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19話・私と彼の救いの話(2)
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その認識は、すでに覆った。
専門学校を中退してから、少しずつ、周りの人間にも変化が起こった。
友人を取捨選択できるようになった。
『自分』を守れる人だけを『友人』だと位置づけた。
私が頼っても、自分に不利な状況なら、私を切り捨てられる人。
私が頼っても、自分がつぶれない人を選んだ。
お父さんへの認識が変わった。
小学生のころは、捨てられたら生きていけないと思っていた。
お父さんに捨てられないように、虐めを隠していた。
弱い自分が知られたら捨てられると思っていた。
中学生のころは、世間体のためだけに生かされているのだと思っていた。
母親と同じように自殺すれば世間体が悪い。だから、私は病院へと通わされているし、死なないように気をつけてくれているのだと思い込んでいた。
高校のころは、父親なんてどうでもよかった。
ただ、自分が生きていくために父親という存在が必要だった。お金をくれればそれでよかった。父親は、愛情を求める対象ではなかった。ただ、自分が生きるための『手段』だった。
専門学校のとき、変化が起こった。
父とカウンセラーの先生を通して手紙のやり取りをした。
心底から父が自分の心配をしてくれていると知った。
父のお茶目な一面を知った。
父の心配性な一面を知った。
父が、母を愛していた事を確認できた。
それは、とてつもない一歩だった。
凍り付いて、凍てついていた私の心を溶かす、温かな焔の光だった。
相変わらず、父の再婚相手の女性とは上手くいかなかったけれど、仕方がないと割り切れるようになった。
家に居場所を求めることに諦めがついた。だから、家を出た。一人暮らしをしたいという我侭が、予想以上にすんなり通ったことは、少しだけ悲しかった。私は必要ない存在だとつきつけられたようだった。それでも、自分の要求が通ったのに喚くわけにもいかなくて、寂寞を抱えたまま、家を出た。
世間で生きていく方法を探した。アルバイトをがんばった。週に三日が限度で、それも薬でだましだましでなければやっていけなかったけれど、それでも『外』で働けたことは自信になった。
そのあと体調を崩してやめてからも、戻ってきて欲しいといわれることは単純に嬉しかった。そして、週に一度の制限つきでも再び働けている今につながったことは、ささやかな私の誇りだった。
愛情を求めて、心はいつだって餓えていたけれど、それは先生に抱きつくことでごまかせた。カウンセリングの最後、先生に一度抱きついていい。自分で自分に決めたルールだった。
一生、そうやって生きていくんだと思っていた。
先生は、きっと私より先に死んでしまうから。
そうしたら、私はどうしたらいいのだろうと、途方にくれることもあったけれど。
それは考えないようにした。考えてしまえば、底なし沼にはまると知っていたから。
一生、病院とお友達。
一生、薬を飲んで日々をすごす。
一生、先生におんぶに抱っこ。
だけど、だけど、だけど、ね。
「もしかしたら、私、違う道も、あるのかなぁ、って。思えた、の」
レイスと出会って。話して、笑って。
それは短い間の出来事だったけれど、私の世界への認識を覆すのに十分なものだった。
「私、生きていて、いいのかなぁ、って。初めて、思えた、の」
だって、怒ってくれたのだ。
私のために、レイスが、怒ってくれた。
とても怖かったけど、怖かった分だけ本気だったということだ。
真剣に、レイスは怒ってくれた。
弱かった私を、叱るわけではなく。憤ってくれた。それは理不尽だと、分かってくれた。
「それなら、ね。それ、なら……あの言葉は『本当』だったと思えるから」
「あの言葉?」
促す言葉に、うん、と頷いて。
「私に、生きていて欲しい、って。死なないで欲しいって。出会えて幸せだって。いってくれた、から」
出会って二日目だった。
たった二日しかたってなかった。
だけど、レイスは否定しなかった。
否定、しないでくれたのだ。
私が母に向ける思いも、感情も、なにもかも。
受け止めて、飲み込んで。その上で。
「生きていて欲しいって、いってくれたんだぁ……っ」
ぼろりと涙が溢れた。ファンデーションが崩れる、と思ったけど、涙は止まらなくて。そっと差し出されたティッシュで目元を押さえる。
「私、生きていて、いいんだな、って。思えたの……!」
生きていて、死なないで。
そんな風に、声をかけてくれた人は、今までにもいた。
親友の真琴、パソコン越しにいつも話を聞いてくれるしぃさん。ほかにもいたと思う。
だけど、いつだってその言葉を、本音だと分かっていても受け取れなかった。
事実だと思うのが怖かった。
認めてしまえば、死ねなくなる。
死ねなくなれば、逃げ場がなくなる。
それは、どうしようもない恐怖だった。最後に『死』という逃げ場があることは、私にとって安らぎだったから。
だけど、もういい。もう、いいのだ。
きっと、レイスは。ずっと一緒には、いてくれないけど。もしかしたら、明日にも、いなくなるかもしれないけれど。
「一緒に、ご飯、食べて。一緒に、寝て。ただいま、って。おかえり、って。笑って私の事を、受け入れてくれる人がいた……!」
それが、どれだけ得がたいものか、望んでも手に入れられなかった私は知っている。
一人だけ、ご飯がないことがあった。
一人だけ、洗濯物をよけられていることがあった。
家族団欒に、私の『席』はなかった。
でも、レイスは。私が求めてやまなかったものをくれた。当たり前のように、当然のごとく。自然と。
いうつもりのなかったことまで零れ落ちる。どういうことだ、と糾弾はされなかった。
ただ、そっと手を握ってもらえたことが、この上ない、救いだった。
専門学校を中退してから、少しずつ、周りの人間にも変化が起こった。
友人を取捨選択できるようになった。
『自分』を守れる人だけを『友人』だと位置づけた。
私が頼っても、自分に不利な状況なら、私を切り捨てられる人。
私が頼っても、自分がつぶれない人を選んだ。
お父さんへの認識が変わった。
小学生のころは、捨てられたら生きていけないと思っていた。
お父さんに捨てられないように、虐めを隠していた。
弱い自分が知られたら捨てられると思っていた。
中学生のころは、世間体のためだけに生かされているのだと思っていた。
母親と同じように自殺すれば世間体が悪い。だから、私は病院へと通わされているし、死なないように気をつけてくれているのだと思い込んでいた。
高校のころは、父親なんてどうでもよかった。
ただ、自分が生きていくために父親という存在が必要だった。お金をくれればそれでよかった。父親は、愛情を求める対象ではなかった。ただ、自分が生きるための『手段』だった。
専門学校のとき、変化が起こった。
父とカウンセラーの先生を通して手紙のやり取りをした。
心底から父が自分の心配をしてくれていると知った。
父のお茶目な一面を知った。
父の心配性な一面を知った。
父が、母を愛していた事を確認できた。
それは、とてつもない一歩だった。
凍り付いて、凍てついていた私の心を溶かす、温かな焔の光だった。
相変わらず、父の再婚相手の女性とは上手くいかなかったけれど、仕方がないと割り切れるようになった。
家に居場所を求めることに諦めがついた。だから、家を出た。一人暮らしをしたいという我侭が、予想以上にすんなり通ったことは、少しだけ悲しかった。私は必要ない存在だとつきつけられたようだった。それでも、自分の要求が通ったのに喚くわけにもいかなくて、寂寞を抱えたまま、家を出た。
世間で生きていく方法を探した。アルバイトをがんばった。週に三日が限度で、それも薬でだましだましでなければやっていけなかったけれど、それでも『外』で働けたことは自信になった。
そのあと体調を崩してやめてからも、戻ってきて欲しいといわれることは単純に嬉しかった。そして、週に一度の制限つきでも再び働けている今につながったことは、ささやかな私の誇りだった。
愛情を求めて、心はいつだって餓えていたけれど、それは先生に抱きつくことでごまかせた。カウンセリングの最後、先生に一度抱きついていい。自分で自分に決めたルールだった。
一生、そうやって生きていくんだと思っていた。
先生は、きっと私より先に死んでしまうから。
そうしたら、私はどうしたらいいのだろうと、途方にくれることもあったけれど。
それは考えないようにした。考えてしまえば、底なし沼にはまると知っていたから。
一生、病院とお友達。
一生、薬を飲んで日々をすごす。
一生、先生におんぶに抱っこ。
だけど、だけど、だけど、ね。
「もしかしたら、私、違う道も、あるのかなぁ、って。思えた、の」
レイスと出会って。話して、笑って。
それは短い間の出来事だったけれど、私の世界への認識を覆すのに十分なものだった。
「私、生きていて、いいのかなぁ、って。初めて、思えた、の」
だって、怒ってくれたのだ。
私のために、レイスが、怒ってくれた。
とても怖かったけど、怖かった分だけ本気だったということだ。
真剣に、レイスは怒ってくれた。
弱かった私を、叱るわけではなく。憤ってくれた。それは理不尽だと、分かってくれた。
「それなら、ね。それ、なら……あの言葉は『本当』だったと思えるから」
「あの言葉?」
促す言葉に、うん、と頷いて。
「私に、生きていて欲しい、って。死なないで欲しいって。出会えて幸せだって。いってくれた、から」
出会って二日目だった。
たった二日しかたってなかった。
だけど、レイスは否定しなかった。
否定、しないでくれたのだ。
私が母に向ける思いも、感情も、なにもかも。
受け止めて、飲み込んで。その上で。
「生きていて欲しいって、いってくれたんだぁ……っ」
ぼろりと涙が溢れた。ファンデーションが崩れる、と思ったけど、涙は止まらなくて。そっと差し出されたティッシュで目元を押さえる。
「私、生きていて、いいんだな、って。思えたの……!」
生きていて、死なないで。
そんな風に、声をかけてくれた人は、今までにもいた。
親友の真琴、パソコン越しにいつも話を聞いてくれるしぃさん。ほかにもいたと思う。
だけど、いつだってその言葉を、本音だと分かっていても受け取れなかった。
事実だと思うのが怖かった。
認めてしまえば、死ねなくなる。
死ねなくなれば、逃げ場がなくなる。
それは、どうしようもない恐怖だった。最後に『死』という逃げ場があることは、私にとって安らぎだったから。
だけど、もういい。もう、いいのだ。
きっと、レイスは。ずっと一緒には、いてくれないけど。もしかしたら、明日にも、いなくなるかもしれないけれど。
「一緒に、ご飯、食べて。一緒に、寝て。ただいま、って。おかえり、って。笑って私の事を、受け入れてくれる人がいた……!」
それが、どれだけ得がたいものか、望んでも手に入れられなかった私は知っている。
一人だけ、ご飯がないことがあった。
一人だけ、洗濯物をよけられていることがあった。
家族団欒に、私の『席』はなかった。
でも、レイスは。私が求めてやまなかったものをくれた。当たり前のように、当然のごとく。自然と。
いうつもりのなかったことまで零れ落ちる。どういうことだ、と糾弾はされなかった。
ただ、そっと手を握ってもらえたことが、この上ない、救いだった。
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