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三.春渡しと交わした約束
26.不思議の国
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どれくらい歩いただろうか。
歩いて歩いて気がつくと、たどり着いたのは山の麓にある小さな祠の前だった。
何か軽くお供えがされているから、たまにはこの辺にも人はくるのだろう。
「さてと、どこだろう。ここ。ありこ知ってる?」
「知らないよぅ。普段こんなところまで一人でこないもん。ほんとはお父さんにこっちにはいっちゃだめって言われてたんだけど。どうしてもひまわりが観たくて、一人で来ちゃったの。あとありこじゃないよ。ゆうこだよ。ゆうこって呼んでよぅ」
「はいはい。ゆうこね」
僕は適当に答えると、辺りを見回してみる。とりあえずひまわり畑の縁までは来ているようだった。
「まぁわかんないけど、ここから縁にそって歩けば帰れるんじゃないかな」
思っていたよりもひまわり畑は広くて、歩くだけでもしんどそうではあるものの、帰る目処はついていると思う。
ただありこはもともとから疲れていたようで、この場に座り込んでいた。
道が全く見えないだけに余計に疲れてしまったのかもしれない。
「もう歩けない。足が痛い」
しゃがみ込んでいたありこの足首をみると、靴擦れを起こしているのかサンダルを履いたかかとが赤く腫れ上がっていた。
「うわ。これは痛いよね。どうしよう」
確かにこの足でこれ以上歩かせるのは酷だった。しかしこの場所にいても祠の他には、特にない。
「どうしよう。僕が誰か大人の人を呼んでくるから、ここで待っている?」
問いかけにありこはぷるぷると首を振るう。
確かにそろそろ日も沈み始めている。黄昏というのだっけ。少しずつ暗闇が近づいてきていた。ここに一人残されるのは少し怖いかもしれない。
「わかった。二人でここに大人がきてくれるのを待とう。二人なら寂しくないよね」
僕の言葉にありこはうなずく。
「うん。ありがとう、えーっと……。そういえば名前きいてなかった。お名前はなんて言うの?」
「ん? 僕は四月一日謙人だよ。ありこ。おじいちゃんの田舎に遊びにきているんだ」
「ありこじゃないってば。ゆうこ。ゆうこって呼んでよぅ。でも謙人さんは、四月一日のじいさまの方の親戚なんだ」
ありこは何か納得したようにうなずく。この村にはおじいちゃんと、おばあちゃんが住んでいるけど。おばあちゃんは僕の本当のおばあちゃんじゃなくて、おじいちゃんの妹だっていっていた。だから二人は別々のおうちに住んでいるって。
でもありこは二人とも知っているらしい。小さな村だからそれが当たり前なのかもしれない。僕だってクラスメイトの名前くらいはみんな知っている。そういうものなんだろう。
しばらくはそうして二人話していた。
だけど大人達は誰も迎えには来ない。もしかしたら村とは反対側にきてしまったのかもしれない。そして僕達がここにいる事を誰も知らないのであれば、大人達も簡単には迎えにこられないかもしれない。それでもいつかは迎えにきてくれるだろうと、僕は楽観的に思っていた。
次第に日も沈んでいき、あたりは本当に真っ暗になっていく。
村での夜がこんなに何も見えないなんて、僕は知らなかった。僕が住む街では夜になっても明かりがみえていて、完全に暗闇の中になんている事はなかった。
だけどここでは何も見えない。下手をすれば隣にいるありこの姿すら見落としそうになる。
さすがの僕もだんだんと心細くなってくる。最初から沈んでいたありこにしてみれば余計に感じるだろう。
「……私、ここで死んじゃうのかな」
ぼそりとつぶやくようにありこが声を漏らす。
僕に向けて言った訳では無かったかもしれない。
それでも僕が何とかしなくちゃいけない。そう思っていた。
「大丈夫だよ! だってほらここに祠があるもん。祠って神様がまつられているんでしょ。神様が見ててくれるよ。僕達をちゃんと助けてくれる」
僕は言って祠に向かって大きく柏手を打つ。
「神様、どうか僕達を助けてください。特にこの子、ありこだけでも助けてやってください」
真剣に祠に頼む僕に、不意にありこがぷっと吹き出していた。
僕はいたって真面目なんだけどなぁ。
「もう。ありこじゃないよ。ゆうこだよ……でも、もうありこでいいや」
だけどありこはずっと不安気にしていたものの、不意に笑顔を見せていた。少し不安がとけたのかもしれない。
「あ、笑った。笑っている方が可愛いよ。ね、ありこ。もっと笑ってよ」
「え、ええー」
急に言われたせいか、ありこは戸惑いの顔を見せていた。
でも僕はありこにもっと笑って欲しくて、とりあえず変な顔をしてみせる。
「べろべろべろべろべろべろべろべろばー!」
舌をべろべろだして変な顔をしてみせる。
ほとんど見えなかったかもしれないけど、それでもありこは少しだけ笑みを見せていた。
「なにしてるの、謙人さん」
「面白くなかった? じゃああひるの物まねしまーす。がぁがぁ」
「あはは。なにそれー!」
突然始めた動物物まねに、ありこは再び笑い始めていた。少しは不安もとれてきたのだろう。
どこか知らない場所。ひまわりだらけの花畑。神様のまつられている祠。
なんだか見た事もない国にやってきたみたいだと思った。
「こうしていると二人で不思議の国に迷い混んだみたいだね」
僕はふと先日兄と一緒にみた映画を思い出して話してみる。
歩いて歩いて気がつくと、たどり着いたのは山の麓にある小さな祠の前だった。
何か軽くお供えがされているから、たまにはこの辺にも人はくるのだろう。
「さてと、どこだろう。ここ。ありこ知ってる?」
「知らないよぅ。普段こんなところまで一人でこないもん。ほんとはお父さんにこっちにはいっちゃだめって言われてたんだけど。どうしてもひまわりが観たくて、一人で来ちゃったの。あとありこじゃないよ。ゆうこだよ。ゆうこって呼んでよぅ」
「はいはい。ゆうこね」
僕は適当に答えると、辺りを見回してみる。とりあえずひまわり畑の縁までは来ているようだった。
「まぁわかんないけど、ここから縁にそって歩けば帰れるんじゃないかな」
思っていたよりもひまわり畑は広くて、歩くだけでもしんどそうではあるものの、帰る目処はついていると思う。
ただありこはもともとから疲れていたようで、この場に座り込んでいた。
道が全く見えないだけに余計に疲れてしまったのかもしれない。
「もう歩けない。足が痛い」
しゃがみ込んでいたありこの足首をみると、靴擦れを起こしているのかサンダルを履いたかかとが赤く腫れ上がっていた。
「うわ。これは痛いよね。どうしよう」
確かにこの足でこれ以上歩かせるのは酷だった。しかしこの場所にいても祠の他には、特にない。
「どうしよう。僕が誰か大人の人を呼んでくるから、ここで待っている?」
問いかけにありこはぷるぷると首を振るう。
確かにそろそろ日も沈み始めている。黄昏というのだっけ。少しずつ暗闇が近づいてきていた。ここに一人残されるのは少し怖いかもしれない。
「わかった。二人でここに大人がきてくれるのを待とう。二人なら寂しくないよね」
僕の言葉にありこはうなずく。
「うん。ありがとう、えーっと……。そういえば名前きいてなかった。お名前はなんて言うの?」
「ん? 僕は四月一日謙人だよ。ありこ。おじいちゃんの田舎に遊びにきているんだ」
「ありこじゃないってば。ゆうこ。ゆうこって呼んでよぅ。でも謙人さんは、四月一日のじいさまの方の親戚なんだ」
ありこは何か納得したようにうなずく。この村にはおじいちゃんと、おばあちゃんが住んでいるけど。おばあちゃんは僕の本当のおばあちゃんじゃなくて、おじいちゃんの妹だっていっていた。だから二人は別々のおうちに住んでいるって。
でもありこは二人とも知っているらしい。小さな村だからそれが当たり前なのかもしれない。僕だってクラスメイトの名前くらいはみんな知っている。そういうものなんだろう。
しばらくはそうして二人話していた。
だけど大人達は誰も迎えには来ない。もしかしたら村とは反対側にきてしまったのかもしれない。そして僕達がここにいる事を誰も知らないのであれば、大人達も簡単には迎えにこられないかもしれない。それでもいつかは迎えにきてくれるだろうと、僕は楽観的に思っていた。
次第に日も沈んでいき、あたりは本当に真っ暗になっていく。
村での夜がこんなに何も見えないなんて、僕は知らなかった。僕が住む街では夜になっても明かりがみえていて、完全に暗闇の中になんている事はなかった。
だけどここでは何も見えない。下手をすれば隣にいるありこの姿すら見落としそうになる。
さすがの僕もだんだんと心細くなってくる。最初から沈んでいたありこにしてみれば余計に感じるだろう。
「……私、ここで死んじゃうのかな」
ぼそりとつぶやくようにありこが声を漏らす。
僕に向けて言った訳では無かったかもしれない。
それでも僕が何とかしなくちゃいけない。そう思っていた。
「大丈夫だよ! だってほらここに祠があるもん。祠って神様がまつられているんでしょ。神様が見ててくれるよ。僕達をちゃんと助けてくれる」
僕は言って祠に向かって大きく柏手を打つ。
「神様、どうか僕達を助けてください。特にこの子、ありこだけでも助けてやってください」
真剣に祠に頼む僕に、不意にありこがぷっと吹き出していた。
僕はいたって真面目なんだけどなぁ。
「もう。ありこじゃないよ。ゆうこだよ……でも、もうありこでいいや」
だけどありこはずっと不安気にしていたものの、不意に笑顔を見せていた。少し不安がとけたのかもしれない。
「あ、笑った。笑っている方が可愛いよ。ね、ありこ。もっと笑ってよ」
「え、ええー」
急に言われたせいか、ありこは戸惑いの顔を見せていた。
でも僕はありこにもっと笑って欲しくて、とりあえず変な顔をしてみせる。
「べろべろべろべろべろべろべろべろばー!」
舌をべろべろだして変な顔をしてみせる。
ほとんど見えなかったかもしれないけど、それでもありこは少しだけ笑みを見せていた。
「なにしてるの、謙人さん」
「面白くなかった? じゃああひるの物まねしまーす。がぁがぁ」
「あはは。なにそれー!」
突然始めた動物物まねに、ありこは再び笑い始めていた。少しは不安もとれてきたのだろう。
どこか知らない場所。ひまわりだらけの花畑。神様のまつられている祠。
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