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第十一局 どうしても矢倉さんの守りは固い
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「ところで矢倉さん」
僕は将棋を指しながら矢倉さんに話しかける。
「はいはい。なんでしょう、美濃くん」
矢倉さんは変わらず僕の手をほとんど考えずに指し返してくる。まだまだ僕との対局は考えるまでもないということなのだろう。
「今日はいちご先輩来ませんね。ここのところ毎日きていたのにどうしたのでしょう」
ここ最近、僕の指導対局をするために毎日のように来ていたのだけれど、今日は姿を現さない。軽音部の方が忙しいのか、はたまた体調不良なのか。
「美濃くんはいちご先輩がこないと寂しいですか?」
矢倉さんの問いに少し思いを巡らせる。
確かにいちご先輩がいないのは寂しいといえば寂しい。いちご先輩の教え方は上手いので、僕もかなり強くなった実感がある。とはいえ、まだまだ矢倉さんはおろか、いちご先輩にも敵わないのが現状だ。
「まぁ、僕のために毎日きてくれていた訳ですから、寂しくないっていったら嘘になりますけど。でも矢倉さんと二人で指す将棋は楽しいです」
心からの本心で告げる。
まぁ、いちご先輩はせいぜい一局指してくれるだけなので、感想戦含めて三十分もしたらいなくなってしまう。そのあとはたまに菊水先輩や木村先輩が顔をだしてくれるけど、ほとんどは矢倉さんと二人で指している。
それでもこうして二人で指している時間は僕にとって大切な時間だと思う。
「え、えっと、それって」
「矢倉さんは僕と二人で楽しいですか?」
ちょっと気になっていた事を訊いてみる。
「え、ええー。そ、その。楽しい、ですけど」
「それならよかったです。僕、弱いですよね。本当は平手で指せるほど矢倉さんの相手になっていないのはわかっているんです。だから矢倉さん、本当はつまらないんじゃないかなって」
矢倉さんの答えにほっとする。
自分の力の無さはよくわかっている。これはこう答えるしかなかったのかもしれないけれど、矢倉さんがつまらない思いをしていたら悲しいとも思う。
「だ、大丈夫ですよ。楽しいです。だって、私は美濃くんのこと」
矢倉さんが何かを告げようとした、その瞬間だった。
「ごめーーーん。今日、ちょっと用事があって遅くなっちゃったよ。さ、時間もないからいそいで指そう」
いちご先輩が部室の扉を開けるや否や言い放っていた。
「はぅ。いちご先輩……」
矢倉さんが何か情けない声を漏らしていた。こんな矢倉さんは珍しい。
「ん、矢倉ちゃん、どうしたの? あ、もしかしてボク、お邪魔だった?」
にやにやした顔で何かを矢倉さんに告げていた。
「そ、そんなことないです」
矢倉さんはなぜか顔を真っ赤にしたままうつむいていた。
矢倉さんは何を言おうとしていたのだろうか。
そのあと何回か訊いてみたのだけれど、すべてはぐらかされてしまった。
どうしても矢倉さんの守りは固い。
僕は将棋を指しながら矢倉さんに話しかける。
「はいはい。なんでしょう、美濃くん」
矢倉さんは変わらず僕の手をほとんど考えずに指し返してくる。まだまだ僕との対局は考えるまでもないということなのだろう。
「今日はいちご先輩来ませんね。ここのところ毎日きていたのにどうしたのでしょう」
ここ最近、僕の指導対局をするために毎日のように来ていたのだけれど、今日は姿を現さない。軽音部の方が忙しいのか、はたまた体調不良なのか。
「美濃くんはいちご先輩がこないと寂しいですか?」
矢倉さんの問いに少し思いを巡らせる。
確かにいちご先輩がいないのは寂しいといえば寂しい。いちご先輩の教え方は上手いので、僕もかなり強くなった実感がある。とはいえ、まだまだ矢倉さんはおろか、いちご先輩にも敵わないのが現状だ。
「まぁ、僕のために毎日きてくれていた訳ですから、寂しくないっていったら嘘になりますけど。でも矢倉さんと二人で指す将棋は楽しいです」
心からの本心で告げる。
まぁ、いちご先輩はせいぜい一局指してくれるだけなので、感想戦含めて三十分もしたらいなくなってしまう。そのあとはたまに菊水先輩や木村先輩が顔をだしてくれるけど、ほとんどは矢倉さんと二人で指している。
それでもこうして二人で指している時間は僕にとって大切な時間だと思う。
「え、えっと、それって」
「矢倉さんは僕と二人で楽しいですか?」
ちょっと気になっていた事を訊いてみる。
「え、ええー。そ、その。楽しい、ですけど」
「それならよかったです。僕、弱いですよね。本当は平手で指せるほど矢倉さんの相手になっていないのはわかっているんです。だから矢倉さん、本当はつまらないんじゃないかなって」
矢倉さんの答えにほっとする。
自分の力の無さはよくわかっている。これはこう答えるしかなかったのかもしれないけれど、矢倉さんがつまらない思いをしていたら悲しいとも思う。
「だ、大丈夫ですよ。楽しいです。だって、私は美濃くんのこと」
矢倉さんが何かを告げようとした、その瞬間だった。
「ごめーーーん。今日、ちょっと用事があって遅くなっちゃったよ。さ、時間もないからいそいで指そう」
いちご先輩が部室の扉を開けるや否や言い放っていた。
「はぅ。いちご先輩……」
矢倉さんが何か情けない声を漏らしていた。こんな矢倉さんは珍しい。
「ん、矢倉ちゃん、どうしたの? あ、もしかしてボク、お邪魔だった?」
にやにやした顔で何かを矢倉さんに告げていた。
「そ、そんなことないです」
矢倉さんはなぜか顔を真っ赤にしたままうつむいていた。
矢倉さんは何を言おうとしていたのだろうか。
そのあと何回か訊いてみたのだけれど、すべてはぐらかされてしまった。
どうしても矢倉さんの守りは固い。
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