【完結】幾月依玖(いくつきいく)の生き様-彼女の在り方、彼の愛し方-

久遠れん

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18話・私と彼の救いの話(1)

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 病院に電話した。

 診察日はまだ先だったけれど、この気持ちを聞いて欲しかった。

 薄れないうちに言葉として形にしたかった。だから、次の日に無理矢理予約を取った。

 翌日、電車とバスを乗りついで、病院にいった。

 レイスは駅前でバスに乗り継ぐ前に、カフェに入ってもらった。少し待たせるけど、といえば、気にしない。と笑ってくれた。それがとても嬉しかった。

 レイスの代わりにコーヒーを注文して。少しだけお金も渡した。いらない、といわれたけれど。もっていても損はしないでしょ、使わなかったら返してくれればいいから、といって。

 レイスと分かれてバスに乗って。病院に着いた。受付で名前を言う。診察カードがなくても名前を言えば伝わってしまうほど、ここに通っている。もう、何年になるだろうか。二桁は軽くこえている。

 待ち時間に暇つぶしにスマートフォンを弄っていて、あ、レイスの番号も、メアドも聞いてない。と思い出す。後で聞こう、って思ってて、そのままだった。ちゃんと、後で聞こう。

 そうしているうちに先生が来る。今日は、なんだかいつもと服装が違うね、と微笑んでくれた。

 いつもお父さんに送り迎えしてもらうときはズボンにシャツに上着で、すごくシンプルというか、見た目を気にしないのだけど、今日はレイスと一緒だから、少しだけおしゃれをした。

 私には珍しいスカートに、なれない化粧も、ちょっとだけ。すぐに見抜かれて、当然のことなのに気恥ずかしい。

 診察室にはいって、椅子に座って向き合う。机の上で手を組んだ。視線はそこに固定されてしまう。

 先生はなにもいわない。

 微笑んで、私の言葉を待っている。

 だから、私は。勇気を、出した。

「仲良く、なった人がいて」

 四日前に、出会った人。

「すごく、綺麗な人で」

 儚げな人、という第一印象だった。

 だけど、それはすぐに笑う表情で塗り替えられた。

 いつだって目をキラキラさせて、輝いているのがレイスという人間だった。

「私の事を、大事に、してくれるんです」

 最初から、私への『ナニカ』をもった人だと分かっていた。それがどういう種類であれ『愛』情に分類されるものだと察していた。

「私が笑っただけで、うれしそうに笑ってくれて」

 『イクが笑った!』と。

 とてもいいことがおこったかのように、嬉しそうに笑ってくれた。

「みっともないところも、みせたのに。全然嫌そうじゃなくて」

 過呼吸を起こした。目の前でたくさん泣いた。

 だけど、嫌な顔は欠片もしなかった。

 ただ寄り添って、抱きしめて、傍にいてくれた。

 いままでどんなに望んでも、手に入れられなかった、それを。

 いとも簡単に、レイスは私にくれたのだ。

「先生、私ね、いなくなってしまいたかった」

 ずっとずっと、自分が世界からいなくなればいいと思っていた。

 そうすれば、全て解決するのだと思い込んでいた。母の死も、なにもかも。

 死にたい、なんて強い言葉は口に出来なかったから、いなくなりたい、と言葉を摩り替えて。祈るように、願うように、何度も何度も一人ぼっちの夜に口にした。

 自殺をする勇気がなかった。

 ただ、惰性で生きていた。

 毎日呼吸と食事と睡眠を繰り返していれば。人は死なないから。

 人は、簡単に死ねない生き物だと知っていたから。

 『死ねないこと』を理由に生きていた。

 虐めは死にたくなるほど辛かった。

 だけど、死ねば『迷惑』がかかると知っていた。

 私と弟のことは祖父母が母の代わりに育ててくれた。仕事をしながらでは男手一つで育てられないと父が判断したからだ。

 その祖父母が母の死から世間体を酷く気にしているのを身近で見ていた。死んではいけない、理由のひとつだった。

 お葬式にかかる費用はいくらだろう、といつも考えていた。

 お金がかかるから死んだらダメだな、と思っていた。死んではいけない理由のひとつだった。

 明日の給食は好きなものだから、明日まで、とりあえず、生きてみよう。

 毎日そう考えてた。それだけしか生きる理由がなかった。そんな日々を繰り返して、ここまで大きくなった。給食がなくなった高校からは、毎週発売される雑誌を楽しみに生きていた。

 まだ、連載終わってないから。この連載が終わるまでは、生きてみよう。そんなことしか、生きる理由を見つけられなかった。

「私は、ずっと羨ましかった。死ぬ理由がある人。自殺する勇気がある人。誰かに殺されるほど殺意を向けられる人も、運悪く死んでしまう人も」

 ずっとずっと、羨ましかった。毎日、事故が、殺人が、ニュースで流れる。そのたびに、その対象がどうして自分ではないのだろうと思案した。死にたい私が生きて、生きたかった誰かが死ぬ。不条理だと怒りすら抱いた。

「だけど」
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