秘密を忘れぬ ~僕はもう一度歩き出す~

青空 蒼空

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 この国に来て 数日が過ぎた
 奏太は 今 お使いに出ていた 

 リラが収穫した野菜と 奏太か捕まえた魚を 持って 小麦粉と砂糖に交換するためだ

 もともと 器用な奏太は 魚を捕まえるのが得意になっていた 
 今や 家族の一員として 大事な戦力になっている

 町の集落の真ん中あたりに 小麦畑や さとうきび畑があり そこの農家の人達に交換してもらうのだ

 ガータが おやつに ダンパーを作ってくれるという
 ダンパーとは 小麦粉と砂糖を入れ水で伸ばして焼くだけの 単純なお菓子だが シュウリは 最高と言っていた

 ここで おやつが食べられると思っていなかったので 奏太はワクワクしている

 建物の密集した所に入っていくと 町のおばさん達が噂話をしているのが 奏太の耳に入ってきた
 リラという言葉が耳に入り 奏太は 思わず立ち止まって 聞き耳を立ててしまった

 「そうなのよ 町の外れの 山の麓に住んでいる あの かわいい子よ」
 「かわいそうに 10年に一度引き渡される 魔術師の養子に なるんですって」
 「今年は 10歳の 子どもは この国で その子だけだそうよ だから決まりですって」

 奏太は 隠れて話を聞いていた
 心臓が 早鐘を打つ 
 もう 破裂しそうだ・・・

 おばさん達が言うには ふた山越えた 魔術師の住む国では 魔法使いたちが増えることがなく 10年に一度 10歳になる子どもを 養子として迎え 訓練する 
 それは 大変厳しく 時に死を覚悟しなければならないらしい・・・

 なんてことだ! リラとは あまり 話をすることはないが 奏太にとっても大事な家族だ 
 リラが いなくなるなんて・・・シュウリもガータも知っているのだろうか・・・

 奏太は 帰路に着いたが リラのことを考えていたから ここまで どう帰ってきたか覚えてない
 しかし 手には小麦粉と砂糖が ちゃんと握られていたから 交換は成立したのだろう

 奏太は ガータに 小麦粉と砂糖を渡した
 さそっく 調理を始める様だ 水で小麦粉をこねだした

 「ねえ ガータ リラは 魔術師の養子になるの?」
  ガータは 奏太の顔をチラッと見て 頷いた

 「なんで! なんで! 止めないの!」
 「きまりだ」

 ガータは あっさりしたもんだ
 
 魔術師の養子になって 苦しむと分かっていて 何故? 止めない!
 家族じゃないのか⁉
 
 「ガータの バカ!」

 奏太は 悲しいやら悔しいやらで 涙が出そうだ
 そこで シュウリが 狩から戻って来る姿を見つけ 走り寄った
 
 「シュウリ! リラが 魔術師の養子になっちゃう!」
 息を切らしながら 奏太は叫んだ
 
 「何を 今更 慌てている それぐらい知ってる」
 「何で ガータもシュウリも そんなに冷静なの⁉ 悲しくないの⁉ 死ぬかもしれないんだよ⁉」
 
 奏太は 必死に訴えた

 「死ぬ? 何言ってんだ奏太? ちょっと落ち着けよ」
 「こんなの 落ち着いてられるか!」
 「昔からの 決まりなんだから大丈夫だよ」
 「大丈夫じゃないから 言ってんだろ!」
 
 奏太は もういい! と叫んで リラの所に走って行った

 リラは いつもの畑に いた
 手際よく 手入れをしている
 
 耳に付いている星のイヤリングは 今日も 太陽の光でキラキラ光っている

 「リラ!」 
 奏太が声をかけた

 リラは 手を休めずに 「なに?」と答える

 「あのさ・・・」
 
 折角 声をかけたのに どう話したらいいか戸惑う
 だけど 思い切って話す

 「魔術師の・・・養子になるって・・・」
 「そうよ もうすぐ 迎えが来る」
 「今日?」
 「今日」

 奏太は 絶句した

 「リラは 嫌じゃないの?」
 「決まりだから」

 リラは 作業を休むことなく続ける
 奏太は 不思議だった みんな淋しくないのか?
 奏太でも 淋しいと感じるのに・・・
 
 「シュウリとガータと別れるの 淋しくないの?」
 「こんなことは 初めてじゃない 今まで多くの人が ここに住み 去って行った」

 それは シュウリからも聞いた 
 リラの両親は リラを残して 国に帰ったことも・・・

 「みんな 絶望して この国にやって来て そして 希望をもって去って行く そんな姿を 私は たくさん見てきた だから淋しくない」

 奏太も この国に来る前は 何もかもが嫌で 疲れ果てていた
 だが今は 奏太の国で経験した 辛い出来事が 違うのかもしれないという気持ちも 少なからずある

 「私は 生まれた時から この国から出たことがない だから 違う世界を見る事が出来る このチャンスは 活かしたい」

 リラが 奏太に顔を向け 視線を合わせ微笑んだ
 初めてみるリラの笑顔は 星のイヤリングの様に キラキラと輝いていた

 「奏太! ここにいたのか!」

 シュウリが 走り寄ってきた
 それと同時に リラが また 作業を始める

 「奏太は 噂好きのおばさんから 情報を耳にしたんだろ」
 「そうだけど・・・」
 「情報を得るのは大事なことだけど 自分の目で確かめることも大事にしろよ」
 「ごめん・・・厳しい修行とか 死ぬとか言っていたから」

 奏太は 噂話に振り回された 自分が恥ずかしくなった

 「言葉で聞くと きつく感じるよな でもさ 新しいことを始めるのは 誰だって厳しいもんだろ? そうやって 習得していく 奏太だって いつも そうしてるじゃん 同じだよ」

 そうかもしれない・・・いつも 奏太は努力している
 それは 決して楽ではないが できるようになるのは 嬉しいから頑張る

 「もっと レベルを上げたいと思うと その分 危険も付いてくる そんなもんだろ 自分は どこまで上達したいか 本人次第 安全な道も危険な道も 間違いではない」

 シュウリは 奏太と違い どこまでも 大人なんだ

 「その 悲劇の部分に 噂はスポットがあたる その方が話が盛り上がるからな だから奏太も どこまで正しいか ちゃんと見極めろよ」

 生きていくのに役に立つぞ とシュウリは 言った

 「シュウリは 僕と違って 物事を広く見る事が出来るんだね・・・」

 奏太は 自分の幼さに ため息が出る
 そんな奏太に「生きてきた環境の違いさ」とシュウリは笑う

 「でも それだけ 私のことを心配してくれたってことでしょ 嬉しかった」
 作業を終えた リラが かわいい笑顔で奏太に告げる

 素直なリラに 戸惑いながら「ありがとう・・・」と奏太は答える

 リラとは 打ち解ける事が出来なかったが 最後に仲良くなれて 噂話に振り回されたことも 満更 無駄ではなかったな と奏太は思った
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