繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――

香澄 翔

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13.ずっと見ていたから

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 とりあえず出店で唐揚げを買ってみた。これは定番だけに外せないだろう。

「やっぱりたかくんは唐揚げなんだね」
「まぁ唐揚げ好きだからな」

 そう。三食全部唐揚げでもいいくらい唐揚げが好きだ。
 だがフランクフルトもそれに劣らずに好きだ。

 どちらかを選べと言われると、死ぬほど悩んでしまう。フランクフルトの出店がいなくて助かったぜ。どっちにしようか悩まずに済むからな。こんなことで時間を戻すのもしゃくにさわる。

 二人で校舎の前に適当に座って、今は唐揚げをほおばっている。
 いや正確には唐揚げを食べているのは俺だけで、穂花ほのかはそれを隣で見ているだけなのだが。それでも楽しそうな笑顔を向けていて、俺と回る文化祭を楽しんでくれているのはとても嬉しかった。

 穂花はあんまりいろいろと喋らずに、それでもにこやかな顔を見せていた。いつもとそれほどには変わらない。毎日見かけている穂花の姿だ。
 でもずっと穂花を見続けていた俺だからわかる。その笑顔の中にときどき見せる陰りのある表情は、たぶん何か気にかかる事があるはずだ。俺といる事がつまらないのなら、たぶんもう少し早くわかるだろう。だから今がつまらないという訳では無いと思う。

 だけど今を楽しみきれない。そんな不安がどこか心の奥底に残っている。たぶんそういう感じだ。恐らくそれは何か他に悩みを抱えているのだろう。
 ずっと見続けていたから、穂花の少しの違いも気がつく。穂花が困っている時には、必ず俺は駆けつけてきた。それはきっとこれからも変わらない。

 だから俺は穂花に訊ねていた。

「なぁ、穂花。何か悩んでいる事があるのか」

 俺の急な言葉に驚いたのか、穂花は大きく目を開いていた。
 それもそうだろう。別に穂花は悩んでいる事があるとか言った訳でも、あからさまに態度に出ていた訳でも無い。ただ二人で文化祭を回っている最中なんだ。突然の問いかけに面食らってもいるだろう。

 その証拠に穂花はぱちぱちとまばたきをして、俺の顔を見つめていた。
 だけどそれもほんの少しのこと。それからすぐに深めに息を吐き出す。

「たかくんはいつもよく気がつくね」

 そんな言葉を漏らす。気がつかれた事に驚いた言葉は、暗に肯定しているのと同じことだ。
 気がつくって、そりゃあお前の事をずっと見ているからな。とは声にはださずにつぶやくものの、そんなことはおくびにも出さない。というか、出せない。

 穂花に自分が抱えている気持ちを気がついてもらっても困るのだ。穂花とずっと一緒にいたいと思う。だけど今の関係が壊れてしまうのも怖かった。幼なじみで、小さな頃から何かと一緒にいて。馬鹿なことも言い合えて。いや一方的に俺が言うばかりなんだけど、そういう事も出来て。そんな関係は本当に色あせない大切なもので。

 俺の気持ちが元で壊れてしまったとしたら、それは俺にとっては何よりも恐ろしいものだった。だから気がつかれてしまう訳にはいかない。

 穂花はきっと俺のことは兄弟のように感じているんじゃないだろうか。
 昔から一緒にいる友達で、ときどき手がかかるいたずら好きな弟。ちょこちょこ世話をやいてくれる事もあるのは、そんな感じに思っているのかもしれない。
 そこから抜け出してしまいたい気持ちもある。だけどそれすらも無くなってしまう事を思うと、ここから一歩を踏み出す事も出来なかった。

「まー、穂花はわかりやすいからな」

 だから適当に答えておく。
 だけどまるきりの嘘でもない。他の人達がどう思うかはわからないけれど、俺からみれば穂花の気持ちはすぐにわかる。

「うん、まぁ、ちょっとね」

 穂花は少しためらいがちに声をこぼすと、それから少しだけこちらへと視線を向けてくる。
 これはきっと訊いて欲しいんだろう。だから再び俺も口を開く。

「俺でいいなら聴くぞ」
「ありがとう、たかくん。じゃあきいてもらおうかな」

 穂花はどこか照れた様子で、俺の顔を上目使いで見つめていた。
 これは可愛すぎるだろ。反則だぜ。サッカーの試合なら一発レッドカードで退場ものだ。このままじゃあ俺の心臓がはじけ飛んで死ぬ。死因は突発的な心停止だな。

 可愛すぎる穂花に少し動揺しながらも少し息を吸い込んで心を落ち着かせる。
 だけど緊張しているのは穂花も同じようで、何度も深呼吸して息を整えようとしていた。

 そしてやがて少し落ち着いてきたのか、ゆっくりと穂花は話し始めていた。

「私ね。ずっと内緒にしていたけど、どうしても叶えたい夢があるんだ」

 穂花は静かな声で俺に告げる。
 穂花の夢。そういえば今まで聴いた事はなかった。本当に小さな頃には花嫁さんになりたいといっていて、じゃあ将来は俺の嫁だなと思っていた事はあるけれど、もう穂花も高校生だ。そういう無邪気な漠然とした憧れとは違うだろう。

 はっきりと目標性のある夢。何か目指したいものがあるのだろう。

「笑わないで聴いてね。私ね。役者になりたいの」

 静かな声で告げる穂花の夢は、笑うようなものではなかった。むしろ穂花にこそお似合いな職業だと思う。
 確かに穂花はあがり症なところはあるけれど、そんなものは何度も舞台に立つうちに慣れてくるものだと思う。そうすれば穂花はすぐにトップスターに駆け上がるんじゃないだろうか。

「あ、すぐ緊張してかちこちになるくせして、何を言ってるんだとか思ったでしょ」
「思ってないよ」

 くすくすと笑みを漏らす穂花に、すぐさま真剣な顔で答える。
 ただ穂花が女優になりたいだなんて思っているのは全く気がつかなかった。むしろ芸能界とかには興味ないようにすら思っていた。

「むしろ穂花はテレビとか映えると思うぜ」
「あー。私のなりたいのはね。テレビとかもいいんだけど、舞台俳優なんだ。昔ね。両親に連れられてお芝居をみたことがあって、その時すっごく感動して。私もあんな風になりたいなぁなんて思って。でも、たかくんも知っての通り、私ああいうときすごく緊張するでしょ。だからさ、役者になるのは無理かなぁなんて思ってて。でもせめて学校の演劇部に入って少しでもそういうのできたらなぁなんて思っていたんだけど。この学校には演劇部はないって知って本当に落ち込んだよ」

 そういえば穂花が中学の頃に舞台をみて楽しかった話をしていた覚えがある。
 俺はそういうのに興味は無かったから、穂花が楽しそうに話ししている事だけを記憶していたけれど、穂花はその舞台で何かを感じ取ったのだろう。
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