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二.紅色は悲劇のヒロインと
22.まるいかたちにしてみよう
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「何やってんだよ」
僕は声を荒げながら、それでも桜乃《さくの》が無事であった事にほっと息を吐き出していた。
しかし彼女はその問いには答えずに、だけどその顔がみるみるうちに崩れていく。
「未来が見えるってどんな気分ですか。そうですか、とても悲しいのですね。辛くて、苦しい事ばかりで、それでもそんな未来なんて変えようと思う。浩一さんは、強いですね。私は」
桜乃は今までになく早口で、独白するかのように話し続けていた。僕が何も答えていないのにうなずきながら話してるのは、きっと僕の心をいや記憶を読んでいるからだろう。
彼女はずっと一人で耐えてきた。だけどそこに似たような力を持つ僕が現れた。現れてしまった。そして僕が見た未来を知ってしまった。
「私は、もう疲れました。だから貴方の見た未来は、私にとってそう出来るのなら素敵な事のように思えた。私の事を少しでも理解してくれそうな貴方と消えてしまうのも良いかもしれない。そう思った。私は浩一さんみたいに強くなれません。無理なのを知っていて、それでも変えようとあがくなんてことは出来なかった。私は人の心が読めるから。読んでしまうから。私は全て知ってしまうんです。陰口も、やっかみも。私にぶつけられる嫌な感情も。知りたくもないのに。知らなくていいのに。いつもとげとげしい形の感情がぶつけられて、私を突き刺していくんです。でも自分じゃこの力を制御できないから、だから」
彼女は僕の記憶を読んでしまった。一緒に死のうと誘う未来を知ってしまった。それは彼女にとって、あまりにも甘い誘いだったのだろう。耐える事しか知らなくて、壊れかけていた彼女の気持ちは、そうすることで楽になれるのだと知ってしまったのだろう。
だから彼女はその目に涙をため込んでいて、崩れそうになる顔を隠そうともしていなかった。
桜乃は僕の上に重なったまま、その目から涙をこぼしていた。
まるで雨がふるかのように、いくつもの雫が落ちて、僕の頬を濡らしていく。
その瞬間、桜乃は驚いた顔で自分の頬にふれて、涙の痕を確かめていく。
「私、泣いていますか。泣いていますね。……ひさしぶりに、泣いた気がします。私もまだ泣けたんだ」
その声は驚きと悲しみにあふれていて。僕は何と答えればいいのかわからかなった。
桜乃は立ち上がり、僕から距離をとって離れていく。
波の打ち付ける音が聞こえた。その音は何かを隠すように辺りを包み込んでいく。
「浩一さん、私は今日あえて服を変えてみたんです。絶対に着られないように、白いワンピースは海でべとべとにして、クリーニングに出してしまいました。未来を変えたいって願う貴方の想いを、半分は叶えようとして、そして半分は抗おうとして。未来を変えようとする浩一さんは、私にはまぶしすぎるから」
そう告げる桜乃の姿に、未来でみた白いワンピース姿が重なってみた気がした。
僕が見てしまった未来は桜乃にとって、抗いがたいほどに魅惑的に見えたのだろう。だから未来を知りながらもそう誘いかけてきた。でも未来を変えたいと思う僕のために、桜はわざと白いワンピースを着られないようにしてくれた。未来を変えるために。
未来は変わったのだろうか。変えられたのだろうか。
桜乃は僕が見た未来通りの台詞を重ねた。でも夢で見た白いワンピース姿ではなくて、それとは遠く離れたボーイッシュな出で立ち。
僕一人では未来を変える事は出来なかった。でも桜乃が僕の記憶を読み取ったことで、見たままの未来では無くなった。二つの力が重なる事で、変えられなかった運命に抗うことが出来たのじゃないだろうか。
桜乃はまるで春風のようにふわりと舞うように僕へと向き直る。
「浩一さん。私の気持ちは半分ずつです。半分の心だけ貴方に向けています。貴方と一緒に消えてしまいたい。このまま海の中へ飛び込んでしまいたい。そんな気持ちと。浩一さんの思う未来を変えたいと願う気持ちを叶えてあげたいと思う気持ち。半分だけ貴方に惹かれているんです」
桜乃は涙で濡れたままの瞳を僕へとまっすぐに投げかけてきていた。
だけどその顔は確かに笑顔を振りまいていて。
「私は麗奈さんを傷つけた犯人を知っています。でも今は教えてあげません。もしも犯人を知りたいのでしたら、私の残りの半分を満たしてくれますか?」
桜乃は微笑んで、僕へと両手を差し出していた。
でもその儚い笑顔は、本当の気持ちではないことをもう僕は知ってしまった。どこかつかみ所のない少女は、心をどこかに置いてきて感情を失ってしまっていた女の子だった。でも本当はまだどこかで感情を取り戻すことを願っているのだろう。
不思議な力を持つ者同士として、初めて自分の気持ちを吐露する事が出来たのだろう。誰にも言えずに心の中にため込んでいて、心を閉ざすことしか出来なかった。
僕は彼女と違って心を読む事はできない。だから本当にそうなのかはわからない。それでも彼女が抱いていた苦しみと悲しみを、僕は少しだけでも理解できたような気がする。
桜乃自身も意識はしていないのだろうけれど、桜乃はきっと崩れていく心をどこかですくい上げようとして僕にすがっているのじゃないだろうか。
「私と一緒に死んでくれますか」
もういちど桜乃は僕へと言葉を向ける。
だけど僕はその手をとる事は出来ない。
「僕は君とは死ねない」
拒絶と言葉と共に、僕は桜乃へと手を差し出していた。
僕は死ねない。死ぬわけにはいかない。でも桜乃と気持ちを分かち合いたいと思った。
僕自身も未来を見る事で辛い想いを重ねてきた。だから僕は少しだけだけど、彼女の気持ちが理解できるはずだ。だから僕は少しだけでも、彼女の心を救いたいと思う。
「僕は君とは死ねない。一緒に死んだって君の心を満たせるかなんてわからないから。でもいま僕が恐れていた未来は現実になったけれど、だけど見たままの未来じゃなくなった。それは君の持っていた力のおかげだと思う。君が僕を救ってくれたんだ。でもそれならもしかしたら僕の力が君の力をずらしていけるかもしれない。それならまだ君が別れを告げるには早すぎる」
僕は手を差し出したまま、桜乃へと一歩だけ歩み寄る。
波の音だけが聞こえる。風が舞って彼女の長い髪を揺らしていた。
「とげとげしい形の感情なんて、きっと届かなくしてみせる。だから」
僕は桜乃をじっと見つめていた。
「どうせさよならをいうのなら、たまにはまるいかたちにしてみよう」
僕の言葉は桜乃に届いただろうか。とげとげしい形の感情を、彼女を傷つけないまるいかたちに変えられているだろうか。
僕の気持ちが届いているのなら、少しだけでも彼女の痛みを消していられるかもしれない。
静かな海の中で聞こえるのは波の音と潮風の音。そして僕と桜乃の息づかいだけ。ときおり潮風が耳元で囁いていき、寄せ波の呼び声がまるで誘うように呼んでいる。
「浩一さんは、おかしな人ですね」
桜乃は不思議なものを見るかのように、憮然とした表情で差し出していた手を下ろした。
だけどすぐにまるで聞き分けのない子供に接する温かな母親のような、優しい顔つきで僕を見つめ直して、それから僕の差し出した手へと自分の手を重ねていた。
届いたのだろうか。それとも僕の気のせいなのだろうか。桜乃は何も言わずに、僕の手を握ってすぐに離した。
「浩一さん。私は好きっていう気持ちがわかりません。今まで一度も抱いた事がないから。男の人にも女の人にも、あるいは家族にも。よくわからないけど、好きっていう気持ちはどこかに憧れがあるからこそ抱けるものなんだと思います」
彼女は少しだけうつむく。
「相手の考えている事が何もかもわかる。好意も悪意も、優越感も劣等感も、触れてしまえば過去の記憶すらも。私に向けられる気持ちの全てがわかってしまう人に、理想を重ねる事なんて出来ませんから。私は誰かを好きになるなんて、今まで一度たりともありませんでした。そして今でもそれは変わりません」
桜乃の笑顔はそれでも変わらずに浮かんだままだ。どこへ向けているのかわからないその顔は、まるで明日は晴れますねと当たり障りのない世間話をするかのように張り付いて動かない。
だけど僕にはそれが激しい痛みを吐露するかのように思えて、彼女と自分とを重ね合わせていた。
「ただ私には未来だけはわかりません。見えない先に不安を感じた事なんてないですけれど、私にわかるのは今と過ぎ去った時間だけです。浩一さんは未来がわかるというのなら、私に未来を感じさせてくれますか。私に見せてくれますか。私が心を読める事を知っても、今もまだ気味悪く思うこともなく変わらない貴方なら、私に強さを教えてくれるかもしれない」
桜乃は再び振り返り、僕に背中を向けてしまう。
長い髪が揺れていた。同時にパンツ姿のはずなのに、舞い上がった白いスカートも見えたような気がする。
未来で見た姿が重ね合って見えたのか、それとも僕の力の余波なのだろうか。ほんの少し先の未来が見えるときに現れる映像のようにも感じられた。
だけど今は桜乃はワンピース姿ではない。未来は変わっている。
たぶん桜乃はずっと未来に希望を抱く事が出来なかったのだろう。でも死ぬという発想すらなくて、ただただ心を閉ざし続けてきた。
僕が差し出した未来の記憶は、彼女の心にも未来を見せたのかもしれない。
最初は自分を少しでも理解してくれる人と一緒に死ぬという選択肢を。そして今まで望まなかった未来への望みを抱いたことで、僕の見た未来が変えられたことで、心が見える事におびえなくてもすむ未来があり得るかもしれないという希望を。彼女は知ることが出来たのだろう。
「僕にそれが出来るなら」
僕に何が出来るかはわからない。でももしかしたら僕が桜乃を救う事が出来るかもしれない。僕の力が君に届くなら。僕は君を救いたい。
僕はまっすぐに桜乃へと視線を合わせる。僕の気持ちはたぶん彼女には伝わっているのだろう。
僕は声を荒げながら、それでも桜乃《さくの》が無事であった事にほっと息を吐き出していた。
しかし彼女はその問いには答えずに、だけどその顔がみるみるうちに崩れていく。
「未来が見えるってどんな気分ですか。そうですか、とても悲しいのですね。辛くて、苦しい事ばかりで、それでもそんな未来なんて変えようと思う。浩一さんは、強いですね。私は」
桜乃は今までになく早口で、独白するかのように話し続けていた。僕が何も答えていないのにうなずきながら話してるのは、きっと僕の心をいや記憶を読んでいるからだろう。
彼女はずっと一人で耐えてきた。だけどそこに似たような力を持つ僕が現れた。現れてしまった。そして僕が見た未来を知ってしまった。
「私は、もう疲れました。だから貴方の見た未来は、私にとってそう出来るのなら素敵な事のように思えた。私の事を少しでも理解してくれそうな貴方と消えてしまうのも良いかもしれない。そう思った。私は浩一さんみたいに強くなれません。無理なのを知っていて、それでも変えようとあがくなんてことは出来なかった。私は人の心が読めるから。読んでしまうから。私は全て知ってしまうんです。陰口も、やっかみも。私にぶつけられる嫌な感情も。知りたくもないのに。知らなくていいのに。いつもとげとげしい形の感情がぶつけられて、私を突き刺していくんです。でも自分じゃこの力を制御できないから、だから」
彼女は僕の記憶を読んでしまった。一緒に死のうと誘う未来を知ってしまった。それは彼女にとって、あまりにも甘い誘いだったのだろう。耐える事しか知らなくて、壊れかけていた彼女の気持ちは、そうすることで楽になれるのだと知ってしまったのだろう。
だから彼女はその目に涙をため込んでいて、崩れそうになる顔を隠そうともしていなかった。
桜乃は僕の上に重なったまま、その目から涙をこぼしていた。
まるで雨がふるかのように、いくつもの雫が落ちて、僕の頬を濡らしていく。
その瞬間、桜乃は驚いた顔で自分の頬にふれて、涙の痕を確かめていく。
「私、泣いていますか。泣いていますね。……ひさしぶりに、泣いた気がします。私もまだ泣けたんだ」
その声は驚きと悲しみにあふれていて。僕は何と答えればいいのかわからかなった。
桜乃は立ち上がり、僕から距離をとって離れていく。
波の打ち付ける音が聞こえた。その音は何かを隠すように辺りを包み込んでいく。
「浩一さん、私は今日あえて服を変えてみたんです。絶対に着られないように、白いワンピースは海でべとべとにして、クリーニングに出してしまいました。未来を変えたいって願う貴方の想いを、半分は叶えようとして、そして半分は抗おうとして。未来を変えようとする浩一さんは、私にはまぶしすぎるから」
そう告げる桜乃の姿に、未来でみた白いワンピース姿が重なってみた気がした。
僕が見てしまった未来は桜乃にとって、抗いがたいほどに魅惑的に見えたのだろう。だから未来を知りながらもそう誘いかけてきた。でも未来を変えたいと思う僕のために、桜はわざと白いワンピースを着られないようにしてくれた。未来を変えるために。
未来は変わったのだろうか。変えられたのだろうか。
桜乃は僕が見た未来通りの台詞を重ねた。でも夢で見た白いワンピース姿ではなくて、それとは遠く離れたボーイッシュな出で立ち。
僕一人では未来を変える事は出来なかった。でも桜乃が僕の記憶を読み取ったことで、見たままの未来では無くなった。二つの力が重なる事で、変えられなかった運命に抗うことが出来たのじゃないだろうか。
桜乃はまるで春風のようにふわりと舞うように僕へと向き直る。
「浩一さん。私の気持ちは半分ずつです。半分の心だけ貴方に向けています。貴方と一緒に消えてしまいたい。このまま海の中へ飛び込んでしまいたい。そんな気持ちと。浩一さんの思う未来を変えたいと願う気持ちを叶えてあげたいと思う気持ち。半分だけ貴方に惹かれているんです」
桜乃は涙で濡れたままの瞳を僕へとまっすぐに投げかけてきていた。
だけどその顔は確かに笑顔を振りまいていて。
「私は麗奈さんを傷つけた犯人を知っています。でも今は教えてあげません。もしも犯人を知りたいのでしたら、私の残りの半分を満たしてくれますか?」
桜乃は微笑んで、僕へと両手を差し出していた。
でもその儚い笑顔は、本当の気持ちではないことをもう僕は知ってしまった。どこかつかみ所のない少女は、心をどこかに置いてきて感情を失ってしまっていた女の子だった。でも本当はまだどこかで感情を取り戻すことを願っているのだろう。
不思議な力を持つ者同士として、初めて自分の気持ちを吐露する事が出来たのだろう。誰にも言えずに心の中にため込んでいて、心を閉ざすことしか出来なかった。
僕は彼女と違って心を読む事はできない。だから本当にそうなのかはわからない。それでも彼女が抱いていた苦しみと悲しみを、僕は少しだけでも理解できたような気がする。
桜乃自身も意識はしていないのだろうけれど、桜乃はきっと崩れていく心をどこかですくい上げようとして僕にすがっているのじゃないだろうか。
「私と一緒に死んでくれますか」
もういちど桜乃は僕へと言葉を向ける。
だけど僕はその手をとる事は出来ない。
「僕は君とは死ねない」
拒絶と言葉と共に、僕は桜乃へと手を差し出していた。
僕は死ねない。死ぬわけにはいかない。でも桜乃と気持ちを分かち合いたいと思った。
僕自身も未来を見る事で辛い想いを重ねてきた。だから僕は少しだけだけど、彼女の気持ちが理解できるはずだ。だから僕は少しだけでも、彼女の心を救いたいと思う。
「僕は君とは死ねない。一緒に死んだって君の心を満たせるかなんてわからないから。でもいま僕が恐れていた未来は現実になったけれど、だけど見たままの未来じゃなくなった。それは君の持っていた力のおかげだと思う。君が僕を救ってくれたんだ。でもそれならもしかしたら僕の力が君の力をずらしていけるかもしれない。それならまだ君が別れを告げるには早すぎる」
僕は手を差し出したまま、桜乃へと一歩だけ歩み寄る。
波の音だけが聞こえる。風が舞って彼女の長い髪を揺らしていた。
「とげとげしい形の感情なんて、きっと届かなくしてみせる。だから」
僕は桜乃をじっと見つめていた。
「どうせさよならをいうのなら、たまにはまるいかたちにしてみよう」
僕の言葉は桜乃に届いただろうか。とげとげしい形の感情を、彼女を傷つけないまるいかたちに変えられているだろうか。
僕の気持ちが届いているのなら、少しだけでも彼女の痛みを消していられるかもしれない。
静かな海の中で聞こえるのは波の音と潮風の音。そして僕と桜乃の息づかいだけ。ときおり潮風が耳元で囁いていき、寄せ波の呼び声がまるで誘うように呼んでいる。
「浩一さんは、おかしな人ですね」
桜乃は不思議なものを見るかのように、憮然とした表情で差し出していた手を下ろした。
だけどすぐにまるで聞き分けのない子供に接する温かな母親のような、優しい顔つきで僕を見つめ直して、それから僕の差し出した手へと自分の手を重ねていた。
届いたのだろうか。それとも僕の気のせいなのだろうか。桜乃は何も言わずに、僕の手を握ってすぐに離した。
「浩一さん。私は好きっていう気持ちがわかりません。今まで一度も抱いた事がないから。男の人にも女の人にも、あるいは家族にも。よくわからないけど、好きっていう気持ちはどこかに憧れがあるからこそ抱けるものなんだと思います」
彼女は少しだけうつむく。
「相手の考えている事が何もかもわかる。好意も悪意も、優越感も劣等感も、触れてしまえば過去の記憶すらも。私に向けられる気持ちの全てがわかってしまう人に、理想を重ねる事なんて出来ませんから。私は誰かを好きになるなんて、今まで一度たりともありませんでした。そして今でもそれは変わりません」
桜乃の笑顔はそれでも変わらずに浮かんだままだ。どこへ向けているのかわからないその顔は、まるで明日は晴れますねと当たり障りのない世間話をするかのように張り付いて動かない。
だけど僕にはそれが激しい痛みを吐露するかのように思えて、彼女と自分とを重ね合わせていた。
「ただ私には未来だけはわかりません。見えない先に不安を感じた事なんてないですけれど、私にわかるのは今と過ぎ去った時間だけです。浩一さんは未来がわかるというのなら、私に未来を感じさせてくれますか。私に見せてくれますか。私が心を読める事を知っても、今もまだ気味悪く思うこともなく変わらない貴方なら、私に強さを教えてくれるかもしれない」
桜乃は再び振り返り、僕に背中を向けてしまう。
長い髪が揺れていた。同時にパンツ姿のはずなのに、舞い上がった白いスカートも見えたような気がする。
未来で見た姿が重ね合って見えたのか、それとも僕の力の余波なのだろうか。ほんの少し先の未来が見えるときに現れる映像のようにも感じられた。
だけど今は桜乃はワンピース姿ではない。未来は変わっている。
たぶん桜乃はずっと未来に希望を抱く事が出来なかったのだろう。でも死ぬという発想すらなくて、ただただ心を閉ざし続けてきた。
僕が差し出した未来の記憶は、彼女の心にも未来を見せたのかもしれない。
最初は自分を少しでも理解してくれる人と一緒に死ぬという選択肢を。そして今まで望まなかった未来への望みを抱いたことで、僕の見た未来が変えられたことで、心が見える事におびえなくてもすむ未来があり得るかもしれないという希望を。彼女は知ることが出来たのだろう。
「僕にそれが出来るなら」
僕に何が出来るかはわからない。でももしかしたら僕が桜乃を救う事が出来るかもしれない。僕の力が君に届くなら。僕は君を救いたい。
僕はまっすぐに桜乃へと視線を合わせる。僕の気持ちはたぶん彼女には伝わっているのだろう。
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