【完結】幾月依玖(いくつきいく)の生き様-彼女の在り方、彼の愛し方-

久遠れん

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20話・私と彼の星空の話(1)

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 先生の前でたくさん泣いて、化粧は少し崩れてしまったけど、気持ちはだいぶん落ち着いていた。

 久々に清々しい気持ちでバスに乗って、駅前まで戻る。

 レイスに待っていてもらっていたカフェは普段そんなに混む場所ではないのだけど、なぜか朝と違って、今は席が埋まっているようだった。

(お昼ここで食べようと思ってたけど、変えたほうがいいかな……)

 コーヒー一杯でそんなに居座るのも申しわけない、と思う程度には混んでいた。なぜだろう、なにかイベントでもあるのだろうか、とレイスを探していると、そばを通り過ぎた女の子たちの話し声が聞こえてきた。

「すっごくかっこいい人がいる!」
「やばいやばいやばい、ほんとかっこいー!」

 ……察した。さすがに察した。店長の言葉通りだった。

 つぅっと汗が伝う。ものすごく引き返したい。このまま家に帰りたい。関わり合いに、なりたくなかった。心のそこから、そう思ってしまった。

 だが、現実は無常である。

「あ、イクー!」

(叫ばないで……!)

 レイスのほうから私をみつけてぶんぶんと手を振ってくる。周りの視線がいたい。とにかくいたい。こうなれば下手にごまかすわけにもいかないので、人ごみを掻き分けレイスの席まで行って手ととる。

「むこう、いこう」
「? ああ!」

 手を握って席を立てば、突き刺さる、視線、視線、視線。

 ああ、すっかり忘れていたけれど。

(レイスはものすごい美形なんだった……!)

 なけなしの努力でも、多少のおしゃれをしていてよかったと心底思った。これですっぴんジーパンとか、無理すぎる。

 いや、ジーパンだっておしゃれに着こなせればいいんだろうけど! 私には無理だから!!

 そんな誰へ向けたわけでもない言い訳を必死に内心で繰り返していると、手を引かれているレイスが不思議そうに話しかけてきた。

「どこにいくんだ?」
「あ、……とりあえず、お昼ご飯、かな。えっと……少し歩いたところに、パスタの美味しいお店が、あるから」

 なにも考えないままレイスをつれてお店をでたけれど、とりあえずの目的地を口にする。

 そうしたら、一度握っていた手を離された。ちょっと寂しいな、って思った次の瞬間、ぎゅっと掌を握られる。思わず立ち止まってレイスを見上げる。

「こっちのほうがいいだろ?」
「……うん」

 握られた掌を握り返して、私は笑った。


 * * *


 駅から徒歩五分。

 少し値は張るけど、お気に入りのパスタのお店。ちょっと高いから、いいことがあった日とか、自分へのご褒美とかでくることが多い。

 今日は、レイスも一緒だし。いいこと、というか、ちょっとした、自分へのご褒美の意味合いもあった。

 でもまぁ、いいかな、ってまた目をキラキラさせているレイスを見上げて思う。繋いだ手のひらがとても温かかった。

 おしゃれな店内は観葉植物で区切られていて、ほかのお客さんから見えにくい。それもこのお店にした理由の一つだった。

 レイスが、うん、目立つ、からね……。

二階席に案内されて、メニュー表を渡される。お礼を言って受け取って、広げる。

 レイスにも見やすいように広げれば、ますます顔を輝かせる。小さく笑って、ランチタイムのパスタ一覧を眺める。

「レイス、どれがいい?」
「どれ……どれにしよう。迷うな……」
「あ、納豆パスタ、とか明太子パスタ、とかあるよ」
「ああ! あの不思議な触感の!」
「私はカルボナーラかなぁ……」

 無難に、と呟いてレイスをみれば、やっぱりきらきらした表情で納豆、明太子、と交互に呟いていた。くすりと笑って、ねぇ、と声をかける。

 注文メニューを変えよう。

「私が明太子にするから、レイスが納豆にして半分子、は?」
「えっ、あ、……いいの、か?」
「うん、いいよ。飲み物は、コーヒーとオレンジジュースと、ジンジャーエールみたい」
「ジンジャーエール?」
「あれ? 飲んだことない? 生姜の飲み物」
「! 俺、それにする!」
「私はコーヒーでいいかな。すみませーん」

 私のバイト先みたいに呼び出しベルがないので、手を上げて店員さんを呼ぶ。普段ならちょっとしり込みしてしまうけど、今日はすんなりできた。

 やってきた店員さんにランチメニューの納豆パスタと明太子パスタをたのんで、セットのドリンクも注文する。さらにサラダとスープにプチデザートまでつくのでランチメニュー万歳である。

 注文を書き付けた店員さんが一礼して下がるのをまって、ふうと息を吐く。

「ご飯食べたら、いきたいところ、ある?」
「いきたいところ?」
「うん。私の用事は終わったから」
「うーん……」

 首を捻るレイスに土地勘がないと難しい質問だったかなぁ、と思いつつお冷を口に運ぶ。

 口紅をしているのを忘れて、お冷グラスに口紅がついてちょっとあわてる。これ、世の中の女性はどうやってお冷飲んでるの……?

 私が四苦八苦していると、ぱっと顔を輝かせたレイスが予想外のことを言い出した。

「イクのいきたいところでいいよ!」
「え、えー……それはそれで、こまるというか……」
「イクのよく行く場所、でもいい」
「うーん……この辺なら、ショッピングモール、かな」

 比較的最近出来たショッピングモールには映画館もあって中々大きい。

 今日みたいにお父さんに送ってもらわず、比較的体調のいい病院帰りにはたまによったりもする。

 むしろ、遊ぶ場所といわれれば、そこ以外に浮かばないのも事実だった。

 首をかしげつつの言葉にレイスはこくんと頷いて、そこがいい、というから、食後の行動はそれで決まった。

 取り皿を二枚貰って、パスタを半分にする。

 そこでふと気づいた。……これって、カップルみたいじゃないか? しかもその、馬鹿ップル系……。

 はっと気づいた途端交換したお皿がなんだかみるのが恥ずかしくて俯いていたら、さっそくパスタを口に運んでいたレイスが首をかしげた。
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