くの?」
「赤よ」
「そう。ちなみに赤い薔薇の花言葉って知ってる?」
「しっ、知らないわ!」

 顔を真っ赤にして動揺するダリアを、ヘンリーは愛おしげなまなざしで見下ろす。
 その視線がくすぐったくて、ダリアの頬がさらに色づいていった。

「じゃあ僕はダリアに101本の薔薇の花束を贈ろうかな」
「……どういう意味があるの?」
「あははっ、やっぱり赤い薔薇の花言葉知ってるんでしょ?」
「知らないってば!」
「ふふっ、そういうことにしておいてあげる。でも花束の花言葉は教えてあげないよ。僕が君にプレゼントするまでに、自分で調べてみて」

 くすくすといたずらっぽく笑うヘンリーに対して、ダリアは歯がゆそうにする。ヘンリーにサプライズをするつもりだったのに、まさかやり返されるとは思ってもいなかったのだ。


 翌日には、イングリッド公爵邸の図書室で花言葉を調べるダリアの姿があった。

 そして数日後、ヘンリーから101本の薔薇の花束をプレゼントされたダリアが、物凄く照れくさそうに受け取っていたとかなんとか。
 ヘンリーの執務室に置かれることとなったダリアのミニ薔薇は、翌年の春にはきれいに赤い花を咲かせてくれたのだった。


おわり
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感想 1

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みんなの感想(1件)

hiyo
2025.04.08 hiyo

甘くて優しいハートチョコレートみたいな物語でした。
夢見るシンデレラストーリーかな?
世知辛い世の中、素敵なお話を有難うございました。

解除

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