〈旅行記〉意味がなければインドカレーはない

こえ

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通りの角のいいお店

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 インドに来てから、無愛想な店員が好きになった。
 この国の店の店員は、微笑むなんてことはしないし、客を客と思っていない人が多い。多い、とういうか、全員そうだ。無表情でレジを打ったり、商品をぽいっと投げて渡したり、渡したきりこちらは無視だったり、そういう態度の人ばかりなのだ。さらには、その無表情でくいっと頭を右に傾げる仕草をする。こちらの言うことがわからないのだろうか、英語の発音が悪かったのかと、始めはいらいらしたのだが、それはこの国で「イエス」の仕草なのだと、後になってわかった。
 これは日本にいるときとはかなり大きな違いである。日本人にとって「お客様は神様」であり、畏れ、敬い、崇め奉る対象なのだから。しかし実はぼくは、日本にいてそこに違和感があった。服屋での過剰な接客は嫌いという人は多いだろうが、ぼくは、変に丁寧に扱われたりすると、どこか居心地の悪さを覚えてしまう。なぜ客だからといってそこまで慇懃になる必要があるのだろう。その態度を自分の親に示してくれれば、この世界はずいぶんと良くなるのではないだろうか(人のことはいえない)。
 大げさに書いたが、自分はそういう思いを持っていたのだと、この国に来て感じた。そう、無愛想な店員たちのおかげで。そしてその無愛想加減がなぜか居心地がいいのだ。あんたなんて他人ですよ、知りません、と言っているようで潔い。他人に他人と言われたことでこっちの心がすっきりする。いい顔をして近づく人ほど信用できない人はいない。
 実はその居心地の良さがインドで崩れたことがあった。レーでの店である。レーは今の時期大きな観光地なので、その観光客目当ての店が非常に多い。とにかく買え買えとうるさい。まあ、仏教徒らしい控えめさは持っているのだけれど。
しかしその居心地の悪さを癒してくれたのもレーの店だった。町の中心部から宿屋街へと入ってゆく通りの角にある、小さな本屋である。ぼくは本屋をうろつくのが好きなので、(うろつくまでもなく全部見終えられるくらいの小さなところだが)そこに入ってみた。
 置いてあるのは、自然・地球系の本と仏教系の本である。さらにダライ・ラマの肖像のあるマグネットやポスター、マウスパッドなどのチベットグッズもある。そこにいるときの心地よさは特別なものだった。ひとつも歓迎されていないのだ。店員はいるが、こっちの方は無視で、子供の宿題を見ている。ダライ・ラマのマグネットをとって「これはいくら?」と聞いてもぶっきらぼうにその数字を言うだけで、また子供の方に目をやる。これだ、これだったんだ、インドの人は。ぼくは嬉しくなった。よかった、ぼくはインドに来たんだったと、ほっとした。
 ぼくは、ダライ・ラマのマグネットを二つ買い、その店を出た。
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