【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

文字の大きさ
1 / 38

1話・ステラ(1)

しおりを挟む
 ステラは流浪の旅人だ。

 といえばかっこいいのかもしれないが、その実、傭兵稼業をやりながら世界中をあっちにいったりこっちにいったりしているのが現状だった。

 なにをするにも先立つものが必要で、ステラにとって先立つもの、つまりは金銭の収入源は傭兵稼業だった。

 元々世界を見て回りたいと家出同然に家を飛び出した身ではあるが、実家で師事していた剣の師の教えが良かったこと、ステラが女だからと侮られることのないよう鍛練を欠かさなかったことから、今ではかなり名の通った傭兵だ。

 肩につくかどうかというボブの太陽の光を集めたかのような金の髪を靡かせて戦う様は剣舞のよう。

 美麗な踊り子の可憐な踊りのようだ。真剣でいて真摯な碧眼の瞳に射抜かれれば、誰もが貴方の前に頭をたれる。とは彼女の親友たる魔術師ラキト・ルツ・ギルナンドの言葉である。

 ステラ自身はそんなご大層なものだとは欠片も思っていないが、魔術師見習いを卒業し世界を見て回るためにステラの宛てのない旅に同行しているラキトの愛弟子シェリア・ウールも同じことをいうものだから、師弟とはここまで似るものだろうかと若干の照れくささと呆れを抱いたものだ。

 さて、ラキトから彼の愛弟子シェリアを預かって二年ほど。

 そろそろシェリアも世界の様子――世界には人間のみならず魔術的素養を持ったものにしか見ることの出来ない妖精に精霊、成人しても人間の半分ほどの大きさしかないドワーフ族、人間の倍の寿命を誇り魔術的に先天的に優れた素質を持つエルフ族、それら全てと交流を持つことが適ったことで人間の枠に囚われない世界のありよう――を知っただろうし、ラキトの元に返そうかとシェリアが思案していた頃だ。

 これがシェリアと共にする最後の傭兵業かなと思いながら辺境の村までの行商のキャラバンの護衛を終わらせて、約束の金額に途中想定以上に野党などに狙われたことから上乗せされた報酬を貰い、懐にしまったステラはシェリアに声をかけた。

「シェリア、ここからは歩いて帝都に向かう。体力はもう大丈夫だろう?」
「はい! もちろんです、先生!」

 ステラの元に預けられたばかりの頃は魔術的素養に優れ、魔術を自在に操ることは出来ても旅をする体力が心もとなかったシェリアだが、二年を通してシェリア自身の意思でステラに師事し剣術の基礎を学び、体力をつけた今では丸一日歩き通しでも、一週間の野宿にも弱音を吐くことはなくなった。

 シェリアと共にする旅の最後にあえて西の最果ての村を選んだのは、シェリアに自信をつけさせるためだ。

 シェリアはどうにも師であるステラと自身を比較して、己などまだまだだと思っている節がある。だが、それは大きな間違いで、シェリアは得物こそステラとは違うが、本来が魔術師であることを考えれば破格の才能を剣術でもみせていた。

 二年でものにしたとは思えない強さがその証なのだが、どうにもシェリアにはその意識が薄い。だから、これは師であるステラから最後の贈り物のつもりだった。

 魔術はもちろん、剣術にも自信を持って皇宮仕えの親友の下に返してやりたいという。

 だからこそ、帰りもぜひ傭兵として雇いたいというキャラバンからのありがたい言葉を辞退し、交流のある他の傭兵団を斡旋しておいたのだ。

「じゃあ、一晩ここの宿に世話になるか」

 まだ日は高い。すぐに出立してもいいが、急ぐ用事があるわけでもない。

 親友のラキトからシェリアを預かっているとはいえ、彼は「この子に世界を見せてほしい」としかいわなかった。シェリアをラキトの元に返す時期はステラに任されているということだ。

 んー、と思い切り伸びをして深く深呼吸をする。

 草木の香り、堆肥の匂い、甘い香りは果実だろう。

 西の特産品といえばなんだっただろうか、などと思考を巡らせつつ、ああそういえば、宿を取るといいながら、肝心の宿屋がなければ話にならないな、とステラはいまさらなことを思案した。

 人の行き来の少ない農村は宿屋がないことが間々ある。その場合どこか適当な家の軒先か馬小屋を借りたりするのだが、さて、貸してくれそうな場所はあるだろうか。

 ぐるりと小さな村を見回すと、ふとステラの視界に全力疾走をしてこちらにかけてくる少年が目に入った。

 ぱちりと瞬きをしても、少年の進路は変わらない。

 この先に用事があるのかとステラが左に三歩ほどどけば、進路を修正してくる。その頃にはすでに目の前に茶の髪をざんばらに切った活発そうな少年はいた。

「アンタがあの有名な金色の傭兵だと聞いてきた! 俺を弟子にしてくれ!!」

 ステラが用を問うより早く口を開いた少年は怒涛の勢いでそう告げて勢いよくと頭を下げた。

 目を丸くするステラの横で、燃えるような赤毛が揺れる。赤く長い髪を白いリボンでポニーテールにしたシェリアが目を吊り上げていたのだ。

「いきなりなんなのアンタ!」
「俺が話してるのはお前じゃねぇ!」
「なにその態度! そんな態度の奴は先生と話す資格なんかないわよ!」
「なんだと!」

 なにもステラに弟子入りを志願する人間は目の前の少年が初めてではない。

 旅をする中で、名が売れるのと同時にそういったことも多々あった。

 だが、一緒に旅をし始めた当初は呆気に取られていたシェリアは今ではなぜか弟子入り志願をする相手に食って掛かるのだ。

 こうやって口論になるのも、最近ではいつものことだ。

 わずかばかり痛む頭を押さえたい気持ちを抱きつつ、二人の間に割ってはいる。

「とりあえず、話を聞くから落ち着け。シェリアもいつもいっているだろう、食って掛からない。とにかく少年、落ち着ける場所はあるか?」

 ぽんぽんとシェリアの赤毛をなでてやり、少年へ向き直れば、少年はむっとした顔を崩さないまま村の奥を指差した。

「あっちに宿屋……ってことになってる廃屋がある」
「そうか。ならばそこにいこう」

 大方住んでる人間が亡くなったので、名目上宿屋にしているのだろう。

 小さな村では珍しいことでもない。キャラバンの面子と一緒になるかもしれないが、村人の人数が少ないとはいえ、こんな村の真ん中で喧嘩を見守るつもりは毛頭ない。

 すたすたと歩き出したステラに慌てた様子でシェリアと少年がついてくる。空き家はすぐに見つかった。人が住まない家というのはすぐに見分けられるものだ。

 一応ノックをして、それから玄関を開ける。中は思ったより小奇麗に整えられていた。

 思わず室内を検分するステラに少年がぼそりと呟く。

「キャラバンの人たちが定期的に使うから、綺麗にしてるんだ。……そうしてると、たまに割り引いてくれるところもあるから」
「なるほど」

 たしかに埃塗れの場所よりは綺麗な場所で寝泊りしたいだろうし、その値引き分は宿屋利用の賃金代わりなのだろう。

 元々普通の家だった名残でリビングにあたる場所はテーブルとイスがそのままある。奥の部屋にベッドがあるのだろう。

 だが、動かそうと思えばテーブルもイスも動かして雑魚寝もできるようだった。

 ひとまずイスに座ったステラにならってシェリアが隣に座る。所在なさ気にしている少年には目の前のイスを勧めれば大人しく腰を下ろした。

「それで、少年。ひとまず名前を聞こう」
「俺はリース。リース・シカレット」
「そうか。ではリース、なぜ私の弟子になりたいというんだ?」
「……強くなりたい」
「それだけか?」
「強くなって! 強くなって……! 俺のことを認めてもらうんだ……!!」

 拳を握り締めて強い口調で言い放ったリースにステラはふむと頷いて、シェリアははんと鼻で笑った。

「馬鹿らし」
「なんだと!?」



◤ ̄ ̄ ̄ ̄◥
 あとがき
◣____◢


読んでいただき、ありがとうございます!
『守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路~次期守護龍候補の赫き竜~』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?

面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも
お気に入り登録、♡やコメントをたくさん送っていただけたら、大変励みになります!

本日このあと

『01:10』
『02:10』
『03:10』
『04:10』
『05:10』
『06:10』
『07:10』
『13:10』
『16:10』
『18:10』
『20:10』
『22:10』

に更新いたします!

次のお話もぜひ読んでいただければ幸いです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...