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15話・私と彼の笑顔の話
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片道十分でもレイスには物珍しかったらしい。これはスーパーにいったときも感じたけど、レイスは基本的になんにでも関心を持つ。
可もなく、不可もなく。日常を謳歌する当たり前の日本の一市内がこの上なく珍しい様子で。
まるで、それまで、そういったものをみたことがないかのようで。
それは流石に考えすぎだろうと思ったけれど、レイスの反応からして閉鎖的な空間にいたのかもしれないなぁとは思った。あまり外に出してもらえない環境だったのかもしれない。……それなら、今どうして外にいるのか、と疑問は尽きないけど。
まぁ、さして興味をひかれることでもなかったので、軽く流して、バイト先に入る。
裏口ではなく正面から。レイスもいるので仕方ない。
「おはよー。あれ? そっちの美人さんは?」
「友達です。ご飯食べるらしいので。……レイス、適当な席に座っていいよ」
「あ、ああ!」
さして珍しくなどない飲食店特有の店内をきょろきょろと見回していたレイスは私が適当に指差した禁煙席にそのまま座ってしまった。まぁ、別にいいのだけど。
「ねぇねぇ、あれ依玖ちゃんの彼氏?!」
「違いますよ」
興味心身で問いかけてくる疑問は想定内。やや素っ気無い返事になってしまったけど、私の返事なんていつもこんなものだから、相手も気にしない。
レイスの座った席を眺めながら、それにしても美人な子だねぇ、と感心している年上の奥様の横を通り抜け更衣室に入る。
いつもより少し早めにきたので、着替えた後休憩室で適当に時間を潰してから表に出る。
きょろきょろとしていたレイスと視線があって、ぱっとその顔が輝いた。そのとき、ようやく私は「あ」と間抜けな声を出した。
そういえば、レイス、日本語読めるんだっけ……?
多分、置手紙と思わしきあのメモがどうみても日本語じゃなかったし、読めるかかなり不安である。そう思うと、メニュー表には写真つきとはいえ、注文も怪しいのかもしれない。
やっとそのことに思い至って、すっとレイスの傍による。
メニュー表をテーブルに開いた状態のレイスは昼時でそれなりの人がいる店内の注目を一身に浴びていたが、気にする様子がない。これまた昨日も感じたことだが、目立つのは慣れているらしい。
「ご注文をお伺いします」
「あ、イク。あのな、あのな」
なんというか。
目をキラキラさせて、ちょっと興奮している様子は小さなお子様のお客様を思わせる。
接客用ではない、自然な笑みを浮かべて小さな声で囁く。
「レイス、文字、読める?」
「読めない!」
「……だと思った。なにが食べたい? ハンバーグとか、どう?」
元気一杯に返された答えは案の定。
しかたないので、一応お店のお勧めであるハンバーグを勧めておく。
一応指差して、これ、というとやっぱり目をキラキラさせて、うん、とこれまた元気よく頷いた。
「ドリンクバーつける?」
「どりんくばー?」
「……あそこの飲みものが、飲み放題になるよ」
「つける!」
「うん。じゃあ、ハンバーグとドリンクバーね。デザートはいる?」
「……うーん……デザートは……いいや」
「そう。じゃあ、少し待っててね」
「ああ!」
前もって部屋にあまっていたがま口のお財布をもたせているので、金額面は心配していない。ちょうどランチタイムで、ライスは無料の時間だし。
出かける前に、金額の説明もしているし(その際に自分から食べにいきたいと言い出したくせにお金を借りるのは、と問答になった)まぁ、本当に小さい子供ではないから心配もいらないだろうと、鳴ったベルに反応して別のお客様のところへいく。
最後に横目で見たレイスは、ベルにも興味津々の様子だった。
* * *
「つかれた……」
午後六時。シフト上がり。休憩室で毎度のことながら、ぐたっとしていれば、店長が顔を見せた。
「ああ、幾月さん。ご飯食べてく?」
「今日は……いいです」
「あれ? 珍しいね」
「友人と食べる約束をしていて……」
「それなら急がなくていいの?」
「もう帰ります……足痛いです……」
七時間、休憩を入れて六時間半。店内を端から端まで歩き回ったせいで、疲れのたまった足を引きずって更衣室で着替える。
「そういえば、ずいぶんと美形な子が今日はいたんだよ」
「そうなんですか……」
「すっごく綺麗な子でね。男の子だと思うけど、あれは女の人がほっとかないだろうなぁ。毎日きてくれたら、客寄せになるのになぁ」
なんてね、とはっはっはと、笑う店長に多分頼めばきてくれるんじゃないかな……などと思いつつ藪蛇は避けるに限る。
「じゃあ、失礼しまーす……」
「はーい、じゃあね。幾月さん。来週もよろしく」
「よろしくお願いします」
週に一度のバイト。数少ない人とたくさん話す日。
店長には病気の内容は伏せたけれど、病気のため週一でしか働けないと伝えた。
病名を、欝だと、伝える勇気はなかった。
私の友達には、欝で、リストカットもしてて。腕とかぼろぼろで。それでも、それを隠すことなく私の生きた証だと誇って生きている子がいるし、その子はバイトを変えるたびにちゃんと病気の事を話して理解してもらって雇ってもらっているといっていたけど。
私には、やっぱりそんな勇気はなくて。
病名を聞かれてもごまかして、店長以外の人には家が自営業だから手伝いをしてて週一でしかシフトに入れないとごまかしている(家が自営業なのは嘘じゃない)
はぁ、と小さく息をはきながら重い足を引きずって部屋へと帰る。
途中にあるコンビニの前で立ち止まって、なにか買おうかと思案したけど、買うなら買うでレイスをつれてきたほうがいい気がしてそのまま歩き出した。
晩御飯はなににしよう。カレーのルーがあったから、カレーでもいいだろうか。煮込む時間は省略してよければ、カレーは手軽なんだよなぁ。
一人だと、食べきれないからあまり作らないけど。レイスがいるなら、つくろうかなぁ。肉じゃがの残りの材料で作れるし。
そんなことを考えているうちに部屋の前に着いた。鍵はレイスに預けていたので自分の部屋なのにインターホンを鳴らす。
少し待てば内側からドアが開けられた。
「おかえり、イク!」
『おかえり、依玖』
その笑顔が、だれかに被って見えて。
どうしようもない感情が胸の奥から溢れる。
私は、泣きそうに、笑った。
可もなく、不可もなく。日常を謳歌する当たり前の日本の一市内がこの上なく珍しい様子で。
まるで、それまで、そういったものをみたことがないかのようで。
それは流石に考えすぎだろうと思ったけれど、レイスの反応からして閉鎖的な空間にいたのかもしれないなぁとは思った。あまり外に出してもらえない環境だったのかもしれない。……それなら、今どうして外にいるのか、と疑問は尽きないけど。
まぁ、さして興味をひかれることでもなかったので、軽く流して、バイト先に入る。
裏口ではなく正面から。レイスもいるので仕方ない。
「おはよー。あれ? そっちの美人さんは?」
「友達です。ご飯食べるらしいので。……レイス、適当な席に座っていいよ」
「あ、ああ!」
さして珍しくなどない飲食店特有の店内をきょろきょろと見回していたレイスは私が適当に指差した禁煙席にそのまま座ってしまった。まぁ、別にいいのだけど。
「ねぇねぇ、あれ依玖ちゃんの彼氏?!」
「違いますよ」
興味心身で問いかけてくる疑問は想定内。やや素っ気無い返事になってしまったけど、私の返事なんていつもこんなものだから、相手も気にしない。
レイスの座った席を眺めながら、それにしても美人な子だねぇ、と感心している年上の奥様の横を通り抜け更衣室に入る。
いつもより少し早めにきたので、着替えた後休憩室で適当に時間を潰してから表に出る。
きょろきょろとしていたレイスと視線があって、ぱっとその顔が輝いた。そのとき、ようやく私は「あ」と間抜けな声を出した。
そういえば、レイス、日本語読めるんだっけ……?
多分、置手紙と思わしきあのメモがどうみても日本語じゃなかったし、読めるかかなり不安である。そう思うと、メニュー表には写真つきとはいえ、注文も怪しいのかもしれない。
やっとそのことに思い至って、すっとレイスの傍による。
メニュー表をテーブルに開いた状態のレイスは昼時でそれなりの人がいる店内の注目を一身に浴びていたが、気にする様子がない。これまた昨日も感じたことだが、目立つのは慣れているらしい。
「ご注文をお伺いします」
「あ、イク。あのな、あのな」
なんというか。
目をキラキラさせて、ちょっと興奮している様子は小さなお子様のお客様を思わせる。
接客用ではない、自然な笑みを浮かべて小さな声で囁く。
「レイス、文字、読める?」
「読めない!」
「……だと思った。なにが食べたい? ハンバーグとか、どう?」
元気一杯に返された答えは案の定。
しかたないので、一応お店のお勧めであるハンバーグを勧めておく。
一応指差して、これ、というとやっぱり目をキラキラさせて、うん、とこれまた元気よく頷いた。
「ドリンクバーつける?」
「どりんくばー?」
「……あそこの飲みものが、飲み放題になるよ」
「つける!」
「うん。じゃあ、ハンバーグとドリンクバーね。デザートはいる?」
「……うーん……デザートは……いいや」
「そう。じゃあ、少し待っててね」
「ああ!」
前もって部屋にあまっていたがま口のお財布をもたせているので、金額面は心配していない。ちょうどランチタイムで、ライスは無料の時間だし。
出かける前に、金額の説明もしているし(その際に自分から食べにいきたいと言い出したくせにお金を借りるのは、と問答になった)まぁ、本当に小さい子供ではないから心配もいらないだろうと、鳴ったベルに反応して別のお客様のところへいく。
最後に横目で見たレイスは、ベルにも興味津々の様子だった。
* * *
「つかれた……」
午後六時。シフト上がり。休憩室で毎度のことながら、ぐたっとしていれば、店長が顔を見せた。
「ああ、幾月さん。ご飯食べてく?」
「今日は……いいです」
「あれ? 珍しいね」
「友人と食べる約束をしていて……」
「それなら急がなくていいの?」
「もう帰ります……足痛いです……」
七時間、休憩を入れて六時間半。店内を端から端まで歩き回ったせいで、疲れのたまった足を引きずって更衣室で着替える。
「そういえば、ずいぶんと美形な子が今日はいたんだよ」
「そうなんですか……」
「すっごく綺麗な子でね。男の子だと思うけど、あれは女の人がほっとかないだろうなぁ。毎日きてくれたら、客寄せになるのになぁ」
なんてね、とはっはっはと、笑う店長に多分頼めばきてくれるんじゃないかな……などと思いつつ藪蛇は避けるに限る。
「じゃあ、失礼しまーす……」
「はーい、じゃあね。幾月さん。来週もよろしく」
「よろしくお願いします」
週に一度のバイト。数少ない人とたくさん話す日。
店長には病気の内容は伏せたけれど、病気のため週一でしか働けないと伝えた。
病名を、欝だと、伝える勇気はなかった。
私の友達には、欝で、リストカットもしてて。腕とかぼろぼろで。それでも、それを隠すことなく私の生きた証だと誇って生きている子がいるし、その子はバイトを変えるたびにちゃんと病気の事を話して理解してもらって雇ってもらっているといっていたけど。
私には、やっぱりそんな勇気はなくて。
病名を聞かれてもごまかして、店長以外の人には家が自営業だから手伝いをしてて週一でしかシフトに入れないとごまかしている(家が自営業なのは嘘じゃない)
はぁ、と小さく息をはきながら重い足を引きずって部屋へと帰る。
途中にあるコンビニの前で立ち止まって、なにか買おうかと思案したけど、買うなら買うでレイスをつれてきたほうがいい気がしてそのまま歩き出した。
晩御飯はなににしよう。カレーのルーがあったから、カレーでもいいだろうか。煮込む時間は省略してよければ、カレーは手軽なんだよなぁ。
一人だと、食べきれないからあまり作らないけど。レイスがいるなら、つくろうかなぁ。肉じゃがの残りの材料で作れるし。
そんなことを考えているうちに部屋の前に着いた。鍵はレイスに預けていたので自分の部屋なのにインターホンを鳴らす。
少し待てば内側からドアが開けられた。
「おかえり、イク!」
『おかえり、依玖』
その笑顔が、だれかに被って見えて。
どうしようもない感情が胸の奥から溢れる。
私は、泣きそうに、笑った。
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