秘密を忘れぬ ~僕はもう一度歩き出す~

青空 蒼空

文字の大きさ
10 / 12

しおりを挟む
 「ダンパーできたぞ」
 ガータが 呼びに来た

 この国での 初めてのおやつに 奏太は 嬉しくてたまらない

 みんなで囲炉裏を囲み その上の石鍋の側面に 薄く延ばされた生地が焼かれていた
 それを はがして食べる

 甘くて香ばしい匂いがする このお菓子は モチっとした食感で ほんのりと甘く やさしい味がした 
 この素朴なお菓子の作り方を ガータに聞く奏太は この先 このお菓子を何度も作ることになる

 おやつが終わるころ 扉の前に 突然モクモクと煙があがり 大きな三角帽に白いひげを蓄えた 1人の老人が現れた

 「じいさん! 外から ノックして入れよ 心臓に悪いんだよ!」
 シュウリが 不満げに話す

 「ハハハ 相変わらず シュウリは 手厳しいのう」
 「手厳しいんじゃなくて 常識! これだから 魔法使いは困るよ」

 この人が 噂の魔術師?
 優しそうな笑顔が 好印象だと奏太は思った

 「リラ 久しぶりじゃのう 大きくなったな」
 魔術師は 嬉しそうに リラの頭を撫でる

 「知り合いなの?」
 シュウリもリラも 初めてでは なさそうだ

 「2年ほど一緒に ここで暮らした ガータと入れ替わりで 国に戻っていったよ」

 なんだ ここで暮らした家族だったのか
 それなら 安心だな と奏太は思った

 「訳アリ魔術師で ここに来たときは まぁー荒れた くそ爺さんだったよ」
 シュウリが笑いながら話しているが こんな優しい顔をした人から 奏太は 想像できなかった

 「人それぞれの ドラマありじゃ ハハハ」
 魔術師は 豪快に笑た

 「リラ そろそろ 行くかの?」

 リラは頷いて その場から立ち上がった
 3人も それに続く
 シュウリが 扉を開け みんなで外に出た

 そろそろ 日が沈む時間だ 辺り一面 オレンジの光に包まれている
 鈴虫のような鳴き声が聞こえだす

 その鳴き声を聞いていると 奏太は自分の国を思い出す
 みんな 元気だろうか・・・会いたい・・・帰りたい・・・

 「シュウリ ガータ 奏太 今まで ありがとう・・・」

 リラが 小さな声で言った 
 目が赤くなっている やっぱり淋しいんだな と奏太は思う

 「なあ 爺さん 奏太を元の国に戻してやってくれよ できるんだろ」
 シュウリが 当然のように 言い放つ

 「もちろん そのつもりじゃ 奏太が ここにいるのは リラの ちょっとした いたずらじゃからな」
 魔術師は ニコニコ 答える

 「いたずら? 私は 何もしていないわ」
  リラは 不満の声を上げる

 「ハハハ そのうち わかることじゃ」
 魔術師は 楽しそうに答える

 しかし 戻れると思っていなかった奏太は 突然 みんなとの別れに戸惑う

 「よかったな! 奏太!」
 「・・・」
 「どうしたんだよ」
 「いや・・・ちょっと びっくりして・・・お別れは リラだけだと思ったから・・・」

 帰れるのは 嬉しい 嬉しいけど・・・
 暫く 沈黙が続く・・・

 奏太は どう反応したらいいのか分からず 思わず 目線を下に向け ポケットに手を突っ込んだ

 ん⁉ 何か 手に触れた・・・
 そうだ ブーメラン・・・

 「シュウリ リラ ガータ これあげる」
 牛乳パックで作った 手のひらサイズのブーメラン

 このブーメランは 奏太でも簡単に制作でき しかも よく飛ぶので たくさん作って いつでも友達と遊べるように ポケットに忍ばせている
 新しい学校でも 友達が出来たら遊ぼうと思っていたが 使うことは無かった 

 このブーメランは 奏太の 前のお父さんとの思い出のブーメラン
 暴力を振るう父親も 小学校上がる前は 優しかった

 「こうやって 遊ぶんだ」
 奏太は 小型のブーメランを 手のひらに乗せ指ではじく
 ブーメランは 夕日に向かって飛んでいき そのままカーブを描き 奏太のもとに戻ってきた

 「へえー 面白いな」
 とシュウリは言いながら飛ばしてみるが 上手くいかない

 「結構 コツが いるんだ 頑張ってみてよ」
 と奏太が言う

 リラもガータも 飛ばしてみたが 上手くいかなかった

 「楽しんでいる所 すまないが そろそろ行くぞ」
 魔術師が 申し訳なさそうに 眉を下げる

 奏太は 改めて みんなに最後の挨拶をしようと 気持ちを整える

 「シュウリ ガータ リラ 僕に 色んなことを教えてくれてありがとう ここでの生活は・・・僕の人生・・・」
 
 奏太は 最後まで言えずに 涙を堪えるために空を見た

 空には 旋回している鳥がいる
 初めて この国に来た時も 見た風景

 堪えきれずに 奏太の頬を 一筋の涙が伝う

 そんな奏太を シュウリが そっと近づき ギュッと抱きしめた 
 そこに ガータも リラも 重なる

 そして 涙声になりながら 奏太は告げる

 「僕の人生を変えてくれてありがとう ここでの生活は 絶対に忘れない・・・この国の家族・・・みんな大好きだ!」

 奏太は 頑張って 言葉を言い終えた

 「奏太の国の 家族もな!」とシュウリが笑う
 奏太は 黙って 頷く

 日が ゆっくりと沈んでいき やがて暗くなる
 
 空には 星が輝く
 リラの イヤリングも輝く
 きっと あの星で 魔術師が作ったのかな なんて 奏太は考える

 そして 静寂が訪れた

 ボン!と 音がして扉が現れる
 大きな両開きの木製の扉は 暗闇の中 輝いていた

 「この 扉から 来たんじゃろ」
 魔術師が 奏太に問いかける

 その扉は バラの花が咲き誇り たくさんの蝶が飛び回っていた
 確かに そうだ この扉だ

 「さあ 奏太君 君の国に帰りなさい」
 魔術師が 優しく 奏太を促す

 奏太は頷き シュウリ ガータ リラに向かって 大きく手を振り 笑顔で挨拶をした

 「さようなら!」
 3人も 同じく手を振る

 奏太は 扉と向かい合う
 一呼吸おいて 両手で扉を そっと押した
 そして 足を一歩踏み入れる

 「元気でな!」

 最後に シュウリの声が聞こえた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

処理中です...