君がたとえあいつの秘書でも離さない

花里 美佐

文字の大きさ
15 / 22

ゴシップ

しおりを挟む
 会社へ出社したら、秘書室は堂本の記事のことで大騒ぎだった。
 何より驚いたのが、その噂話。

 記事に出ていた自殺未遂の女性が、専務の奥様だというのだ。
 信じられず聞き耳を立てていると、後ろから腕を引かれた。

 皐月だ。
 引っ張られるままに、非常階段へ。

 「遙。大変なことになったわね。匠さんは大丈夫?」
 
 「一昨日、旅行中に連絡が入って、すぐ翌朝帰ったの。この件だったのね。それ以降連絡が取れない」

 「それより……聞いた?自殺未遂のこと……」
 
 「ねえ、専務の奥様ってホントなの?」

 「恐らくそうよ。でも、こんなこと自分のためにもならないのに、なんで記事を止めなかったのかしら。専務も専務よ。奥様が可哀想」
 
 「……もしかすると、弘取締役のせいかもしれない」
 
 「え?」
 
 「匠さんが前に言ってたの。専務と取締役は高校時代、部活も一緒でよく知っているけど、専務は自分を敵視してるって。おそらく、弘取締役に利用されたのかもしれない」
 
 「それにしたって……」
 
 「時間がないわ。後で情報を収集して、分かり次第連絡して」
 
 「わかった。遙、顔色悪い。無理しないでね。何かあったら合図してね」
 
 「ありがとう」

 取締役室に戻ると、すでにボスは席に座っている。

 「おはよう。遅かったな」
 
 「おはようございます。今日のスケジュールを確認させてください」

 「……さすがだね。動揺せずいつも通り」
 
 「これが私の仕事ですから。おわかりなら、どうしてこんなことを」

 「ひどいな。まるで僕がやったみたいに」
 
 「違うんですか?専務の奥様まで巻き込んで」

 弘取締役は私を見て目を見張った。
 
 「……ほう。たいしたものだね。そこまで知っているとは……そうだね、記事のことは半分くらい本当で、半分くらい大げさに書かれてる。それは、雑誌社がやる手口だよ。読者だって、全部本当だと思って見てはいないだろ」
 
 「……匠さんを傷つけたいなら、私をいじめれば良かったのに。それだけで良かったんです」
 
 「君に対する気持ちはもうよくわからなくなってきている。それは、そういう君の態度を見ていると、イライラするからだ」
 
 「……お時間です。会議室へお願いします」

 私はそう言うと、きびすを返して部屋を出た。

 
 
 今日は朝から役員会議。
 
 どうやら、堂本コーポレーションに対して攻撃に出るという噂もある。

 堂本はこんなゴシップだけでどうにかなるような会社ではないだろう。
 
 入札も勝てなかったくらいだ。

 役員フロアは皆ボスがいなくなり、静かになっている。
 
 噂話を秘書室はしている。

 入るのもイヤなので、取締役室横の自分のデスクにいると電話がかかってきた。
 
 「古川さん。お電話が入ってます」
 
 「ありがとうございます」

 相手は専務秘書。なんだろう?
 
 「専務の奥様からです。貴女に代わって欲しいと言われて。専務には内緒だそうです」
 
 「分かりました。代わってください」

 「もしもし。弘取締役の秘書の古川です」
 
 「初めまして。私は隆さんの妻のさくらです。突然ごめんなさい。古川さんが匠さんとお付き合いされていると夫に聞いていて。ご連絡してしまいました」

 「確かにお付き合いさせて頂いています。……私に何か?」
 
 「できれば、お目にかかってお話ししたかったんですけど、記事が出てしまったので私も取材対象になりかねない。外出が難しくなってしまって。もっと早くご連絡出来れば良かったんですけど、弘さんに警戒されてて……」
 
 「記事のことですね。少し噂になっています。奥様が当事者だとか……」
 
 「そう。高校時代の自殺未遂は本当のことです。でも、若くて今思えば世間知らずだったせいなの。かごの鳥のように育てられてきて、初めて幼馴染みの隆さん達以外で親しくしてくれたのが匠さんだった。彼を好きになるのに時間はかからなかった。自殺未遂も私が勘違いして暴走しただけなのよ」
 
 「どうして、記事にされてしまったのですか?」
 
 「弘君に言いくるめられてしまって。まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。夫は私を大切にしてるから、今回のことも反対だった。だけど、匠さんへの対抗心を弘さんに触発されて、今回のことを許可してしまったの。当時から、私に気持ちがあったせいで、自殺未遂したときも彼は匠さんを逆恨みしてた」
 
 「……そうだったんですね」
 
 「それと、これも夫やお父様から聞いていたんですけど、弘さんが貴女をお嫁さんにしたいと思っているらしいって」
 
 「お付き合いもしていないうちに、どうしてそういうお話になるのか、私には想像も付きません」
 
 「そうよね。ようやく分かってきた。匠さんに貴女を取られたくないからこんなことを考えついたのね。それにしたって、愚かだわ。私ね、今回の記事取り下げてもらおうと思っているの」
 
 「え?今更無理ではないですか?」
 
 「まるで、匠さんが悪いように書かれているから。事実ではないと、私自身が話そうかと思っているの。もちろん、顔やプライベートは出さずに、取材に応じる形で……」
 
 「そんな。無理です。奥様の正体が暴かれたら……」
 
 「おそらく、記事以外にも堂本コーポレーションと戦いになると思う。何か仕掛けるって話してたから。手遅れになる前に匠さんを救いたいの。自殺未遂の時も、本当に謝ってくれて、彼は悪くなかったのに……私が迷惑かけたのに……今度こそ、彼のためになにかしないと自分が許せないの」
 
 「……わかりました。私にご連絡頂いたのはどういったわけですか?」
 
 「匠さんとは、記事が出てから話したりしている?」
 
 「あちらから連絡を絶たれました。おそらく、弘取締役の仕業だと気づいていて、私と距離をおくようにしたんだと思います」
 
 「そう。本当にごめんなさい。あなたたちに迷惑をかけることになってしまって。弘君の思惑通りだわ」
 
 「いいえ。公私混同はしませんが、匠さんと一緒にいるために方法を考えようと思っていました。でも、予想をはるかに上回る出来事が先に起きて、私も困惑してます」
 
 「匠さんの彼女に謝りたかった。あなたを味方にして戦いたかったの。ねえ、弘君の側を離れる気持ちはある?」
 
 「え?……できることならそうしたいです」
 
 「この会社を辞める覚悟はある?もし、同じくらいの待遇を他の会社で得られるなら……」
 
 「どういう意味ですか?」
 
 「私の両親の会社をご存じか知らないけど、全国展開している清水物流って会社」
 
 「知っています」
 
 「今回のことはうちの両親も怒っていて、もし両親のほうにまで取材の手が伸びたら大変なことになる。そうなる前に弘君をなんとかしようということになって。貴女さえ良ければ清水物流に転職を出来るようにします。もちろん東京でも地方でも」

 「あ、会議が終わったみたいです。声がします」

 「そう、ねえ、携帯の電話番号教えておくから後で連絡してちょうだい」

 そう言うと、番号を交換して電話を切った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

涙のあとに咲く約束

小田恒子
恋愛
事務系の仕事に転職したばかりの松下理緒は、総務部の藤堂がシングルファーザーではないかという噂を耳にする。 噂を聞いた後、偶然藤堂と小さな男の子の姿を見かけ、男の子が落とした絵本をきっかけに親しくなる。 家族持ちの藤堂にどうしようもなく惹かれていく。 そんなある日、真一は事故で亡くなった兄夫婦の子で、藤堂が自分の子どもとして育てていると知ったた理緒は…… ベリーズカフェ公開日 2025/08/11 アルファポリス公開日 2025/11/28 表紙はぱくたそ様のフリー素材 ロゴは簡単表紙メーカー様を使用 *作品の無断転載はご遠慮申し上げます。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

処理中です...