8 / 38
8話・交渉
しおりを挟む
「風見」
ステラの独壇場といっていい捕り物が終わり、しんと静まり返った空間にステラの凛とした声が響く。
ステラが大剣を背中にしまって軽く右手をあげれば、指先にはほのかに輝く風の精。
「すまないが、近くの騎士たちへこの男達を引き取りにくるよう伝えてもらえるか」
『―――』
「ああ、礼のりんごはちゃんと用意する」
『―――』
その言葉に嬉しそうに体を輝かせた風の精はくるりとその場で回転して姿を消した。
ステラは軽くため息を吐き出して、イザークへと視線を向ける。その手には準備万端、頑丈なロープが握られていた。
「料金は後で支払う」
「なに、このくらいたいしたことはねぇ。……だが、後で話がある。またあの宿屋でちっとばっかしいいか?」
「了解した」
短く会話を交わして、手馴れた動作で野党たちを縛り上げていく。
手伝います、とかけよってきたシェリアも一緒に、あとはキャラバンのメンバー数人がかりで全員を拘束しステラが念のためと隠し武器をもっていないか確認し終わったときには、不安そうな面持ちで成り行きを見守っていた村人達をイザークがなだめてそれぞれの仕事場に返したところだった。
「イザーク、話は急ぎか? そうでないなら、服を売って欲しい」
「おう、かまわねぇぜ。そっちの坊主の服だろう?」
「ああ」
ステラがこくりと頷けば、イザークはとたんに商人の顔に戻って、あれこれと服を引っ張り出してきた。
ロープでの罪人の縛り方などしらぬリースが所在無さ気にしていたのをステラが呼べば慌てて走りよってくる。
ステラはイザークの出してくれた服を指差してリースに告げた。
「好きな服を上下セットで二式ほど選ぶといい」
「あ、」
「何度も言わせるな。遠慮はいらん。むしろ代えがなくて困るのはお前だし、今までの格好では私達が困る」
「……はい」
ステラの若干語尾を強めた言葉にリースは頷いて、イザークが動きやすさと丈夫さを重視して出してきてくれた服を前にうんうんと唸っている。
「リース、私達は先に宿屋に戻っている。シェリア、悪いが付き合ってやってくれ」
「はい」
「わかりました、先生!」
素直な返事と元気よく返された言葉に一つ頷いて、イザークもその場は捕り物の間に追いついてきていたカイダに後を任せ、二人連れ立って宿屋へと向かった。
二人きりの宿屋で向かい合わせに腰を下ろし、言葉を切り出したのはイザークだった。
「この村から護衛についてくれるはずだった傭兵達が一つ前の村で足止めをくらっているらしい。悪いが、そこまでの護衛を改めて頼めないだろうか」
「足止め? あいつらはそれなりに強いはずだが……」
「最近天候がおかしいだろう。なんでもそのせいで俺たちの前に護衛していたキャラバンの到着が遅れたらしくてな」
「ああ、なるほどな」
そういう理由ならば仕方あるまい。天候には人間はかなわないものだ。
「野党の残りがいたことも申し訳ないと思っている。その依頼、受けさせてもらおう」
「助かるぜ」
ほっと息を吐き出したイザークは、ステラの性格から断られることはないと思っていたものの、万が一断られた場合のことを危惧していたようだった。
軽く笑って、ステラは問いかける。
「出発はいつだ?」
「午後には出ようと思ってる。仕入れはもう終わってるし、この村じゃ売れるものは高がしれているからな」
だから、あまりこういった最果ての村にキャラバンはよりつかない。
それでもキャラバンがこなければ自給自足の生活にも限度がある。あえて他のキャラバンが回らない地域を回るイザークはいわばお人よしなのだろう。
そのあたりもまた、ステラがイザークを評価する点ではあるのだが。
「昼食をとってからだな。……たまには私が料理をするかな」
シェリアが弟子となってから、「このくらいはさせてください!」とシェリアがいって譲らないので、食事当番はシェリアの仕事になっていた。
それがもう二年も続いているので、若干以前のように作れるかの不安はあるが、まぁ、なんとかなるだろう。
一つ頷いてキッチンにたったステラは、さて、なにを作ろうかと首をかしげたのだった。
ステラの独壇場といっていい捕り物が終わり、しんと静まり返った空間にステラの凛とした声が響く。
ステラが大剣を背中にしまって軽く右手をあげれば、指先にはほのかに輝く風の精。
「すまないが、近くの騎士たちへこの男達を引き取りにくるよう伝えてもらえるか」
『―――』
「ああ、礼のりんごはちゃんと用意する」
『―――』
その言葉に嬉しそうに体を輝かせた風の精はくるりとその場で回転して姿を消した。
ステラは軽くため息を吐き出して、イザークへと視線を向ける。その手には準備万端、頑丈なロープが握られていた。
「料金は後で支払う」
「なに、このくらいたいしたことはねぇ。……だが、後で話がある。またあの宿屋でちっとばっかしいいか?」
「了解した」
短く会話を交わして、手馴れた動作で野党たちを縛り上げていく。
手伝います、とかけよってきたシェリアも一緒に、あとはキャラバンのメンバー数人がかりで全員を拘束しステラが念のためと隠し武器をもっていないか確認し終わったときには、不安そうな面持ちで成り行きを見守っていた村人達をイザークがなだめてそれぞれの仕事場に返したところだった。
「イザーク、話は急ぎか? そうでないなら、服を売って欲しい」
「おう、かまわねぇぜ。そっちの坊主の服だろう?」
「ああ」
ステラがこくりと頷けば、イザークはとたんに商人の顔に戻って、あれこれと服を引っ張り出してきた。
ロープでの罪人の縛り方などしらぬリースが所在無さ気にしていたのをステラが呼べば慌てて走りよってくる。
ステラはイザークの出してくれた服を指差してリースに告げた。
「好きな服を上下セットで二式ほど選ぶといい」
「あ、」
「何度も言わせるな。遠慮はいらん。むしろ代えがなくて困るのはお前だし、今までの格好では私達が困る」
「……はい」
ステラの若干語尾を強めた言葉にリースは頷いて、イザークが動きやすさと丈夫さを重視して出してきてくれた服を前にうんうんと唸っている。
「リース、私達は先に宿屋に戻っている。シェリア、悪いが付き合ってやってくれ」
「はい」
「わかりました、先生!」
素直な返事と元気よく返された言葉に一つ頷いて、イザークもその場は捕り物の間に追いついてきていたカイダに後を任せ、二人連れ立って宿屋へと向かった。
二人きりの宿屋で向かい合わせに腰を下ろし、言葉を切り出したのはイザークだった。
「この村から護衛についてくれるはずだった傭兵達が一つ前の村で足止めをくらっているらしい。悪いが、そこまでの護衛を改めて頼めないだろうか」
「足止め? あいつらはそれなりに強いはずだが……」
「最近天候がおかしいだろう。なんでもそのせいで俺たちの前に護衛していたキャラバンの到着が遅れたらしくてな」
「ああ、なるほどな」
そういう理由ならば仕方あるまい。天候には人間はかなわないものだ。
「野党の残りがいたことも申し訳ないと思っている。その依頼、受けさせてもらおう」
「助かるぜ」
ほっと息を吐き出したイザークは、ステラの性格から断られることはないと思っていたものの、万が一断られた場合のことを危惧していたようだった。
軽く笑って、ステラは問いかける。
「出発はいつだ?」
「午後には出ようと思ってる。仕入れはもう終わってるし、この村じゃ売れるものは高がしれているからな」
だから、あまりこういった最果ての村にキャラバンはよりつかない。
それでもキャラバンがこなければ自給自足の生活にも限度がある。あえて他のキャラバンが回らない地域を回るイザークはいわばお人よしなのだろう。
そのあたりもまた、ステラがイザークを評価する点ではあるのだが。
「昼食をとってからだな。……たまには私が料理をするかな」
シェリアが弟子となってから、「このくらいはさせてください!」とシェリアがいって譲らないので、食事当番はシェリアの仕事になっていた。
それがもう二年も続いているので、若干以前のように作れるかの不安はあるが、まぁ、なんとかなるだろう。
一つ頷いてキッチンにたったステラは、さて、なにを作ろうかと首をかしげたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる