【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

文字の大きさ
9 / 38

9話・精霊術と魔術

しおりを挟む
 リースが散々悩んで服を購入し――とはいってもその代金はステラ持ちという事でその場で支払う必要はなかった――宿屋にシェリアとともにもどったころには大皿に一杯のサンドイッチが出来上がっていた。

 シェリアが「あー!先生、私の仕事―!」と叫んだりはしたが、ステラが「たまには作らないと作り方を忘れてしまう」と苦笑交じりに告げればそれ以上はなにも言わなかった。

 卵やハム、チーズをふんだんに使われたサンドイッチはこんな農村ではご馳走といっていい。

 ごくりと喉を鳴らしたリースにステラが「好きなだけ食べていい」と告げるが、続いてシェリアが「手を洗ってからね!」と釘をさす。

 言われた通りに手を洗って戻ってきた頃には商売を終えたキャラバンの面子も集まっていた。

 やけに数が多いと思ったらキャラバンの面子の分もいれた食事だったようだ。

 賑やかにわいわいと皆でサンドイッチを食べていく。

 ステラとシェリアはキャラバンの面々と雑談を交わしていたが、リースは久々のご馳走にそちらに夢中だった。

 腹八分目に足りないくらいが普段のリースの食事量だが、今日ばかりは腹いっぱいに食べたリースは少し食べ過ぎた腹をさすりながら大満足してごちそうさまを告げた。

「リース、一時間後に出発だ。それまでに動けるように消化しておけよ」

 ややからかうような口調のステラに、がっついていた自覚はあるので照れくささを押し隠しつつ、はい、と頷いたのだった。

「そういえば師匠『風見』って連絡用の精のことですよね?」

 野党たちを縛り上げた現場でのことをリースが訪ねれば、ステラはこともなげに頷いた。

「あ、あのっ、できたらでいいんです……! いいんですがっ、俺にも精霊術とか教えてもらえませんか!俺っ、基本もできなくて……っ」
「構わないが、習うなら私ではなくシェリアから習ったほうがいいだろうな」
「え?」

 あっさりと許可したことにか、シェリアの名前がでてきたことにか、目を丸くするリースにステラは肩をすくめてみせた。

「私はあまり、精霊術も魔術も得意ではなくてな。必要なものを最低限しか、覚えていない。それも人に教えることはないから、ほとんど自己流になりつつある。シェリアは国でも名高い魔術師の教え子だ。精霊術は専門外だろうが、それでも私より基礎はできている。教えを請うなら私よりシェリアが適任だ」

 この世界には、ステラのような剣士の他に、大別して魔術師と精霊術士がいる。

 魔術師とは己の体内に宿る元素の力を元にして魔術を操るもの、精霊術士とは精霊と交信あるいは会話をし精霊を意のままに操る者の事を言う。

 ステラたちの住むコルタリア皇統国は竜を唯一神と崇め奉り、竜と契約することで力を手に入れ文明を築いた国だ。

 他にも、精霊と魔術を用いて繁栄を築いたアルドリア国、そのどちらをもの技術を取りいれそれでいてどちらにも属さぬ職人と商人の国、ステランディス中立国と、世界には三つの国がある。

 竜を唯一神とするコルタリア皇統国では魔術師及び精霊術士の数も地位もアルドリア国には及ばないが、日常生活に精霊術を取り入れるのは庶民でもやっていることだ。

 逆に魔術師は先天的に才能を持つものが少く、教育機関もあまり発達しているとはいえないため、数が少ないのが現状だった。

 日常生活で使う精霊術の代表例の一つが、先ほどステラが飛ばした風の精での連絡だったりする。

 とはいえ、ステラ自身急ぎの用のとき以外は滅多に使わない。

 ステラが元々あまり精霊との交信が得意ではないこともあるし、たいした理由もなく精霊を使うのは申し訳ないというステラ自身の考えからだ。

 閑話休題。

 シェリアから教えを請うことに渋るかと思われたリースだが意外にも素直に頷いた。根は素直な性質なのだろう。

 好ましいな、と思いながら皿洗いを終えたシェリアを呼ぶ。

「シェリア、悪いがリースに……そうだな、魔術と精霊術と一通り教え込んではくれないか」
「はい、別に構いませんが……?」

 こちらも根は素直な性分だ。

 意を唱えることなく、ただ、どうして、という顔をするシェリアにステラは苦笑をこぼして「使えるようになりたいらしい」と告げれば、シェリアはきりりと目元を吊り上げてリースに向かい合う。

「それはいいけど、アンタ先生に弟子入りしたんだからまずは剣術を優先しなさいよ! でも、どっちも手を抜いたらその時点で私はなにも教えないわ!!」

 強い口調で突き放すように告げたシェリアに、リースは反発することなく神妙な面持ちで、わかった、と告げた。

 それに毒気を抜かれたのか、シェリアは「わかってるなら、いいけど」と小さな声で呟く。

 なんだかそのやり取りが初心な子供のように思えて、ついつい笑ってしまったステラだ。

 当然のごとく「何で笑うんですか先生!」とシェリアがじゃれ付きまじりに反発してきたが、それもまたご愛嬌だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

処理中です...