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24話・私と彼の居場所の話(1)
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ふ、と意識が上昇していく。ふわふわとした感覚。いつまでもまどろんでいたい心地よさ。
それを振り切って瞼を押し開ければ、そこは今度はさんさんと日差しの差し込む森の中だった。
……夢から覚めて、また夢を見てる?
首を傾げていても景色は変わらない。どうしたものかな、と悩んでいるとふと耳に心地いい音色が届いた。
私の姿はやっぱり水色のワンピースで、胸元にはレイスから貰った花のネックレスが輝いている。
手持ち無沙汰にそれをころころと触りながら、足を動かす。素足でも柔らかな草は傷つけることはなかった。
ゆっくりと歩いていくと、開けた場所に出た。ぱち、ぱち、と瞬きを繰り返す。
広い、湖だ。そして、とても、綺麗。
澄んだ水がどこまでもあって、広くて大きくて、壮大で。
その湖の縁で、一人の女性がおそらく歌を歌っていた。とても心地いい、優しい歌。
どこかで聞いた覚えのある歌。どこだろう、と首をかしげていると、私に気づいたらしい女性がこちらを振り向いた。
清水色の髪に、海のような蒼い瞳。穏やかに整った面差し。それを裏切らない柔和な笑み。
体のラインが綺麗に見える淡い水色のドレスを身に纏ったスタイルも抜群の美女。
絶世の、といってもいいほどの美貌をもつその人に、少しびくついてしまったけれど、いまさら逃げるわけにもいかなくて、なんとか笑みを浮かべて会釈をする。
独特の雰囲気を持った人だと思った。不思議な気配を纏った人。……少し、だけ。レイスに似ていると思った。
すいっと湖の上をすべるように移動してきた女性は私の目の前にくると、目を丸くした。
え? なんだろう……。じっと胸元を見られている。あ、レイスの、宝石?
持ち上げて、これですか? と声をかけても反応がない。
どうしたものかな……やや途方にくれていると、女性がゆっくりと口を開いた。
だけど、その口から飛び出したのは、どう考えても異国の響き。日本語でも英語でもない。
今度は私が目を見開く。
え、これ英語でアイ キャン ノット スピーク イングリッシュっていって伝わる? 私のなけなしの英語伝わる? 英語は苦手なんだよおおおお。
ぱにっくに陥って涙目になっていると、ふと頭に優しい感触。
え? と顔を上げれば、相変わらず不思議な雰囲気の女性が、はくり、はくりと口を開く。
言葉はなくても、その表情が「大丈夫?」と聞いてくれているようで、少し落ち着く。
はい、と口にすれば、いっそう微笑んだ女性が、湖に人差し指を向けた。その指先に水色の塊が生まれる。
ふわふわとしているそれに、驚いて目を見開く。こ、こんなファンタジックな夢を見るのは、初めてだなぁ……。
そして、それを私のほうへと向けてきた。にこにこと笑う女性。目を見開く私。正直どうしていいのかわからない。
きょときょとと女性の指先の水と女性を交互に見ていたら、悪戯気に笑ってその指先を口元に押し付けられる。たぷん、と冷たい水の感触。飲め、ってことかな。
どうせ、夢だし。害になることもないよね。と、大人しく口を開く。
するりと口の中に入ってきた水らしきものは、冷たくてするりと喉を通り抜けた。感覚はゼリーを丸呑みしたものに近い。
ごくり、と嚥下すれば、ますます女性が笑みを深めて口を開いた。
「どうかしら。これで言葉が通じると思うのだけど」
「え? ……え?」
ピアノの音色のような海のさざなみのような、鈴の音が転がったような。
優しい響きの声音が耳朶に届いて、今度は意味を成したその台詞に目を見開く。思わず口元を手で押さえると、女性はころころと笑った。
「さすがに驚いたわ。貴方のような子が、ここに来るなんて」
「え、と?」
「ふふ、意味がわからない、って顔をしているわね。大丈夫、その意味は今から分かるわ。私も、ね」
「??」
意味深長な言葉の意味を拾うことができずにいると、ますます茶目っ気たっぷりに笑った女性が口を開きかけ、一度口を閉じた。
「あら、もうこんな時間。あの人がきてしまうわ。貴方はそこで見ていてね」
「え?」
あの人、とは誰のことだろう。というか、人と待ち合わせをしているなら私は邪魔じゃないだろうか。え? いや、これ私の夢、だよね?
展開についていけず、完全に置いてけぼりを食らっている私の前で、女性は湖のほとりの大きな石に腰を下ろすと再び歌を奏で始めた。
しばらく聞いていて、あ、と思い出す。これは、レイスが歌っていた歌、だ。
(レイスにあいたくて、こんな夢みてるのかな)
出会ったのも唐突。帰ったのも、唐突。
夢幻のような存在だった。それでもレイスは確かにいたと、残されたものが主張する。
だから、こんな夢を見ているのかと、ならレイス本人を出してくれればいいのにと、自嘲の笑みを浮かべていると、聞いたことのない音が聞こえてきた。
人の足音、には聞こえない。なんだろう、と視線を上げると、草木を掻き分けて、一人の男性が馬に乗って登場した。中々立派な感じの人である。
(う、わぁ……ますますファンタジー……)
馬、とか。牧場でみたきりだけど。何年前だろ、あれ。
馬から下りた男性が近づいてくる。え、ちょ、知らない人が一杯出てくる夢だなぁ。なんて的外れに慌てていたけど、その人は私には一瞥もくれず、まっすぐに女性の元に近づいて跪いた。
眼中にないって言うのも、なんだかなぁ……。
女性と男性は楽しそうに話をしていて、それはなんだか遠い世界の出来事に思えた。
壁一枚隔てたような、私には関係がないと突きつけられているような。おかしいな、これ、私の夢のはずなのに。
楽しげな談笑が、酷くむなしく耳に届いた。
しばらくして男性が帰っていくと、くるりと女性が振り返った。
「ほったらかしてごめんなさいね。あの人に貴方は見えないから」
「え?」
「さて、と。準備をしなくちゃね。手伝ってくれるかしら?」
「?」
それを振り切って瞼を押し開ければ、そこは今度はさんさんと日差しの差し込む森の中だった。
……夢から覚めて、また夢を見てる?
首を傾げていても景色は変わらない。どうしたものかな、と悩んでいるとふと耳に心地いい音色が届いた。
私の姿はやっぱり水色のワンピースで、胸元にはレイスから貰った花のネックレスが輝いている。
手持ち無沙汰にそれをころころと触りながら、足を動かす。素足でも柔らかな草は傷つけることはなかった。
ゆっくりと歩いていくと、開けた場所に出た。ぱち、ぱち、と瞬きを繰り返す。
広い、湖だ。そして、とても、綺麗。
澄んだ水がどこまでもあって、広くて大きくて、壮大で。
その湖の縁で、一人の女性がおそらく歌を歌っていた。とても心地いい、優しい歌。
どこかで聞いた覚えのある歌。どこだろう、と首をかしげていると、私に気づいたらしい女性がこちらを振り向いた。
清水色の髪に、海のような蒼い瞳。穏やかに整った面差し。それを裏切らない柔和な笑み。
体のラインが綺麗に見える淡い水色のドレスを身に纏ったスタイルも抜群の美女。
絶世の、といってもいいほどの美貌をもつその人に、少しびくついてしまったけれど、いまさら逃げるわけにもいかなくて、なんとか笑みを浮かべて会釈をする。
独特の雰囲気を持った人だと思った。不思議な気配を纏った人。……少し、だけ。レイスに似ていると思った。
すいっと湖の上をすべるように移動してきた女性は私の目の前にくると、目を丸くした。
え? なんだろう……。じっと胸元を見られている。あ、レイスの、宝石?
持ち上げて、これですか? と声をかけても反応がない。
どうしたものかな……やや途方にくれていると、女性がゆっくりと口を開いた。
だけど、その口から飛び出したのは、どう考えても異国の響き。日本語でも英語でもない。
今度は私が目を見開く。
え、これ英語でアイ キャン ノット スピーク イングリッシュっていって伝わる? 私のなけなしの英語伝わる? 英語は苦手なんだよおおおお。
ぱにっくに陥って涙目になっていると、ふと頭に優しい感触。
え? と顔を上げれば、相変わらず不思議な雰囲気の女性が、はくり、はくりと口を開く。
言葉はなくても、その表情が「大丈夫?」と聞いてくれているようで、少し落ち着く。
はい、と口にすれば、いっそう微笑んだ女性が、湖に人差し指を向けた。その指先に水色の塊が生まれる。
ふわふわとしているそれに、驚いて目を見開く。こ、こんなファンタジックな夢を見るのは、初めてだなぁ……。
そして、それを私のほうへと向けてきた。にこにこと笑う女性。目を見開く私。正直どうしていいのかわからない。
きょときょとと女性の指先の水と女性を交互に見ていたら、悪戯気に笑ってその指先を口元に押し付けられる。たぷん、と冷たい水の感触。飲め、ってことかな。
どうせ、夢だし。害になることもないよね。と、大人しく口を開く。
するりと口の中に入ってきた水らしきものは、冷たくてするりと喉を通り抜けた。感覚はゼリーを丸呑みしたものに近い。
ごくり、と嚥下すれば、ますます女性が笑みを深めて口を開いた。
「どうかしら。これで言葉が通じると思うのだけど」
「え? ……え?」
ピアノの音色のような海のさざなみのような、鈴の音が転がったような。
優しい響きの声音が耳朶に届いて、今度は意味を成したその台詞に目を見開く。思わず口元を手で押さえると、女性はころころと笑った。
「さすがに驚いたわ。貴方のような子が、ここに来るなんて」
「え、と?」
「ふふ、意味がわからない、って顔をしているわね。大丈夫、その意味は今から分かるわ。私も、ね」
「??」
意味深長な言葉の意味を拾うことができずにいると、ますます茶目っ気たっぷりに笑った女性が口を開きかけ、一度口を閉じた。
「あら、もうこんな時間。あの人がきてしまうわ。貴方はそこで見ていてね」
「え?」
あの人、とは誰のことだろう。というか、人と待ち合わせをしているなら私は邪魔じゃないだろうか。え? いや、これ私の夢、だよね?
展開についていけず、完全に置いてけぼりを食らっている私の前で、女性は湖のほとりの大きな石に腰を下ろすと再び歌を奏で始めた。
しばらく聞いていて、あ、と思い出す。これは、レイスが歌っていた歌、だ。
(レイスにあいたくて、こんな夢みてるのかな)
出会ったのも唐突。帰ったのも、唐突。
夢幻のような存在だった。それでもレイスは確かにいたと、残されたものが主張する。
だから、こんな夢を見ているのかと、ならレイス本人を出してくれればいいのにと、自嘲の笑みを浮かべていると、聞いたことのない音が聞こえてきた。
人の足音、には聞こえない。なんだろう、と視線を上げると、草木を掻き分けて、一人の男性が馬に乗って登場した。中々立派な感じの人である。
(う、わぁ……ますますファンタジー……)
馬、とか。牧場でみたきりだけど。何年前だろ、あれ。
馬から下りた男性が近づいてくる。え、ちょ、知らない人が一杯出てくる夢だなぁ。なんて的外れに慌てていたけど、その人は私には一瞥もくれず、まっすぐに女性の元に近づいて跪いた。
眼中にないって言うのも、なんだかなぁ……。
女性と男性は楽しそうに話をしていて、それはなんだか遠い世界の出来事に思えた。
壁一枚隔てたような、私には関係がないと突きつけられているような。おかしいな、これ、私の夢のはずなのに。
楽しげな談笑が、酷くむなしく耳に届いた。
しばらくして男性が帰っていくと、くるりと女性が振り返った。
「ほったらかしてごめんなさいね。あの人に貴方は見えないから」
「え?」
「さて、と。準備をしなくちゃね。手伝ってくれるかしら?」
「?」
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