ウチの学校の番長は特進科2年生

夏輝

文字の大きさ
3 / 20

特進科2年生、学校を仕切ることになる

しおりを挟む
 三章
 
 翌朝、学校近くの駅の改札口を出た律輝りつき紗里さりを見つけた。紗里の自宅は学校を挟んで駅の反対側にあるため、わざわざ来ないと会うことはない。
 道行く人をキョロキョロ見ていた紗里は律輝に気づいて、心配そうな顔で駆け寄って来た。
 「昨日、村山をシメたんでしょ? どうして言ってくれなかったの? 帰りに少し遅れたときでしょ?」
 「歩きながら話そう。遅刻するよ」
 そう言って、律輝は学校の方向に歩き出した。ばつの悪そうな顔をしている。
 「‥‥なんで知ってるの?」
 「本人たちが何も言わなくても、この手の噂は自然に広まっちゃうの。ねえ、どうしてそんなことになったの?」
 律輝はうつむいた。
 「‥‥あいつがサリと別れろって言って、ケンカ売ってきたから」
 今度は紗里がうつむいた。
 「あたしのことでケンカになったの‥‥?」
 歩きながら律輝は黙っていた。紗里に責任を感じさせたくはなかった。黙っている律輝の顔を紗里は困惑した顔で覗き込む。
 「理由はともかく、普通科の3年の男たちが騒いでるの。あんたをシメてやるって」
 「えっ? なんで? 僕、他の3年生には何もしてないよ」
 紗里はため息をついた。
 「あんたが特進の2年っていうことが問題なの。村山はあれでもこの辺りじゃ名の通った奴だった。それをあんたがぶっ飛ばしたら、他の学校から見ると、太陽学園は特進の2年が仕切ってるって思われちゃう。そうならないように3年があんたをシメて、ウチの学校を仕切っているのは普通科の3年だって見せなきゃいけないの」
 「なんで?」
 「3年生のメンツが立たないからよ」
 「何だか面倒だなぁ」
 「面倒なんて言わないで。とにかく、3年に詫びを入れなさい。『3年生を舐めてる訳じゃありません。以後気を付けます』って」
 律輝は納得いかない表情だった。
 「悪いことしたとは思ってないんだけどなぁ」
 「バカ!」
 紗里の大声に周囲を歩いていた人たちがこちらを向いた。紗里は肩をすくめる。
 「あのねぇ、村山に勝ったんだから、あんたも強いんだろうけど、3年生は何人もいるんだよ。こっちから詫び入れないと、そのうちボコボコにされちゃうんだから」
 納得はしていないが、律輝は渋々うなずいた。
 「わかったよ。頭下げるよ」
 ようやく紗里はホッとした表情になった。
 「じゃあ、あたしがセッティングしとくから、放課後時間取ってね。昼休みは1人で食べて。あたしは3年の中を駆け回ってるから」
 ―変なことになったなぁ‥‥—
 律輝は憂鬱な気分だった。

 その日の昼は久しぶりに特進科の教室で、1人で母の作ってくれた弁当を食べた。特進科と言っても高校生だから、昼休みは賑やかだった。
 そこに同じクラスの谷川圭介が声をかけてきた。律輝の数少ないクラスの仲良しだ。紗里と付き合うようになってから、他のクラスメイトは律輝を遠巻きに見るようになっていた。
 「矢村君、珍しいね。今日は3年生の彼女と一緒じゃないの?」
 「うん。なんか用事があるんだって」
 「そう」
 そう言って、圭介は声をひそめた。
 「今度の中間テスト、頑張らなきゃダメだよ。みんな、矢村君が彼女にうつつを抜かして、成績が落ちるのを期待してるんだから」
 またもや律輝の心は暗くなっていった。


 放課後。律輝は紗里に連れられて、学校近くの滅多に人が通らない小さな神社に来ていた。境内には普通科の3年生が7人待っていた。律輝が3年生たちの前に進むと、彼らは静かに円形に広がり、律輝を取り囲む形になった。紗里は円の外にいる。
 正面にいるのが武田昇平で、この中のリーダー格だ。武田の右隣の男は右手に木刀を持って、それを肩に掛けていた。
 「お前、俺たちに詫び入れたいそうだな」
 「はい」
 そう言って律輝は深く頭を下げた。
 「3年生のみなさんを舐めている訳ではありません。ただ、僕のやったことで不快な思いをされたのならお詫びします。以後、気をつけますので、今回は許してください」
 紗里はホッとした表情になった。だが、武田は不満そうな顔をしている。
 「それだけか? 全然足りないな」
 そして、紗里を見た。
 「おい、九重ここのえ。お前、こいつにどんなしつけしてるんだ?」
 紗里の眉が吊り上がった。
 「何だよ、それ。リッキはちゃんと頭下げて詫び入れたじゃないか」
 武田は険しい顔になった。
 「村山はあれでもケンカが強いって、他校に名の知れた奴だった。それをボコったこいつをこのままにしておいたら、ウチの学校が他から舐められるんだよ」
 律輝は2人の会話に割って入った。
 「じゃあ、どうすれば許してもらえるんですか?」
 武田はニヤリと笑った。
 「2つのうちから選べ。1つは土下座して俺たちに謝れ。それを動画に撮ってネットに上げる。2つ目は慰謝料として3日以内に20万円払え。どっちかやれば、お前を許してやる」
 暗い表情になった律輝は紗里の方を振り向いた。
 「ねえサリ。この人たち、僕を許す気はまったくないみたい。もっとも、僕も本心から謝っていた訳じゃないからいいんだけどね。危ないから、もう少し下がってくれないかな」
 言い終わると同時に律輝は木刀を持った男に猛ダッシュしていた。
 
 『母の教え二、ケンカは相手のタイミングで始めるな』
 
 突然、動き出した律輝に男たちは完全に意表を突かれた。律輝は木刀を持った男の顔面の右側に強烈なパンチを叩き込む。
 攻撃が左からくれば男も対処できただろうが、木刀を右肩に掛けた状態では防御しかできなかった。だが、律輝の狙いは男の顔ではなく木刀を持った手だった。
 拳が相手の手の甲に当たり、力が緩んだ。その隙に木刀を取り上げ、切っ先を持つと柄の部分で男の鳩尾に強烈な突きを放った。相手は悶絶して倒れ込んだ。
 
 『母の教え三、大人数を相手にするときはリーチが保てる武器を使え』
 
 律輝は木刀を反対に持ち、柄の部分で次々に男たちの鳩尾や肝臓の上を突いていく。切っ先で突くと大ケガをする可能性があるからだ。
 
 『母の教え四、長いものを武器にするときは相手を突け。振り回すと隙ができる』
 
 流れるような動きであっという間に6人を倒し、最後の1人となった武田の鼻先に木刀を突きつける。
 「まだやりますか?」
 武田の目は驚愕で見開かれていた。こんなに強い奴今まで見たことない、そんな目だった。
 「待ってくれ。俺たちの負けだ。悪かった」
 そして、驚愕から懇願の目に変わっていった。
 「頼む、ウチの学校を仕切ってくれ。今日、こんなことをしたのには理由があるんだ」
 「理由?」
 律輝の木刀はゆっくりと下に降ろされた。武田は特進科2年生の怪物のような強さに、まだ驚いている紗里を見た。
 「俺たちの3歳年上で田岡秀治ひでじって知ってるか?」
 紗里は首を横に振る。
 「田岡は北山工業を半年で中退した本物のワルだ。中退後は半グレのグループに入って悪いことなら何でもアリの奴になった」
 武田の話によると、田岡秀治ひでじは傷害、恐喝、詐欺、薬物、レイプなどの犯罪を平気でやる本物の悪党で、手下を調達するため、今でも北山工業高校の後輩たちとつながっているという。去年、刑務所に入ったが、今年の9月に出所するらしい。
 「田岡は出所したら、また北山工業の奴らを使って暴れ出すだろう。そうなったとき、太陽学園は手ごわいという印象を持たせないと、ウチの学校の連中に何をするかわからない。だから、生意気なことをした特進の2年はシメとかなきゃならなかったんだ」
 「その田岡って人、刑務所で更生して出てくることはないんですか?」
 武田は完全否定した。
 「そんなことあり得ねえ。あれは根っからの極悪人だ」
 そして、再び懇願の目になった。
 「田岡からウチの連中を守るため、どうか学校を仕切ってほしい。お前ほど強い奴なら安心して任せられる」
 「仕切るって、具体的には何をするんですか?」
 「普段は別に何もしなくていい。ただ、ウチの学校の奴がヤバいことになったときに助けるんだ」
 話を聞いていた紗里が青い顔になった。
 「ダメよそんなの。リッキがケガしたらどうするの。あたしは嫌よ」
 しかし、律輝は考え込んでいるようだった。木刀を放り投げると周囲を見回す。倒してきた3年生たちが起き上がり、地面に正座して口々に「頼む」と言っている。
 「ねえ、サリ。僕は子供の頃から両親に、周囲に困った人がいたら手を差し伸べなさいと言われてきたんだ。武田さんたち困ってるみたいだから、その“学校の仕切り”って引き受けようと思う。許してくれないかな」
 紗里は律輝をしばらくにらみつけたが、肩の力を抜いた。
 「‥‥もう、ホントにお人よしなんだから。わかった。でもね、本当に危ないと思ったら、変な意地張らずに学校や警察に頼るんだよ。これは約束よ」
 「わかった。ありがとう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...